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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第六章 聖国編
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閑話 見捨てた知性と見捨てられた野性

───少年は、孤独だった。



“知性”は幼少期の記憶が無かった。


何故自らにその時期の記憶が無いのかは分からず、思い出せず、かと言って義理の両親に話を聞こうとしてもはぐらかされ、決して答えに辿り着けない。


そして彼は───異様なまでに賢かった。


異様で、異常で、異質で───何よりも異物だった。



新しく入った幼稚園では、常に孤独だった。


園児たちにはどこか疎まれ、先生にはそのあまりの賢さから遠ざけられた。


少しでも話せるようになれば両親の転勤で引越しとなり、また新天地での一からのスタート。


何度も何度も。


それこそ一桁で済まないほどそれらを繰り返し、結局小学校に上がるまで誰一人として友達ができなかった。



『ちゃんとお友達出来た? 幼稚園たのしい?』



義理の母親はよくそう聞いた。


だからこそ彼は内心で転勤を続ける両親と、その脳天気な性格、そして自らの内の異様な何かを、心の底から呪い、恨んだ。


けれども自分は幼稚園児。この憎くて憎くて仕方がない両親が居なければ生きてゆくことすら出来ないただの子供だ。


だから彼は、必死に自らを取り繕い、騙し(・・)、母親へとこう返すのだ。



『うんっ! すっごく楽しいよっ!』と。




☆☆☆




───少年は、幸せだった。



“野性”は小さな集落に生まれた。


種族は魔族。


その集落には様々な種族が暮らしており、人族や獣人族、小人族に巨人族、妖精族、果ては伝説の天魔族までもが暮らしていた。


彼には親は居なかった。


その集落に住む者達はその殆どが肉親を知らず、彼らが親と呼ぶのは義理の───血の繋がりのない育て親。


しばしばそれによる諍いも起きるが、それでもその度にお互い和解し、そして認めあってきた。



それでも、彼には家族がいた。



まずは妹───紫色の髪をした魔族の女の子だ。


彼は妹の事が何よりも、誰よりも大切で、例え何があったとしても守り切ろうと思っていた。


その妹の他にも、天魔族の姉弟とも仲が良く、その天魔族姉にはよく『名前じゃなくて数字だろ』と馬鹿にしてからかった覚えがあり、その度に妹に怒られた記憶もある。



何もかもが輝いて見えて、毎日が楽しくて仕方がない。


そんな“野性”は、かつて友人達にこう言った。




『ずっとこんな毎日が続けばいいのにな!』と。




☆☆☆




“知性”の周囲の環境は、小学生へとなっても何一つ変わらなかった。


賢く、賢すぎて、すべて察してしまう。


誰が何を思っているのか。内心でどういう風に思っているのか。裏で何をしているのか。そして今どんな感情を向けられているのか。


それら全てをわかってしまう彼は、幼稚園から小学校へと上がる際、内心でこんなことを思っていた。



『小学校には、賢い奴が居るのかな?』と。



彼にとって、周りの人間は考えている事、やっている事、それら全てが低レベル過ぎた。


非効率的であり、非生産的であり、非現実的だった。


だからこそ毎回それらを最も賢そうな大人に聞くのだが、その度に嫌な顔をされ、頬を引き攣らせて笑われ、しまいには遠ざけられた。


無能。無価値。無意味。


それらがより集まって出来たようなそこは“知性”にとって地獄でしかなく、まるでそこは自らの翼を折るために作られた監獄のようにも思えた。


だからこそ、彼は小学校に期待し。




───さらなる地獄を見た。



何なんだこれは。


彼はあまりにも低レベルなそこを見て絶望した。


まだ学力に関してはわかる。小学校とはこの大切な基礎を学ぶ所だからだ。


だがしかし───なんだこの低知能どもの習性は。


まだ一年~三年生当たりまでは許容できる。


だが四年生より上の学年ともなればクラス中にはいじめが蔓延り、弱い弱者共が集い、数の暴力で将来有望な金の卵たちを容赦なく割ってゆく。そして本来それらを助けるべき教員は見て見ぬ振りだ。



───それはまさに、彼にとっては地獄そのもの。ここで六年間も過ごすことになると考えると鬱になる。




『誰も彼も、この世界はただのクソ溜りだ』




彼はあまりにも残酷で醜悪な世界を───他人を、見捨てたのだった。




☆☆☆




“野性”の周囲の環境は、とある日を境に一変した。



ふと目が覚めれば両手両足は縛られており、口には猿轡を噛まされている。


どこか暗く狭い場所───棺桶のようなものに閉じ込められていることに気がついた彼は、思わず恐怖に身を竦めた。



『まさか死んだと思われて火葬されてるんじゃ───』



その考えに至った途端彼は暴れに暴れ回った。


死にたくない、死にたくない、誰か、誰でもいい、助けてくれ。


ぐぐもった声でそう叫び続けたが外からは反応がなく、ただ運ばれているような振動が棺桶越しに伝わるばかり。



どれだけ時間が過ぎただろうか。



もう騒ぎ疲れて喉は枯れ、身体は悲鳴をあげ、あまりの恐怖に失禁したせいで棺桶の中は異臭が立ち込めていた。


───死───


その単語が頭にくっきりと浮かび始め、精神も耐えきれずに決壊し始めた。



───そんな時だった。



突如、棺桶の扉が開き、長く光を見ていなかった少年の瞳に溢れんばかりの光が突き刺さる。



『うぐ......、こ、ここは......』



彼はユルユルと上体を起こし、闇に慣れたその目で周囲を見渡す。



───そこは、魔族を異端とみなす教会だった。



『ひぃっ!?』



この大陸に存在する宗教はたった一つ、受願神(呪眼神)ミラーグを主神とする“ミラグリ教”である。


その教えはまさに過激。


人族以外の種族を全て異端とみなし、その中でも吸血鬼族と魔族に関しては、魔物であるヴァンパイアや魔族の王である魔王から連想して『魔物の親玉』と考えているのだ。


そのためそれら二種族は見つかったが最後、殺されるまで付き纏われる。しかもかなわないと分かれば絡め手で大切な人の誘拐までするらしい。つまりは下衆でお馬鹿な連中だ。



そして、もしもそんな連中が魔族の子を連れ去るなんてことをするとすれば───




『さて実験体一号、君の名は今日から“アルファ”だ』




その日から、彼の地獄が始まった。




☆☆☆




あれから数年経ち、“知性”は高校生活を送っていた。



両親への憎しみもとうの昔に薄れてなくなり、つい先日その両親が交通事故で亡くなったとの連絡が入った。


生まれて初めて泣き、涙をこぼしてから数日。


彼は今現在進行形で、全身骨折故の入院中であった。


彼はため息混じりに隣へと視線を向けると、そこには自らの身体をボッキボッキにへし折った張本人が居り、彼女は楽しげに口元を歪めてじぃっと彼の方を見つめていた。



『ふむふむ、やはり君は天界(ヴァルハラ)に選ばれし我が同胞、いわゆる世間のハズレ者と言った感じだな? なるほどこれは面白い』


『うるせぇ、毎日毎日学校サボってこの病室まで来やがって。なに、お前僕のこと好きなの? 惚れてんの?』


『いい精神病院を、紹介してやろうか?』


『ねぇ、可哀想なものを見たような顔で心配しないでもらえます?』



彼は何を言っても聞かなそうな───その“賢人”を見てため息を吐く。


───ずっと探してはいたが、賢い奴って僕と同じくらい変人ってことだよな。すっかり忘れてたよ。


彼は内心でそう考えると、まるでそれを読んだかのごとく彼女は口を開いた。



『なるほど、ずっと私を探していたということは、君はアレか、どこか昔に出会った幼なじみという奴か。記憶には無いがこれは運命の再会らしい』


『違うわ。っていうかお前、よく分からんがなんで僕の考えてることわかったんだ?』



彼がそう言うと、彼女はさも当然とばかりに自らの頭をトントンと指で叩いてこう告げた。



『簡単だ、君の脳内電波(アカシックレコード)を逆探知して知認するための古代の遺産(マジックアイテム)を我が大図書館に保管するこ───』


『もういいからわかりやすく言ってくれ』


『───君の、脳内電波を読み取る機械を頭に埋め込んだ』


『馬鹿じゃねぇのお前!?』



彼女は───かつて期待し、見損ない、呆れて見捨たその他大勢の他人のうち、一人だった。


そして彼女は彼と同等の“知性”の化物であり、何よりも、彼をはるかに上回る大馬鹿者で。



───彼の、初めての友人であった。




☆☆☆




それから数年間は、まさに地獄だった。


毎日毎日起床時刻から就寝時間まで規律正しく決められ、研究者の我儘によって毎度毎度身体を弄られる。


生憎と、相手は身体に傷を残すのが嫌いな研究者だったため身体に傷こそ残らなかったものの、麻薬すら投与されずに腹を切り開かれ、頭蓋を割られて脳を弄られ、ありとあらゆる『力』を身体に埋め込まれた。


───もちろん失敗もあった。


幾度となく身体に激痛が走り、嘔吐感に苛まれ、そして唯一の楽しみは沢山の用意された遊戯室という名の観察室、そこで出される日に二度のご飯だけだった。


カビの生えた黒パンに、心ばかりの野菜が入った薄味のスープ。


故郷の食べ物に比べればこんなものはただの残飯に過ぎないが、それでも彼は生きるためにそれらを喰らい。



───いずれ来るであろう助けを求めて、生き続けた。



けれども助けは来ず、数年が経った。


紫色だった髪は今や見るも無残に白髪が増え、栄養不足故か年齢の割には身体も小柄である。


彼はその身に宿る“野性”と人工的な“力”によって権力者から目敏く危険を察知し遠ざかり、逃げきれない場合はできる限り相手の機嫌を損ねないように振舞った。


そのおかげか戦闘訓練こそ未だないものの彼の力はかなりの所まで上り詰めていた。



───しかし、その代わりに彼は何かを失った。



『助けは───来ない』



数年待った。けれど助けは誰も来なかった。


それはある事実───見捨てられたという事実を如実に表しており、彼の心を徐々に、そして確実に蝕んでいった。




『ここでは誰も信じられねぇ。家族だと信じた奴らも助けにこなかった。頼れるのは───自分の努力と武力だけだ』




彼はそう呟いて窓から外を見上げる。



その夜空には、大きな三日月が浮かんでいた。




☆☆☆




少年は───それぞれ“知性”と“野性”をその身に宿した二人の少年は成長し、それぞれが別の道を辿った。



他人を見捨て、自分以外を信用出来なくなった吸血鬼。


他人に見捨てられ、自分以外を信用出来なくなった改造人間。


地獄から始まった“知性”は今や幸せを掴み。


幸せから始まった“野性”は今や地獄の中にいる。



人生何が起こるかは定かではなく、いついかなる時に現状が崩れ去るとも限らず、自分の信念が崩れるとも限らない。



ただ唯一言えることは───





───いずれにしても、彼らが相見えるのはそう遠くない未来のことである、ということだ。



ちなみに"知性"が異常なのは身体のうちに『アレ』があるからです。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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