第270話
学園編完結!
ギンの新ステータス発表です。
───情けは人の為ならず。
そんなことわざがある。
だいたいほとんどの人は、このことわざを聞けば二通りの意味合いを考えるだろう。
まず一つ───情けをかけてもそれはその人のためにはならないよ、という意味だ。まぁ、これは正確なものではなく人々の思い込みによって出来上がったただの偶像だ。
そして───二つ。
僕は目の前の森神へと視線を向けて、その意味を思い出した。
───他人にかけた情けは、巡りに巡って自らへと返ってくる、と。
☆☆☆
『ふははっ、良いとも良いとも、余と主人様の仲じゃろうに』
僕の礼にそう笑って返してきたケリュネイア。
色々と聞きたいことはあれど、それらを口にしようとした途端、僕の身体が白色の光に包まれ始め、スゥっと身体中から痛みとだるさが抜けてゆく。
───さすがに悪鬼羅刹の後遺症までは治りはしなかったが、それでも余りあるその高性能な魔法に目を剥き、そしてそれを行ったであろうケリュネイアへと僕は視線を向けた。
喋ってる現実、助けられた現状、使われた回復魔法、色々と聞きたいことは増えに増えまくっているわけだが、僕はチラリと障壁の向こう側にいるキメラへと視線を向けてからケリュネイアへと視線を戻す。
すると彼女(声色から推測)は何を察したか、少し真面目な顔をしはじめた。
『余はアレからずっと主人様を探しておったのだ。して、やっとそれらしき魔力が見つかったと思えば閉じ込められておるし、外側では危なっかしい死神モドキが結界を斬っては回復され斬っては回復されを繰り返しておった。気になって結界をぶち破って入ってきて現状を見た余は、これは不味い、と思い助太刀に入ったわけじゃ。褒めてつかわせ?』
───褒めてつかわせ、なんて言葉は無いだろうが、まぁとりあえずは感謝感謝だな。
......にしても、あれだな、何で死神ちゃんすら入ってこれないんだろうとは思っていたが、殺した先から復活されればそりゃ侵入のしようがないな。そういう意味ではケリュネイアはこの結界の天敵みたいなものか。
僕はそこまで思考を回すと、ふぅと息を吐いて立ち上がる。
変わらず身体中には激痛が走っているが、かなりの時間痛めつけられていたのか魔力は完全に回復しており、体力もある程度は回復している。
そこまで把握した上で障壁の向こう側を睨みつけると、僕は隣に音もなく立っているケリュネイアへと話しかける。
「なぁケリュネイア、一応聞いてみるけど、ちょっとだけ手を貸してくれたりしないか?」
『何を言っている、主人様は余の命の恩人じゃ。それがどんな願いであっても叶え続ける。余が主人様の願いを聞かなかったことがあるか?』
「いろんな意味でないな」
『ふははっ、そうだろう、そうだろう!』
僕はそのほぼ初対面なのに馴れ馴れしいケリュネイアに苦笑しながら、近くに落ちていた十字架の杖───災禍を手に取り、身体の真正面の地面に突き刺す。
───それと同時に溢れ出す、僕の全魔力。
そしてそれに反応したか、アスモデウスも動き出す。
『キハッ! キャハハハ!! コロス! コロスコロスコロス! コロシテヤルゥゥゥッッ!!!』
それを見て僕はふぅと息を吐き出すと、ヌァザの神腕を顕現。
両手を合わせてさらに魔力を練出し、それと同時に僕の足元に巨大な渦動魔法陣が完成する。
「色々と話は後だ、ケリュネイア! 一撃で沈める! だからそれまでの防御を頼みたい! 出来るか!?」
『当たり前じゃ! 任せておけい!』
瞬間、僕の前へとケリュネイアが躍り出て、それと同時に周囲から幾つもの巨大な木の根が大地を食い破って姿を現す。
それらはアスモデウスの身体と衝突し、切り裂かれ、噛みちぎられ、けれども確実に奴の足を止めていた。
僕はそれを見てにいっと笑を浮かべると、悲鳴をあげる身体に鞭を打つ。
「行くぞクロエ! ウル! ぶっつけ本番だけど上手くやれよ!」
『ハッ! さっきまでへばってたクソが何言ってやがる!』
『ふふっ、やはりこうでなくては面白くありませんね!』
瞬間、僕の身体からは放たれる魔力が尚一層膨れ上がる。
「『輪廻司りし螺旋の王、白銀纏いし白帝の王』」
それは僕ら三人で考え出した、机上の空論。
「『彼の力、此の力在りしは我が魂、成りしは天地開闢の調べなり』」
過去、幾度か練習しようかとも思ったがあまりの絶大な威力に途中で中止し、結局可能な限りの威力を詰め込めるだけ詰め込み、そのまま使うことはないだろうと放置されていた───絶対的な破壊魔法。
「『故に、我が前に敵は居らず、在りしはただ絶対なる終焉のみ』」
瞬間、アスモデウスの上空に大小それぞれの渦動魔法陣が縦一列に形成され、それぞれが逆方向に回転を始める。
「『言葉は要らぬ』」
上空を見上げたアスモデウスはひと目でわかるその危険度に目を剥き、大声で叫んだ。
『ナァッ!? コ、コレハ、ヤバイ!?』
即座にその場から避難しようとしたアスモデウスだったが、動き出そうとした途端に足元に違和感を覚え───足が進まないことに気がついた。
そして足的へと視線を下げた彼女が見たものとは───自らの足へとへばりつく真っ赤な血溜まり。
「『ただ、その死と血を以て、世界へ罪を贖い給え』」
そして彼女はやっとそのスキルに思い至ったか、目を見開いてこう叫んだ。
『マ、ママ、マサカ!?“血液操作”ノスキルカ!?』
僕はその悲痛な声を聞いて笑みを浮かべると、限界まで溜め込んだその魔法を解き放つ!
「輪廻に沈め!『時代穿つ神羅の罪』ッッ!!」
赤色、銀色、血色。
三色の超火力が混ざり合い───アスモデウスを中心とした周囲に絶対的な破壊をもたらした。
☆☆☆
大の字になって、夕焼け色に染まる空を見上げていた。
ぴろりん! レベルが上がった!
ぴろりん! レベルが上がった!
ぴろりん! レベルが上がった!
ぴろりん! レベルが上が───
勝利のファンファーレが鳴り響き、内心で「今度こそ勝ったんだな」と思いながらも上体を起こすと、周囲の草原は驚き呆れるほどに変わり果てていた。
大きなクレーターとなった大地に、爆風によってめくれ上がった大地。
恐らく僕同様吹き飛ばされたのだろう、ケリュネイアが遠くの方から駆けてくる様子が視界に入り、それと同時に後ろの方からもたくさんの視線が感じられ始めた。
「主様ぁぁぁぁ!! 大丈夫───って何なのじゃアレは!? 大丈夫か主様ぁぁぁっ!?」
「く、クハハハッ! なんだが我には見知らぬ雌が見えるが気の所為ということにしておこう!」
「な、なんという魔力量ぞよ......、ここにいるだけで魔力酔いしそうな勢いじゃのう」
「はぁ、はぁっ、あのクソ鹿野郎が! 俺様が必死になってこじ開けてる横を楽々入っていきやがってッッ!!」
それらの四人を筆頭としたその大軍に思わず呆れてため息をついてしまうが、それと同時に今まで史上最大のピンチから助かった安堵で完全に集中力が切れてしまう。
『ふははっ、流石は余の主人様よ。見事なまでのオーバーキルであったわ』
くたりと座り込んでいる僕の元へと一番最初にたどり着いたケリュネイアが回復魔法をかけてくれた。
そのおかげで何とか頭も回るようになり、身体の疲れもすこし軽減されたように思える。
そんな中、みんなが駆け寄って来ている姿を頬を緩めて眺めながら、僕は久しぶりに、あの単語を唱えてみることにした。
「『ステータス』」
果たして現れたウィンドウに載っていた数値は今までの僕のステータスとは大違いであり───
名前 ギン=クラッシュベル (20)
種族 吸血鬼族(神祖純血種)
Lv. 398
HP 150,580,000
MP 490,000,000
STR 190,120,000
VIT 182,210,000
DEX 232,000,000
INT 412,000,000
MND 310,000,000
AGI 250,230,000
LUK 1398
ユニーク
影神Lv.2 ↑+1
開闢Lv.2 ↑+1
月光眼Lv.2
原始魔法Lv.3
スキル統合
純血神祖 (new)
絶歩Lv.2 ↑+1
眷属召喚Lv.1 (new)
血液操作Lv.2 (new)
戦の神髄Lv.2 (new)
アクティブ
ブレスLv.6 (共有) ↑+2
テイムLv.8
念話Lv.7 ↑+1
パッシブ
料理Lv.7
並列思考Lv.9 ↑+1
魔力操作Lv.9
超直感Lv.8 ↑+1
存在耐性Lv.9 ↑+1
称号
知性の化物 (new) 迷い人 常識の忘れ者 SSランク冒険者『執行者』『冥王』神王の加護 全能神の寵愛 狡知神の加護 創造神の加護 死神の加護 魔導神の加護 世界竜の友 トリックスター 救世主 悪魔の天敵 (new) ロリコン 竜殺し 原初の理 月の眼
従魔
白金神竜プラチナムドラゴン
ゴッドオブ・ナイトメア
ブラッドギア・ライオネル
フェンリル
バハムート
ペガサス
眷属
オリビア・フォン・エルメス
マックス
アイギス
僕は空を見上げて、小さくガッツポーズをした。
☆☆☆
その後、グレイスに死神ちゃん、クロエにウル、そしてその他のメンバーで一応アスモデウスが本当に死んだのかを確認したのだが、死神ちゃんの本体に大悪魔アスモデウスの魂が送られてきたらしく、やっと奴の“死”が確定した。
死んだと思えば生き返り、生き返ったかと思えば強くなり、しまいには結界を張って僕を追い込んだ。
あそこまでやられればもう暫く戦いはしなくていいよという気分にもなるし、なによりももう二度と大悪魔と戦いたくなくなる。もうほんとに遠慮したい。
そんなこんなで、やっと終わったかという気分で、輝夜の肩に掴まりながら会場へと戻って来て、こんな感じになっちゃったけど被害もあまりないし、魔学発表会は明日に持ち越しかな、という気分に浸っていた僕達であったが───
「し、しし、親友くん!? 親友くん! ど、どこにいるのッッ!?」
待っていたのは───エロースの必死な叫び声だった。
───そして、大音量で警報を鳴らす超直感。
僕は輝夜の肩から離れて魔力を放出しながら走り始めると、すぐに彼女は僕の位置を特定したのか、数瞬後には僕の目の前に降り立っていた。
そして僕は目を剥いた───その真っ赤に腫れた瞳と、後悔に歪んだその表情に。
───そして僕は、エロースの言葉を聞いて、何かがプッツリと切れるような感覚がした。
「ご、ごめんッ! き、恭香ちゃんが攫われた!」
超展開!?
攫われた恭香、果たしてどうなるのか!?




