第262話
その後、時間が来たため僕はみんなと別れて控え室へと向かい、そこで掃討戦のパーティメンバーであるスメラギさんと桃野と再開した。
その際にたまたま『金の神獣』というクランについて聞いてみたところ、どうやら武闘派クランの中ではトップクラスの大手クランの一角らしい。
話によると、そのクランは僕らの『執行機関』の一年ほど前にできたものなのらしいが、そのクランリーダーであるマスタークの人望と顔面偏差値により各地から強者(女に限る)が集い、そして気づいた頃には一国の軍隊にも相当する戦力が出来上がっていたのだとか。
まぁ、簡単に言えばあのクランはマスターク本人のファンクラブみたいなもので、それぞれがマスタークに相応しくなれるよう研鑽しているため実力もあるらしい。なんと羨ま───けしからん事だ。
というわけでそのクランの情報を知って「きちんとしたヒロインが欲しい」とイライラしていた僕ではあったが、そろそろ真面目に掃討戦の情報を確認するべきかと思う。
僕はアイテムボックスからギルバートから貰った冊子を取り出すと、その掃討戦のページを開く。
そのページに書かれているこれをまとめると、
①各学園は十八人、つまりは六パーティまで送り込むことが出来、それぞれトーナメント方式にて決着をつける。
②その実トーナメント方式とは名ばかりで、対戦相手は毎回ランダムに決められ、奇数パーティが残っている場合は、その前の試合時間がもっとも短かったパーティがシードとなる。
③攻城戦と同じようにHPの代わりにMPが消費され、MPが尽きると同時に控え室へと転移される。
④使用可能なMPポーションは試合の度に配布され、試合が終わる度に防具は専用の魔導具によって修復される。
⑤一つ進む度に10ポイントが加算される。それはシードの選手も例外ではない。
とまぁ、こんな感じである。
パッと見た感じだと、重要なのはHPが減らない事、進めばポイントがもらえることくらいなものだ。
あと、必要なMPポーション類はほぼ全て桃野が持っており、スメラギさんは効果の高いポーションを数本だけ所持している。僕は言わずもがな、そもそも使ったことすらない。
という訳で、準備の完了した僕達は控え室のスクリーンへと視線を向ける。
それと同時に司会さんの声が聞こえてきて、スクリーン上にいくつもの空欄が映し出される。
『さぁさぁ、最後の戦い、掃討戦です! 説明も流石にいらないと思いますので早速第一回戦の抽選開始ですっ!』
それらの空欄に一斉に上から下へと何かの名前が流れ始め、でゅるるるる、という件のメロディも聞こえてくる。
───そして、
『第一回戦! 君に決めたぁぁぁぁっ!!』
司会さんの声と共に、それらのルーレットがピタリと止まった。
☆☆☆
深い深い森の中。
周囲に動物の気配はなく、ただ荒い息遣いと草木をかき分ける音だけが微かに聞こえてきた。
「く、クソッ! 最初っから執行者とかよ!? 冗談キツイぜ......、おい! アル、イン! 二人共! 居ないのかっ!?」
その獣人族の男は仲間を求めて呼びかける。
何せ彼は開始早々にいきなり現れた鬼みたいな女の手によって、仲間達と分断されてしまったのだ。彼は思ったことであろう、何あの女の子怖い、と。
そうしてしばらくの間歩き回り、呼びかけ続け、結果分かったのは、二人はもうやられている、という可能性の高さ。
彼は思わず地に膝を付き、こう呟いた。
「く、クソが......、執行者と、執行者とさえ当たらなければ───」
瞬間、その男は背後から何かに斬りつけられたかのような衝撃を感じ、鋭い痛みとともに呻き、後ろを振り返る。
そこにはかつて自分たちを分断した鬼のような紺髪の女性が立っており───
「あの世でギン様の武勇伝を広めてきなさい」
そう言ってカチンと刀を鞘に収めるとともに、彼の身体が控え室へと転移される。
僕はそれらの一部始終を見てふむと唸ると、隣の桃野と目を合わせてこう言った。
「「スメラギさん、なんだか怖いね」」と。
瞬間、付近の森が光に溶けるように消えてゆき、それと同時に聞こえてくる大歓声と司会さんの声。
『王立学園の執行者さんパーティ第二回戦も圧勝だァァァ!! 第一回戦同様遊びに遊びまくった上でこの短期間の決着! 執行者さんは何も動いてないのにどういうことだァァァ!?』
『なるほど、一回戦では驚きの方が勝ってしまいましたが今見て確信しました。あのパーティのスメラギ・オウカ様は、純粋な戦闘能力という面では生徒たちと隔絶した強さを誇っているようです。あれをなんのスキルもなしに行っているのですから、もう素晴らしいとしか言い様がありません』
そんな話を聞きながらも僕らは控え室へと戻ってきていた。
今現在、第二回戦を平穏無事に勝ち上がったところで、次は第三回戦───生き残っているのは僕らも含めて十四パーティである。
ちなみにだが、散々言われている第一回戦はそれはもう無残なもので、岩がゴロゴロとしている荒野の広場にて僕と桃野が砂のお城を作って遊び、それを見てカッチーンときた獣人族の三人が一斉に駆け出し、結果、砂の城を囲むように配置していた堀のような落とし穴へと墜落。そしてその下に控えていたスメラギさんが三人の息の根を止めたというわけだ。
もちろん僕や桃野も落とし穴を作るのに協力したが、一回戦はその殆どがスメラギさんが一人勝ちしたようなものであり、先ほどの第二回戦も僕らが行ったのは索敵のみ。後はスメラギさんを放てば自然と相手は壊滅するのだ。
「なぁ桃野、スメラギさんちょっと強すぎやしないか? 霊器の特殊能力っぽい奴もスキルも何も使わずにこのクオリティだぞ?」
「なんだかスメラギさんを見てると小鳥遊さんを思い出すね......」
桃野の言葉を聞いて、僕もその小鳥遊を思い出した。
スメラギさんと同じようなポニーテールの剣道少女。
彼女はグレイスもビックリの脳筋一辺倒で、考える前に手が出る問題児。魔法が使えればさらに強くなれるのだろうが、彼女はオツムが悪すぎて魔法という概念自体が理解出来ず、結果久瀬パーティに引き取られたという経歴を持つ。
正直、今の黒髪の時代の面々ではニアーズ入りは難しいだろうが、その中でも久瀬竜馬、桜町穂花、鮫島美月、そして小鳥遊優香の四人は武闘会の時に見た感じでも戦闘能力が群を抜いていた。
もしも彼女らがこの学園に来ることがあれば、それこそスメラギさんといい勝負するのではないかとは思うが......まぁ、そんな“もしも”を気にしていても仕方ないだろう。
控え室へと戻ってきた僕らを待っていたのは、すっかり人の減ってしまった出場選手の控え室と、僕らより前に第二回戦に出場し、そして勝ってきたパーティメンバー達だった。
それぞれ言うと、
ギルバート、イリア、そしてディーンのパーティ。
マックス、小島、的場のパーティ。
オリビア、鳳凰院、倉持さんのパーティ。
ソルバ、ルネア、マイアのパーティ。
そして、クラウド、白髪褐色、アンナさんのクソパーティ。
それに加えて僕らのパーティも加え、全てのパーティが出揃っており、もしもこれらのパーティが次の第三回戦を全て通過することが出来れば、その時は生き残ってるパーティのうち八割近くが王立で占められることになるだろう。
───まぁ、流石にこの中の全てが生き残れるとは思えないが。
『はい! それでは全ての試合が終了しましたので、早速ですが次の試合のルーレットに移りたいと思います!』
司会さんの声が聞こえてきて、僕ら全員の視線がスクリーンの方へと向けられる。
でゅるるるる、と計十四の空欄の中を名前が流れるのを見ながら、僕は一人考える。
十四の枠のうち僕らの数は六。
半数には満たないものの、それでもほとんど半数と言っても過言ではなく、正直ここまで勝ち残った時点で王立の優勝は決まったも同然である。
だがしかし、それは同時に、僕ら同士が当たる可能性も示唆しており。
瞬間、全てのルーレットが停止し、新たな対戦相手が発表される。
僕は自分たちの名前を探し───そしてその相手を確認したところでため息をついた。
────逆に、王立同士の戦いが出ないことの方が、珍しいんだろうな、と。
『おおっと! 色々と面白そうなカードが揃っているがその中でも一番目立つ、とんでもないドリームバトルが行われるようですよ!?』
その声を聞いて、僕は彼らの方へと視線を向ける。
すると向こうもこちらへと視線を向けていたのか、彼らと僕の視線がしっかりと交差し、その先頭に立っているその男は僕の顔を見て微笑みを零した。
───その男は、この学園で言うところの、最強。
『執行者ギン=クラッシュベル率いるパーティと、第一王子、ギルバート・フォン・エルメス率いるパーティの激突だァァァ!!!』
どうやら、次ばかりは本気でいかねば難しそうだ。
☆☆☆
僕ら両パーティがステージに出揃い、次の瞬間にはステージは魔導具によって改変されていた。
この改変も完全なるランダム制。僕らの場合第一回戦は荒野、第二回戦は森ときて、第三回戦は───
「し、神殿....なのか?」
次の瞬間、僕らが立っていたのは神聖な空気の漂う神殿だった。
真っ白な大理石の床に、質素な中にも威圧感が感じられる壁の装飾。そしていくつかの大きな柱に、縦長な部屋の再奥には少し高くなっており、玉座が置かれていた。
天井は姿を戻した白夜が入っても暴れられるほどに高くなっており、壁と壁の間もとてつもなく広い。
問題があるとすればこの滑りそうな大理石の床くらいなものだが、ロキの靴を履いている僕にはあまり関係がないだろう。
僕は周囲を見回した後に相手チームへと視線を向ける。
そこには、おそらく初めてのステージであろうはずなのに全く動揺した様子を見せない三人が立っており、特にギルバートは僕へと視線をロックオンしてやる気が満々である。
「それじゃあ二人共。霊竜シャープとギルバートは僕が一人で受け持つ。二人は───まぁ、かなりヤバイ相手だと思うが、イリアとディーンを片付けてくれ。こっちは少し時間がかかるかもしれないから」
「了解しましたギン様。私だけならばまだしも桃野殿がいる今現在、あのドラゴンの影にコソコソ隠れているオマケと、何やら最近ギン様の事を意識し始めた色女など敵ではありませぬよ」
瞬間、オマケと色女がピクリと反応し、よく見れば二人共満面の笑みで青筋を浮かべていた。天然なのかわざとなのかは知らないが恐ろしいことだな。尊敬されててよかった。
僕は二人へと振り返る。
そこには自信満々な様子のスメラギさんと、なんだかぷるぷると震えている桃野が居り、僕はニヤリと笑ってこう告げた。
「勝つぞ、二人共」
それを聞いて元気よく頷く二人を見て、僕は視線を前へと向ける。
『それではっ! 第三回戦開始です!!』
そうして僕らと、王立最強のパーティの一戦が始まった。
ある意味頂上決戦ですね。




