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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第260話

今回はギン視点はありません。

記憶が正しければ確か三人称ですね。

遡ること数分、魔立学園サイドにて。


生徒達が城の中を走っているのを傍目に、彼───魔立学園の生徒会長は二メートルの旗を片手に笑みを浮かべていた。



「魔王様から『今年の王立には気をつけろ』と言われて来たわけだが......、なるほど執行者か。確かに驚嘆に値するその力───まさに人外。魔王様やそのお仲間の方々と同じサイドの生物に違いあるまい」



そう言いながらも彼は右手に握る旗をへと視線を落とし、そしてさらに笑みを深くする。



「だが魔王様はこうも仰った。『おそらく相手は魔法の苦手な脳筋だ』と。どうやら雷魔法に関しては例外だったようだが、魔王様が仰られたのだ、あの雷の魔法にさえ気をつければ後は遠くから魔法を放ち続ければ良い」



───もしそれでも勝てそうになければ、散開してこの城から離れ、相手がこちらの城の旗を探っている間に相手の城へと攻撃を仕掛ければ良い。



その魔族はとても頭がよかった。

だからこそ魔王からの言葉を参考にした上でギンを観察し、そして完璧な作戦を立てることに成功した。


一つ不可解なことがあるとすれば、ギン=クラッシュベルという人間はあの雷の他に『白銀の炎』そして『白銀の氷』も使用しているという噂を聞いた事くらいだが、魔立学園にそれらを実際に見た者は居ない。そのため彼はその噂を“尾ひれのついた噂”と思い込んでいた。


彼は再び自らの作戦を一から思い出し、そして最後に穴がないことを確認して満足げに頷いた。




「さぁ、執行者よ。傲慢な強者は賢い弱者に淘汰される。その一例を今日、この場で見せてやろう!」




彼はそう言って笑うと、外壁の上へと足を運ぶ。


彼の作戦は自らの旗を外壁の中にそのまま埋め込んでしまうというもの。それは作戦の一端でしかないが、それさえ完了すれば旗が見つかる可能性はぐんと減る。


彼は作業をしていた生徒にその旗を渡すと、すぐさま土魔法を駆使して埋められてゆくその旗を眺め、それが完了したのを確認すると幻惑魔法によってその跡を何の変哲もないように改変した。



「これでとりあえず旗の心配は要らなくなった。後は全員持ち場に就き、王立や帝立が攻めてくるのを待って戦力を削り、撤退したところを追い立ててそのまま敵城へと乗り込めばいい」



その言葉に付近の生徒達も笑みを浮かべて頷き、数時間後、他の学園の生徒たちを作戦で翻弄している自分たちの姿を想像して悦に浸った。




───その作戦が、根本から破綻していることすら知らずに。




瞬間、上空に浮かんでいたスクリーンのカウントダウンが終わりを迎え、それと同時に試合開始を知らせる機械音が鳴り響く。


それらを聞いて魔立学園の生徒達は一斉に気を引き締め、恐らくは先にこちらへと到着するであろう帝立学園の城の方へと視線を向けた。




───次の瞬間、遠くから大きな羽ばたきが聞こえてきた。




想定になかったその音に生徒達はもちろん、生徒会長でさえもが困惑し───王立側を見た生徒があげた悲鳴に、皆の視線が一斉にそちらへと集まる。



そして彼らは───絶望を知った。




「な、なんだよあれ......」



視線の先には、王立学園の城から一直線にこちらへと飛んでくる、巨大な黒竜。


全身に影を纏っているかのようにシルエットは隠されているが、けれども空を統べるその姿は見間違うはずもないドラゴンそのもの。

ワイバーンのような亜種ならばまだしも、間違いなくあれは“名持ち”の、正真正銘『国落とし』の化け物だ。


その黒竜はあっという間に彼我の距離を詰め、気がついた頃には目の前の草原へと降り立っていた。


その真紅色の瞳はしっかりと彼ら生徒達の姿を捉えており、彼らは逃げることも忘れ、恐怖に震え上がった。



───だがしかし、絶望の後に待っていたのは微かな希望だった。



ドラゴンがその背後を仰ぎ見て低い声で鳴くと、それと同時にその姿がまるで幻だったかのごとく、靄となって霧散する。


代わりにその場現れたのは、彼のドラゴンと同じ真紅色の瞳を爛々と輝かせた一人の人間───執行者、ギン=クラッシュベルその人だった。



その様子に生徒達は頭が追いついては行かなかったが、それでもあれだけの化け物を見た後だ。

さぞかし、一人で城の前に立っている男の姿は安心するに足る者だったろう。


───頭のキレる者を除いて。


生徒会長を含めた一握りの実力者はその姿を見て安堵し、そして次の瞬間には先程以上の絶望を感じた。



「さ、先程の黒竜が何かは知らぬ......、だが、あの男がアレを召喚し、使役し、そしてそれらを行っても息一つ切れていないのは見れば分かる......」



その呟きを聞いて、やっと彼らは気がついた。


───もう既に、逃げるには遅すぎるのだ、と。


彼はそれらを知ってか知らずか、一歩、また一歩と城の方へと歩を進める。

それと同時に彼の身体からは冷気が漂い始め、その足元の大地が一瞬にしてピキピキと音を立てて凍ってゆく。


それは見間違うはずもなく───氷属性。


そして彼らは、本来聞こえぬはずのその詠唱を耳にした。



「『万物氷像と化す白銀の氷獄』」



瞬間、魔力の余波が城内まで轟き、皆がその魔力に目を見開いた。



「『時は無く、神もなく、悪魔もない』」



ある者はそこから反対方向へと駆け出し、ある者はその場に座り込み、ある者はその姿を目に焼き付けた。



「『彼の地に在るは、永久凍獄の運命(さだめ)なり』」




放たれるは───彼の誇る最強の“氷属性”。




「永劫の時の中に眠れ『刻焉の氷獄エターナル・クリスタルプリズン』」




次の瞬間、彼らは控え室にて、氷の柱の中で時の止まった城を見たと言う。




☆☆☆




そうしてギンが魔立学園の城を文字通り秒で落とした頃、ギンの影から召喚されたその黒竜を見送った王立の生徒達は、十数秒の硬直の後、ここからでも視認できるその氷の柱を見てやっと正気を取り戻した。


それは、皆が皆「なんだよあれ!?」と叫びたい気持ちではあったが、それよりも自分たちを嘲笑うかのごとく一つ城を落としてしまったギンに対し、少しの呆れと多大な焦りを感じていたからだ。



「「「「まさか帝立の城も───ッッ!?」」」」



焦ったような声が響き、それと同時に飛び出す複数の生徒たち───総数十人(・・・・)



「ふふんっ! 流石はギン様ですぅ!」


「やばいんじゃないのかこれ......、あの黒竜に驚いて思いっきり出遅れちまったじゃねぇかっ!」



その先頭を走るのは、魔闘気を発動したオリビアと、自身の身体強化に長けた魔剣ティルヴィングを召喚したマックス。


そしてその後ろを追随する───八人のニアーズたち。



「おや生徒会長、貴殿はたしか城の守りを固めるのではなかったか?」


「いやぁ、スメラギさん。流石にアレ見たら帝立も動けないと思うよ? まず間違いなく城に篭って守を固めるんじゃないか?」


「その前に執行者様が落としてしまうかも知れませんがね」


「......イリア? いつの間にギンのこと様付けで呼ぶようになったんだい?」


声に出して(・・・・・)呼んでいるのは最初からですよ?」



そんなことを話しながらも物凄い速度で地を蹴る面々。


彼らはこれでも学園最強と呼ばれる王立へフォルマ学園の頂上───つまりは選ばれた強者たちである。

ギンという眩しすぎる存在の影になってはいるが、その実戦闘力にかけて言えば生徒という枠から逸脱している。



───特に、ギンと仲のいい彼ら彼女らは。



数十秒後、道程の半分以上が過ぎた頃だろうか。


帝立のその城はもう目の前にまで迫っており、実質の距離としては多く見積もって一キロ近く離れてはいるものの、向こうからすればもう魔法の射程範囲内である。


それらを把握していたギルバートは、スッと目を細めると身体強化を身体へとかけ直し、先頭を走るオリビアとマックスの前に躍り出た。



「オリビア、マックス、ここから先は私が全ての攻撃を無効化する! 君たちはあの入口をこじ開けてくれ!」


「「了解です!」」



瞬間、彼我の差が五百メートルを切り、こちら側の速度を鑑みてのことか、外壁の上に幾つもの魔力反応が浮かび上がる。


それでも彼らは速度を緩めず、まるでそんなものは効かないとばかりに逆に走る速度を上げた。



残り四百メートル。



しっかりと視認できるようになった外壁の上で、いくつもの魔法が発動される。



残り三百メートル。



その数は百近く、獣人族が多いとはいえ魔法が使えないという訳では無いという真実を伝えてくる。



───そして、残り二百メートル。



瞬間、それらの全ての魔法が一斉に発射され、お互いのスピードも相まってそれらの衝突はすぐに訪れた。



目の前の視界を覆い尽くすは大量の魔法。

それを見れば、さすがにあのギンでさえ焦ることだろう。


けれども彼らの顔には焦りはなく───その先頭を走るギルバートは、その腕に嵌る腕輪の力を解放した。




「霊器発動『霊装、百式観音』」




瞬間、彼の背後から召喚された───無数の腕。


それらは皆一様にその掌を魔法へと向け、



次の瞬間───目の前の全ての魔法が消え去った(・・・・・)



その状況に思わず目を見開き、絶句する魔法使いたち。


何せ、実際にその魔法を使った彼らは分かってしまったのだ。


あれらの魔法は吸収されたのではない───奪われたのだ、と。




「さぁ! 奪った代わりと言ってはなんだが、私からのささやかな贈り物だ!」




瞬間、それら無数の掌からは先程の奪われた魔法と全く同じ魔法が吐き出され、それらは本来の使用者へと向かって牙を向く。



ギルバートのユニークスキル『強奪と贈物(ギブアンドテイク)』。


右手で相手の攻撃に触れることで物魔関係なしに全てを強奪し、左手でそれらの奪った全てを放出する。


これだけでも十分すぎるチート能力なのだが───それが霊器を使用することによってそのチート化がなお一層進んでしまった。


霊装、百式観音。


それは文字通り、背中に百本近い観音の腕を生成するという難しい能力だが───それらの腕に、右や左といった概念は存在せず、伸縮もある程度は可能である。


───つまるところ、それらの腕の一つにでも触れてしまえば、その時点で全ての攻撃は無効化され、その直後にはどれかの腕から自らの攻撃が牙を向くわけだ。


実際に序列戦で戦ったクラウドの言を借りるとすれば『チート過ぎだろ! ゲームバランスどうした!?』という感じだろうか。



閑話休題。



そうして外壁上の魔法使いたちは壊滅し、ギルバートが魔法を放つと同時に飛び出していた二人は既に敵の城門へとたどり着いていた。


オリビアの拳には集められた魔闘気が、マックスの手には真っ赤に燃え盛る魔剣レーヴァテインが。



───そして、




「『天拳』ッッ!!」


「『業火』ァァ!!」




瞬間、門を閉ざしていた扉が木っ端微塵に吹き飛ばされ、門のすぐ側に控えていた生徒達がそれに巻き込まれて転移されてゆく。


紛うことなきオーバーキル。


けれどもそれを行った二人は息一つ乱れておらず、どこからどう見てもその前に二キロにわたって全力疾走してきた者とは思えない。この理不尽さが執行機関のメンバーの特徴である。



その様子を見て思わず後ずさってしまう帝立の生徒達。


けれどもそんな彼らに影が差し、彼らは先程見えた黒竜かと目を見開いて上を見た。



───が、そこに居たのは純白色のメタリックなドラゴン。



その姿に思わず目を惹かれたが最後、地上に放たれた和の国の剣士二人が一瞬にしてそれらの生徒を一太刀で切って捨てる。


ディーン・カリバー。


スメラギ・オウカ。


そしてクラウド。


ディーンは既に霊竜シャープを使いこなしており、オウカとクラウドに関しては、とある事情からとある人物目指して猛特訓中である。そんなに成長真っ只中の強者相手に目を離してしまったが最後、MP全損で済まなかった彼らもまた控え室へと転移されてゆく。



───だがしかし、逆にその者達に視線を向ければ遠距離からの攻撃に対する注意が散漫になる。



「『ウィンドアロー』!!」



瞬間、ルネアの放った風の矢が残っていた生徒達の身体へと突き刺さり、それと同時に幻術使いであるソルバ、マイアの能力が遺憾なく発揮される。



「「幻術! 世界で一番苦手なもの!」」



瞬間、矢の餌食になった生徒達はその風でできた矢を見て絶叫し始める。

彼らはまるでその矢が『苦手な何か』に見えているかのように絶叫し、そしてその『何か』を察した二人は、それ以外の部分にも新たな幻術を付与して生徒達を地獄へと追いやってゆく。



───そして最後に、この人物。



「それじゃあ旗の捜索頼むよ、イリア」


「了解しました、会長」



生徒会副会長であり『歌姫』の二つ名を冠するイリア・ストローク。


ギンによって耳と目を治療してもらった彼女は元々あった能力にさらに磨きがかかっていた。



「それでは、『反響定位』!」



そうして彼女はマイクスタンドに向かって歌い始める。


言葉ではなく、音のみによって構成されたその歌。

けれどもその歌は聞くもの全てを魅了するものであり、能力などを度外視しても尚素晴らしいの一言だった。


そして十数秒後、彼女は反響定位によってこの城全体の構造を把握し、それに加えて残存敵勢力の数、そして旗の位置まで完全に把握しきった。



ユニークスキル『音の王』。



かつてギンが持っていた『影の王』のスキルと同系統のスキルだが、その能力は『音支配』と言った方が相応しいものであった。


音によって攻撃を加え、リズムによって身体能力を強化し、跳ね返る音を拾って周囲を散策する。

『影の王』が隠密系統に位置するとすれば、この『音の王』はそれよりも上位のスキルであり───言うなれば、万能の力。


今までは耳が聞こえない状態でそれを行い、さらに常時反響定位によって視界も補わなければならなかったその能力が、今は全ての枷から解き放たれた。


隣で見ていたギルバートは内心で『これまた凄いを潜在能力を引き出しちゃったねぇ』とそれを見ていたのだが、それはともかく今は旗の確保である。




「会長、旗は城の一番上です。残存敵勢力は残りわずか。外壁に集まっていた人たちが多かったのと、殲滅組のやる気が限界突破してるせいか、もうすぐ終わりそうです」


「いやぁ、誰のせいとは言わないけど、みんな張り切っちゃってるねぇ」


「ええ、誰のせいとは言いませんが」




そう言って二人は視線を氷の柱と化した魔立学園へと向ける。



───ちょうど二人の目には、こちらへと飛んでくる黒竜の姿が映った。

“刻焉の氷獄”はかつてギンが悪魔ムルムルに放った“灼罪の燈”の氷バージョンです。

ちなみに威力も制度も断然前者の方が高いです。炎十字の名前はどうした、と聞いてやりたいレベルですね。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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