第258話
今日の午後になってから『メッセージ』なるものを知りました。
今まで『メッセージ出したのに返信こない⋯⋯』とか思ってた方々、返信が遅れました、すいません。
最終レースが始まり、一番最初に行動を起こしたのは───意外なことに倉持さんであった。
「『忍術・まきびし』!!」
瞬間、勢いついて走り出した生徒達の足元にキランと光るまきびしが撒き散らされ───忍術と言っていいのかは疑問だが───生徒達の鮮血と悲鳴がステージ上に舞った。
───が、そんな物では止められないものがおおよそ一名、あの中に混じっていた。
「ふんぬぅっ、ですっ!」
オリビアの身体から『魔闘気』特有のオーラが吹き上がり、それと同時に彼女はまきびしを粉砕しながらその場を駆け抜けた。
それには流石の倉持さんも絶句したが、すぐに正気に戻ってその後を追随する───もうその時点で第三位以降とはかなりの差が付いてしまっており、もうほぼ一位二位が王立学園が占めることは確定してしまった。
───だがしかし、そうして走り続けること数秒、突如レーン上に大きな巨岩が召喚された。
『おおっと! ランニングマスターの誇る面倒くさい障害物その一!“レーンから出れないにも関わらずそこを占領する巨岩”だァァァ!! これは壊すか登るかしか避ける方法はな───』
ドガァァァン!!!
『───はい、何でもないです。頑張ってくださーい』
何の躊躇いもなくこの岩を粉砕したオリビアと、その上をいとも簡単に飛び越えた倉持さんの姿に、あの司会さんも思わずそのテンションを落としてしまった───まぁあの二人に関しては障害物など即壊すか躱すかの二択しか無いわけだしな。当たり前だけど。
そんなことを考えている間にも、彼女たちはトップを独走し続けた。
『次! 地上五メートルに吊るされたパン食い競───』
───普通にジャンプして届いてた。
『つ、次! 全長十メートルの平均台───』
───普通にジャンプして飛び越えてた。
『......次、超頑丈な風船割───』
───拳とクナイで粉々だ。
『つ、次こそは! ぐるぐるバッ───』
───全く効いてなかった。
あまりの無双状態に観客たちも歓声を飛び越えて困惑し、もしかして他の皆も、と思っていて後ろの方を見ると、みんな揃ってパン食い競争で苦戦していた。
それを見てやっと皆も『凄い』という考えに至ったのか、先ほどとは打って変わって大歓声が響き渡った。
───が、そんな中、二人の爆走はとある障害物の前で停止した。
彼女たちの前には、全長三十メートルはあろうかという断崖絶壁。
所々───それこそ十メートル単位位で地上より高いところに小さな足場が設けられており、直線距離でいえば十五メートルと言った所か。二人ならば何とか届く距離であろう。
けれども二人はその直前で崖の下をのぞきこんで固まっており、それを見て僕も思わず怪訝な表情を浮かべてしまった。
───だがしかし、その直後の司会さんの満足気な声でそれらの疑問は瓦解した。
『ふっふっふっ、ふはははははっ! どう! どうですかっ! この競技最大とも呼べる障害物“スライムの崖”は! 小さな足場に崖下には大量のスライム! もし万が一落ちればこの大衆の目の前で服が溶かされ辱められる! さぁ、女性がこの障害物をどう攻略するのか見物ですな!』
───もう本当に酷い障害物である。僕らも思わずその競技にドン引きしており、唯一引いてなかったのは目をキラキラと輝かせている白夜くらいなものだった。
だがしかし、彼女たちは化物みたいな身体能力はしていても女性である。スライムに服を溶かされるくらいならいっその事棄権でもする方が得策だ。まぁ、オリビアに関して言えば翼を使えばいい話だが。
だから僕は内心で『他の奴ら、どうやってこれゴールしたんだ?』と思いながらも、二人に『棄権しろ』とでも念話を送ろうと思った。
───次の瞬間、オリビアの腕輪が輝き出した。
それは霊器が発動した証。
その光が止むと、彼女が両手にしていたガントレットからはそれぞれ赤い糸が五本ずつ伸びており、それらがオリビアの霊器なのだと思い至るまでそう時間はかからなかった。
「『霊糸アリアドネ』です!」
オリビアがそう告げると同時に、彼女の左手のガントレットから伸びた五本の赤い糸が十五メートル先の足場に絡み付き、それを確認した彼女は迷うことなく崖下へと飛び降りた。
「「「「なぁっ!?」」」」
周囲の客席からは驚きの声が上がる。
───けれど、彼女の身体が崖下まで落ちることはなく、まるでスパイ○ーマンの如く足場から足場まで、交互に糸を絡ませて本来とは違った攻略法を用いてその崖を渡りきった。
その様子には、初めて彼女の霊器を見た僕はもちろん、周囲の皆も目を見開いて固まっており、そんななかで唯一、やってやったとドヤっていた司会さんの悔しげな声だけが響いていた。
「見た感じじゃと、伸縮自在で強度もあり、それでいて自由自在に操れる、って感じじゃのぅ」
白夜のそんな声が聞こえてきて、僕はその力の有用性に気がつく。
今までは力押し一辺倒だったオリビアだが、あの霊糸アリアドネさえあればミドルレンジやロングレンジからも自由自在に攻撃ができる。
さらに言えば細くさえできればワイヤートラップにも使えるし、なにより近距離戦闘においては、相手はあれだけの強打に加えてあの糸も警戒しなくてはならなくなる。少しでもどちらかに気を取られれば即詰みだ。なんて凶悪極まりない能力───いや、相性の良さだろうか。
僕はあまりにも凶悪な今のオリビアに思わず頬を引き攣らせながらも、一番にゴールラインへと到達するその姿を眺めていたのだった。
☆☆☆
その後、僕らはゼロたちと別れ、一度王立学園の控え室へと戻ってきていた。
午前十時半、かなりのアップテンポだが、実質やってることといえば、魔法を撃つ、かけっこする、の二つだけなので正直こんなものだろうと思う。
そして十一時からは攻城戦───四年生以上を対象とした全員参加の城を守りながら相手の城を落とす、文字通りの攻城戦。
確か制限時間は二時間で、午後の一時に終了、それぞれの昼休へと入るという流れだ。
───まぁ、そのため僕らも作戦を聞くため、そして色々準備するために戻ってきたわけだが。
「決定事項ぞよ、ギン。お前は一人で魔立学園を落としてくるのぞよ。異論・反論・提案等は一切認めん」
控え室へと入った瞬間、目の前に仁王立ちしていたグレイスから言われた言葉に、僕は思わず唖然とした。
何故か満足気な表情のグレイスの背後には、今日のために事前に作戦立てていたのか、疲れたような顔のギルバートを含めたニアーズの面々が立っており、なんだか必死に止めたんですけど無理でした、といった心の声が今にも聞こえてくるようだ。
「なに、お前、まさかとは思うけど拗ねて構ってくれなかったからって搦め手で嫌がらせしてるんじゃないだろうな? だったら正直ドン引───」
「違うわっ! 謝られんかったのは大問題だが断じて違うぞよ! 単にさっき魔王から『グレイスの弟子......ぷっ、どうせ脳筋の魔法も使えない超近接型なんでしょう?』と電話で馬鹿にされたのぞよ! 弟子を馬鹿にされて黙っておる師匠がおるか!」
───いや、それ馬鹿にされてるのグレイスだよね?
僕はそう、口に出しはしなかった。
言っていることはめちゃくちゃで控えめに言っても意味不明だが、一応グレイスは僕のために怒ってるみたいなのだ。素直に気持ちは受け取っておこう。
「おう、ありがとうグレイス。愛してるぜ」
「愛し───ッッ!? な、何を言っているのだお前はっ!? ね、ねね、年齢差を考えろ馬鹿者が!」
瞬間、背後からジトっとした視線が二つ背中に刺さったが、まぁそれはこの際無視しておこう。
「まぁ、そんなことはどうでもいいとしてグレイス、別に学生の守る城だろうがこの国の城だろうがやろうと思えばいつでも落とせるけど、正直僕が一人でやるとなったら死人が出かねないぞ?」
「そ、そそ、そんなことぞよ!? わ、ワシにとっては重要な───いや、惑わされるな、ワシ。こやつは親と子どころか祖母と孫以上に歳が離れておる。ちょっとカッコイ......いやいや、ダメぞよワシ!!」
───どうしよう、思ったより重症だ。
僕は視線を後ろのギルバートへとスライドさせると、もう大体諦めているのか、虚ろな目で色々と補足してくれた。
「攻城戦と掃討戦に関しては、HPへのダメージを全てMPへのダメージに変換する魔導具が使用されているよ。ついでに言えば、それでもHPへとダメージがある場合は控え室に転移されるらしい。だから私たちの城は落とさない程度に好き勝手やってもらって構わないよ」
なるほど、MPがHPの代わりになり、その上最後の手段として転移もされるなら死人が出ることはないか。
そうひとまず安心したはいいが、次に問題として上がるのはどうやって攻め落とすか、と言う事にほかならない。
「近接戦闘じゃダメだって言うなら魔法を使うとして、選択肢としては影、炎、氷、雷、もしくは普通の魔法か......」
そう、顎に手をやって考えていると、やっと回復したのかグレイスが真っ赤な顔で近寄ってきた。
「仮にもワシの弟子ならば、ワシに倣って氷系統の魔法で攻め落としてくるのぞよ!」
瞬間、こちらの話を聞いていた生徒達の殆どが微妙な顔をした。
一瞬『師弟関係に対する何かかな』とも思ったが、どちらかと言うとあの感じは『風・雷魔法があれだけ出来てるんだから、それとは系統の違う氷魔法なんていつも使ってる程度だろう』みたいな感じだな。俗に言う“苦笑”や“失笑”というやつだ。
まぁ、普段なんて氷魔剣を作るくらいしか使ってないし、普通に考えれば『氷魔法は苦手』と思われるのも仕方ないのかもしれない。
───だが、
「何だか少し、舐められてる気がするな」
やはり数の暴力という言葉は怖いものだ。
少しでも『違う』という声が上がれば、内心でそう思いたい奴らはそちらに流れ始める。どうやらここの生徒達もその例に漏れず、この会場の空気に当てられてしまったようだ。
そして僕は、基本的に他人にどう思われようが知ったことじゃないが───舐められるのは気に食わない。
「面倒だ。次で今僕のことを舐めてる奴ら、全員後悔させてやる」
果たして僕がどんな顔を浮かべていたのかは分からないが、グレイスは僕の顔を見てニヤリと凄惨な笑みを浮かべた。




