第257話
その後、何故か引き攣った笑みで「や、やり過ぎは良くないのよ」と言ってきたルネアと共に王立学園の控え室へと戻った僕を待っていたのは、おもいっきり顔を引き攣らせた生徒諸君と、これまた何故か憤慨した様子のグレイスだった。
チラチラと視界を横切ってきながらも話しかければぷいっと顔を背け、話しかけるのを諦めようと思えばチラリチラリと視線をよこし始める───なんだよそのキャラ、かまってちゃんかよ。
僕は呆れて頭をボリボリとかきながらも、一応謝るだけ謝っておくか、とそちらへと歩を進める。
───が、その前に捕まってしまったようだ。
「ギン様っ! さっきの魔法は何なのですっ? すごーっくカッコよかったのですぅ!」
「おうおうギン、テメェどんな隠し玉持ってんだよ? なんか覚醒したなー、とか思ってたらまだ何か能力隠してたじゃねぇか」
「あれですね、ここまで来るとまだ他にも何か隠してそうですね。ギンは私たちの居ないところでどれだけ必殺技編み出してるんですか?」
「私が脳波で調査した結果、あの時の決闘で見せたアレと今の雷の他にあと五つあるようだな」
「い、いい、五つですか!? あんな対軍兵器みたいなのがですか!?」
「あるじはやっぱりすごいのだー! まえのへなちょこあるじとは大違いなのだ!」
気がつけば周囲は完全に包囲されており、グレイスへの道は完全に閉ざされていた。無念である。
にしても五つか......。悪鬼羅刹の制御に、炎十字三段階目のもう一つの能力、あとは新スキル二つに常闇のアレかな。計五つ。多分それで正解だろう。
「確かにそれであってるが、君に関してはそれらに加えてあの力があるだろう。あれが一番ヤバイ能力だろうに」
「いいじゃないか、絶対的な破壊力。なんて良い響きだよ」
瞬間、何故かドン引きしたような浦町の姿があったが、一体どうしたというのだろう?
「いや、あの殲滅特化の能力をただの破壊と言ってしまえる君の感性に少し引いただけだ。安心しろ」
───なんだかかなり酷いことを言われた気もするが、まぁそれはこの際置いておくとしよう。
「それよりも、だ。僕は次の競技出ないから警備に回るけど、白夜と輝夜はもちろんとしてお前らはどうする?」
そう、コイツらも一応警備隊の一員なのだが、何故か働こうという意思が見当たらない。
正直こんな初っ端から大きな事件が起こるとも思えないため好きにさせているが、一応聞くだけ聞いてみることにした。
「私は次の競技ですのですぅ!」
「俺は暇だし警備に回ることにするわ」
「私とアイギス、ネイル、藍月はオリビアの護衛をするとするさ。一応こんなのでも王族らしいからな」
「こ、こんなのですっ!?」
───なんだろう、このマックスだけハブられた感じ。
見ればマックスも同じことを考えたのか遠い目をしており、真面目に職務をこなしているのに評価はされない。まるで平のサラリーマンのようだ。
「まぁ、あれだ。助かるよマックス」
「......あぁ、こっちとしても助かる」
そうして僕は、白夜、輝夜、マックスの三人と会場の見回りをすることのなった訳だが。
───なんだろう、何か重要なことを忘れている気がした。
☆☆☆
「あ、グレイスに謝ってないや」
その事を思い出したのは警備を始めてしばらく経った頃の事だった。
なるほど、何か忘れてると思ったらグレイスだったか。
まぁ、忘れてたでは済まない気もするが、今帰っても後で帰ってもあまり結果は変わらない気もする。なんなら今帰って『職務怠慢で依頼失敗ぞよ!!』とか言われる方が余程面倒だ。後でチョロっと謝っておこう。
そんなことを考えていると、前方の廊下の角から数人の少年少女たちが曲がってくるのが見え、一瞬生徒かとも思ったが、それにしてはその面々には見覚えがありすぎた。
「あっ! お兄さん!」
そう言って駆けてくるのは白髪青眼の少女───ゼロであった。
その後には弟のアイクと魔族のユイが追随しており、その他の二名にも僕はかなーり見覚えがありすぎた。
「ご無沙汰してます、ギンさん。なんだか元気そうで何よりなによりです」
そう言って手を振ってきたのは、かつて帝国の地で借金に苦しんでいた獣人族の少女───ベルナだった。
その後にはすんごい勢いでこちらへと駆け寄ってくる少年───ベルクの姿もあり、かつて患っていた魔力病はすっかり良くなったのだろうと窺い知れる。
「ギンさん久しぶりっ! ねぇねぇ、さっきの魔法なに!? ファンクラブの情報網にも引っかかってなかったんだけど!?」
「久しぶりだな二人共。あとベルク、後でそのファンクラブの情報網とやらについて詳しく教えろ。プライバシー侵害にも程がある」
「ぷらい、ばしー? なにそれ美味しいの!?」
───そのセリフを本気で言ってるやつ初めて見たぞ、僕。
僕は思わず苦笑してしまうが、それと同時にこうも思ってしまう。
「にしても、だ。お前達五人でパーティ組んでるのは分かるけど、ちょっと全体的に年齢層が低いな。最高がベルナだとしても18行ってないだろ?」
「はい、去年成人して今は16歳です」
16か......思ったより行ってないな。
そう考えると次点でゼロがきて、アイク、ユイ、ベルクの三人は12~13って所かな。
「実力的にはどうなんだ? パッと見た感じだと一番強いのはベルナ、でそれを僅差でゼロが行ってる感じするけど」
その言葉にニヤニヤと笑みをこぼすベルナと、ピクッと反応を示すが反論する様子のないゼロ。これは正解しちゃったかな?
そんなことを考えていると、後ろからクイクイとローブを引っ張られるような感覚がして振り返ると、いかにも『紹介しろ』と言った様子の三人がこちらを軽く睨んでいた。
「あぁ、悪い。紹介するよ。こちら、前にゾンビに襲われそうになってブルってたゼロとその愉快な仲間達。こっちは変態と中二病と高給取りの騎士様だ。ベルナとお前達は一応顔見知りだろうとは思うけど、仲良くやってくれ」
「「「「おい、言い方」」」」
紹介した途端に白夜、輝夜、マックス、そしてゼロの四人に一斉にツッコまれたが、別に間違ったこと言っちゃいないだろう。そう、何一つとして情報的には間違っていないのだ。
そのためか、ゼロパーティの少年少女たちは割と見た目年齢の近しい白夜に集いつつあるし、ベルナは三人のことを覚えていたのか輝夜やマックスに話しかけに行っている。
問題はぼっちと化したゼロなわけだが、まぁそこら辺はおいおい頑張ってもらうとしようか。
とまぁそんなこんなで僕は二人との再会を果たし、白夜たちもゼロたちと知り合ったのだった。
☆☆☆
そうこうしている内、月光眼で会場の動きを確認していた僕は、今行われている競技───ランニングマスターでオリビアの出番がそろそろな事を知り、僕らは急いでステージを見渡せる位置を警備することにした。
その場所まで来た僕らが見たのは、先ほどまでとは一変してランニングサークルと化しているステージで、先程まであった魔導具やガラスと化した地面はいつの間にかどこかへと消えていた。
───そして、そのステージ上にて準備体操をしているオリビア。
『さぁやって参りました最終レース! 第一レースでは帝立学園の狼の獣人族、アダム選手が“獣化”のスキルを使用し圧勝し、第二レースでは霊器である“霊竜シャープ”を使って障害物を飛び越えて無双したディーン・カリバー選手がそれぞれ第一位をもぎ取りました!』
『一位、二位、三位にそれぞれ10、8、5ポイントと入りますから、先ほどのマジックバスターを含めますと、王立学園が33、帝立学園が23、魔立学園が10ポイントとなっております』
『やはり霊器製作の元祖である王立学園が有利ですね! それに加えて今年は特に粒ぞろいらしいですから、これはなかなか期待できるのではないでしょうか? 帝立学園は身体能力を活かせるこの競技で、魔立学園は次の得意競技である、攻城戦、そして掃討戦に向けてこの競技で少しでもポイントを稼いでおきたいところです!』
そんな放送が聞こえてきて、あまりにもぶっちぎっている王立の点数と、ディーンのチートに思わず呆れ返ってしまった。
いや、確かに僕とルネアで一位二位独占したし、ディーンが一位取ったのも分かる。けど二位と十点差ってどういう事だよ。
『という訳で最終レース! まずは第一レーンから紹介していきましょう!』
『第一、第二レーンは帝立学園からの出場、イライ選手とウコン選手です。それぞれ豹と馬の獣人族ですからかなり期待できるのではないでしょうか?』
『続いて第三、第四レーンは魔立学園から、エクボ選手とオーン選手です! お二人共魔族ということで、魔法を使ってどう障害物を片付けるかが問題となっております!』
『最後に、第五、第六レーンは王立学園から、黒髪の時代からクラモチ・アイカ選手と、第二王女であられるオリビア・フォン・エルメス様です。クラモチ選手は“忍者”として、オリビア様はエルグリット様から引き継がれた体術の天才として有名ですね』
『今回の王立学園サイドは別段、特殊能力持ちとかがいる訳でもありませんし、今回は帝立学園や魔立学園にもチャンスがありそうですね!』
何故かオリビアの隣に倉持さんがいたが、まぁそれ以外はさしてツッコミを入れる場所もなかった。強いて言うならば司会さん、特殊能力持ちって一体なんだ。
───ちなみにだが、前も言った気もするがこの世界では男女の体格差が大きく出やすい。もちろんそれはレースにも大きく影響を及ぼす。
男女で分けてはないとはいえ、普通はこういうレースは男で固めるものだある。普通は、だが。
そんなことを考えながらもそれらを眺めていると、もうレースが始まるのか、皆が皆、定位置についてクラウチングスタートをし始める。
そして───
『それでは! 最終レース、開始です!』
ドォォン! という空砲の音と共に、最終レースが始まった。




