第256話
ボ○ト始まりましたねぇ。
画質綺麗で助かります。
「火よ、我が名に従い敵を滅せよ!『ファイアトルネード』!」
瞬間、魔導具の張る障壁へと紅蓮の竜巻が衝突し、数秒後にはピピッと音がなり、その魔法の点数がスクリーンに映し出された。
【678】
その点数が出た途端に大きな歓声が上がり、その魔族の少年は満足のいく結果が出たのか、少し頬を緩めてベンチへと戻ってきた。
今現在───一巡目の帝立、魔立と審査が終わった所である。
ちなみにだが、帝立から出てきた選手は人族で、【528】となかなかの点数を出していた。エリート平均よりも高いのだからかなりの魔法使いなのだろう。
というわけで、やっと訪れた僕らの出番なわけだが。
『さて待ってました王立学園! 今回は前回覇者のルネア・フォン・エルメス選手と、意味不明なことに執行者ギン=クラッシュベル選手が参加です! もうこれ競技やる意味あるんですか?』
『二位以降を決めるということに関してはあるのでは?』
『なるほど! それではどちらが出てくるかは不明ですが、とりあえず魔導具が壊れないようにと願っておきましょう!』
───酷い言い草であった。
僕はあまりの言い草に思わず肩を落としてしまったが、隣のルネアは僕とは対照的にやる気満々と言った様子である。
「それではギン! ちょっと最高点出してくるのよ!」
それだけ聞けば『最高点出してこい』と言われているようだが、その実彼女の言いたいことは『最高点出してくる』ということであり、相変わらず分かりづらい語尾だなと苦笑しながらも、ステージ中央へとルネアを見送る。
僕は事前に彼女へと『出来れば自分の出番は後にしてほしい』と頼んでいた。
というのも、さっき司会さんたちが暴露していたため色々と無駄に終わってしまったが、僕はこの競技を見るのも出るのも初めてだ。そのため事前にみんなの魔法を見て参考にしようと思っていたのだが───まぁ、平均点と前の二人の魔法で大体は理解してしまった。
───今のルネアが、1,000ポイントに収まりそうにないことも。
視線をステージ中央へと向けると、既にルネアはそこへとたどり着いており、周りの歓声など知ったことかと詠唱を始めていた。
その詠唱は初め、歓声に上書きされてここまで届くことは無かったが、次第に集まり出したその膨大な魔力と、パチパチと帯電しだしたその身体を見て、気がつけば全ての歓声はなりを潜めていた。
「私が使えるのは、なにも“風”だけじゃないのよ!」
瞬間、彼女は右手を上空へと掲げ、それと同時に魔導具の上空に雷の塊が出現する。
その様はまるで───雷神の一撃。
「『トールハンマー』ッッ!!!」
瞬間、光が弾け、爆音が衝撃波を生み出す。
あまりにも衝撃的なその光景に観客はもちろん、司会の二人や控え室からも音は消え失せ、僕も普段の彼女からは考えられないその魔法に思わず頬を引き攣らせた。
「これからは.....、あまりからかうのは、やめようかな」
風魔法───その上位魔法、雷魔法Lv.4『トールハンマー』。
その絶大な威力と、スクリーン上の【2,680】という数値に、会場中は歓声すら忘れて静寂に包まれた。
☆☆☆
その後も帝立、魔立と競技は続いた。
だがしかし、どうやら最初の二人が主力だったらしく、ルネアの記録を見たことも相まって......まぁ、言うなれば地味な魔法にしか見えなかった。【502】【589】とけっこうな数字だったのだが、本当に可哀想である。
そのためか、いつの間にか会場中には『ルネアが優勝』という空気が漂い始めており、それを察したのかアルフレッドや司会さんも僕に関して触れることは無かった。
───だが、次は僕の出番だ。ここから先はそういうわけにも行くまい。
僕はため息混じりに立ち上がると、1,000ポイントくらいに加減して二位でも狙うかな、と会場の空気を読んで歩き出す。
だが、その歩みを止める者が一人。
「ちょっと待つのよ、ギン」
その声に振り向くと、そこには不満を隠す気配もないルネアが立っており、ギロリと効果音がつきそうな視線を僕へと向けていた。
しかも、彼女が僕へと告げたのは予想外な言葉で。
「命令なのよ、私と同じ雷属性の魔法を本気で撃ち込むのよ!」
手加減をしよう、という内心を読まれたのだろうか?
ルネアは腕を組みながらそう告げ───否、命令すると、何やら満足したのかそのまま席へと腰を下ろした。
「私と貴方じゃ実力がかけ離れているのは重々承知してるのよ。貴方は王城を落した悪魔さえ屠る執行者、私はLv.4の魔法一つで魔力が切れるただの王族。私の顔を立てようと考えているのかもしれないけれど、私からすれば手加減はただの屈辱でしかないのよ」
それだけ言うと、彼女はまるでもう言うことは無いとばかりに瞼を閉ざした。
僕はルネアに考えていることが読まれたことや、全く効力のないその命令の内容なんかを考え、少し苦笑してしまう。
『お前にしては珍しいな、読み間違い、ってのは。それとも乙女心は分からないか?』
頭の中にクロエの声が響き、僕は心の中でそれに答える───たしかに、僕がここまで読み間違えることなんて珍しいかもしれないな、と。
僕はステージへと視線を向ける。
もはや優勝は決したとばかりに談話する声が聞こえ、僕が優勝するなど考えている者はこの中でも王立学園の生徒達や知り合いの人たち、そして一握りの強者たちだろう。
中には客席を立ち、次の競技までの休息とばかりにどこかへと去ってゆくものも多く見られる。正直、馬鹿にされていると言っても過言ではない。
「たしかに、ここまで舐められるのはちょっとイラッとくるかもな」
僕はそう言ってルネアへと視線を戻すと、ニヤリと笑ってこう告げた。
「了解しましたお姫様、全力をもって貴女のプライドをズタズタに引き裂き、一位を力技でもぎ取ってみせましょう」
ここまで敬意のない敬語も、かなり珍しいのではないかと思う。
☆☆☆
控え室から出た途端、僕へと幾つもの視線が突き刺さる。
興奮、期待、好奇などの視線もあるが、その大半は『無関心』というもの出会った気もする。
そも、この魔学発表会に来ているのは大陸中の人々だ。僕の噂は聞いても確かな実力までは伝わらず、もし伝わっても『なんだその大げさな噂は』で終わるはずだ。
つまりは僕に期待しているものなど王都や帝都から来た人達───その中でも武闘会を見ていた、極少数な人々だろう。
───つまりは『な、なんだあの男は!?』というお約束ができるという訳である。
帝国では随分と件のお約束を味わったわけだが、それから既に半年以上が経過している。そろそろ再び『僕TUEEEE』してもいいのではないかと思うわけだ。まぁ、攻城戦や掃討戦で嫌というほど無双してやるが。
───だからこれは、イラッときた憂さ晴らしと、無双の前の前菜だ。
『はい、最後の出場者は執行者さ───って、ちょっとアルフレッドさん? なんですか、その、今のあの人見てたら嫌な予感しかしないんですけど』
『とりあえず、耳を塞いで目を閉じる準備だけはしておきましょうか。あの方の本気など、ステージとは障壁越しではあっても、その衝撃音だけで死にかねない』
『いやー、いま執行者さんのことバカにして会場出てった人たち、死にましたねー』
『ですね』
そう言って両耳を手で抑える司会席の二人。
よく見ればエルグリットも同じようにしているし、王立学園のみんなが座っている客席を見れば、もちろん言わずもがな誰ひとりとして耳に手を当てていない人物は見当たらなかった。
その姿に他の観客たちも思わず目を剥き、これが尋常でないことを理解したのだろう。
ほとんどの視線が『興味』と『畏怖』をもって僕の方へと向けられるが───次の瞬間、それらの視線は『驚愕』へと塗り替えられた。
「『銀滅雷牙』」
瞬間、僕の身体からはバチバチと白銀色の雷が放出され始め、本来副次効果に過ぎないそれらの一つ一つは、誰から見ても先ほどのトールハンマーと同格の威力を持っていた。
───それは他の生徒達とは一線を画する、絶対的な力。
「さぁ、行くぞクロエ。新能力のお披露目だ」
僕はニヤリと笑ってそう呟くと、左手をまっすぐ、その魔導具へと翳した。
───これより見せるは、全てを破壊する星の力。
「『落雷一閃』!」
瞬間、天上より白銀色の雷が召喚され、寸分違わずその魔導具へと放たれた。
落雷すらも生ぬるいと言わんばかりの爆音が轟き、白銀色が視界の全てを塗りつぶす。
会場は揺れ、衝撃は客席の最頂すら越え、付近一帯にまでその力の奔流を知ら示す。
───それはまさに、人知を超えた神の一撃。
まぁ、あれでも壊れない件の魔導具は本当に馬鹿げているとしか言いようがないのだが───
【4,890,000】
スクリーンに映し出されたその点数を見て、僕は満足げに呟いた。
「遊びだったのかなんだか知らないが、けっこう簡単に超えてやったぞ、グレイス」
そうして僕は、踵を返してステージを後にした。
☆☆☆
その一撃を見て、少女───ゼロは唖然とした。
彼女は珍しいことに、ベルナとベルクに出会うまで、執行者ギン=クラッシュベルの活躍について全くと言っていいほど知らなかった。
唯一、ビントスの街のギルド職員であるブリジットという少女から『仲間と共にバジリスクを討伐した』という活躍は聞いていたが、正直それは今のゼロのパーティでも出来ることであった。
一度だけスマホでその名前を見たこともあったしその能力も確認したが、情報が欠如し過ぎていたためまあり脅威的だとは思っていなかった。
だからこそ、ゼロはギンの事を『過大評価されているそれなりに強い人』と思っており、せいぜい今の自分と同格か、それより少し上程度だろうと考えていた───ちなみにそれは、会議室で起こった騒動の際に、彼が予想以上に早く動き出したゼロとあえて同じ速度で動いたせいでもある。
その上、ルネアのあの一撃はあまりにも強烈で、以前とは比べ物にならないほど強くなってはいるゼロでさえ驚き、目を見開いたものだ。
だからこそ、彼女は彼の身体から放出され始めた白銀の雷を見て目を見開き、そして魔法が放たれたその跡をみて絶句した。
───そこにあったのは、あまりの高電圧に焼かれガラスと化した、芸術的にまで綺麗な円状の地面。
クレーターになっている訳でもなく、地面が荒れ爛れているわけでもない。
正確にその力を制御し、その結果起こる被害を想定し、掌握し、その上で必要最低限の力を使って放たねばああはなるまい。
しかもあれだけの魔法を使用したにも関わらず、その本人と来たら魔力切れはもちろん息の一つも切れておらず、何も無かったかの如くステージから控え室へと歩き出している。
───手加減をした上での、圧倒的な力の隔絶。
それは彼が事前に言った通り『プライドをズタズタに引き裂く』との言葉を今現在進行形で再現しており、各校の生徒達はそれらを見て心がポックリと折れたのを感じた。
───けれども、彼女を含めた数人はそれと真逆の反応を示した。
「ふむ! 流石は主様じゃのぅ! 観客のことを鑑みて手加減してやるとは心が広いのじゃ!」
「クハハッ、クハハハハハッ! 何やらいつの間にかここまで離されていたようだな! 果たして我らが主殿に追いつくのはいつになる事やらな!」
「ちょっと強くなったからと調子に乗りおって......、いくら遊んでおったからと言っても師匠であるワシの点数を超えるとは何事ぞよ! 喧嘩でも売っておるのかのぅ!?」
「舐められてるんじゃねぇか? 俺様でも破壊できるのにあの点数.........。ぷっ、舐められるのも当たり前だろ」
一番最初に騒ぎ出したその面々。
それにつられてほかの面々も騒ぎ出し、十数秒後には会場中は信じられないほどの歓声と熱気で溢れかえっていた。
酷い手のひら返しだな、とゼロは内心思ったが、残念ながらそれは自分も同じであり。
───なによりも、その強さにゼロは彼への憧れを思い出した。
「追いついたと思ってたけど、全然まだまだだったみたいだね......」
そう呟いて彼女は踵を返して、会場の警備に戻るのだった。
炎十字、三段階目解放済です。
命名、"聖獣モード"です。




