第254話
〇〇出てこないの? いつ出てくるの? と感想欄に書いてくださった方々へ。
答:今回です。
それからおおよそ一週間後。
───今日は魔学発表会、当日である。
僕ら王立学園の生徒達はエルメス王国の王都。その外縁部に存在する、大きなドーム状の建物へとやって来ていた。
一応王都内とは言っていても、思いっきり外壁の外側である。そのため弱めの魔物なら出没するし、周囲に広がるのはだだっ広い草原のみだ。
ここは普段は競馬などに使われる『え、こんな所に学生呼び込んで大丈夫なの?』と言った感じの場所であるが、実際のところは多目的ドームと言った感じで、一番多い使われ方が競馬と言った感じである。
───ちなみにだが、外壁のさらに外に作られている理由は、単に競馬の歓声がうるさいから、という理由でもある。
そのため、帝都のコロッセオほどの大きさは無いのだが、その代わり様々な目的で使用できるような仕様になっており、今回も様々なチート魔道具を使用して魔学発表会を行うこととなっている。
そんなことを考えていると、次々と会場入りしている生徒達の流れに抗ってこちらへと進み出てくるグレイスの姿が視界に入った。
「おお、こんな所に居おったか。お前達護衛組のリーダー格は一度会議室に集合ぞよ。様々な冒険者やクランのリーダー格が集まっておる。せいぜい仲良くするのぞよ?」
「了解。あの二人は───」
「もう会議室へ行ったと連絡がきておったぞ。一応数名は仲間内を連れていっても良いとなっておるから問題にはなるまい」
そう言うとグレイスは「頑張れのぅ」と言ってどこかへと去っていった。
なんだか詳細について何も聞かされていない気もするが、まぁ、とりあえず会議室とやらへ向かえばいいのかな。
僕は後ろを振り返って、オリビアたちへと声をかける。
「それじゃ、先に会場入りしててくれ。色々聞くついでにあの二人も連れてくから」
「わかったのです! ギン様、頑張ってなのですっ!」
「おう、オリビアもなー」
そう言って僕は仲間達と別れ、一人会議室へと向かうのだった。
☆☆☆
その数分後、係員の人に会議室の場所を尋ねると、何故か僕の顔を見て「あ、握手してください!」と叫び始め、訝しげに思いながらも握手すると、なんとその係員の人が会議室まで案内してくれた。なんて優しい人なんだ。
という訳で今現在、会議室へと係員の人がコンコンとノックをし、「ギン=クラッシュベル様、ご到着です」と中へと声をかけてくれている。
すると数秒も待たずに「入れ」と、聞きなれた王族様の声が聞こえたため、何アイツ王様ぶってんの? と思いながらも会議室の扉を開き、中へと足を踏み入れた。
───瞬間、僕へと集まるいくつもの視線。
歓喜、好奇、畏怖、嘲笑、嫌悪、嫉妬。
なんとまぁ、見事なまでにいろんな感情を乗せた視線が僕の体に突き刺さり、最初の三つがかなりの大部分を占めているものの、やはりうち何割かには疎ましく思われているようだ。
まぁ、だからなんだという話だが。
そんなことを思いながらもどうしようかと視線を漂わせていると、ゴホンと咳が聞こえたのでそちらへと視線を向ける。
するとそこには、珍しく王様っぽい服装のエルグリットが座っており、その斜め後ろに立っている直属護衛騎士団長、アルフレッドと、件の変態魔法使い、マグナ・スプリットの二人が軽く笑いかけてきた。
「お前にしては遅かったな、ギン。俺の記憶が正しければ、お前は時間は守る奴だったはずだが?」
「いや、集合時間とか何も聞かされずここに来たんだけど。もしかしてもう始まってたか?」
「いや、国王が出張ってきてるからって他の奴らが早く来てるだけだ。まだ集合時間より前だから安心しろ」
それらは、あのエルグリットにしてはすこーしだけ丁寧な言葉遣いだろう。
だからこそ僕もなるべく反感を買わないように、これまたすこーしだけ低姿勢を見せつけてやったのだが、それらを知り得ないこの中にいるほとんどの人は『何国王にタメ口きいてんの!?』と言った表情を浮かべていた。まぁ、アレだ。知り合い特権って奴だ。
そんなことを考えている間にも、案内してくれた係員の人が僕を円卓の席まで案内してくれた。しかもご丁寧に座席まで引っ張ってくれたのだ。この人は本当に優しいな。普通の係員なんじゃないのか?
僕は係員さんに一応礼を言って見送ると、やっと落ち着いて周囲を見渡すことができた。
エルグリットはあれ以降話しかけてくる雰囲気はなく、国王の前ということでか、騎士達も冒険者たちも話す素振りは一向に見せない。
右へと視線を向けると丁度三席が空席となっており、恐らくは誰か僕よりも遅れている奴がいるのだろう。
逆に左へと視線を向けると───おっと。
いや、何でもない。ニマニマして今にも喋りだしそうな雰囲気の白髪と、ソワソワしてこちらをチラチラと見ている金髪が居たのだが、まぁ気のせ───
「主様っ! おっひさー、なのじゃっ!」
「く、クハハハハッ! 流石は我が主! あの中から我を選ぶとは見る目があるとはまさにこの事!」
───瞬間、なんだか微妙な静寂が、辺りを占めた。
いやぁ、一般人なら黙礼や小声での挨拶なんかをするところがどっこい、この二人と来たらあの静寂の中、空気も読まずに大声を出しやがったもんな。まったく、正気の沙汰じゃないぜ。
僕はなんだか無性に恥ずかしくなったが、とりあえず挨拶を返しておくことにした。
「お、おう、久しぶり。白夜、輝夜」
「うむ! 久しぶりなのじゃ! 妾は主様に選ばれてとっても嬉しいのじゃぞ!」
「そうかそうか、輝夜もわざわざ遠いところ来てもらって悪いな」
「クハハッ、主殿が呼べばいつでもどこでもどんな所へも駆けつけるのが従魔の役目。当たり前のことを言われても返しようがないとはまさにこの事だぞ?」
「......なに、今度はそのセリフにハマったのか?」
二人ともやっと落ち着いてきたのか、やっと声量も落ち着いてきて、いつの間にかあの静寂は霧散していた。なんだか先程よりも嫉妬や憎悪の視線が増えた気もしないでもないが、ポツリポツリと話し始める人も出始めたため、これに関しては二人に感謝だろう。
そう思って、少し頬を緩めた
───その時だった。
バタンッ!! と扉が開け放たれ、ビックリしてみんなの視線が入口へと集中する。
それは僕も例外ではなく、その開け放たれた扉の方へと視線を向けて───思わず目を剥いた。
「はぁ、はぁ、す、すいません。ば、馬車が、盗賊に襲われちゃって」
「お、お姉ちゃん! 国王様の前だよっ!?」
「す、すいませんっ、すいません! うちのリーダーがすいません!」
視線の先には、三人の少年少女の姿があった。
その子供たちの姿を見て皆は一度怪訝な表情を浮かべるが───次の瞬間には皆目を見張り、その次に僕の方へと視線を向ける。
何せそこに居たのは、白髪青眼の兄弟と、紫髪紫目の少女であり───
「何でここにいるんだよ、ゼロ」
僕は、かつて助けた少女と、思わぬところで再会を果たした。
☆☆☆
「「「へ? .........って、あっ!!」」」
僕のつぶやきが聞こえてしまったのか、ゼロ、その弟のアイク、そして友人の少女、ユイの三人は一斉にこちらを指さして大声を上げ、完全にフリーズしてしまった。
その様子に僕は思わず苦笑を浮かべ、エルグリットの方へと視線を向ける。
「悪いなエルグリット。白夜たちといい、ゼロといい、かなりうるさくなっちゃって」
「お前を呼んだ時点でそれ位は覚悟している。お前自身はまだしも、お前の仲間達に『静かにする』という行為を守れる奴がいるのか? まぁ、オリビアを除いて」
「嘘つけ、オリビアもその一員だ」
僕が一応エルグリットに謝っていると、その間に回復したのか、三人は背負っていたバックの中に手を突っ込み、ジャラジャラと音の鳴る布袋を取り出し、こちらへと駆け寄ってきた。
「お、お兄さん! 前は助けてもらってありがとうございました! これ、この鎌を買った時に付けててもらったお金です!」
「「ありがとうございました!」」
───お金?
一瞬何を言っているのか分からなかったが、ゼロが背負っているアダマスの大鎌レプリカと懐かしい死神のローブを見て、やっとそれについて思い出すことが出来た。
確か『人に無償で助けてもらうことを望むな』とか言って、100万Gくらいの借金を背負わせたんだっけか。
個人的には返して貰うつもりなんてなかったし、確か期限も無ければ増えることもない、と言っておいたはずだから、多分次あった頃には忘れてるだろ、とでも思っていたのだが......。
にしても、まさかコイツら、この短期間に100万も稼いだのか? 一応、駆け出し冒険者だろ?
内心で『さすがは金の卵たち』と笑みを浮かべながらも、もちろん覚えていたと言ったふうにその布袋を受け取った。
ここで受け取らなければこの三人の努力を無駄にすることになるし、それに意地でも納得しなさそうだしな。
「確かに受け取った。あと、一応エルグリットの前だからちゃっちゃと席座れ。お前ら最後だぞ」
「エルグリッ......あっ、国王様っ! す、すいませんっ!」
ゼロはエルグリットへと思いっきり頭を下げて僕の隣の席に座ると、それに倣ってほかの二人もその隣に着席する。
───なんとまぁ、落ち着きのないパーティだな。
僕は内心そんな感想を抱いた。
まぁ、パッと見な話で実際のところはどうなのかは分からないが、とりあえずこの三人は今のやり取りで確実に舐められた。
その証拠に僕には畏怖ってる奴もゼロに対しては静かに口角を上げて嘲笑してるし、僕相手に嘲笑してた奴なんてそれはもう酷い。今にもイチャモンつけてきそうな勢いだ。
僕は周りが見えていないゼロを見てため息をつくと、エルグリットへと視線を向ける。
それは『頼むから早く始めてくれ』という意味合いの視線。
なんとかエルグリットには伝わったのか、彼が立ち上がり、皆に声をかけようと口を開いた。
───次の瞬間、予期していた面倒な事が起きてしまった。
「クックック、クハハッ、ハッハッハ! ハッ、失礼! あまりにも無粋な連中が紛れ込んでいるあまり笑いをこらえることができませんでした!」
そう言って笑い始めたのは、青髪青ローブの人族の男。
その男はこの会議室の中でも唯一僕へと『侮り』の視線を向けてきた馬鹿であり、この会議室の中で唯一、僕より強いと誤解している真性の馬鹿であった。
内心で「あぁ、やっぱり吹っかけてくるとしたらコイツか」とため息をついていると、ゼロの隣に座っていたアイクが青ローブに向かって怒鳴り出した。
「なんだよお前! 国王様の前でいきなり笑い出すとか失礼にも程があるだろ!」
───怒鳴るというより、普通に正論。
あまりの正しさにエルグリットも含めたほとんどの人間が内心頷く中、その青ローブと来たら尚一層詭弁を重ねた。
「クハハッ! 君は全くもってノンノンだね。国王陛下にとっては君たちのような薄汚れた冒険者の方が余程迷惑に決まっているのさ! まぁ? 君のような半人前もいいところの子供と、僕のような素晴らしいジェントルメンを比べたら、それは赤ん坊でもどちらが正しく───そして、強いか。そんなの一目瞭然だろう?」
───ちなみにですが、その国王陛下は首を大きく横に振っています。
とまぁ、少しふざけてみたものの、流石にこれ以上は看過できないな。
まず第一に、仮にもゼロは僕の弟子と世間一般に公表されている。ゼロの顔に泥を塗るという行為は、それはイコール執行者という看板にも泥を塗る行為だ。収入源が減るし迷惑だ。
そして第二に、僕は早く会議を終わらせたいんだ。お前みたいな名前も知らない青ローブに取られていい時間などない。
そして第三に、僕の両隣の二人が今にも爆発しそうなので、それよりも先に僕が片付けてしまいたい。
そして第四───普通にうるさい。
瞬間、僕が席を立ち上がり、駆け出すと同時に僕の両隣の二名も駆け出し、数瞬後、立ち上がって演説していたその男はピタリと動きを止め、視線をしたへと落とした。
───三本の刃。
一つ、僕の持つアダマスの大鎌。
二つ、輝夜の持つ大鎌ソウルイーター。
三つ、ゼロの持つアダマスの大鎌レプリカ。
それぞれが三方向からその男の首へと添えられており、僕らのうち誰かひとりでも手前に手を引けば、その瞬間にやつの首は地に落ちる。
僕らの発する威圧感を察したのか、会議室内は重い静寂に包まれており、その男も焦ったのかさらに口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕が君たちに何をしたって言うんだ!? 何か君達の気に障ることでも───」
「うるさい」
「笑い方を被せるな」
「弟を馬鹿にするな」
そうして護衛の会議は、いい感じのムードで始まった。
久しぶりのゼロでした。
ちょーっと強くなって自信のついてきたゼロ。果たしてギンの実力を見てその自信が砕かれるのはいつでしょうか?




