閑話 混沌の過去
今回も閑話です!
テーマは大悪魔会議!
それは丁度学園にてギンが倒れたのとほぼ同時刻。
全能神たるゼウスでさえ知りえない、どの世界とも違った異世界にて神々の宿敵が揃い始めていた。
───一騎当千、万夫不当、天下無双。
そんな言葉さえ生温い。
一人居れば幾つもの大陸が消滅し、
二人居れば惑星が墜ち、
三人居れば銀河を掌握し、
四人いれば幾つもの世界に破滅を呼び込み、
───全員寄れば最強さえをも降しうる。
そんな、最高神すらも淘汰可能な実力を持つ彼ら彼女ら───大悪魔の会議が、今始まろうとしていた。
☆☆☆
黒塗りの巨城の一室にて。
大きな円卓を囲むかのようにⅠ~Ⅹまで、計十もの席が配置されており、その内の二つを除いた全ての席が埋まっていた。
「メフィスト。此度のメンバーはこれで全員か?」
Ⅱの席に座る大柄な男がそう口を開いた。
悪魔軍序列一位、憤怒の罪を司るサタンである。
「ふむ、アスタロトは毎度の事として、混沌様は遅れてくるようですよ? なんでも『主役は遅れて登場するのが世の常だ』との事です」
それに応えるは、Ⅲの席に座る黒髪赤目の青年。
彼の名は悪魔軍序列二位、メフィストフェレス。全てを見通すことが出来るあまり、毎度毎度、彼はこの会議にて伝言役を受け持っている。
「いやぁん、もうっ、カオスちゃんったらい・け・ずぅぅっ! んもうっ、私はあの冷たい目で睨まれたくてウズウズしてるのにぃっ!」
メフィストの声に反応したのは、Ⅳの席に座るバーテンダー。
ピンク色の髪に黒目のその男。彼の名はベルゼブブ。れっきとした変態ではあるが、暴食の罪を司る、序列三位の強者である。
「.......混沌は女、ベルは男。やっと普通の恋心を持った。私、感激」
誰も触れないところに容赦なく突っ込んでゆく、Ⅴの席に座る長髪の女性。
その青い髪は三メートル後方まで伸び、お付きのメイドが二名、その髪が地へと付かぬように手に持っている。
彼女の名はレヴィアタン。嫉妬の罪を司る序列四位の大悪魔である。
「ハッ、俺にとっちゃあんな男女、好きになる意味が分かんねぇがな?」
誰も望んじゃいないというのに口を開いたのは、Ⅵの席に座る白服に赤髪ロングのナルシスト。
彼の名はルシファー。傲慢すぎるあまり一度死神カネクラに殺された、傲慢の罪を司る序列五位の大悪魔だ。
「あはははっ! ルシファーったらどんだけ強気なんだよ。あの混沌相手に男女とか、それ本人に聞かれたら即消滅だよ? もしかしなくとも馬鹿なんじゃないの?」
ルシファーへとそう告げたのは、Ⅶの席に座る、前髪で目の隠れている緑髪の少年だ。
そんなチャラチャラとした彼の名はベルフェゴール。怠惰の罪を司る序列六位の大悪魔である。
「そうですな。それでは私めの方から混沌様へとお伝えしておきます。今まででお勤めご苦労様でした。ルシファー様」
ルシファーに止めの一撃を入れたのは、Ⅷの席に座る白髪オールバックの老年執事。
その薄く目を開いている彼の名はバアル。悪魔の中で最も古参な序列七位の大悪魔だ。
「キャハハハハ!! ルシファー終わったじゃん、チョーウケるんですけどー!」
そしてⅨの席に座るのは、茶髪ロングの下品な女性だった。
彼女の名はアスモデウス。大悪魔の中でも最弱と呼ばれる彼女ではあるが、それでもとある理由から序列は八位である。
そしてⅩの席───序列九位のアスタロトは、
『あぁ、きゃ、客が、お客さんが来なくて、もう一週間も、井戸水しか口に入れてな───ぐふっ』
と念話があったため、欠席である。大悪魔の風上にもおけないくたばり方であるが、それでも尚メフィストやサタンと並ぶ実力者である。
以上、全九柱から構成されている大悪魔。
そして、それらを束ねる者こそ───
瞬間、その部屋に圧倒的なまでの威圧感がのしかかった。
サタン、メフィストの二名のみ普段通りのままではあるが、ほかの大悪魔に関しては慣れているはずにもかかわらず、その圧倒的なまでの力量差に───本能の部分で恐怖した。
「クハハッ、ようやくお出ましですか」
「口を慎めメフィスト。今は我らが主の御前だぞ」
そんな会話を聞き流しながらも、彼らの視線は全てが入口の扉へと向いており───そして扉が開かれた。
「ふむ、大体は揃っている様だな」
現れたのは黒髪短髪の男性───否、女性。
黒い軍服姿。軍帽を目深に被り、その奥からは真紅色の瞳が彼らの方を覗いていた。
───彼女の名は混沌。
ゼウス曰く、有限にして無限、最高にして最悪、充実的にして何よりも虚無そのもの。形はなく性別もなく、命もない。
───絶対なる、“強欲”の象徴である。
☆☆☆
混沌───旧名を挙げるならば、時空神クロノス。
彼女の物語は過去に既に語られたものではあるし、覚えていない者に簡潔に説明するとしても『父親に好きな人を寝盗られた(自意識過剰)ため勝負を挑んだが惨敗し、終いには娘のゼウスの怒りを買って殺された』で済む簡単なものである。
だがしかし、その説明では様々な齟齬が生じてしまうため、混沌の詳細なプロフィールを公表しよう。
まず一つ。
混沌───時空神クロノスは、全世界でも有数な『レズ』である。
まずここからして『おい、大丈夫かラスボス。なんだかその変態性に好感得ちゃうだろうが』と言った感じだが、残念ながら本当のことである。
そして二つ。
時空神クロノスは物心ついた頃から自分が『女』であることを恨み、憎み、嫌悪した。
そのため周囲の者達には『自分は男だ』と言って聞かなかったし、父親であるウラノスも内心では『いや、性同一性障害でもないのに何言ってんのこの娘』とは思っていてもそこには触れなかった。
───なにせ、クロノスは真性のレズなのだから。
そうして彼女───もとい彼は男として生き始め、髪も短く切り、男としてこれまたレズな妻を娶った。
父親はマザコン、娘はレズと、なんだかとても倫理観から逸脱している親子ではあるが、まぁそこまでは良かったのだ。そこまでは。
だがしかし妻を娶ってしばらく経ってから、クロノスはその問題に考え至った。
───そう、女×女じゃ、子供ができないのだ、と。
これほどまでに自分の性別を恨んだことがあるだろうか。
とにかくクロノスは恨んだ。自分が女として生まれてきた運命を。自分に女としての人生を選択させた神を───と言ってもその神が自分なので、結局その恨みはどこへと向けるでもなく溜まっていった。
───が、ここでは父親であるウラノスから名案が飛び出したのだ。
「うーん、養子でも取ってみたら?」
それだ───ッッ!!
一も二もなくその案に飛びついたクロノスは、急遽神々の経営する孤児院へと出向いたのだった。
───そして彼は、その孤児院にて、三人の子供たちに目を奪われた。
黒髪の長男、青髪の長女、金髪の次女。
何故か三人まとめて捨てられていたと言われており、黒髪の長男だけは理由を知って居るそうなのだが、別に大したことではないと頑なに口を開くのを拒んだ。
が、そんなことはクロノスにとってはどうでもいいことであった。
───あまりにも大きな、彼女らの保有魔力。
それは神とはいえ子供である彼女らが保有するようなものではなく、クロノスは半ば確信した。この子らはいずれ自分や父すら超えるのではないか、と。
そうしてクロノスは三人を引き取り、世間へと『血が繋がっている隠し子だ』と表明した。
───そして時は流れ、浮気の相手がウラノスに恋していることを知ったクロノスは、ウラノス相手に無謀な喧嘩をふっかける訳だが、まぁそこら辺は省略ということでいいだろう。
問題は、ゼウスとクロノスの勝負に関してである。
ゼウスは当時、クロノスには実力的には遠く及ばない存在ではあったが、彼女は父親を滅するためだけに『神器』という『神すらも破壊する武器』を作り上げた。
そうして彼女はクロノスを打倒するのだが───
───時空神クロノスは、死ぬ直前にとある魔法を使用した。
それは自らの想いや魂、器さえをも素材として新たな『ナニカ』を作り上げ、自らの意思をソレに移し込むという究極の禁呪。
ただ唯一、彼女自身さえも予想だにしていなかったことといえば、世界の理不尽への恨み、憎しみ、嫌悪、その他諸々の悪感情を捧げたソレが、神王ウラノスさえをも凌駕する真の『最強』であったことくらいだろうか。
兎にも角にもそんないまいちシリアスにもなり切れないような理由で最強へと至ったクロノス───現混沌は、今現在。
大悪魔各員の視線を感じてこう告げる。
「おい、誰か私を女と言ったな?」
瞬間、全ての視線がとある一名へと向かい始め、その本人───つまるところのルシファーは皆の視線を感じて思わず冷や汗を流す。
「ちょ、ちょっと待てよお前ら! レヴィだってさっき混沌のこと女扱いしてたよな!?」
「.........は? 人に責任擦り付けるとか、サイテー」
───酷い大嘘であった。
だがしかし、皆がそれをわかっていて言及しないのは、単にルシファーがそれだけ嫌われているという証明でもあり。
「ルシファー、とりあえずお前はGUILTYだ」
その日、ルシファーは混沌の手によってお仕置きを受けたらしいのだが、大悪魔たちはすべからく、そのお仕置きの内容を墓まで持ってゆくことを決意した。
混沌には性別はありませんが、生前のクロノスの意思と記憶を引き継いでますので女性の格好をしています。




