第250話
シルVSスメラギさんです!
───道化の法。
お忘れの方がほとんどというか、未だに覚えている人がいれば正気を疑うのだが、これはかつて僕自身が『シル=ブラッド』という名の架空の人物を創造する際に作った、必殺技の総称である。
と言ってもその頃は大悪魔のてっぺんがその『サタン』だなんて思っていなかったわけで、今新しく設定し直せるのだとすれば───そうだな、『地獄の法』とかにでもするだろう。冥府にすると輝夜の『冥府の門』と被っちゃうしな。
にしてもおい、今とっさに考えたにしてはいいネーミングセンスしてるんじゃないか、僕。もうこの際だし改名しちゃおうかな。
───という訳で、道化の法改め、地獄の法。
まぁ、正直言うと道化の法時代も使用したのは『伸びるステッキ』だけだったので、せっかく考えたのになぁ、という感じだった。
そして本題。
僕が何を言いたいか、と言えば、ご察しの通り───
「地獄の法、第二条、『口から爆炎』!」
開始早々ちょっと前に考えついて無理やり第二条にくい込ませた『口から爆炎』という名のブレスをスメラギさんへと放つ───ちなみに今は夏場ということで、シルの仮面は上半分のものに変わっている。
閑話休題。
そうして『剣術部の訓練場で、いきなりの剣以外での攻撃』といういきなりの事態に固まったスメラギさんは、そのブレスを躱すすべもなく爆炎にのまれた。
───のならば、どれだけ簡単だっただろう?
「ハァァァッッ!!」
それらの爆炎を木剣をとんでもない速度で振って消火したスメラギさんは、完成された縮地を使ってこちらへと踏み込んでくる。
そして彼女は木刀を振りかぶり───僕へと向かって振り下ろした!
───のだが、
「法の三条、『効かぬ攻撃』ッ!」
僕の体に直撃した木剣は、あまりにも凶悪な硬度を誇る僕の身体に当たり、弾かれた。
なんだか第一~第三条まで聞いてみたが、本当にシルの技って常識が欠如してるよな。まぁ、枠に当てはまらない強さはあるのだが。
スメラギさんはあまりにも不可解なの状況に困惑したのか、後退してこちらの動きを窺ってくる。
まぁ本当は硬すぎる僕の体を攻撃して手が痺れているだけだろうが、それを知って見ぬ振りをするシル=ブラッドという人物は、案外鬼畜なようだ。
「法の第四条、『常軌を逸するポルターガイスト』!」
瞬間、僕の上空に何振りもの剣が創造され、空間支配を使用することによって次々と───どこぞのアーチャーよろしく飛ばしてゆく。
「なぁっ!?」
さすがにこれはスメラギさんの想像を超えることが出来たのか、彼女は戦闘中にも関わらず、珍しく目を見張って一瞬の硬直を見せた。
───そしてそれは、余裕が無い証拠でもある。
スメラギさんはまともに受ければ木剣が折れて試合終了となるのが分かっているのか、躱し、受け流し、そして少しずつ、少しずつ無理をしながらもこちらへと近付いてくる。
僕としてもここで決着が着くだろうと踏んでいたため少し肩透かしをくらった気分だが、ここまでたどり着いた褒賞だ。せめて徹底的なまでに───完膚なきまでに潰してやろう。
「法の第五条、『滑る床』!」
瞬間、スメラギさんの足元の床が凍り付き、彼女がその冷たさにゾッとした瞬間───影を操作して足を滑らせた。
「うなっ!?」
僕の予想通り頭からズルリといった彼女は顔面を思いっきり床へとぶつけたが、次の瞬間には気持ちを切り替え、攻めに転じようと顔を上げる。
───が、チェックメイトだ。
「法の第六条、『理不尽な暴力』」
僕は振りかぶった拳を彼女の顔面へと振り下ろし───その手前で、余裕を持って寸止めした。
拳による風圧が彼女の長い髪を揺らし、それと同時に床へと突き刺さっている剣や、足元の氷、そしてそれらによって生じた建物の傷がすべて消滅してゆく。
───それは、僕と彼女の勝負が決したことを表しており、
「勝者、シル=ブラッド!」
審判による判定と共に、部員達の歓声が響き渡った。
☆☆☆
そうして剣術部のお手伝いは無事終了し、僕とスメラギさんとの試合を見たおかげか、開始前と比べると随分と部員達の目にやる気が灯っているように思えた。
そんな部員達が帰り支度をしているのを見ていると、何やらスメラギさんが何をするでもなくソワソワしているのが視界に入った。
───ん? 何してるんだあの人?
そんな疑問が頭をよぎったが、僕はそういやマックスの代わりに戦った褒賞をまだ言っていないことに気がついた。
まぁ、スメラギさんからは好意を向けられまくっているが、僕は一度として彼女へと期待を持たせるような反応はしていない───意図的に。
彼女は『意図的に』という部分こそ知らないが、どちらにしろ『脈は無い』と思い込むだろうし、僕もそう思わせるためだけにそうしてきた。
何故、と聞かれるかもしれないがその答えは簡単である。
その理由として最たるものが、和の国の王様の血を直に継いでいる子───詰まるところの王子や王女は今のところスメラギ・オウカただ一人であり、もしも交際するとなれば僕は和の国の国王にでっち上げられかねない、という事だ。
まぁ、それを言えばエルグリットあたりも裏で画策してそうだが、その場合はルネアやらギルバートに任せて逃げればいい。
───が、和の国は違う。僕が逃げれば間違いなくスメラギさんは付いてくるし、そうなれば和の国の王族の血統が絶たれ、間違いなく国が滅びる。
だからこそ僕は彼女の好意には答えられない。
───のだが、
「し、ししし、シル殿! そ、そそ、それではッ! や、約束のギン様から、ど、どう思われているかを、お、お教え願いたいのでありまするが!」
───ここまでダイレクトに好意を向けられると、さすがに僕も困っちゃうんだよなぁ。
僕は顔を真っ赤にして緊張しているスメラギさんをみて内心ため息をつくと、僕は一つの覚悟を決めた。
「分かりました。ギン殿からの伝言もありますので、とりあえず場所を変えて話しましょうか」
☆☆☆
場所は代わり、剣術部の用具倉庫内。
スメラギさん曰く「ここが一番人目につかないですぞ」との事だったので、なんだか嫌な予感はしたがとにかく人が居ないことを確認した後、そこで色々と話し合うことに決めたのだった。
───だがしかし、開口一番で僕は驚愕することとなる。
「そ、そそそ、それでは、ほ、本題に入りましょうか! ギン様っ!」
───はい?
僕は一瞬の硬直の後、気がつけば扉を背にそんなことを言ってきたスメラギさんへと壁ドンしていた。
「おいオウカ、お前いつから気づいてた?」
そう、間違いなく今の感じは『言い間違え』や『ブラフ』といった感じではない。何かしらの確証を持っての言葉だった。
その証拠に、壁ドンされたスメラギさんは何故か頭から湯気が出ているが、全くと言っていいほどに驚いたような表情はしていない。これはブラフを張った奴の行動じゃないだろう。
そんなことを考えていると、真っ赤になったスメラギさんは口を開いた。
「た、たしかにギン様は普段とは戦闘方法も使う能力も完全に変化させていましたし、その証拠に気付かれるなんてことも無いでしょう......。まぁ、私を除けば、の話ですが」
その言葉を聞いて、僕はスメラギさんの職業を思い出した。
───ストーカー、しかも重度で末期だ。
まぁ、あれだ。それを考えればスメラギさん相手に隠し通すのは難しい事だったな......うん。
僕はため息をつくとシルの仮面を取り外し、それと同時に元の姿へと姿を戻す。
その際に壁ドンの姿勢をやめて少し距離をとったのだが、スメラギさんはガッカリしたような「あっ......」という声を出してきた。まぁ、無視したが。
僕は簡単に見破られていたという事実に肩を落としながらも、近くの跳び箱のようなものに腰を下ろす。
「それでスメラギさん。別に僕がスメラギさんをどう思ってるのかそのまま言ってもいいけど、シルの正体を見破った、ってことでグレードアップ。なんでも一つ、質問に答えてあげるよ」
───まぁ、大して聞かれることなんて変わらないとは思うけど。
そう言って僕はスメラギさんへと視線を向けると、彼女は考える素振りも見せずにこう言った。
「ギン様! 私のこと、どう思ってますか!?」
ほ、本当に質問の内容変わらなかったよ。ちょっとグレードアップとか言ってカッコつけちゃったからか、なんだか少し恥ずかしいな、おい。
僕は迷う素振りも見せなかったことに困惑し、それについて聞いてみることにした。
「お、おい。どうせなら『結婚するための条件』とか『どうやったら好感度を上げられるか』とか聞くべきじゃないのか?」
すると彼女ははてと首を傾げる、さも当たり前のようにこう告げる。
「私がギン様と結婚できる条件なぞ、決闘して勝つ、以外にあるはずが無いのです。ならばそれだけの力を得るためにも、それまで頑張り続けられる動力源、つまりはギン様の愛情を知っておくのが最善でありましょう?」
僕は思わず、目を見開いた。
決闘して───勝てば結婚する。
それは超前時代的な暴論だ。それはスメラギさんがかつて僕へと一方的に告げた約束事で、序列戦の際にも言われた言葉でもある。
だがしかし、そんなものは本来”約束”ですら無く、言うなれば一方的な言いがかりでしかない。
けれど、それを絶対的な自信を持って口にした彼女を見て、僕は───
気がつけば僕は肩を震わせて笑っており、スメラギさんは僕へと不思議そうな視線を向けていた。
「い、いや、悪い。まさかスメラギさんがここまで強い奴だとは思ってなくてな。うちのポンコツ駄女神でさえ一日は悩んだっていうのにさ」
そう、まさかここまでとは思っていなかった。
好きな相手にいきなり求婚し、その上その条件まで勝手に取り決め、嫌がらせにも近いストーカーを繰り返し、そして勝負を挑んで負けたにもかかわらず───未だに諦めを知らぬその強さ。
「もう一周まわって尊敬するよ、スメラギさん」
僕はそう言うと立ち上がり、きちんと彼女の瞳を見て口を開く。
「僕はスメラギさんの事が好きだよ。人としては尊敬してるし、女性としてはちょっと引くレベルだけど、マイナスを鑑みてもけっこう好きだ」
その言葉に目を剥き、瞳を潤ませるスメラギさんではあったが、僕の言葉は終わっちゃいない。
「だが、まだまだ結婚したいレベルの好感度はないんでな。もしかしたら決闘でもして負けちゃったら惚れるかもしれないがー、まさかスメラギさん程度の実力じゃあ無理だよなー?」
棒読みにも程がある。
前半に関しては本当だし、真ん中辺りに関しては結婚が強制的だし、最後に関しては無理難題だ。
だからこそニヤニヤと笑いながらそう言ってやると、スメラギさんもイラッと来たのだろう。
彼女はキッと、初めて僕のことを睨みつけると、傍に転がっていた木刀を手に持って倉庫から飛び出していった。
その時、ちらりと振り返って僕へと告げた言葉。
「その言葉、絶対に忘れないでいただきたい!」
満面の笑みを浮かべた彼女へと、僕は黙って、首を縦に振った。
どうでしたでしょうか?
スメラギさんハーレム入りしてほしいとの感想がいくつかあったのでちょっとこういう話を入れてみました。
次回! 今度はリリーです!




