第239話
なんか感想のシステム、『悪い点』が『気になる点』に変更されてますね! 流石は運営! 作者の心を守る配慮、ありがとうございます! 本気で助かります!
そんなこんなでさしてトラブルもなく、僕らは平穏無事に我が家へと戻ってくることが出来た。
───のだが、これはどういう事だろうか?
「らっしゃいらっしゃい! 今日は氷魔法の使い手によって運ばれてきた新鮮な魚があるぞ! その美味さったら世界一さ!」
「あ、そこの兄ちゃん、これ一本どうだい? 隣の美人さんに負けて小銅貨五枚でいいぜ?」
「おやおやそこのお方、なにやら死相が見えるぞい? ほれ、金貨三枚でその未来を回避する術を教えてしんぜよう」
僕の目の前には───街が広がっていた。
正確には街というのは正しくないのだろうが、僕らのクランホームを中心としてあちらこちらに露天が展開されており、気のせいかもしれないが冒険者ギルドらしき看板も見えている。あと商業ギルドも。
ついでに言えばあちこちに王国の騎士達の姿も見え、遠くの方には騎士達の詰所まで見えている。
まぁ、なんだ。もしかしてこれから『領地開拓編』にでも入るのかな? もしかしてある程度開拓が進んだ後かな? って感じの風景だ───いや、僕は領地なんていう面倒くさそうなの開発するつもりないけれど。
でも、たしかここら一帯って僕がエルグリットから買い上げたはずなんだがな。まぁ、恭香なら『土地は貸すから金よこせ、あと売上の九割な』とか言ってぼろ儲けしてるに違いな...
───瞬間、僕の額に超高速の鎖が直撃した。
「痛ッッた!? なんだ、敵襲か!?」
僕はあまりにも理不尽すぎる攻撃に思わずそう叫ぶが、直後に四方八方の地面を突き破って現れた無数の鎖によって雁字搦めに縛られた。
───そして聞こえてくる、懐かしい声。
「理不尽とか言ってるけど、その前にギンが言ってた私の台詞の方がよっぽど理不尽.....っていうか、普通にひどかったと思うけど?」
「ふむ......、それよりも思いっきり地面抉られてるのだが、そっちは分かってやったのか?」
「.........忘れてた」
そんな二人の話し声が聞こえ、僕は思わず頬が緩みかける。
というのも、緩まなかった理由はいきなり街中で鎖によって縛られた現状と、そしてそれを放置して「地面どうしよ」とか言ってるけど馬鹿が居るからである。
───まぁ、こちらとしては会うのが久しぶり過ぎてどう対応していいのか困ってたから丁度いいんだけど。
すると僕の意思に反してスルスルとひとりでに緩まってゆく鎖たち───ねぇ鎖さんたち? 別に縛られるのが好きってわけじゃないけど、もう少し縛ってくれててもよかったのですよ?
「はぁ......、顔を合わせるのが小っ恥ずかしいって、それ主人公のすることじゃないと思うよ?」
僕は後ろから聞こえてきた呆れたような声を聞いて、はっ、と鼻で笑ってやる。
そして、その後に続く言葉といえば。
「生憎と、僕は主人公なんてタイプとは程遠いチキンなんでね。あぁ、あと久しぶり、恭香、輝夜」
僕はあくまでも『ついで』という雰囲気を醸し出しながら、懐かしい二人との再会を果たした。
☆☆☆
「主様ぁぁぁぁっ! 愛しの白夜じゃよーーっっ!!」
クランホームに帰った直後。
僕を待っていたのは白夜からの抱擁という名のタックルだった。
───がしかし、今の僕にはそれは効かない。
「フッッッ!!」
僕は一瞬霊器の力を解除し、絶歩によって白夜の懐へと入り込む。
そして腕を掴み───勢いそのまま背負投げッッ!
「のッッ!? の、のじゃぁぁぁぁぁっっ!!!」
馬鹿みたいな叫び声をあげてどこかへと消えてゆく白夜。キランッ、という星の効果音が聞こえた気もするが、まぁ、前にも一度行方不明になったことがあったし大丈夫だろう。
僕は霊器の制限を元に戻してから『いい仕事したぜ』とばかりに額の汗を拭うと、何やら周囲から様々な視線が突き刺さっていることに気がついた。
ぐるりと周囲を見渡し、まず一番最初に目に付くのは中央に浮かび上がるクランマーク───かつては何も映ってなく壊れているのかと思っていたが、見たところどうにかなったらしい。
そしてその他に、武装をした人達と貴族らしい人達。
まぁ、どちらもあまり興味はないが、前者は入団希望者、後者は暁穂の料理を目当てに来た貴族達だろう。もしかしたら箔をつけるために入団したい貴族もいるかもしれないないが、そこはお引き取り願うとしよう。
と、そんなことを考えていると聞こえてくる話し声。
「お、おい見たか、今の攻防。俺達が何度も挑んで傷一つ付けられない白夜さんを一撃だぞ、一撃」
「え......、普通に目で負えなかったんだけど」
「間違いない......ッ! あの人、執行者さんだわ!」
「あれが執行者さんの本気......!? 下手すれば一人で一国の軍隊にも比肩するんじゃないか!?」
「ふむ、我が護衛役に相応しいとは思わんかね?」
「お言葉ですが、流石に彼は度を超えております。もう少し強さの程度を引き下げた方がいいかと」
───おいおい、言いたいこと好きに言ってくれちゃってるな? まぁ、面倒だから弁解しないけど。
それに何より、僕の強さが大したことないと思われてた方が入団希望者数も減るだろう。正直、金入りが少なくなるのは少し心配だが───主に食費───流石にこの人数は限度を超している。睡眠不要の完璧超人である恭香が居なければまずこの状態自体が成り立っていないだろう。
「いや、ちゃんと評価してくれてるのは嬉しいけど、一般人からすれば一国の軍隊もかなりの脅威だからね?」
───悪いが僕からすれば一国の軍隊なんて蟻の群れみたいなもんだからね。......まぁ、もし実際に生身の状態で蟻の群れと遭遇したら死ぬ気しかしないけど。
閑話休題。
僕はとりあえずそれらの視線を無視して歩き出す。
何故か歩を進めるたびに「おおおっ」と声が上がっているが、やはり、何故僕にこれだけ人気があるのか未だに疑問である。
───まぁ、あれだな。僕の予想が正しければもう少しすれば離れるだろうけどな。特に聖国絡みで容赦ない僕を見たら。
そんなことを考えながらも、僕はとりあえずメンバー専用の居間へと向かうことにした。
☆☆☆
その日の晩。
結果から言おう。
久しぶりあって小っ恥ずかしい? はぁ?
そんな感情みんなが集まった途端消えたよ馬鹿野郎。
「主様! なんで妾のハグを躱したのじゃっ! そのせいで興奮して大変じゃったのじゃぞ!」
「ふっ、天明は我に降る。暁の晩、混沌さえ遥かに凌駕する真の闇が、姿を現すだろう」
「輝夜、ちょっと何言ってるかわからないのである」
「マスター、膝枕してあげましょうか? もちろん顔は下で結構ですよ、履いてませんし」
「フッハッハー! 主殿よ、そろそろ私の魅力に気が付き、レオンに続き私の虜になっても良いのですぞ!?」
「やほー、親友くん! そろそろ私は親友くんって呼び方をやめて『恋人くん』って呼びたくなってきたんだけどっ、ど、どうかなっ!?」
───カオス。
もう混沌なんか比じゃないくらいに無秩序だ。
どれくらいかっていうと、帰還組が久しぶりに見たこの光景に思わず言葉を失ってしまうくらい、お前ら頭沸いてんじゃないか、ってくらいにはカオスと言っていいだろう。
......まぁ、それに懐かしさを覚えた僕も僕で立派なその一員なんだろうがな。
と、そんなことを考えていると、隣に座っていた恭香が「はっ」と気がついたような声を上げた。
「そう言えばさ、ギンってまだ私とお姉ちゃんと、デートしてないよね?」
その声に、静まり返る一同。
正確に言えば、約束した中でデートしてない奴、が恭香と暁穂なだけであって、約束してない面々───つまるところの、オリビア、アイギス、ネイル、伽月......は要らんとして、エロース。この四人ともデートはしていないのだ。
まぁ、何が言いたいかといえば「わざわざここでそんなこと言わなくてもいいんじゃないの?」ということである。
くるりと視線を周囲へと向けると、やはりというかなんというか、キラキラとした期待の眼差しを向けてくる数名の姿があり、中には一度デートしたにも関わらずそんな視線を向けてくる白夜の姿もあった───子供かお前は、自重しろ。
僕はそれらを見てため息をつくと、この場を乗り切るためになんとか言葉を捻り出した。
「まぁ、あれだ。恭香と暁穂に関しては近いうちにするとして、他の面々は何か僕の役に立ってくれれば約束してあげるよ。デートするにしても学園を去った後になるとは思──」
「「「「ギン様! お水をお持ちしました!」」」」
その声に目を見開くと、目の前には王様に献上するかの如くコップを差し出してくる奴らの姿が。
っていうか、何この娘たち。デートに対する執念がちょっとドン引きするレベルなんですけど。
───だがしかし、それによって気がつくこともある。
......あぁ、僕は『条件』を間違えたのか。
そう考え至るまで、そう時間はかからなかった。
いくら面倒だからと言ってあれほどハッキリしない条件を突きつければ、『数打ちゃ当たる』という考え方を持ち、そしてこうなるのは自明の理でもあるだろう。
だからこそ僕は少し考え直し、新たな条件を出すことにした。
「恭香、今のみんなのレベルってどれ位なんだ?」
「ん? たしかにお姉ちゃんがカンストしてて、他のみんなが九百手前、伽月に関してはもう少し低かったと思ってるけど」
暁穂がLv.999で、その他がおよそLv.850とする。
......まぁ、それくらいなら大丈夫かな? 本気を出してもなんとかなりそうにないが、まぁ、覚醒(笑)でもすれば何とかなりそうだ。
僕はそこまで考えると立ち上がり、皆の方を向いてこう言った。
「よし決めた。明日、僕と皆で決闘して、負けたら全員とデートしてやるよ」
☆☆☆
翌日。
クランホームである機動要塞アブソリュート。
その中に設置されている訓練場の中に、僕は立っていた。
前方数十メートルのところには、白銀の竜、最強のアンデット、巨大な白狼、そしてピンク色の駄女神が居り、全員がフルブースト状態の戦闘モードである。
ちなみにエロースに関しては霊具レベルリセッターを使用しており、その他の面々については実力が隔絶しすぎているため無謀だ、という結論に至り、次回以降に延期となった。
───まぁ、僕があの四人を相手にするって方がよほど無謀な気もするが。
それは向こう側も同じ考えなのだろう。
「ねぇー親友くんー? たしかにこれ付けた私ってばかなり弱いと思うけど、それでも今の親友くんと同格かそれより少し強いってくらいだよー?」
『ふむ、流石に主様とはいえ、今の妾たちを全員相手にするのは無謀だと思うのじゃ』
まぁ、確かに同感だ。
エロースに関してはゼウスと同格......程ではないにしても、まず間違いなくグレイスよりも格上。ならばせいぜい今の僕が一対一で勝てるかどうかの強さだろう。
白夜たちに関しては一対一ならばまだ勝ち目も見えるが、三人を相手にするのは流石に骨が折れる。勝ち目は薄いだろう。
しかも今回に関してはそれらをまとめて相手するという条件をつけた。
まぁ、普通に考えればまず勝てないのだろうが。
「なぁ、知ってるか?」
どこかの豆が言ってそうなセリフだが、今回は僕が目の前の強敵たちに対してそう言った。
「勇者っていうのは、ピンチの時に覚醒するし、魔王っていうのは、追い詰められれば真の姿になる」
まぁ、それらは物語の常識で、テンプレだ。
だがしかし、そのテンプレにもれっきとした証拠や理論があり、それは人間に対しても言えることで、それは僕とて例外ではない。
「生物っていうのは、最悪の状況下でのみ、進化し、覚醒し、生を求めるんだ」
目の前に広がるは最悪の状況。
この四人が相手ともなると今の僕では相手不足。さらに言えばうち三名は『手加減』なんて言葉とは無縁のポンコツである。
不老不死の僕とはいえ、この身体は言うなれば不死力が高いだけの偽物の不老不死。歳はとらないにしても、この試合で死ぬ可能性がないとも言いきれない。
───なればこそ、その可能性も出てくるというものだ。
僕は身体中の魔力回路へと魔力を流し込み、神腕を発動し、人間の器を影神のそれへと昇華させる。
「かかってこい下僕共。主の強さを見せてやる」
そうして僕は新たな扉へと一歩、踏み出した。
久しぶりの恭香と輝夜でした! なんだか輝夜の影が薄い気がします!
にしてもギンったら調子乗ってますねぇ。なに、勝てるわけないじゃないですか。馬鹿何じゃないの? と言って上げたい......んですが、もし勝っちゃったらどうしましょう?
次回! バトル風景は略させてもらいます。後々に思いっきり取り上げて描写しますので。




