第237話
学園祭最後です!
『あ、はい。四点、三点、五点、四点、五点、合計二十一点の最高記録ですね。はい。お疲れ様でした......っとはい! という訳でじゃんじゃん次の人行ってみましょう! 正直クイズ大会とミスコンだけでこんなに話数使うのもアレですし!』
なんだか急激にやる気を失った司会さんではあったが、暁穂がステージから微笑みながら退場した途端に元の元気を取り戻した───っておい、話数とか言っちゃダメなやつなんじゃないの? よく分かんないけど結構難しいんだと思うよ、そういうの。
そんなことを考えていると、司会さんは次の出場者の発表に移った。
『エントリーナンバー十一番! 先程も名前が出てきました問題児! 帝国の武闘会で実際に見る機会がありましたが、その実は大陸における最強種であるドラゴン! 最近一躍有名になってきました白夜さんです!』
瞬間───大歓声があがる。
ステージに上がってきた白夜は件の濡れた白いワンピースではなく、青いシャツに白いスカートという夏っぽい服を着ていたのだが、それだけでこの大歓声の理由にはなり得まい。
そう考えながらもあまりの大音量にビクッとしていると、隣のレオンがこれでもかって程のドヤ顔で色々話し出した。
───のだが。
「白夜はあの性癖こそ明らかにはなっていなかったのであるが、主殿が居なくなってからというものスレを彷徨い歩き続け、その末に多くの友達を得るに至ったのである。スレ上で。そうして顔も知らぬ友達を増やしに増やし、終いには...」
「......もう、もういいんだレオン。そんなことしてる白夜を想像するとなんだか涙が零れてくるから」
僕は一人で『ぬふふっ、これじゃ、妾はこれでいっぱい友達を作るのじゃ......』と呟きながらスマホをいじっている白夜を想像してしまい、思わず涙した───ごめん、ごめんよ白夜。よく分かんないけどとにかくごめんな。一人にして。
ふと気が付けばもう既に白夜への質問は終わっており、隣を見ればみんなが点数をボードに書き込んでいた。
───まぁ、先ほどの話を聞かなかったことにしても、僕が白夜につける点数など決まっているわけで。
『それでは順に、四点、四点、五点、五点、五点! なななんと! 合計で二十三点、暫定一位です! って言うかこの学園におけるミスコンテストの史上最高得点です!』
その点数が発表されたのと時を同じくして先程より大きな歓声が上がり、なるほど白夜が有名なのは本当なんだなと実感した。まぁ、僕と二人で《この難あり大会》に出た時もかなり注目浴びてたっぽいけど。
僕は苦笑してステージへと視線を向けると、ちょうどステージ上の白夜が僕らに手を振りながら奥へと引っ込んでゆくところであった。
その際に白夜は両手を使って投げキッスをしており、それを見た男子生徒たちから絶叫にも似た歓声が上がる。
───その時、白夜と思いっきり目が合ったのだが、まぁ、皆には言わないでおこうかと思う。
だけれど、その男子生徒たちの歓声は。
たぶんきっと───次で消え失せる。
『それでは次行きましょう! エントリーナンバー十二番!』
その司会さんの声を聞いて───
「「問題は次だな(であるな)」」
期せずして、僕と隣に座っているレオンの声が被った。
というのも、ここにいる面々と今まで出てきた面々を除いた執行機関のメンバーで、更にこの場に来ている奴といえば一人しか居らず、何よりも、あのポンコツこそがこのミスコンに一番最初に登録した全ての元凶なのだ。
『美しい! 可愛い! 愛らしい! 全ての愛情を注がれるためだけに生まれてきたと言わんばかりのその姿! 噂では街を歩けば老若男女を魅了し、少し微笑めば求婚の雨嵐! 私も執行者さんについては結構知っているつもりですが、彼女の情報はほとんどありませんでした! ですが、数少ない噂によるとその強さは素の執行者さんさえ遥かに凌駕するのだとか!?』
何一つとして間違ってはいないのだけれど......、なんだろう。この釈然としない気持ちは。
『という訳で、最後の出場者であられるエロースさんです!』
───果たして彼女を見た生徒達から、歓声が上がることは無かった。
☆☆☆
皆が皆彼女に見惚れて固まっている中、その沈黙を破れるとすればその姿を事前に知っていた者のみ。
だからこそ長々とこんな微妙な沈黙を前にしているわけにもいかない僕は、とりあえず元凶であるエロース目掛けてエアブレッドでも打ち込もうとして───
「え、えええ、エロース様ァァッ!? な、なんでこんな所にいるんだ!?」
「「「「......えっ?」」」」
僕ら固まっていなかった一同は、そのいきなり叫びだした声の主を見て、思わず目を丸くした。
編み込んだ紺色の髪に、腰にはひと振りの刀。
いかにもな主人公顔───って言うか主にその『俺事情知ってますぜ』的な雰囲気と刀持ってる時点で主人公っぽいその男。
まぁ、そこまで言えばだいたい分かるだろうが、僕と同じクラスのクラウドである。
僕は『なぜクラウドが......?』と思考が固まってしまったが、僕と同じようにポカーンとしていたエロースが言った言葉によって、ほとんど全てが解決した。
『......あれっ? もしかしてだけど、前に私がこの世界に転生させた子かなぁ?』
「あぁ! 十数年前にアンタに転生させてもらったんだ!」
───あっ、なるほど。
前々からクラウドはもしかしたら転生者なんじゃないか、とは思ってはいたが、恐らく二人の雰囲気から察するにそういう事なのだろう。
後ろから「むっ......、あの男、銀を差し置いてハーレム要員を奪うつもりか......?」と浦町の声が聞こえた気がしたが、正直こっちとしては望むところだ。エロース本人が望むならば、とっとと引き取ってくれた方が僕の気苦労が減るってものだ。
───まぁ、ちょっと寂しくはなるかもだけど。
そんなことを考えていると、クラウドの馬鹿はステージへと走り出した。その顔は長年探し続けた愛しの人に再会した女の様な表情を浮かべており、もしもこの世界が小説かなんかでクラウドが主人公だったとしたら、ここは感動するべきシーンなのだろう。
クラウドはステージへとたどり着き、エロースと向かい合う。
司会さんは何やら嫌な雰囲気を察したのか、満面の笑みでさささっとステージ脇へと移動し、生徒達はざわざわとざわめき出した。
『ふふっ、君ってば、私が見ない間に随分と逞しくなったんだねっ! 私ってば感動しちゃった』
『え、エロース様......』
司会さんがその場にこそっと放置したマイクが二人の声を拾い、熱っぽい二つの視線が交差する。
───久しぶりの再会。
彼は思った。もう今以外、言うべきタイミングはないだろう───俺の気持ちを伝えるなら、きっと今がふさわしい、と。
ゴクリと彼の喉仏が上下に動き、頬を汗が伝う。
拳をぎゅっと握りしめ、彼は───覚悟を決めた。
『あ、あのっ! エロース様っ!!』
もう、ここまで来たら引き返せない。
彼は下げていた顔を上げ、覚悟の決まった顔で───
『キャーーー!! 親友くーーんっ!! 私のこと見てるー? 私ってば絶対優勝するからその時はデートしてねーっ!』
───その顔が、絶望に歪んだ。
とまぁ、こんな感じでナレーションを付けてみたが、なかなかのものだったろうと思う。
僕のナレーション通りエロースはこちらに手を振ってきてるし、その横でボーッとしてるクラウドは今にも自殺しそうな勢いである。
まぁ? これできちんと告白できててエロースが頷けば手放したんだけどね? でも結局エロース振っちゃったし? まぁ、本当は嫌だけどエロースは手放せなくなっちゃったなー。あはっ、あははははっ!
「わざとらしいし、嬉しそうだな?」
「ハッハッハー、何のことだい浦町さん」
と、そんな受け答えをしているとステージ上の死に体が錆び付いたロボットのように動き出し、その虚ろな瞳を僕へと向けてきた。
───そして、その瞳に怒りの炎が灯った。
クラウドはステージ上に放置してあったマイクを拾い上げ、僕の方へとビシッと指を向け、大声で叫びだした。
『おいテメェ、ギン! エロース様をかけて俺と決闘しやがれ!!』
───なんだか、マックスみたいな口調だな。
僕はただ、面倒臭さの中にそんなことを思った。
☆☆☆
クラウドの決闘申し込みが響き、轟き、ハウリングがキィィンッ! と鳴る中、いつの間にかすぐ横まで来ていた司会さんが差し出してきたマイクを手に取り、僕はクラウドへと返答した。
『面倒臭いからやだ』
「「「『なぁっ!?』」」」
僕のあまりにもあっさりとした返答に、全ての生徒達から『えっ、決闘受けないの?』という視線が突き刺さる。
───まぁ、たしかに少し前の僕なら受けてたかもしれないし、その結果また何か覚醒して強くなってたのかもしれない。
たが、今の僕は違う。
『そもそもさぁ、何? 女をかけて決闘とか前時代的過ぎるだろ。前世でラノベの読みすぎだな。どんだけ主人公に憧れてんだよ、お前は』
背後から『お前、ついこの前まで決闘しまくってたよな。しかも女の子が関わってるやつ』という視線が幾つか突き刺さったが、まぁ気のせいだろう。
『悪いが僕はお前からの決闘は受け付けない。僕はエロースが望まない限り誰かに渡す気なんてないし、もしも決闘で負けそうになったなら全力で制限解除してぶちのめす』
案外えげつないこと言ってる気もするが、前みたいにグチグチ言っているよりかはマシだろう。事実だし。
───それに何より、エロースが欲しくて僕に決闘を挑むこと自体間違っているのだ。普通に本人に頼めよ馬鹿野郎。
僕はそこまで考えると、もう結構言っちゃってるが最後に一応、確認してみることにした。
『そいつは僕の大切な仲間だ。それでも決闘で奪い取りたいというのなら受けて立とう。勝てるつもりならかかってこい』
果たして返ってきたのは、大きな静寂と少しの啜り泣きであった。
☆☆☆
結局エロースは僕預りとなり、点数についても『もうお腹いっぱいです』と言った表情の審査員の馬鹿どものせいで『九点』という低得点になり、優勝は白夜となった。
エロースはもしかしたら悔しがってるかも、と思ったが、後々に合流した時には鼻歌交じりで嬉しそうな表情を浮かべていた───なにかいいことでもあったのだろうか?
そうして今現在、僕は一人、街の外まで四人を見送りに来ていた。
というのも実は学園祭が終わり『後夜祭』的なクラスの集まりがあるらしく、ほかの面々はそちらへと向かわせ、クラウドと少し会いにくい僕は一人抜け出し、四人を見送りに来たというわけである。
「気をつけて帰れよー? あぁ、あと夏休み帰るから少ししたらレオン、迎えに来てくれない?」
「了解したのである。前もって念話でもしてくれれば迎えに来るのであるぞ?」
そんなことをレオンと話していると、前の方を歩いていた三人が振り返った。
「......なんかアレじゃのぅ、主様はちょっとだけ変わったのぅ」
「ええ、前よりも本能に生きてる、って感じがします」
「うんっ! なんだかそのまま本能で襲いかかってほしい感じがするよっ!」
内二名、ちょっと何言ってんのかわかんない馬鹿が居たが、白夜が言ったことに関しては、まぁ、分からなくもない。
霊器で弱体化したし、仲間も頼るようにはなってきた。
スキルも増えたしオッドアイにもなった。
グダグダ考えずに自分を信じてみることにした。
何より、あれから確実に強くなった。
そこらを鑑みて少しニヤッと笑うと、僕は三人へと冗談めかして口を開いた。
「そうだな。彼女も出来たし、新しく白髪幼女と王族一匹にビッチ一匹とも知り合った。パッと見た感じ超ハーレム築いてる感じだもんな」
その言葉に少しピクッと反応する三人ではあったが、その顔に浮かぶのは久しぶりに見る安心した笑みであった。
「ほんっと、馬鹿野郎な主様じゃのぅ」
「ええ、そう言って私たちを焦らせ楽しんでるとは、なかなか肝が座ってきたご様子で」
二人の言葉にうんうんと頷くエロースと、お腹をさすりながら欠伸をするレオン。
───全く、相も変わらずまとまりの無いご様子で。
心を読んだ訳では無いだろう。
けれど四人は、僕の考えを読んだように僕の顔を見てニヤッと笑うと、いかにも『まとまってますよ』と言わんばかりにこう言った。
「「「「それじゃ、また今度」」」」
然して白夜を中心とした空間が歪み始め、数秒後にはその場から四人の姿は消えていた。
『テレポート』
わざわざそんな魔力の消費する魔法を使わなくったっていいだろうに。
そんなことを思いながら、僕はその場所に背を向けて歩き出す。
「さて、暇だしどっかで飯でも食べていくかな」
───なんだか、その歩みは軽やかだったように思えた。
クラウド......(泣)。相手が悪かったとしか言いようがありませんね。
ちなみにですが、なんだかんだ言ってますけどギンは結構エロースのこと気に入ってます。
という訳で次回! 久しぶりに閑話です!
魔国の姫、マイア・ロードと序列二位のチャラ男、シルバについてですね。まぁ、地味ーなキャラを取り上げてみた感じです。




