第232話
学園祭は危険人物(?)がいっぱい!
「おや、貴女はたしかマスターの同郷の方ではありませんか? いつも主がお世話になっております」
「あははは......、何だか呼び方が変な気もしたけど、えっと、はい。いつも銀にはお世話になっています......でいいのかな?」
「.........驚嘆に値するほど可愛いですね、どうです? マスターのハーレムにでも入りませんか?」
「はぁ......、暁穂さん? その方は男の人ですよ?」
「───ッッ!? す、すいませんっ、私、あまり他人のことは知らないもので......」
そんなアホ達の会話を僕は腕すら動かせないような状態で聞いていた───胴体をグルグルに縛られ、暁穂の背に吊るされて、聞いていた。
普通に身長差から僕の足が地面を擦れているのだが、残念ながら暁穂曰く「マスターを逃がすくらいならマスターの踵を犠牲にした方が懸命かと」との事だった───とんだエセ忠義だよ、ほんとに。
そんなことを考えていると、何やら超絶な美人メイドに縛られている僕の姿を怪訝な目で見てくる人たちが大勢いることに気がついた。って言っても当たり前か。
「おい暁穂、もう逃げないから解放してくれないか? さっきからいろんな人に変な注目を浴びてるんだけど」
「おや、恐らくは真実なのでしょうが、誠に残念ながら今の状態では片眼鏡でマスターを見ることはできません。よって確実性がないため却下します」
───この野郎っ!! 単純にこの状況を楽しんでるだけじゃないかっ!!
「はい次のかたーっ! あ、ネイル先輩に桃野先輩っ! ......えっと、どなたですか?」
すると、僕の耳にはよく知った声が聞こえてきた。
───あぁ、なるほど。向こうでは受付がスメラギさんだったが、こっちでは受付はリ...
「私はマスター......と言ってもわかりませんね。私はギン様のエロ奴隷です。私の予定では学園編が終われば今度こそ私の出ばn...」
「ちょっと待て貴様!? なに、なんですか!? お前って僕に恨みでもあるんですか!? お前それ以上ふざけた真似してみろよ!? クランから追い出して手足をグレイプニルで縛り上げてそこら辺放置するからな!?」
「さ、流石にそれは嫌ですね......」
僕の心からの説得......と言うか脅しに近いガチな叫びに暁穂もやっと僕の願いをわかってくれたのか、色々とアウトに近いがなんとか押し黙ってくれた。
───が、やっぱりアウトだったらしい。
「せんぱーい。エロ奴隷、って何のことですかー?」
僕の目の前には、キャピっとした笑顔の、全く目の笑っていないサキュバスコスの女の子が立っていた。
☆☆☆
昼過ぎ。
「........あれだな、王都のお化け屋敷とかガチのテケテケとか見ちゃってるからか、何だかお化けに耐性できてきたな」
「そうは見えないですけど......」
今現在、僕は食堂の机に顔を押し付けてくたばっていた。
くたばっていたという表現もおかしな話だが、兎にも角にも精神的にはくたばっているのも同然である。
なにせ、あの後僕は、「ちょっと、受付変わってください」と言い出したコスプレ姿のリリーにお化け屋敷の中にまで連れ込まれて説教をくらい、そしてお化けに意識が向けば「なんで私の服装に関して反応ないんですか!?」と怒られ、そして結局引きずられながらお化け屋敷を散策することとなった。
お化け屋敷はもちろんの事、理不尽すぎるリリーもかなり怖かったし、何よりも笑いながら目が笑ってないあの顔はほんとに怖かった───あぁ、女の子って怖い。
と、そんなことを考えていると、何やら背後の方で「おおおっ」と言った風の歓声が聞こえてきた。
何故か僕の頭の中には『食堂』『食べ物』『歓声』『たしか大食らい対決やってたっけ』という四つのパーツが浮かび上がり、それ+α、未だに教室に居座ってる白夜を考えると、それらが指し示す問題児は一人しか思い浮かばなかった。
「ふんっ、所詮は学生。自分にかなうような強者、いるはずもないのである」
......歓声の間を縫って僕の方迄届けられたその声を聞き、僕の考えは絶対的な確実性を入手した。
僕は嫌々ながらに振り返ると、そこには『あれっ、国家予算並みに貯蓄あるけど......大丈夫?』と聞きたくなるようなレベルで食器を積み上げているレオンと、その横でくたばっている双子の姿が見えた───あっ、そういやあの二人序列戦に出てたな。名前知らんけど。
「はぁ......お前、何やってんだよ」
「おおおっ! その声は主殿であるか!? 今は食事中故しばし待たれよである! 恐らくはあと五秒ほど───ッ!!」
この距離でも僕のその呟きに反応したレオンは、僕でも食べ切れるか分からないほどの丼ぶりを前にそう言うと、目にも止まらぬ速さで食べ始めた。
───否、口に入れて飲み干していると行ったほうが正しいかもしれないが、兎にも角にも、宣言通りにレオンはアレを五秒で完食しやがった。
「ふっ、私たちもマスターの居ないところで成長を遂げているのですよ」
とか、ドヤ顔で言ってくる変態がいたが、その成長とは変態として成長したということなのだろうと、僕は察した。
思い出すは教室にゼウスと共に放置してきた変態や、迷路の前に獣耳と共に放置してきたポンコツ。そして目の前のメイド最強であろう変態と、背後の”暴食の罪”背負ってるんじゃないかって程の変体。
そしてそれらを思い出した僕は、血反吐を吐くような思いでこう、切実に言葉を吐き出した。
「クソッ......、何故僕の従魔にはイロモノしか居ないんだ......ッッ!!」
オリビアのところへと向かった影の薄すぎるポンコツ天使と、そしてあの中二病のOLさんを除けば概ねイロモノと言っても過言ではない。まぁ、その二人もかなりあっち側なのだが。
せめてマックスやアイギス、ネイル並に普通のやつが仲間になってくれやしませんかね? 流石にこれ以上の変態が仲間になることはないとは思うが、それでもあと一人でも変態が加われば僕のキャパシティはオーバーしてしまうだろう。
「はぁ......、なんだか前にも一度、こんなこと考えた記憶があるな」
「ふむ、イロモノと呼ばれるのは遺憾であるが、それでも主殿がそういうのであれば自分たちはたしかにイロモノなのであろうな」
その声に横を見れば、いつの間にかこちらまで椅子を移動させて来たレオンが座っており、その手にはメロンソーダらしきものが握られていた───っておい。こっちの世界じゃ冷えてる飲み物も炭酸も、ましてやジュースなんて超高級食材なんだぞ? それだけで一体何万円したんだ。
すると先程から何やら僕の心でも読む練習をしているのか、暁穂が横から口を挟めてきた。
「お金に関しては心配ご無用ですよ、マスター。私とレオン、エロースに関してはクラン内で喫茶店を開いていますから、それだけでお小遣いも多いというものです」
「......なるほど、ちなみに暁穂は時給どれくらいなんだ?」
「時給二万円弱ですかね」
───絶句。
これほどまでに絶句という言葉が似合うシーンはないだろう。
......まぁ? 世界には一秒で六千円とか稼いじゃうとんでもない人がいるらしいし? まぁ、喫茶店で稼いでるレベルじゃないかとは思うが、それでもまぁ、あの料理ならば妥当だろう。
と、そんなことを考えていると、どこからか金の匂いを嗅ぎつけてきたのか、件の金づる職人がやって来た。ついでにスメラギさんも。
「時給二万円!? ちょ、暁穂さん、いえ、暁穂様! 是非私と結婚して私を養っ...」
「言っておきますけど、マスターの懐には数億円入ってますよ」
「せーんぱいっ! 結婚してあげますからお金くーださいっ!」
───このクソビッチが。下心丸出しじゃないか。
「残念ながら、僕はお前と結婚する予定はないんでな。っていうかお前、ディーンなんて公爵家の跡取りだぞ? そっちの方がよほど安定し...」
「えー? 公爵家って言っても程度がしれてるじゃないですかー。まぁ? ディーン先輩の事は大好きですけど、それでもお金に越したことはありませんよー」
「......ほんとお前、欲望に忠実だよな」
「私は金などいらぬのでギン様と結婚し...」
「却下」
とまぁ、そんなこんなで人も集まってきたところで、僕らの学園祭一日目も残すところ、あと僅かである。
☆☆☆
その後しばらくして、アイツらがいきなり「もう一度お化け屋敷行きたい」とか言ってきたので、僕はあいつらを送り出し、一人そこらの出店を回っていた。
───のだが。
「.........あっ」
「.........おや?」
僕の前方には、僕と瓜二つと男性がベンチに座っており、僕はその顔というか、ソイツをよく知っていた。
───っていうか、メフィストがたこ焼きを食っていた。
まぁ、その為やることと言えば一つしかなく、
「死ねッ!『正義の鉄拳』!!」
「うわっと!? い、いきなり出会い頭に必殺技とは私も嫌われたものですね......」
メフィストはあろう事か僕の結構マジな必殺技を軽々と躱し、さも傷ついたかのごとく肩をがっくりと落とした。まぁ、僕にそんな演技通じるはずもないが。
「こちとら変な予言にソワソワしたり、お前の同僚の部下らしき豚に殺されかけたりと色々イラッと来てんだよ。だから大人しく殺されろクソ悪魔」
「あぁ、アスモデウスですか。ついこの間手下が殺されたとかどうとか言ってましたが、殺ったのは貴方でしたか。興味なかったので調べてませんでしたが......、クフフッ、これはなかなかどうして面白そうなことになりそうですね」
面白そうって......、簡単に言ってくれるな、コイツ。仮にも相手は大悪魔だぞ、大悪魔。
「いえ、大悪魔と言ってもアスモデウスは序列八位。七つの大罪を背負っているためそれなりに強いですが彼女本人の強さでいえば暴走したムルムルよりも一回り強い程度ですよ。なにせ、大悪魔の中で一番の雑魚って噂されてますからねぇ」
僕はその言葉を聞いて「あ、そうなの?」っていう感想が浮かんだが、それとは別にもう一つ。少し疑問に思ったことがあった。
「ん? でも大悪魔の序列九位、アスタロト、って奴が下にいるだろ? 序列って強さの順ならソイツの方が弱いんじゃないのか?」
それは、単純な疑問であった。
けれども僕の言葉を聞いたメフィストは、珍しくも顔を少し歪め、こう話し始めた。
「アスタロトですか......。あのペン───いえ、彼女は完全なイレギュラーでして、実力だけならば私と互角なのですが、地球に潜入捜査した際に完全な平和主義者になってしまいましてね。まぁ、いうなれば悪魔軍とは名ばかりの中立派ですよ。その為序列も低いのですが」
「........あぁ、そう」
もう、どこからかツッコメばいいかも分からないが、兎にも角にも納得しておこう。掲示板じゃ父さんが「パン屋で働いてた」とか言ってたもんな。うん、危険性は無いとしておこう。
僕はそう考えて一つ安堵にも似た息を吐くと、先程までの空気を忘れて真面目な表情を顔に貼り付けた。
「んで? お前が何の用もなしに来たわけじゃないだろう? まさかたこ焼きを食うためだけに化物共がいるこの学園に来たわけじゃあるまいし」
するとメフィストはニヤリと笑みを浮かべ、「ご明察」と僕へと告げた。
先程までは僕と瓜二つの人物がいると寄ってきていた野次馬たちも僕らの顔───いや、僕らの間にピリピリとした空気に当てられて逃げ出し、辺りを不気味な静寂が包み始めた。
───して、メフィスト僕へと告げたその内容は、僕の予想を上回るものであり。
「そうですね、簡潔に言いましょう。ギン殿、貴方には悪魔側へと来て欲しいのです」
───つまりは、ただの勧誘ですよ。
悪びれもせずに、彼はそう口にした。
メフィスト登場! ちょくちょく出てきますが、もしや彼は暇なんですかね?
ちなみにですが、あのメフィストが『同格』と説明したアスタロトは、この物語史上最大で最凶の『化物』です。そのうち登場するのでお楽しみに。
という訳で次回! 前半は久しぶりにシリアスムードです! とうとうメフィストの『主』が明らかに!?




