第222話
その後も試合は続き、45人が22人+αの計23人に分かれたところで、司会席からそれぞれの説明が入ることとなった───ちなみにその+αというのはその中で一番序列が高い者となるらしく、今回でいえばギルバートがシード権を有していた。
『それでは人数も絞れてきたことですし! そろそろ勝ち残っているメンバーの紹介に入らせてもらおうと思います!』
そう告げた司会さんの眼下には、ここまで勝ち抜いてきた総勢二十三名の、強者たち。
『まずはこちら! ニアーズ以外の生徒からの紹介です!』
そう言って最初にスポットライトが当てられたのは、どこかで見覚えのある赤髪の獣人族や、前に決闘で僕へと挑んできたこともあった生徒達である。
『順番に、新四年生で序列戦をここまで勝ち抜いてきたロブ選手、我こそは執行者ファンクラブ会員No.103、ノンベ選手、そしていつも仲良し双子の姉妹、ラズとリズの計四名だァァ!!』
───あぁ、今思い出した。
あの獣人族は入試の時にハッチャケてた僕のファンで、二番目の男子生徒は前に『僕のこと覚えてますか』と部室の前で声高々に叫んだ奴、そして最後の姉妹はよく食堂で超大盛りの飯を食ってる奴らだ。
......にしてもコイツら、結構強かったんだな。
『その他に、学園イケメンランキング第一位のディーン選手のお友達からも、白髪褐色の容姿で変に目立っているスケベ男、アストランド選手と、腐っていることで言えば他の追随を許さない! アンナ選手がそれぞれ出場を果たしています!』
───チッ、生き残りやがったか害虫め。
『続きましてはこちら! 黒髪の時代からの出場者です!』
その言葉と同時にスポットライトが当てられたのは、僕も見覚えのある黒髪の生徒達(うち半数が黒髪ではないが)。
『頭脳明晰、容姿端麗、しかも胸には凶器を隠さずに持っている事でおなじみ、マキコ選手!』
───一応言っておくが、真紀子って鳳凰院の下の名前な。
『これぞ和風! ニンジャスタイルを貫き通すくの一! 異世界からやってきたニンジャこと、クラモチ選手!』
───下の名前、被ってるから上の名前で登録したんでしょうかね。
『角刈り! 見た目は怖く心は優しい! その大きさと強さでおなじみ、みんなの兄貴、コジマ選手! 炎と障壁に関してはプロフェッショナル! 熱き魔法使い、マトバ選手!』
───コイツら二人に関しては特に語ることはあるまい。特に的場な。
『続いてはこちら! その愛くるしい姿で老若男女全てを魅了し、虜とする最高に可愛らしい男の娘! 見た目で騙されてはいけません、モモノ選手!!』
そちらへと視線を向けると、緊張しているのかぷるぷると震えながらも笑顔を振りまいている天使がいた───なにあの子、可愛すぎて思わず応援したくなっちゃう。
と、そんなことを考えていると、ようやく僕の隣にいるお仲間さんたちの紹介がやってきた。
『続きまして! 最近の"全クラン人気度ランキング"集計で第一位を獲得した"執行機関"から、このお二人です!』
その言葉と同時にオリビアとマックスに照明が当たる───のはいいのだが、いや、さっきから何そのランキング。イケメンランキングとか人気ランキングとか。僕の紹介の時に嫌な予感しかしないんですけど。
『その可愛らしい容姿に騙されたが最後! その両拳から繰り出される一撃はかの執行者さえ気絶させ、SSSランクの魔物すらも撃墜する! エルメス王国の第二王女! オリビア・フォン・エルメス選手だ!!』
それと同時に、男性諸君からの絶大な歓声が響きたわる───のはいいけど、おい、司会さん。なんでそんなプライベートなこと知ってんだ。
『四月に入ってきたばかりにも関わらず、もう既に学園イケメンランキング第4位の座を獲得しているの期待の新人! ありとあらゆる魔剣を使いこなすマックス選手だ!!』
それと同時に、女性諸君からの絶大な歓声が響き渡る───いや、もうこれについては重々承知していたことだ。今更マックスがイケメンだからといって八つ当たりするほど幼くもない。
......まぁ、よく『顔面崩壊しねぇかな、マックスだけ』とは思っているが、そこら辺について触れるつもりは毛頭ない。
───とまぁ、そこまでで計十三名。
マックスの説明が終わった途端、周囲の空気が一転してガラリと変わり、どこか緊張したようなピリリとした空気が漂い始める。
バンッ、と会場の明かりが全て消え、ステージ上を照らすスポットライトだけが明るい灯火を放っていた。
『という訳で、いよいよこの学園のトップたち! つまりはニアーズ十名の紹介です!』
再びバンッと照明が明るく照らしている位置が移される。
『入試初日から学園長に楯突いたその問題的な精神面はあれど、出身地和の国で鍛えたその腕前は一級品! 序列第十位、クラウド選手!』
照明は客席に座っている生徒達の歓声すら待たず、許さず、次の者へと照先を移した。
『新四年生の入試の次席! エルメス王国の公爵様の一人息子で、容姿端麗ながら非常な努力家としても有名! 堂々学園イケメンランキング第一位にて、序列第九位、ディーン・カリバー選手!』
バンッ、と再び照先が入れ替わる。
───まぁ、もちろん流れでいえばその先は僕なわけで。
『全年齢対象、婿に欲しいランキング第一位、師匠にしたいランキング第一位、仲間にして欲しいランキング第一位、戦闘服のファッションセンスランキング第一位、かっこよさランキング第一位! 有名人ランキング第一位! 捕まったのか捕まってないのか気になるランキング第一位ッッ! その他諸々ありとあらゆるランキングを総なめにしている人! 序列第八位! 執行者、ギン=クラッシュベル選手ッ!!』
その説明と何故か僕の所で途切れた静寂を聞いて、僕は肩をがっくりと落とした。
いや、悪い予感はしてたんですよ。なんかいい感じで進んできたから何も起こらずに済むかなぁ、と思ったこともありましたが......、せめて歓声はやめて欲しかっなぁ。
───けれども、次の序列七位の説明が始まると、それらの歓声は皆すべからく、なりを潜めた。
『こ、コホン、容姿と中身のギャップでお馴染み! 大陸一の最強国、魔国ヘルズヘイムの王族ということでも有名です! 魔王の娘! 序列第七位、マイア・ロード選手だ!!』
バンッ、と照らされた先にいたのは、金髪紫目の魔族の少女だった。なるほど、魔王の娘ならある意味納得だ。
そうして勢いを取り戻した静寂は会場内を占領し、スポットライトも次の者へと光を当てる。
『学園美人ランキング、堂々第一位! その美しさと隠し持った可愛らしさ! それらに惹かれてファンクラブができるほど! エルメス王国の第一王女! 序列第六位、ルネア・フォン・エルメス選手!!』
そうして光が当てられたのは、僕のよく知る未来の義姉さん、ルネアであった。まぁ、オリビアとギルバートがあれだけ強くてルネアだけが弱いとも考え辛い。まぁ、きっと彼女なりに努力したのだろうが。
『拳術部の部長にして、近接戦闘では国王様さえ舌を巻くといわれている天才! その徹底的な近接戦闘特化の戦闘には誰もが息を呑む! 序列第五位、ロック選手!!』
赤い短髪に熊の耳、それに加えてあの容姿と、それだけ被れば嫌でもロブの親族だということには気づいてしまう。だが、恐らくはロブとは格が違う。それほどまでの威圧感が感じ取れた。
『風紀委員会の委員長にして剣術部の部長! しかも和の国のお姫様! 凛としたその姿は男子だけではなく女子すら魅了する! 最近執行者さんにストーカー被害を出されたと噂されていますが、そこの所はどうなのでしょう!? 序列第四位、スメラギ・オウカ選手!!』
───最早、何も言うまい。
『生徒会副会長! 六年生たちを抑え、五年生という若さでここまでくい込む実力は折り紙つき! 生まれつき耳と目が効かないというハンデを背負いながらここまで到達した彼女! 最早応援せずにはいられません! 序列第三位、イリア・ストローク選手!!』
生徒会副会長で、しかも序列三位か。
耳と目が効かない上でどうやって戦っているのかは疑問だが......、確かに応援したくなる気持ちも分かる。かわいいし、大きいし。
『学園イケメンランキング第二位! 本人は不満らしいですがそれでもその容姿はありとあらゆる女子を虜にしてゆく! 執行者さんに恨みを抱いていると噂されてますが、その所はどうなのでしょう!? 序列第二位、ソルバ選手!!』
───あっ、あの時女子風呂覗こうと紛れてきたクソイケメンじゃないか。あの茶髪と眼鏡は忘れもしない。今まで忘れてたけど。
『そして最後にこの方! 入学してからというもの負け知らず! 実の父親であられる国王エルグリット様でさえ手に負えないと放置し、そしてこの学園に来てその実力をさらに開花させてしまいました! 序列第一位! ギルバート・フォン・エルメス選手!!』
と、最後にギルバートへとスポットライトが当たり、そしてやっと会場内へと明かりが戻ってくる。
『以上、総勢二十三名! 私は黒髪の時代の方々や執行者さんたちの戦いは帝国で見てきていますので、今回の見どころはその面々が新しくニアーズに食い込むか否か、という事だと思います! 学園長さんはどうお考えでしょうか?』
『そうさのぅ、黒髪の時代の面々は見たところ正面切って戦える者が少ないように思えるし、まだ完全に戦闘慣れしてないようにも思う。やはり期待すべきは執行機関の二人じゃろうのぅ。エルメスの王族に魔剣使いとは、これはもしかするともしかするかも知れんぞよ?』
『なるほど! それでは皆さんも誰が勝つか予想しながら見守りましょう! それと、試合開始は三十分後からです! 休憩、トイレ、精神統一、筋トレする、好きなことしてお過ごしください!』
とまぁ、そんなこんなで一応の説明も終わり、僕らは試合前最後の休憩へと突入した。
───はてさて、誰が負けて誰が生き延びるか。
僕はとりあえず、ニアーズたちの霊器について調べることから始めてみた。
☆☆☆
三十分が経過し、試合が開始した。
第一試合は残酷なことに件の双子の姉妹の戦いであった。何故か動きも威力もすべて同じだったので、最終的には二人共カウンターパンチで沈んでいった。つまりは引き分けだ。
第二試合はスメラギさんVS名も知らぬ僕のファン。まぁ、スメラギさんの力の片鱗でも見られたらよかったのだが、彼女も僕との戦いを考えて全く力を見せてこなかった。それでも楽々勝ったのだから笑えない。
───そうして第三試合目。
どうやら敗退した者達の詳細な順位決めはもう一つの会場で行うらしく、今現在僕は客席を除いた訓練場ををまるまる使ったステージに立っていた。
そして、僕の前方に立っているあの生徒も。
『第三試合! 執行者ギン=クラッシュベルVSアストランド! アストランド選手は執行者さんの恨みを持ってるらしいですね! 執行者恨み買いすぎじゃないですか?』
そう、僕の前に立っているのは、件の白髪褐色である。あと司会さん、僕が恨みを買ってるのって大体女風呂を覗こうとした奴らからだけだからな?
と、そんなことを考えていると、その件の白髪褐色が肩を震わせて笑い始めたのが見えた。
「クックック、フッハッハッハッハ! 待ちかねた! 待ちかねたぞ執行者ァ! 俺は貴様が裏切ったせいで全てを失ったァ! 人徳も、夢も希望もッ、そしてなにより至るべき理想郷をッッ!! 俺は決してお前を許さねェッッ!!」
───気のせいだろうか、会場中の女性達の視線が、グレイスの氷魔法よりもさらに冷たくなった気がする。
それに、良くもまぁコイツは恐れもせずに僕に突っかかってくるな。普通はさっきの黒蛇見れば大体どんな奴でも恐れると思うんだけど。
僕はそう考えてから、小さくため息をついた、
「具現化の消耗の激しさを察した能ある鷹か、それともただの馬鹿か」
そう小さく呟くと、僕はアイテムボックスからブラッティウェポンを取り出し、握り込む。
『それではっ! 試合開始です!!』
───さぁ、見極めさせてもらおうか、白髪褐色。
次の対戦相手は白髪褐色(名前は不明)!
馬鹿か強者か、果たして彼はどちらでしょう?
......まぁ、メザマよりは善戦してくれる事を祈っています。




