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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第218話

今回は長々と引っ張り続けてきたあの人の過去についてです。

五月の下旬。


季節は春から徐々に夏へと移り変わり始めていた。


最早カーディガンをブレザーの中に着込んでいるものは見当たらず、僕も常闇のローブを制服の腰に巻いて学園生活を送っていた。



───そしてこれは、グレイスとの訓練から数日経った日の放課後のことだ。



「はぁ......」



アイギスの悲痛さが滲み出ているため息が、静寂を占める部室に木霊していた。


それを不思議そうな顔で見つめる浦町と、件の伏線が生きていてるんじゃないかと少し嫌な予感を覚えている僕。


......よし、ここは少しカマをかけてみよう。



「そう言えば、この学園に一人だけ聖こ...」



ガタンッ!!



僕がカマをかけ終わる前に挙動不審になったアイギス。何故か目の前の長机に頭を押し付けている。何してんだコイツ。


───だがしかし、これで僕の嫌な予感が的中したことが分かった。



「おい、アイギス。お前、クラスメイトの"メザマ"って奴と何かあったか? いや、間違いなく何かあったな?」



瞬間、ガバッと顔を上げ、なぜ知っているとばかりに目を見開くアイギス───はぁ、やはりそうだったか。


僕は懐からスマホを取り出し、グレイスからその名を聞いて自分なりに調べた、その結果を話し始めた。



「高等部四年二組、男子生徒、メザマ。学園唯一のミラージュ聖国出身の人物で人一倍正義感が強い。だが、その正義感の強さが空回りしてかつてのアーマー君状態へと陥っており、数々の問題を起こして留年の連続。本当はもう卒業しているはずが、今現在四年生に留まっているのもその為だ」



───そして何より、このメザマという男子生徒の面倒くさいところが、ニアーズでこそないものの、実力でいえばかなりトップクラスだということだ。


僕が調べたところによると、少なくともディーンやクラウドよりは強く、もしかしたら僕と互角かもしれない、という噂まであった事だ。


しかも、その噂が結構ニアーズ───主にスメラギさんの中でも有力らしく、彼女曰く「私とあの人が戦ったならば余裕ですが......、弱体化したギン様では少々荷が重いかと」との事だった。もちろん『影神』を使わない状態で、だ。



「とまぁ、本来ならば前回の序列戦では七位の成績なのだが、残念ながら学園長であるグレイスが認めておらず、その結果、彼本人の優れた容姿も相まって『優れた欠陥品』何ていう二つ名まで付けられている。そんな感じであってるだろ?」



僕がそんな感じで情報を伝え終わると、なにか諦めた様子のアイギスが「流石です」と一言呟いて項垂れた。


その様子を見て思わず顔を見合わせる僕と浦町。


ありうるとしたら『告白された』という事だが、僕と浦町はもちろん、同じクラスであるオリビアからも『アイギスが誰かから好意を向けられている』という話は聞かないし、学園内で噂にすらなっていないと来た。


ならば、恐らくは今日の昼間にその男と何かがあり、そして未だ噂にすらなっていないことをアイギスは悩んでいるのだろう、と推測できる。




もし、そうでないのならば────




僕らの視線の先にいるアイギスはバッと顔を上げ、覚悟の決まった瞳で僕ら二人へと視線を向けた。



───然して、アイギスが話し始めたのは僕が想定していた後者の内容で。





「メザマ......は、私の故郷(・・)で幼馴染みだった人です」




どうやら、かなり面倒な柵を抱え込んでいるらしい。




☆☆☆




昔々、ある宗教国のある集落に、一人の女の子が生まれ落ちた。


その女の子は両親とは似ても似つかぬような赤髪をしており、赤ん坊ながらに容姿も優れ、少し疑問に思った両親ではあったが、二人は一生懸命にその娘を育てようと決心した。



───が、その決心が長く続くことは、無かった。



始まりはその女の子が生まれてから、少し経ったある日のことだ。


両親が畑仕事から帰ってきて、今日も今日とて我が愛しい娘に顔を見せてこようと娘の居る部屋へと訪れた時。その赤ん坊は初めて目をぱっちりと開いていた。


だが、普通の両親ならば喜ぶであろうその行為を見て、彼女の両親は固まった───否、正確にはその瞳を見て、だ。



───そこから覗くのは、魔族と同じく紫色の瞳。



それを見た両親はその紫色の瞳に困惑し───終いには、その父親がこんなことを言い出した。



『ま、まさか! お前、魔族の子を孕んだんじゃないだろうな!?』



その対象は、もちろんその父親本人の、妻である。


妻はその言葉に必死に弁解し、誤解だと何度も解いて聞かせた。



───だがしかし、結局はその件は大事となり、その娘の母親は自らの父親の手によって殺されたらしい。



けれども、そこで問題になるのがその残された娘だ。


魔族───ではないものの、魔族と勘違いされているその娘は、本来であれば静粛対象、つまりは殺さねばならないのだ。



だがしかし、全員が全員、そこまでひねくれた正義感を持っている訳では無い。



そのためその娘の扱いは『この集落で秘密裏に育て、いずれはこの魔族の子を神に仕えるシスターとする』ということに決定した。


恐らくは、その小さな集落の評判をあげるための作戦だったのだろう。



───だが、その小さな集落の中にも、一人だけ歪んだ正義感を持つ者もいたのだ。



それから数年経ち、その娘は、突如集落から追い出されることとなった。



魔族の娘ということで邪険にされた時期もあったが、集落の皆もその娘のことを理解し始め、父親とは上手くいってなかったようだが、それ以外の生活が軌道に乗り始めた頃のことだった。


もちろん彼女は疑問を呈した。なぜ自分がここを追い出されなければならないのか、と。



だが、その疑問に返答をしたのは、仲良くしていたはずの自らの幼なじみであった。



『君は魔族なんだから、きちんと罰を受けなきゃダメだよ。君は生まれてくるべきじゃなかった。だから、きちんと罪を贖って、もう一度ここに戻っておいで。その時は僕が、君と結婚してあげるからさ』



彼女は、その言葉を聞いて思わず吐き気を催した。



───一体、この男の子は何を言っているのだ、と。



結局、彼女は間違っていると反論したが、それは神に対する冒涜行為と見なされ、集落の者達から罰という名の暴力を受け、その上で無一文の状態で、ぼろ布だけ着せられて追い出されたらしい。



───魔物が跋扈する、外の世界に。



もちろん魔族でもないただの一般人───それも幼い女の子が外の世界で生きていけるはずもなく、運悪く遭遇したゴブリンに殺されそうになっていたところを、まぁ、僕もよく知るアイツが通りがかったのだとか。




『あ? 子供がこんなところで何してんだよ?』




そう言ってそのゴブリンを殴り倒したのが、今のエルメス王国の国王であるエルグリットだった。



とまぁ、そんなこんなで、彼女はまだ冒険者をやっていた頃のエルグリットに拾われ、騎士としての教育を受け、そして今に至る。




そこまで話し終えて、アイギス寂しげに顔を伏せてこう呟いた。





「噂じゃ、魔物の群れに襲われて、みんな死んじゃったって聞いたんですけどねぇ......。どうやら、私を追い出した張本人だけは、まだ生きていたみたいです」




僕はその話を聞いて、なんと答えれば良いか悩み、戸惑い───結局は、珍しく荒ぶっている常闇(カーディガン)を、ギュッと握りしめた。




☆☆☆




その重すぎる昔話を終え、忌み子ってそういう事か、と納得───は出来ていないが、知った今現在、僕らはアイギスが置かれている立場について確認することとなった。



───のだが。それが想像以上に呆れ果てる内容だった。




「私は入学した時には気付いていたのでなるべく近寄らないようにしてたんです。メザマは性格がクソなので最初期は私のこともすっかり忘れていたみたいですが、流石に髪の色と目の色は誤魔化しが効かず、今朝気づかれ、求婚されました」



Why?


そう聞き返したくなるようなぶっ飛んだ説明だ。



「ち、ちょっと待てアイギス。君はそのクソッタレのせいで集落を追い出されたのだろう? ならばそのクソッタレはアイギスに何故求婚する? 矛盾しているにも程があるぞ」



よく聞いた! よく聞いてくれた浦町! 僕にはちょっと頭が痛くて聞けそうになかった話をよく聞いてくれた!


───って言うかぶっちゃけると、かつてのアーマー君や、デスノートに書くならば真っ先に名前の上がる水井幸之助を連想してしまうから、なるべく口を開きたくなかったのだ。


だからこそ僕もそう考えて少し気が楽になったのだが、



「......いや、分かるわけないじゃないですか」


「「ですよねー......」」



思わず僕も浦町も、その返答には敬語で返してしまった───にしても浦町が敬語とは、URだな。


僕は少しどころかかなり頭が痛くなってきたのを感じながらも、こめかみに手を添えて話のまとめに入らせてもらった。



「つまりはこういう事だろ。アイギスは昔の男に告られて正直ウザったらしい。メザマ側としては結婚を約束した相手か帰ってきて舞い上がってる。そして僕はアイギスを渡すつもりは無い。つまりはまたリリーの時みたいに僕に決闘で決着つけろと、そういうわけだろ?」


「......ギン? 最後の方はとても嬉しいのですが、最初の半分は本当に怒りますよ? 昔の男とかほんとやめて下さい」



僕はまぁまぁ、とアイギスを鎮めようとしたが、なんだか目がガチだったので止めておいた。うん、あまりふざけるのも良くないだろう。



───だがしかし、ここで一つ問題が浮かび上がってくる。




「あぁ、僕がそいつと会いたくねぇ......」



そう、僕がなぜそんな一番嫌いなタイプの人間と会わねばならないのか、という事だ。


確かにね、確かにアーマー君と初めてあった時と比べれば随分と成長しましたよ? 身体的にも、精神的にも。


だからこそちょっとやそっとのことでは動じなくなった自信はあるが、リリーの時のあのクソッタレストーカーや、かつてのアーマー君の同類ともなれば少し話は違ってくる。



───そう、あんな話の通じない馬鹿ども相手に、冷静沈着に話し合いなどできるのだろうか? と。



うん、まず不可能だ。


出会い頭に『この脱走犯め!』から始まって『どうやって国から逃げた!?』に続き『待っててね僕のアイギス! 今助け出すよ!』からの、学内で霊器を使われる未来しか見えない。そしてきっとそれを黙って見ていられない僕───うん、相性があまりにも悪すぎるな。



「なぁ、もう無視とかしてればいいんじゃないのか?」


「はぁ、そういう類の馬鹿は最悪『お前を殺して俺も死ぬ』理論に走るのは君が一番よく知ってるだろう」



止めてっ! 僕の古傷を抉らないで!


まだ幼い頃、カウンセリングを始めたばかりの頃にヤンデレを無制限に作り出していたことには触れないで! そこら中ヤンデレだらけとか、最早バットエンドしか見えなかったよ!



とまぁ、多少の反論はしてみたものの、やはり残された手はひとつしか残っておらず。




「あぁぁ、もう、ほんっっっとうに行きたくねぇ」




僕はマリアナ海溝よりも深いんじゃないかと思われる溜息をつき、本当に渋々、立ち上がるのだった。



うはぁ、アイギス可哀想ですね。ちなみにアイギスの故郷の村の村人はメザマを除いてすべて死んでます。なぜ彼だけ生き延びたのか、と言うのはご想像にお任せしますが、まぁ、嫌な想像しか浮かびませんね。

次回! また面倒臭い奴が出てきたぞ!? 果たしてギンはどう対応するのか!?

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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