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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第217話

序列戦? 何のことでしょうか?

【速報】ミラージュ聖国、執行者を捕らえる!?



その翌日。


そんな見出しがでかでかと乗っている新聞を、僕は教室で頬杖をつきながら読んでいた。



きっとあの神父はあの後、遠距離通信用の魔導具を使って僕(の影分身(・・・))を捕らえたと聖女にでも報告したのだろう。まぁ、見た感じはかなりイカれた信奉者、って感じだったしそうに違いない。


そして、恐らくは僕が神父たちを追い返したことに腸を煮え繰り返していたであろう腹黒聖女は『自分たちが執行者を捕まえた。執行者は完全な悪だ』と、そう世間に広めるためにすぐにでも行動を起こすだろうと僕にも予想できる。


この新聞によると案の定、今日の朝早く───それこそ日が昇った直後の時間帯に、『執行者を捕まえた』と宣言というかなんというか、まぁ、言っちゃったわけだ。



先程からこれと同じ新聞を読んでいる生徒達がすんごい微妙な顔をしてこっちを見てくるが、無視だ無視。そんなのいちいち相手にしてらんない。



───と言うか、僕がこうして平穏無事に過ごしているということと、それの目撃者が多数いること。それに加えて聖国が僕を捕獲したと宣言したという時点で、もう既に僕の罠は発動済なのだ。




一部の信奉者たちから絶対に正しい、絶対の正義だと信じて疑われていない聖国。


その国が『執行者を捕まえた』と大々的に宣言し、大陸中へと配られているこの新聞でさえ取り上げられている。

それに加えて、この新聞の信頼度は素晴らしいもので、まず間違いなく僕が捕えられたと聞いた国が動き始めるレベルの信頼度を持っている。


───まぁ、恐らくはエルグリットはオリビア経由で、獣王はグレイス経由で僕の安否を確認してくるだろう。現に寒そうな気配がものすごいスピードでこっちに向かってきてるし。



だが、それらの王たちは近い内に、聖国が報じた内容が真っ赤な嘘だと知ることになる。



そうなれば嘘の情報を流した聖国に不満や怒り、そして不信感が向けられるのは当たり前のことで、運が悪ければゼウスや父さん何かもイラッときてるかもしれない。



───そして何より、絶対の正義が嘘をついたと信奉者が知れば、どうなるか。




「暴動が起きて国が潰れるか、もしくは皆揃って僕へと戦争を仕掛けてくるか」




僕は新聞を畳み込んで机の上へと置くと、ニヤリと笑ってこう言った。




「宗教国が何だってんだ。僕に喧嘩を売ったことを心の底から後悔させてやる」




───珍しく、「ひぃっ」という結構ガチな悲鳴が聞こえた。




☆☆☆




数日後。


修学旅行を明けて初めての休日がやってきて、僕はいつも通りのグレイスとの修行を行う



───はずだったのだが。



「......おい、どういう事だ?」



僕の前には、大きい方のステージの上で準備運動とばかりに屈伸をしているグレイスが居た。


そう、グレイスと僕が戦うことには何ら変わりはない。



───だが、グレイスの纏っている雰囲気は、今までのものとは全くの別物だった。



全身からは冷気が吹き出し、その瞳からは『容赦』という二文字が抜け落ち、氷山の一角から切り出したような冷たさを孕んでいた。



「少しお前の吸収速度を見くびっておったわ。だからこそ、今日からはお前の才能に見合った修行法へと変えるぞよ」



そういったグレイスは左腕を前に、右腕を腰だめに構え、今までのようなボクシングもどきのふざけた構えではなく、正真正銘本気であろう、我流の構えをとった。




「今からワシはある程度本気でお前を潰しにかかる。寸止めはせんし、容赦もせん。強くなりたいのならば必死に食らいつき、ワシに一矢報いて見せい。もちろん霊器は使ったままぞよ」


「なっ!? ちょっと待っ...」




───瞬間、僕の背後にグレイスが現れた。



瞬間移動? いや違う。単に走って後ろに周り、そして拳を構えただけだ。


それだけの単調な動きが、目に追えないほどに素早く行われていた。事実としてはその通りだろう。


僕は咄嗟に影神モードへと姿を変え、影化を使ってその攻撃を受け流す



───ことは、出来なかった。



「がハッ!?」



瞬間、横腹に激痛が走った。



咄嗟に背骨を狙われていたところを身体をひねり、横腹へと狙いを外させた。その上で前へと飛び、その拳の威力を半減させた。


───にも関わらず、今まで受けたどんな痛みよりも鋭く、激しい痛みが横腹から頭のてっぺんまでを走り抜け、僕の身体はその衝撃によって内壁まで吹き飛ばされる。



「カッ......ハァっ、はぁっ......、ば、化物かよ、お前はッッ!」



何とかその内壁に両足をついて勢いを吸収させた僕ではあったが、グレイスに殴られた僕の横腹を触って、僕はそう言わずにはいられなかった。



───横腹を見ると、影ごと僕の肉体が凍りついていた。



誰がどう見ても物理法則を無視しているし、なによりも『物質』ではない影を凍らせるなど並の奴ができるような芸当ではない。



......否、並の奴ではないことくらい分かっていたさ。

もしもグレイスが並のやつだったのであれば、僕は弟子入りなどしていない。



僕の視線の先には、身体中から先程よりもなお一層冷たく感じられる冷気を吹き出し続けるグレイスが居り、彼女は少し楽しそうに顔を歪めて、再び件の構えをとった。




───来るッッ!!



僕は見えぬならば事前に避けてしまえと、その場から駆け出そうとしたその瞬間。



薄らと、それでいて確かに、僕の視界に何かが映った。



「クソッ!!」



咄嗟に宙を蹴って上空へと飛び退ると、それと同時に先程まで僕がいた場所の地面が一人でに陥没する。


───否、確かに右の瞳には何も映らないが、左の月光眼には、その原因がしっかりと映っていた。




「ふむ、やはり『氷影の女王(コンクビナット)』のことは見えておるか......。一応これはワシの奥の手なのだがな」




コンクビナット───同棲を意味する言葉だったか。


僕の視線の先には真っ黒に染まったもうひとりのグレイスの姿があり、なるほど同棲とは言い得て妙である。



「けど、二度も同じ手をくらうわけないだろ、このクソババア」


「よし、どうやらお前は一度殺してほしいようだ。容赦なく散らしてやるぞよ、安心してその場を動くな」




まあ、そんなこんなで。


結局僕は、両手両足の指では足りないくらいに、負け越した。




───全く、弱体化してるやつに大人気ないババアだよ、心身ともにな。




☆☆☆




「痛たたた......ちっとは手加減しろっての」


「ふむ、手加減していては訓練にならんだろうに」



もうすっかり日は暮れ、ポツリポツリと学園内の道にも明かりが灯り始めた頃。僕は何とか無事にグレイスとの訓練を乗り切り、今現在二人で帰途へとついていた。



───いや、全然無事じゃないんですけどね。



僕は左手に銀炎を纏うと、その左手をグレイスに凍り付けにされた患部へと当ててゆく。

吸血鬼の回復力と、銀炎の自身を傷つけない特性。その二つが揃って初めて使える治療法だが、僕は凍り付けにしておいて「治せんぞよ、それ、氷じゃし」とかほざき始めたグレイスにもの申したい。



「お前さ、たしかにとんでもなく強いことは認めるよ。正直言って獣王や死神ちゃん、更にはあのエルザよりもはるかに強い。相性ってのもあるだろうけど、まず間違いなく今まであってきた『人間』の中では一番強い」



───いや、もしかしたら一番は母さん(リーシャ)かもしれないけど。



僕はそこまで考えたところで一度言葉を区切り、真面目っぽい口調を一気に砕いた。




「けどさ......、お前、絶対にステ振り間違ってるよな? 氷属性以外の魔法はここの生徒達以下だし、遠距離攻撃の手段はほとんど持ってないし」



そう、グレイスは近接戦闘以外でなら本当にゴミ同然なのだ。


僕は獣王レックスの事を『脳筋』と評したが、残念ながらこのグレイスは、その獣王すらはるか後方へと置き去りにするほどの脳筋なのだ。


───遠距離攻撃? そこらの木でもちぎって飛ばせば良いだろう。


グレイスはそんなことを素面で言える様な残念な娘なのだ。




「遠距離攻撃? そこらに生えてる木でもちぎって飛ばせば大体なんでも倒せるぞよ?」



ほら見たことか。言ったそばから言っちゃったよこの娘。



───まぁ、どっちかっていうと『娘』ってより『古』って感じなのだが、そこら辺は裏で言うのは良くないだろう。こういうのは面と向かって言った方がお互いの為だ。



「悪いグレイス、今僕、お前のこと脳筋のクソババア ※但し見た目と精神年齢は幼女そのもの。って頭の中で馬鹿にしたわ」


「き、貴様......、ワシにそこまで大きな口を聞けるのはこの世界でも数えるほどしか居らぬのだぞ?」



ハッハッハー、そりゃあ僕もなかなかどうしていい度胸してるってことに違いない。


僕はそんな冗談を考えて少し頬を緩めると、横を不満げな顔で歩いているグレイスへと視線を向けた。




「安心しろグレイス、どうせ僕はお前を超えてゆく。だから僕はお前に遠慮なんてしないし、お前の技術は全て貰ってゆく」




僕の言葉に思わずと言った感じで目を見開いたグレイスをよそに、僕は先ほどまでグレイスが使っていた件の構えを真似てみた。


やはりこれだけの短時間でモノにするのは不可能だったようだが、僕の予想通り、この構えは僕の戦闘方法にも非常に良く合致している。


───なるほどグレイスがいきなり修行方法を変えたわけだ。この見た目幼女もなかなかどうして侮れない。




「はっ、案外さ、霊器解除したら僕もいいところまで来てるんじゃないか?」



そう冗談めかしてグレイスへと問いかけると、やはり帰ってくるのも冗談のような、それでいて結構現実味のある言葉だった。



「ふん、まだまだ入口に立ったばかりの小童がよく言うわい。お前がワシを超えるとしても、それは数年先のことぞよ」



───数年先か。なかなかどうして、もうすぐ先じゃないか。



僕はふと、もしも自分がこの目の前の幼女を超える強さを持つようになったら、という未来を考えてみる。


きっと、それほどまでの強さを手に入れたのならば僕はそうそう苦戦するようなことはなくなるだろうし、今のように毎日毎日修行に明け暮れるわけでも無くなるだろう。



───けれど、僕が目指す先は全能神、そしてその先にいる世界神たちの、更にその先だ。



行先は果てしなく、ともすればそんな道があるのかどうかもわからない。




「けど、僕は絶対に、強くなるんだ」




然して初めて僕が口にしたその決意は、スウッと胸の奥に染み込んでゆくようで、何だか少しだけ強くなったかのような気分が味わえた。




───のだが、




「あっ」



突如、グレイスが何やら思い出したかのような表情を浮かべ、その後かなり嫌そうな表情を浮かへだ。



───え、何ですか? とても嫌な予感しかしないのですけれど。



果たして僕の予想が外れることは、こういう時に限って言えば100%有り得ない。




「実は、今の話からは全くの逸れるのだがのぅ。前に、ミラージュ聖国以外の住民は大体この学園に居ると、そう言った覚えがあるのだが.........」




もうその名前とその申し訳なさそうな顔を見れば、大体グレイスがこの後何を言おうとしているのかはハッキリしてしまう。





「実はのぅ、完全に記憶から抹消しておったが、この学園にも一人だけ、件の国から来ておる生徒が居るのぞよ」





───えてして、人は嫌な記憶には無意識に蓋をしておくものである。



なによりも、その事実に蓋をしてしまいたくなった僕であった。


そろそろ序列戦入ってくれませんかギンくん。作者を泣かせないでください(棒)

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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