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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第216話

序列戦の前にまだこれがありました....。

修学旅行から帰ってきて、数日が経った。



結局はメフィストの予言通り新たな仲間が出来ることもなく、修学旅行の前後で確かに変わったことといえば、恐らくは僕が今首から下げているこのネックレスだけだろう。


銀色のチェーン部分に、ペンダントトップは水色の栄える水滴のような、そんな綺麗なネックレスだ───ほんと、自分の表現力のなさが疎ましい。



───そういえば後から知ったのだが、どうやらこの世界では結婚する際に指輪ではなくネックレスを渡すそうなのだ。......きっと偶然だったのだと、そういうことにしておこう。



というわけで、僕はその日の朝、いつも通りにネイルとの早朝ランニングを終え、いつも通りに寮を出て朝食をとり、いつも通りに学校へと向かった。



そう、いつも通り。いつも通りだった




───のだが。




ガチャリ、といつも通り下駄箱を開けた僕は、完全にフリーズした。



───否、頭だけは異様なまでにフル回転していたと言ってもいいだろう。



果たしてこれは何か。


もしもそう(・・)だとして、本物か偽物か。


ならば僕はどうするか。



等々色々と頭の中で考えること、おおよそ0.5秒。



僕は震える手で下駄箱の中に入っていたその封筒を手に取ると、





「......あれっ? 先輩、もしかしてそれラブレターですか?」




───面倒くさそうな奴に、見つかってしまった。




☆☆☆




その日の放課後。


何故か最近この部室に居座り始めているリリーだったが、今回という今回ばかりはちょっとばかしご遠慮して欲しかった。


何せ、今この部室にいるのは僕とリリーの二人だけで、部員であるアイギスと浦町はたまたまここに来る最中で依頼を受けたらしくしばらくはここに来る予定はない。


そのため妙な二人っきりの密室が出来上がっており、リリーときたら時折あざとく誘惑してくるため、ぶっちゃけると大して用事がないのならば帰ってほしい。



───だが、そのリリーをして帰れないと言わしめるものこそ、目の前の机の上に置いてある一通の手紙であった。




僕がうむむと唸っていると、リリーは少し真面目な顔をしてその手紙を読み始めた。




「『ギン=クラッシュベル先輩へ。もちろん先輩が私のことを知らないのも、私が先輩と一緒に居れないことも分かっています。けれど、私は後悔だけはしたくないです。良ければですが、今日の放課後。午後の四時半過ぎ、街の協会裏に来てください。待ってます』......ですか。これ、私が見る限り普通に女子の字ですよ?」



そう、問題はそこなのだ。



僕だってこれがラブレターなのだろうってことは分かる───もちろんラブレターもらったことなど一度もないが。


だが、これがラブレターだとして、僕は単なるイタズラか結構ガチなラブレターかを見極めなければなるまい。


だからこそ僕もじっくりとその文、その文字を見て考えてみたものの......残念ながら、僕もリリーと同じ結論に至った。



───そう、これって多分。ガチな方のラブレターなのだ。



だが、ちょっと待ってほしい。



「そもそもなんで僕なんだ? 僕って傍から見ればクサイこと言ってだいたい何でも力技で解決してる問題児、みたいな感じじゃないの? 何故かファンは居るみたいだけど......告白は流石に想定してなかったんだけど」



そう、僕にはモテる要素など、告白される要素など皆無のはずなのだ。それも顔も知らない見も知らぬ女性から告白されるなど有り得ない。


そう思っての質問ではあったが、リリーの口からこぼれ出たのはあまりにも残酷な現実だった。




「んー? あれじゃないですかねー? とりあえずモテなさそうだから手を出しときゃ何とか丸め込めるかもー、みたいなやつですよー。先輩をハニートラップで金ズル化させようとしてるんじゃないですかー?」



───おうっふ。聞きたくなかった、そんな現実聞きたくなかったっ!!


僕はガックリと肩を落としてため息を吐くと、何やら焦った様子のリリーがなおも続けてこう言ってきた。



「あ、あくまでも可能性の話ですよっ! 中にはきちんと先輩に恋してがんばってる女の子だっているんですからねーっ!」


「はっ、そんな健気な女の子が僕の周りにいるわけねぇだろうが。どいつもこいつも世界樹のごとく図太い神経してるわ」



───主に恭香とか、お前とか。あと暁穂だな。僕は暁穂だけは言葉で言い負かせる自信が無い。


僕はそう言ってリリーの言葉を一笑に付すと、ちらりと視線を時計へと向かわせる。




───現時刻、15:23。



約束の時までおおよそ一時間である。




☆☆☆




「今日も百合ってんなぁ、お前ら」



僕は目の前の光景を見てそう呟いた。


にひひっと嬉しそうに笑みを浮かべて浦町の腕に抱きついているリリーと、それを見た目だけは嫌そうにしながら座っている浦町。そしてそれをちょっと羨ましそうに見つめているアイギス。


───何これ、もしかして三角関係? トライアングルゼッツなの? にしても、いつの間に浦町とリリーはこんなに仲良くなったんだ。



「そんな訳あるわけないだろう。もしかして君は百合に興奮する変態さんなのか?」


「馬鹿野郎、百合見てなんとも思わない男なんて男じゃない」



と、そんな軽口を話し合っていると、約束の時間が差し迫ってきたことに気がついた。



「んじゃまぁ、そろそろ行ってくるわ」



そう言って立ち上がると、何故か僕と同じように立ち上がる三人。




───そうして訪れる、妙な静けさ。




「おい、何立ち上がってんだお前ら。大人しく座ってろよ」


「私は少し散歩に行ってくるだけです」


「私はトイレだ」


「私は生徒会の方に顔出してくるだけですよー?」



ひとり一言ずつそう言って、再び訪れた静寂。




───否、これは単なる嵐の前の静けさだ。




「クロエッッ!」



瞬間、僕と廊下でこちらの声を盗み聞いていたスメラギさんの位置が入れ替わる。



「クソッ! やられたッッ!!」


「くっ、今すぐ追いかければ何とかなるのではっ!?」


「って言うかスメラギ先輩、こんなところで何してるんですかー?」


「そ、そそそ、そんなことは今どうでもいいでしょう!」



そんな会話が部室のドアのすぐ向こう側から聞こえ、僕は一つため息を吐いて、影の中へと潜り込んだ。



───さて、コイツらが来る前にチャッチャと済ませてしまおうか。



そうして僕は、約束の場所へと向かったのだった。




☆☆☆




「はぁ、はぁっ、ま、待ち合わせ場所ってこの教会であってますよね?」



アイギスの言葉に私は迷うことなく頷いた。


銀のもらったラブレターには『街の教会の裏』と書いてあった。この街の教会の、それも裏とくればここしか有り得まい。


私達はそういう考えのもと、迷うこと無くこの場所へと駆け出し、到着し、そしてその場所が見える建物の陰へと隠れた。




───のだが、そこに広がっていたのは私たちが全く予期していなかった光景だった。





顔を伏せ、何をするでもなく佇む銀。




そして、銀の前に立っているのは────男だった。



「ハッ、テメェが執行者かァ? 思ってたよりも随分と弱々しいガキンチョだなァ、おい」



その言葉に同調するように、その男の背後に控えている屈強そうな男たちが声を揃えて笑い始める。


いちばん最初にその光景を見た時はアッチの趣味の者かとも思ったが、その様子を見るだけで告白(そう)ではない事くらいは察せられた。



───偽物の恋文。



私も、アイギスも、リリーも、更には向こうの世界で何通ものラブレター制作に携わってきた銀でさえ『本物』と断じたあの手紙が、偽物だったのだと今になって気がついた。



───そして、あの男達に全く見覚えがないことにも。




「ふむ、学園外の者か......」



私は天才だ。


だからこそ一度見たり聞いたりしたものを忘れるなどありはしないし、あれほどまでに目立つ屈強そうな生徒が居たとして、私がそれを知らないとは考え辛い。


だからこそ私はその結論に至ったし、今あの場に立っている銀も気がついているのであろう。



───まぁ、でなければあんな演技じみた態度は取るまい。



「あ、あのっ、ぼ、僕が何か悪いことしましたか......?」



プルプルと震えながら、いかにも怖がってますと言った様子の銀を見て、その普段とのギャップと演技の完成度の高さに思わず私は吹き出した。イメージとしているのは桃野だろうか?


ちらりと横に視線を向ければ同じように吹き出している三人の姿が目に入り、ある程度距離をとって隠れたのは正解だったと改めて思った───まぁ、銀は間違いなく気づいているだろうが。



閑話休題。



銀のあまりにも弱々しそうな、全く自身のなさそうな様子に、銀の前にいた大柄な男だけは少し違和感を覚えたようだが、残念ながらその他の男達はまんまと騙され、笑いながらペラペラと喋り始めた。



「ハッハッハ!! こりゃ傑作だぜ! あんなに大金つまれたんだ、どんなバケモノと殺り合うことになるのかと思ってたが、とんだ弱虫のボンボンじゃねぇかっ!」


「だなっ! 本来はあんな依頼主とは付き合いたくはねぇが、今回ばかりはいい金づるだったんじゃねぇか!?」



───付き合いたくない依頼主、大金をつまれた。



それだけでも十分絞りこめるのだが、未だ確証を持つには早すぎる。


それは銀も同じ考えだったようで、




「あ、あのっ、誰かに僕が狙われてるのは何となく分かったんですけど......。僕、恨みを買われるようなことをした覚えは......」




───上手い。


直接「誰が裏にいる」と聞くことなく、話す方の気分が良くなるように。それでいて確実に「コイツは舐めてかかっても問題のない相手だ」と思わせるような、絶妙な返答だ。


少し考えれば浮かぶかもしれないが、これをあの一瞬で考え、行動に移したというのだから、銀の詐術や会話術、そしてその先にある誘導能力の恐ろしさ再び実感する。



だが、その銀の凄さにあの馬鹿丸出しの雇われ者たちが気づくことは、決して無い。




「ハッ! テメェはミラージュ聖国(・・・・・・・)に喧嘩売ったんだろ? だったらテメェが今なんで命を狙われてて、そして誰から恨まれてるかも分かるんじ...」





───次の瞬間には、その場にいた男達は誰ひとり例外なく、真紅色の影の中に飲み込まれていた。





☆☆☆




その日の夜。



魔法学園都市、その外周部にある小さな小屋。

その小屋には今日、数人の男達が訪れる予定だった。



コンコンッ。



手はず通り、小屋のドアが二回ノックされる。


中にいた白い神父服を着た男は、それに応じて三回、リズミカルにノックし返すと、今度は全く別のリズムで四回、扉の向こうからもノックが帰ってきた。


そうしてやっと、神父はドアの鍵をガチャりと開ける。



───ふん、盗賊風情が良くもまぁ時間通りに来るものだ。



神父は内心、何故このような盗賊に執行者の誘拐を頼まねばならなかったのか甚だ疑問に思っていたが、それもこれも全ては聖女様がお決めになったことだ。そう思い、全ての感情を押し殺してその盗賊を小屋の中へと引き入れた。


その大柄な盗賊は先日のように仲間を大勢連れてくるわけでもなく、疲れたような顔をして黒くて大きな袋を引き摺ってやってきた。


───なによりも、その盗賊の右腕が二の腕の半ばから断ち切られているのを見ると、予想以上の反撃にあって仲間達と片腕を失った、と見て違いあるまい。



神父は「はっ」と鼻で笑って嘲ると、机の上に置いてあった麻の布袋を盗賊へと投げて渡す。


元々は金貨三枚───三百万ゴールドを渡たす契約ではあったが、神の名の元にこのような輩にそこまでの金をやる道理はない。神父は堂々と三枚の金貨のうち二枚を銅貨へと入れ替えていたのだった。


普通ならば間違いなくバレるだろう。



「んじゃ、とっとと捕獲対象の確認をしてくれねぇか? 今日は帰って早く寝てぇ」



だがしかしその盗賊は、投げて渡された本来の半額以下まで減らされている報酬の中身を、見もせずにそう言った。



───ふっ、これも我らが主神様の御加護のおかげか。



自分に運のいいことがあれば『主神様のおかげ』、逆に運の悪いことがあれば『主神様からの試練に違いない』と、そう嘯くその神父は、自らの考えが歪んでいることにも気づくことなく、その黒い袋を開いて中身を確認した。



然して、その袋の中には猿轡に目隠しをされた黒髪の青年の姿があり、その容姿は事前に魔道具によって撮影されたものと瓜二つ。神父はまず間違いなく本人だと確信した。



「ふん、貴様のような下賎、もしや偽物でも連れてくるかと全く信用していなかったが、どうやら稀にはいい仕事をするらしい」



再び袋を閉じ、そう言って立ち上がった神父の前には最早先ほどの盗賊の姿はない。


───なるほど本当に疲れていたというのは本当だったのだな、と神父は思ったが、すぐにその意識は別なものへと移っていた。





「あぁ、主神様、聖女様。今から罪人を連れて帰ります。しばしの間お待ちくださいませ」





その神父は知らない。




───その小屋のすぐ外で、盗賊に化けていた一人の青年が、酷く凄惨な笑みを浮かべていることに。



やっとミラージュ聖国も敵対してきましたね。まぁ、概ねすべてギンの掌の上でしたが。

次回! まだ序列戦前だと思います! 聖国がどう対応して行くか、そしてそれに関しての色々です。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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