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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第214話

崖下へと落ちたギンは......。

しとっ、しとっ。


少しずつ顔の上に積もってゆく冷たさと、背中側から服を通して伝わってくる冷たさを感じ、僕はゆっくりと目を開いた。



「こ、ここは......?」



そう呟いたことで思い出す、オリビアとの位置変換。


───そしてその後の、崖からの転落。



「まさか崖から落ちて気絶してたのか......?」



立ち上がって背後を見ると、霧がかってはいるが僕が落ちてきたのであろう崖が発見でき、上空を仰ぎ見るも崖上は視認すらできない状況だ。



───それに何より、明らかな異常が発生していることに僕は気がついていた。



僕は左瞼に手を添えると、背中を冷たい汗が伝うのを感じ、少しだけ声を震わせてこう呟いた。





「能力が......発動しない?」




神器、スキル、霊器。


それらの全ての能力が消失しているような───そんな違和感があった。




☆☆☆




「圏外って......、このスマホに圏外とかあるわけないはずなんだけどな」



僕はそうため息混じりに呟いてスマホを懐へとしまう。


そも、このスマホはメフィストの主───何となくの予想はできるけれど、そいつが作ったものだ。先ず間違いなく世界を超えてもなお通じるレベルの代物のはずだ。


それが通じないとくれば現状が尋常ではないことくらいは容易に分かってしまう。



なによりも僕の想定通り、神器もスキルも霊器も何一つとして発動できないという現状が確認出来てしまったのだ。


あの後月光眼を発動しようにも何も変化はなく、クロエとも繋がりが切られている感じがするし、なによりもステータスが完全に戻ってしまっている。先程テキトーに近くに木にデコピンしたら、力が全く扱えきれていないのか、周囲の木々ごとへし折れたからまず間違いない。




───だが、問題はそこではない。




「何でこういう事態に陥ったか、ってことだよなぁ......」



僕はそう呟いて歩き続ける。


先程、もしかしたらあの崖から戻れるかもしれないと思って本気でジャンプしてみたが、残念ながらそれでも尚───上空に出ても尚、何故かあの崖は続いていた。


......ここは、あの世界とは違う異世界だと思った方がいいかもしれない。正直言って異常すぎる。



という訳で、あの場所で黙って助けを待つのも僕らしくないと思い至り、今現在進行形で周囲を探索中なのだ。



───だが、




「人っ子一人どころか......、魔物すら、動物すら見当たらない......か」



そう、先程から数キロは歩いているだろうに、まだ一体の魔物ともすれ違っていないのだ。

素の状態でも気配察知を試してみたが、残念ながら生物の気配はなく、僕の近くにいた魔物達が素の(・・)僕にビビって隠れてるようなことも考え辛い。



「はぁ......、何これ。次元の狭間にでも落っこちちゃったとか?」



はっ、と自重気味な笑みを顔に貼り付けてそう言っては見たものの何かが変わるはずもなく。




「もしくは───」




僕はため息混じりに、考えうる最悪の想定を口に出して言葉にした。





「何者かの作り出した異世界に、偶然転がり込んでしまったか」




───例えそうだったとしても、きっとその何者かは、侵入者であるこの僕のことを許してくれはしないだろうが。





次の瞬間、僕の身体を超高密度の光の束が、貫いた。




☆☆☆




───かのように見えた。



「あっっっぶな!?」



超直感は働かないが、僕の器と魂に元々あった動物としての野生の勘がうるさいくらいに騒ぎ立てていたため、一応だが常に絶歩で位置を誤魔化し続けて歩いてきた。そのため、何とかその光のレーザーを躱すことに僕は成功した。



───が、これでも僕の想定、後者がほぼ確定した。



なにせ今の一撃、あの時ルシファーが放った混沌の光線よりも早かったからな。狙われたとしても今の僕でさえ躱すのが精一杯だろう。乱射されれば先ず間違いなく詰む。





「だからッ! 悪いがその前に潰させてもらうぞ!」




僕は自作のスキー板を槍のように構えると、連射される前にその本体を潰すべく走り出した。


今使えるのは元々僕が編み出した体術である絶歩と、頑丈な鈍器としても使えるスキー板。



───それと、万が一のために懐に隠し持っていた『神の髪』が一本だけ。



改めてそう確認してみると、あまりにも頼りなさすぎる今の状態に少し苦笑してしまうが、それでも霊器を使用していた頃と比べると天と地ほどの差があるのは確かである。



僕は微かに生物の気配がする方へと進む方向を修正しながら、光線が来るかどうか警戒しながらさらに一段階速度をあげる。



───だが、いくら警戒しようにもその気配は動く様子を見せず、ましてや先ほどのビームを撃ってくるような気配も皆無と言っていい。



「作戦か......もしくは罠か?」



その考えに至って思わずそう呟いた僕ではあったが、この世界はおそらくこの先にいる何者かの世界なのだ。

これが僕らの世界構築と同じようなものならば、僕がいるこの世界そのものが罠になり得る。


躊躇するくらいなら......、勇気振り絞って特攻した方が余程いい。



───僕は、踏み飲む足へとなお一層力を入れた。



今もまだ使いこなせているわけでないが、それでも尚壊しても何ら問題ない世界というのは素晴らしいもので。


僕の踏み込みに思いっきり地面が陥没したが、僕はそのお陰で一瞬にしてその何者かの前に躍り出ることが出来た。





────のだが、






「お、おい。大丈夫か......? お前」




僕は目の前のその鹿の魔物(・・・・)に、そう声をかけずにはいられなかった。




真紅色に染まった角は両方とも半ばからへし折れ、うち片方は雪の上に転がっている。その上、片目は完全に潰れており、恐らくは剣か何かで突かれたのだろう。


四肢のうち右前脚と後ろ足二本は完全に根元から断たれており、所々に火傷したようなあとが見受けられる。


そして何より、胴体の部分が思いっきり内臓ごとえぐられており、白い雪の絨毯に赤い染みが刻一刻と広がってゆく。



───瀕死。



かつての白夜と比肩しても大差ないほどのその重傷に思わずそう声をかけてしまった僕ではあったが、こちらを睨み据えているその青い瞳を見て、そう声をかけてしまった自分を悔いた。



そう、こんなにも瀕死の重傷を負っているとはいえ、コイツは僕を攻撃してきた敵だ。それも間違いなく僕よりも格上。タダでさえ能力が制限されているのだから殺られる前に殺らなければなるまい。



僕はふぅっと冷たい息を吐き出すと、先程までの心配そうな顔の上に無表情の仮面をかぶり直す。




「......悪いな。あの時と比べて僕にも失えないものが出来たからさ」




───お前が僕の命を脅かすのならば、僕はお前を殺さなければならない。




僕はそう言って、振りかぶったスキー板を思いっきり振り下ろした。




☆☆☆




「はあぁぁぁぁぁ.........」



僕は深い、とてつもなく深いため息を吐いた。



───結果から言おう。


僕はあの鹿の魔物を殺すことは出来なかった。殺すどころか神の髪まで与えて放置してきた。なんと情けないことであろうか。



いやね。確かに僕も非常時には冷酷になれる人間ですよ? あの鹿の魔物が本気で僕を殺そうと、あの視線に殺意を込めていたのなら僕も殺していた。



───だが、あの睨むような視線は、ただの強がりだった。



何がどうなってあったああいう状態に陥ったのかは知らないが、僕はあいつが悪いやつだとは思えない───否、思いたくないだけかもしれないが、ここは僕の人の見る目を信じたい。人じゃなくて魔物だけど。



「楽観的すぎるかもしれないけど、余裕が無さすぎても早死にしそうだしなぁ......」



僕はそう呟いて、でも神の髪の在庫がひとつ減ったのはまずったかも、と少し後悔したが、恐らくあの鹿はもう神の髪を使っちゃっただろう。使い方を教えてその場に置いてきたからな。



そう考えながら再び森を散策しながら出口を探していると、唐突に僕の野生の勘が頭の中でガンガンと警鐘を鳴らし始めた。




───それは間違いなく、先ほどの光線とは比にならないほどの威圧感と、明確な死の気配(・・・・)



次の瞬間、僕の目の前に見覚えのある斬撃が空間を切り裂いて現れた。




「ぶぉわぁぁぁぁっ!?!?」




───イナ○ウアー。


ブリッジと言ってもいいが、兎にも角にも、体の硬い僕ができるとは思えなかったが、あまりにも危険極まりないその斬撃を僕は上体を逸らして何とか回避した。



「し、死ぬかと思ったぁ......」



体を戻すのも忘れそう呟いた僕に対して、その切り裂かれた空間の向こう側から呆れたような声がかかった。




「おいおい、俺様がここにいなかったら完全に閉じ込められてたんだから感謝しろよな、ギン」




果たしてそこにいたのは、空間だろうと異世界との壁だろうと、全ての死を司る神様───死神カネクラであった。




☆☆☆




その後、死神ちゃんが切り裂いた時空の割れ目から元の世界へと戻った僕は、死神ちゃんに連れられてスキー場の麓の建物へと戻ることとなった。


然してそこで待っていたのは、何故か疲労困憊と言った様子の仲間達で、聞けば僕があの世界で過ごしていた数時間、ずーっと僕のことを探し続けていたらしい。


まぁ、それでも見つからなかったため、結局はグレイスや死神ちゃん、更にはこの国の騎士達まで動員されて僕の捜索隊が結成され、それでもなお見つけることが出来なかった。



───という訳で、藁にもすがるつもりで、この国に伝わるとある伝説を信じることとなった。



曰く、この国には森の守り神『ケリュネイア』という鹿の魔物がいるらしく、高度な知性と上級神でさえ手が出せないほどの力を持つその魔物は、その伝説によるとこの地に異世界との穴を作り出し、そしてその異世界の中で生き続けているのだとか。



その話を聞いたグレイスと死神ちゃんは、



「「うん、アイツなら十分にありえる」ぞよ」



と意見が固まったらしく、何とかその異世界を探り出して世界間の壁を神器にて切り裂き、そしてその先に見事僕がいたというわけである。



その話を聞いて僕はあの鹿がその伝説の魔物なのだろうと半ば確信できたが、なによりもその伝説の続き───そのケリュネイアの能力について聞き、その半ばの確信は絶対な確信へと変わった。




「ケリュネイア......、ありとあらゆる『能力』を無効化する力か。なるほど、僕があの世界でなんの力も使えなかったわけだ」




僕は左手に握る真紅色の鹿の角へと視線を落とす。


これは、たまたまあの場に落ちていたあの鹿の折れた方の角。


まぁ、想像で話すよりもこの角を鑑定した方が余程効率的で確実なわけで。






森神の真紅角 品質error

森神ケリュネイアの『能力封印』の力が込められている最重要部位。

決して壊れることはなく、武器や防具の素材に使用すれば大体の異能を相殺し無効化することが出来る。





僕はそれを鑑定して、尚思う。




「能力を封じることができるケリュネイアが、瀕死に......ねぇ」





先ず間違いなく暁穂───フェンリルと同格のケリュネイア。



僕は月の光に照らされながら、その冷たい夜空を見上げてこう呟いた。





「ケリュネイアは、どこのどいつと殺り合ったんだ......?」





───能力の戻った僕のその疑問に返ってきたのは、純然たる嫌な予感だった。

ケリュネイアを瀕死に追い込むとは余程の強者なのでしょうね......。一体誰なんでしょうか?

次回! 修学旅行最終日!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[気になる点] 261話で『絶歩』がユニークスキルになってて、ケリュネイアの異空間内は使えないはずなのに絶歩を使いながら移動してます。 何故でしょうか?
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