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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第211話

本日二話目です。

「ぐすっ、ぼ、僕はもう、汚れてしまいました......」



───僕は、その祠を出た外で泣き崩れていた。



僕の姿を見た浦町とネイルが「ま、まさか......初めてをあんな場所で!?」と言った視線をアイギスへと向けるが、アイギスは自信満々にこう言ってのけた。



「ギンが水全部飲んじゃったので、まだ残ってるであろう口の中の水分を舐めてみました。かなり執拗に」




───瞬間、僕らの間に微妙な沈黙が訪れた。



そう、ただのキスならば数度体験したことはあったが、まさかベロチューをやられるとは思わなかったのだ。


しかも身体能力の低い今、思いっきり体を押さえつけられた上で口の中へと舌が侵入してきたのだ。



───たしかに嬉しかった。嬉しかったさ。



ただな、もう少し順序を踏んでもよかったんじゃないですか? ベロチューから始まる関係とかどんな淀んだ関係性だよ。まだ付き合ってもいないんですよ? 僕達ってば。



僕は恨めしそうな視線をアイギスへと送るが、当の本人はどこ吹く風。


アイギスは僕の目をしっかりと見つめ返すと、ニコリと笑ってこう言った。





「既成事実ですよ? きちんと責任とってくださいね?」




果たして、こんな美人さんにこんなことを言われて首を横に振れる男がいるだろうか?




───少なくとも、僕には到底不可能なことであった。




☆☆☆




「それで? 結局その水は汲んできたのか?」



呆れた様子の浦町にそう問われた僕は、アイテムボックスからなみなみと水が入れられているビンを取り出し、見やすいように浦町とネイルの方へと近づけた。



───のはいいのだが、ふと気がつけばそのビンは僕の手の中から消え失せていた。




「「「「......あれっ?」」」」




全く以て予想外。


何が起こったかすら理解することが出来ず、この月光眼さえその直前に見えたのは薄らとした白い残像であった。



.........白い、残像?




「おおっ! 良くやったじゃねぇかギン! 俺様のためによくぞこの水を持ってきてくれたッッ!!」


「にははっ! ワシとカネクラの二人で入ると同性愛者のようだし、ましてやほかの男などワシらには存在せぬからな! 褒美に次回からは修行の密度を濃くしておくぞよ!」



───その声を聞いて、僕は全てを察した。



僕は一つ大きなため息をつき、足元に積もっていた雪と奪われたビンを位置変換で交換し、奴らがこちらへと駆け出す前にアイテムボックスへと放り入れた。



「「なぁァァァっ!? き、貴様ぁぁぁぁぁっっ!!」」


「うるさいよ、死神ちゃん、グレイス。一週間に一度ペースで僕に突っかかってくる貴族達みたいな口調になってる」



───そう、僕からビンを盗んだのはその歳で未だ独身を貫き通している二人であった。



たしかにこの二人の男の知り合いって言ったら獣王くらいしか思い浮かばないし、獣王に頼もうにも奴は既婚者だ。


ならば一人で入るか、それとも二人で結束して入るか。普通ならばその二択しか選びようがないのだが......、残念ながら、二人には僕という知り合いがいた。


だからこそ二人は僕に気づかれないようにコソコソとあとを付け回し、その水の入ったビンを取り出す隙を今か今かと待ちわびていたのだろう。



「が、残念だったな。僕の炎十字(クロエ)は目の前の宝に目が眩んだ神ごときに対処できるレベルじゃないんでね」



僕は唸り声をあげてこちらを睨んでくる白髪二名を鼻で笑うと、そのまま放置して歩き出す。




───つもりだったのだが、




「た、頼むっっ!! 俺様もなかなか下界に来れねぇし、神界のそういう類のブツは全てを試したんだ! もう俺様にはそれしか希望は残ってねぇんだよ!!」


「わ、ワシからも頼むぞよ! ワシだって.....、ワシだってこんな形じゃがれっきとしたレディだ! そろそろワシにもモテ期が来てもいいとは思わんかのぅ!?」




その声に振り返ると、恥も外聞もかなぐり捨てて雪の絨毯の上で土下座している学園長と死を司る神様。



───まさか土下座までしてくるとは驚異の執着心だ。そこまで結婚したいのかこいつらは。



と、そんなことを思いはしたが......、




ダンッッ!!



僕は二人が地につけている頭の間の地面を思いっきり踏みつけると、ビクッとした二人へと無表情を顔に貼り付けてこう言った。




「それが......、人にものを頼む言葉か?」




底冷えするようなドスの利いたその言葉に、更にビクッと震えた眼下の二人。


彼女達はゆっくりと、僕に許しでも乞うかのように顔をあげると、目尻に涙が溜まったその両の瞳でこちらを見上げてきた。



───ククッ、白夜が居ないと僕のSっ気が解消出来ないものでね。二人にはその生贄となってもらおう。



僕は彼女らへと顔を寄せ、とてもいい笑顔でこういった。





「『この出荷時期が大幅に遅れてしまった雌豚めに、どうか貴方様の持っている神の水をお恵みください』と、三回心の底から復唱しろ」




───もちろん、二人はその場で泣き出した。




☆☆☆




「......先輩って彼女さん出来たんですか?」



あの後神社の見学を終えた僕達は、次の目的地である"雪国祭り"とかいう会場へと向かった。


そして今現在、北海道の自衛隊さんたちが作ってくれていそうな雪像がたくさん設置されている広場までやってきていたのだった。



───だがしかし、ここについたのとほぼ時を同じくして昼食の時間がやってきた。



だからこそ僕はそこら辺に出ている出店で昼食をとる───のではなく、何故かアイツらが「ギンの作った料理の方が美味そう」とか言い始め、結局僕が手持ちである食材を使って昼食を作っていたのだ。まぁ当の本人たちは雪像を見に行って今は僕と料理を手伝ってくれている浦町の二人だけなのだが。



───否、今さっき三人になったか。



どこからか情報を仕入れてきたガーネットが、何故か少しドスの利いた声で僕へとそう言ってきた───いや、何ですかリリーちゃん。ちょっと真面目に怖いんですけど。



「いや、付き合うとかそういうのじゃなくてだな......」



僕はなんとかこの場を切り抜けようと策を練ろうとするが、まず根本的な部分で壁に行き当たった。



───そう、僕とアイギスの関係は果たしてなんと表現すればいいのか、という問題である。



僕はアイギスのことが好きで、アイギスは僕のことを......多分好きなんだろう。でないと悪意も無しにあんなことしないし。


ならば恋人同士か? と聞かれれば、それも僕にはしっくりこないのだ。


告白したわけでもないし、告白されたわけでもない。


ただキスされて「責任とってくださいね」と言われただけだ。



......ならば、婚約者ということだろうか?



と、僕がそんなことを考えていると、横から浦町が割って入ってきた。




「リリーと言ったか? お前が銀に対してどんな幻想や理想を抱いているのかは知らないが、銀が誰かと付き合ったとしても何かが変わる訳では無いぞ?」



その言葉に、僕は心当たりがありすぎた。



「どういう事ですか?」



そう聞くガーネットに、浦町は自信満々にこう答えた。



「執行機関の中には銀に惚れて仲間になった者や、仲間になって初めて銀の魅力に気付いて惚れた者も、実際に恋仲になったものも数名居る」



瞬間、ゴミを見るような目でこちらを見つめてくるリリー様。


───お願いしますからもう止めてくれませんかね、浦町さん? リリー様ってば多分僕が誰かと付き合ってること知らなかったんだと思いますよ?



そんな僕の心の声は確実に通じているのだろう。


けれども浦町がその言葉の続きを止める様子は見当たらず、



「この男が相手に求めているのは心から信頼し合える絆だ。だからこそ相手を束縛することも、普通の恋人のように常に一緒にいることも無い」



浦町はそう言ってちらりとこちらを振り向くと、ニヤリと笑みを浮かべた。



「まぁ、そういう面では私はどこの誰よりも信頼されている自信があるが、残念ながら君は妙に頑固だからきっと順番がどうのこうのほざくのだろう?」


「順番......っていうかなんて言うか......。まぁ想像に任せるよ」



僕はもう既に知っている。知り尽くしている。


───彼女が僕のことを知り尽くしていることを、嫌という程に知っている。



だからこそ、僕のことを語る時の彼女は絶対であり、何よりも正しいのだと思う───それこそ恭香以上に、僕以上に。



だから、僕は彼女の質問に対して何かを真面目に答える必要はなく、彼女も質問という形は取っているがそれは単なる確認だ。



浦町は再びガーネットの方へと向き直ると、少し真剣味を帯びた表情でこう言った。




「お前が銀に何を求めているかは知らん。だが、勝手な偏見で苦しめられた貴様が、それを文字通り命を賭して救ってくれたこの男を偏見という色のついた眼鏡で見るな。見るならしかとこの男の本質を見ろ。それが嫌ならば疾くこの場から去れ」




───少し、言い過ぎだろう。



そうは思わなかった。


まぁ、浦町の言っていることが何一つとして間違ってはいないという事と、何よりも僕とガーネットは万事屋とその依頼主のような関係性だという事を鑑みると言い過ぎなどということは出来まい。


ガーネットが僕に惚れているわけでもあるまいし、少し頭に血が上っている浦町の状態を除けば浦町の言動に僕が何か言う必要性は見当たらない。



僕はヌァザの神腕で浦町の頭を軽くチョップして「落ち着けよ」と言ってから再び料理へと戻る───たまたま空いていた方の手でやったはいいが、なんだか予想以上に痛そうだった。いや、けっこう真面目にごめん。



僕は気を取り直して、『さて、ガーネットはどんな言い返しをしてくるかな?』とガーネットの方をチラリと窺った





───のだが、






「ご、ごめん......っなさいっ!」





僕らの目の前にいたのは、真っ赤に目を腫らして涙を流す一人の女の子だった。



───然して、そのガーネットの様子を見た僕と浦町は、顔を見合わせてこう言った。





「「.........あれっ?」」と。




☆☆☆




その日の夜。


僕は一人、宿屋のロビーに設置されているソファーへと腰を下ろしていた。



あの後、僕らは雪像やら何やらを見た後、そのままこの宿屋───件の輝きの森の近くにある宿屋へとチェックインし、そして少しの自由時間をとった後に夕食、入浴と経て今に至る。



───だが、その間にも、僕は色々なことを頭の中で考え続けていた。




この地に伝わる森の神───鹿の魔物について。


メフィストの予言。


アイギスとの関係性。


そして何より、ガーネットとのこれからの付き合い方。



主にその四つが頭の中でぐるぐると回り続けており、脳みそがもうすぐパンクするのではないかと心配になってくる。



あの後もガーネットはその場を動くことなく涙を流し続け、結局は僕が介入して何とかなだめ、そのまま涙を拭いてやって帰したという経過をたどった。


一体彼女がどういう気持ちであの場所を訪れ、どういう気持ちで涙して、なぜあの場所から頑なに動こうとしなかったのか。


それだけでも難問なのにそれ以外のことまで考えなくてはならないのだ。面倒くさいったらありゃしない。



「はぁ......、女心って難しいな」


「そーですかね? 私は男の人の感情は御しやすいですけど」



御しやすいっておい。何をガーネットみたいなことを言って......ってあれ?


僕は月光眼を解除していたのを思い出し、ハッと声のした向かいのソファーへと目を向ける。




────果たしてそこに居たのは、少し目を赤く腫らしたオレンジ色の後輩で、






「先輩っ、デートしませんか?」





───全く以て唐突に、彼女は僕の想像を超えてきた。

次回! リリーとのデートです!

個人的にはアイギスとの関係の方が気になりますが、それについては修学旅行明けの序列戦ででも取り上げたいと思います。

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