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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第209話

サラサラと最近はめったに見なくなった雪がそぼ降り、少しはしゃいでいる生徒達の頭や肩に積もってゆく。


中には初めて雪を見るものも居るのか、うち数名はとんでもないはしゃぎ様だ───特に白髪褐色とか。アイツ砂漠地帯とかに蛇と一緒に住んでそうだしな。



昼を過ぎてしばらくたった頃、僕らは雪国ホワイトベルの首都へと到着し、出迎えてくれた国の使者や騎士の人たちに荷物を預けた。どうやら泊まる予定の宿屋まで送っていってもらえるようだ。


そうしてその後、僕らは学年ごとに分かれてこの国の見せられる部分を色々と案内されたのだった。


例えば図書庫や訓練室、それにちょっとしたグレーな所まで。


決して相手を不快にさせず、けれども自分たちの懐の厚さを存分に見せてくれた見学ツアーではあったが、なかなかどうして雪国側も目的を達成できたのではないかと思う。



「な、なぁ! 俺将来はこの国の騎士になりたくなってきたぜ!」


「わ、私もこの国で働いてみたくなったよ! なんかいい雰囲気の国だと思うし......」



今現在、案内が終ってからのちょっとした自由時間。

ベンチに座っている僕の耳にはそんな声がしきりに届いてくるのだ。


───自国への勧誘。


魔法学園都市の修学旅行に協力する上で、何か向こうにもメリットがあるはずだ。

そう考えれば自ずとその答えが浮かび上がってくるし、先ほど案内してくれた爽やかな美男美女を見ればそれも確信に変わる。


まぁ、今勧誘したところで、将来本当に自国に来て就職してくれる者などほんのひと握りだろうけれど。



「にしてもあるじー。修学旅行って何するものなのだー?」



ふと、僕の隣にちょこんと座っていた藍月が僕を見上げてそんなことを聞いてきた。

かなり難しい問いではあったが、僕は数秒考えてしっかりとした答えを教えてやった。





「社会に出た時に失望しないように、今の内に社会の黒い部分を見ておくための事ぜ......ぐはぁ!?」


「何吹き込んでんだテメェっ!!!」



───のだが、何故かマックスの飛び蹴りを後頭部にくらって吹き飛んでしまった。



「痛たたた......、なんだよマックス、お前は彼女作るのに必死になってたんじゃねぇのかよ」


「う、うるせぇ! 俺だってな! 俺だって子供の頃に幼なじみと将来結婚しようねって約束してたんだよ!」



───瞬間、僕の時が止まった。



いや、マックスに婚約者が居るのは別に変なことでも驚くことでもない。顔も性格も十分に良いしな。


けれど、『約束してた』とは......。


僕は嫌な予感がして、マックスに少し踏み込んだことを聞いてみることにした。




「......まさかその子、違う男と付き合ったのか?」


「......それ以上は、聞くな」




───おっと、踏み込むどころか踏み抜いてしまったようだ。


僕はこちらに背を向けて啜り泣いているマックスの肩にポンと手を置いて、こう言った。




「お前も......、苦労してたんだな」




この日を境に、僕のマックスに対する態度が少し軟化し、アンナさんが鼻血を吹き出す回数が増加した。




☆☆☆





「覗きをッ、手伝ってくれねぇか!」



───驚いた。



先程までマックスの過去について悲しく語っていたのにも関わらず、シーンが変わった途端にこれである。



今現在、大勢で泊まるためそれなりの宿屋をほぼ貸切状態で使うことになった僕達は、まずはその宿屋で自らに与えられた部屋に向かった。


ちなみに僕の場合は桃野にディーン、クラウドに白髪褐色の五人部屋に泊まることとなった。ディーンやクラウドはまだしも白髪褐色とか話したことないし、そもそも名前すら知らないんだけど。



と、不安に感じながらも部屋に入り、浴衣に着替えたところでそんな声がかかったのだ。


───しかもその声の主は、プライドをかなぐり捨てて土下座している白髪褐色と来た。



「え、えーっと、白髪褐色。お前...」


「俺の名前はアストランドだぜ!」



おーっと、あの一件以降距離を置いていたはずなのになんということでしょう。白髪褐色もとい、アストランドは床に頭をこすりつけながら徐々に距離を詰め寄ってきている。何こいつ気持ち悪っ。


僕と同じくアストランドの奇行を見ていた桃野とディーンが苦笑いを浮かべ、クラウドが「俺もやろうとは思ってたけど......やめとこうかな」とかそんなことを思っていそうな顔をしていた





───その時だった。





「「「話は聞かせてもらった!!」」」




瞬間、ガタンッとノックもなしに扉が開かれ、僕らの視線が一気にその扉の方へと集まってゆく。



然して、その扉の向こうにいたのは水色の髪をした優男風のイケメンと、僕のよく知る灰髪イケメンと、身も知らぬ茶髪のイケメンで......、




「「「私(俺)(僕)たちも、混ぜてもらおうか?」」」




まぁ、そんなこんなで全員の視線が僕の方へと集まり、





「はぁ......、分かったよ」




僕は渋々、頷いた。




☆☆☆





時は流れて晩飯後の入浴時間。


僕らは今、コソコソと闇夜に隠れて廊下の端に集まっていた。



「あっ、そう言えば! 僕はソルバ、六年生だよ。よろしくねー、ギンちゃん」



そう軽い調子で僕に挨拶してきたのは、茶色い髪をしたイケメンだった。


そう、ギルバートとマックスはああ見えてムッツリドスケベだから来るのは分かっていたが、この人に関しては全くと言っていいほど知らないのだ。


───まぁ、どうやら向こうはこっちのことを知ってたみたいだけど。



「んじゃ早速だが、作戦に参加するのは僕達、ディーン、クラウド、アストランド、ギルバート、マックス、そしてソルバでいいんだな?」



そう、あの後その場にいたディーンとクラウドは道連れとして選ばれ、桃野に関しては僕がなんとか阻止した。桃野を連れていくなら僕は関与しない、と言ったらみんな諦めてくれたし桃野も何だかホッとしていた。


僕の確認に様々な表情を浮かべてコクリと頷く一同を見て、僕は早速作戦通りに動き出した。




まず、僕らが居るのは五階建ての旅館で、僕らが今いるのが五階ということを把握しておく。


───そして、僕らが目指す浴場は一階だ。


僕らは迷いない足取りで廊下を音を立てずに駆け抜け、曲がり角になったところで向こう側に誰もいないかを確認して、さらに走り出す。



だが、いつの世も教員というのは鼻が利くものだ。



「ふぬ? おお、お前ら。珍しいメンツで一体どうしたんだ?」



僕らが使う予定のエレベーターの前で待ち構えていたのは、件の脳筋のドラム先生であった。


明らかにエレベーターを見張っていたであろう先生を見て、



───僕は、にこやかな笑みを浮かべてこう言った。




「あ、今からみんなで風呂にでも行こうかと思いまして」




まぁ、男子風呂ではないんだけどねッ!!


僕のその言葉を聞いて『男子風呂に行く』と勘違いしたドラム先生は、僕へ対する信頼度も相まって「おう、ゆっくりしてこい」と笑って送り出してくれた。



───ふっ、計画通りッッ!!



僕らは本当に計画通りにエレベーターへと乗り込み、そして『二階』のボタンをポチッと押した。



それと同時に僕とマックスの身体が黒い霧に覆われ、三階を過ぎる頃には変身し───女子生徒の姿となることに成功した。


僕はぱっちりとした瞳をした茶髪の女子生徒に。


マックスは灰色ロングのクールな女子生徒に。


───まぁ、かなりクオリティが高いと言っても過言ではないだろう。



「やだぁ、マクコちゃんたらかーわーいーいーっ♡」


「......お前、変身スキルの練度高すぎんだろ」



そんなことを話しながらも僕らは二階へとたどり着き、予想通り二階のエレベーターを監視していた見知らぬ女の先生に「こんにちはーっ」と言って挨拶をし───すれ違いざまに手刀で眠らせる。



「ふっ、計画通りッッ!」



女版の僕───通称ギンコちゃんが中二ポーズでそう叫んだ(小声)のを聞いたエレベーターの中の野郎どもがぞろぞろと二階へと侵入し、見知らぬ女の先生をエレベーターの近くに隠れるように放置する。



ここまで来ればもう少しで目的地へとたどり着くことが出来るだろう。


というのも、僕らはわざわざ一階から女子風呂へと侵入する危険性を考慮して、二階からロープ伝いで一階の女子風呂の露天風呂へとこっそり侵入。

そして誰もいなくなった隙を見て上にいる者が引き上げるという手はずだ───ちなみに引き上げるのは僕がやってやることにした。正直覗くことなんていつでもできるしね。



「それじゃあ行くわよっ、皆っ!」



ギンコモードの僕はそう言うと、迷うこと無く廊下を走り出した。


その後について来ている馬鹿どもは目前まで迫った夢の楽園を夢見て頬が緩んでおり、やはりコイツらは馬鹿なのだと実感させられた。


そしてやはり、僕の頬も否応なしに緩んでしまうのだった。やはり僕も馬鹿だということなのだろうか?



そんなことを考えながらも、僕は廊下を出歩いている女子生徒の位置を詳しく確認しながら道を進み、時に引き返し、そして回り道をしながらも、なんとか目的地───一階の女風呂の露天風呂、その屋根の真上に位置するその窓までたどり着いた。



僕は創造魔法で作り出したロープの片端をその窓から放り投げると、クイッとかっこよく顎で『楽しんでこい』とばかりに合図してやる。



「すまねぇなギン」


「悪いねギン君」


「悪いなギン」


「悪ぃ、失礼させてもらうわ」


「君には本当に済まないと思ってるよ」


「それじゃあ行ってみよーっ!」



馬鹿どもは僕ががしっと掴んだロープを手に持つと、順番にロープ伝いで下へと降りてゆく。


もちろん僕の今の身体能力で数人の体を引っ張り続けるなど不可能だったので、降りるのは一人ずつだったのだが、それでも何とか全員が女子露天風呂の屋根の上に着地することが出来たようだ。



細工も作戦も何もかもがすべて上手く行った。



死神ちゃんもグレイスも、ましてや他の人物が僕らの動きに感づいている気配はないし、超直感もその考えを肯定してくれている。




───だからこそ、僕はここに来てやっと、仮面を破り捨てた。




ニヒィ、と少女となった僕の顔に酷く凄惨な笑みが浮かび、僕は容赦なく創造したロープを消失させた。


空間把握で窓の下を確認すると、先程まで僕に従ってばかりだった馬鹿どもが『屋根の下を確認する術が無い』ということに気がついたのか降りてきた窓の方を見上げてくるが、残念ながらそこには僕の姿も伝ってきたロープの姿もない。


そして叫ぼうにも、叫んだ途端に真下の女子生徒達に感づかれてしまう。




───まさに万事休す。飛んで火に入る夏の虫とは、きっとあの馬鹿たちのことだったに違いない。




「さぁ、あとは頼むぞ、本体(・・)さんよ」




影分身である僕は、隠しきれない笑みを浮かべて消え去った。




☆☆☆




お勤めご苦労さまです。



僕は頭の中でそうお勤めを終えた影分身へと感謝を伝え、木でできた大きな浴槽の淵において置いたスマホを手に取り、今なお稼働中の生徒達の雑談スレにとある噂を書き込んだ。





136.虎さん

何だか女子の露天風呂の天井の上に、女子風呂を覗こうとしてる男子生徒たち数名が居るらしい。見える人は窓から確認してみたら?





「よし、これで万事おっけい」



今僕がいるのは、男子側の露天風呂。


本体である僕と桃野はアイツらが作戦を決行したと同時に非常階段から四階へと向かい、そしてエレベーターでここまで来たというわけだ。


いや、わざわざ二階からロープ伝いで行くくらいなら、僕が一人ずつ抱き抱えて飛べばいい話だし、別に五階や四階からロープを垂らしても何ら問題はなかっただろう。

まぁ、そう考えるとマックスもあの場からは逃げられるのだが、逃げたところで他の面々の証言がある上にアリバイがない。


───に比べて僕は証言はあってもアリバイがある。つまりは罪に問われないということだ。


そうして少し含み笑いをしていると、僕の隣で「ほへぇー」と顔を緩めて温泉に入っている桃野が間延びした声で聞いてきた。



「ん? どーしたの銀?」


「いや、なんか女風呂覗きに行った奴らがバレたらしくてね」



僕はそう言ってスマホをアイテムボックスへと放り入れると、今隣の女子露天風呂の屋根の上であたふたしているであろう馬鹿どもへ、当たり前のことを呟いた。




「好きな人が覗かれようとしていて、それに怒らない男がどこにいるってんだよ、馬鹿野郎」




そんなこんなで、チキンな男子生徒たちがみんな出ていった露天風呂で、僕は桃野と二人っきりで過ごしたのだった。


以上、ギンコちゃんでした。

珍しく銀にしてはノリノリだと思ったら裏でこんなこと考えてたんですね。

次回! 修学旅行二日目! 恋愛要素はあったと思います!

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