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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第207話

あれ? 今日ってバレンタインデーでしたっけ?

あれから数日が経ち、僕は今現在病室のベットの上で本を読んでいた。



聞いた話によると、その後なんとか辛勝を収めた僕はその場に大の字でぶっ倒れたらしい。


───らしいと言うのも、実は......と言うか見たまんまなのだが、身体中の骨という骨が折れまくっていて、さらに言えばそれを治すのに必要な血液がビックリするくらい皆無なのだ。


そのためか、僕がカッとなった後のことはあまり記憶にはなく、昔遊び半分で考えた中二技が使えるようになったことくらいしか覚えていないのだ。



そんなこんなで、僕は担架に乗せられ保健室へ。そしてそこでも対処できないほどの大怪我だったため、僕は魔法学園都市が誇る、街最大の病院へと搬送されることとなった。



正直なことを言えば、頭部以外が全て消滅することはあっても、今の今まで僕の体の中から血液が全て消え失せるなんてことはほとんど無かったのだ。


例を挙げるならばバジリスクの群れにリンチされた時だが、あの時の僕の怪我は腕が一本千切れただけだった。


そのため僕はここまでの怪我&血液の全損という初めての状況を味わうわけだが、どうやら今の状態はかなりまずい状態らしい。


───と言っても死にはしないが、復帰には少しだけ時間がかかるのだとか。正確には今月半ばの修学旅行の直前でぎりぎり滑り込めるレベルの怪我だそうだ。



「まぁ、それもこれも不老不死のギンだから何ですけどねぇ」


「さすがは僕、不老不死最強だな」



リンゴを剥きながら呆れたようにつぶやくアイギスを見ながら、僕はテキトーなことを呟いた。

何が不老不死最強だよ。結構な頻度で血がなくなって死にかけてるんですけどどういう事ですか?



「はぁ、こんなんなら血を失う前に自分の血でも採取しとくんだったな......」


「そう言えばメテオリック・オークにやられた時に使っちゃってましたしね?」


「......アイギスのえっち」


「ちょ!? い、いきなりなんのことを言ってるんですか!?」



とまぁ、そんなこんなで今現在。僕はそんなことを考えながらも、神の髪を使うのも勿体ないので正攻法で治療に当たっているというわけだ。


ちなみに僕と泥仕合を演じたあの男子生徒に関してはガーネットと先生方が今後の扱いを決めるそうだ───そう考えると、ガーネットってもしかしたら結構な家の生まれなのかもしれないな。



「にしても何でアイギスしか見舞いに来てくれないんだ? 僕ってもしかして結構嫌われてたの?」



僕は先程から妙に気になっていたことをアイギスへと聞くと、彼女は心底呆れたような表情でこう返してきた。



「そんな訳ないじゃないですか......。今は平日の真昼間、つまりは授業中ですよ? その時間帯に『生徒』が授業を抜け出してここに来るわけには行かず、その上大人数で押しかけるのもはばかられる。というわけで、私がジャンケンで勝利を収めてここへとやってきたんですよ」



アイギスはそう言うと、視線で「何かご不満でも?」と聞いてきたので僕は笑って首を横に振った。



「お前が見舞いに来てくれたことは、嬉しくはあっても残念には思わない───つまりは超嬉しくてテンションMAXという事だ。残念だったなアイギスよ」


「も、もうっ、そういうことをそんな状態で言わないでくださいっ!」



そんなこんなで、赤くなった顔をりんごを剥くことで紛らわそうとしているアイギスを見ながらニマニマしていると、どうやらこの病室へとご来客があったようだ。


絶対安静ということで、毎朝のランニングやヌァザの神腕の連続使用耐久レース、純水に魔力を溶かす修行はもちろん、今や僕の代名詞ともなりつつある......かは分からないが、月光眼すらドクターストップがかかっている。


そのため今の僕には素の状態での気配察知能力しかないのだが、そのパタパタという足音は今の僕でも十分に察知できた。



やがてその足音は僕の病室の目の前で止まり、しばし『...ここで病室あってるよね?』と『はぁ、はぁ、しんどっ』という時間を経て、ノックも無しに扉が開かれた。




然して、そこに居たのはオレンジ色の後輩で、





「んもぅ! 探しましたよぉ、先輩ーっ!」





相も変わらず、甘ったるい声を出してズカズカと病室へと進入してきた。



───チッ、魔法の許可さえ下りれば今すぐにでも排除してやるのに。



そんなことを思ったが、残念ながら現実は変わらなかった。




☆☆☆




「なに? お前学校サボって大丈夫なの?」


「なーに、そこら辺はコネと権力でずずいのずいっ、って感じですよー」



ガーネットはベットに腰を下ろしてこちらへとくるりと視線を向けると、そう言ってキャピッとあざとすぎる笑みを浮かべた。


コイツ......、あんな事件があったばかりだってのに良くもまぁこんなことが出来るな。ただのバカビッチかはたまた狡猾なクソビッチか───まぁいずれにしても、ビッチだということには変わりはない。



今現在、アイギスは『中抜け』という形でここへ来ていたため、なぜだか妙に僕へと懐いているガーネットと、病室で二人きりになってしまったのだった。


───後半だけ聞けば何だかアダルティだな、おい。



「まぁいいや。おいビッチ」


「び、ビッチですとー!? 私はこんなに形ですけどまだ誰かと付き合ったこともな.........っは!? い、いきなりなにいわせようとしてるんですか!?」



僕の呼びかけにビックリして立ち上がったガーネットは、聞いてもいないし興味もないのに自爆した───なるほど偽ビッチだったか。


ここでにへらと笑ってからかうのもまた一興ではあったが、僕はぐっと我慢して少し真面目な表情を顔に貼り付けた。



「それで? その後の経過はどうなってる?」



その言葉を聞いた途端何故か微妙な表情を浮かべるガーネット。嬉しいような嬉しくないような、そんな感じのなんとも言えない表情だ。



「うーん......。簡単に言えば万事解決の上で、更にその他のことまで全てうまく事が運んでるって感じですよ?」



然してガーネットから返ってきた言葉は、案外呆気ないものだった。



「あの女子グループは先輩の言葉に心を打たれたみたいで、普通に今は私と仲良く学園生活を謳歌してますよ? ストーカー二人に関しては一号......先輩が瞬殺したっていう人は説得に時間がかかったみたいですけど、二人共呆気ないほどに改心してました」


「うはぁ......、信じられないくらい上手くいってるな。これは久しぶりに大成功した予感がするぞ?」



僕はガーネットの言葉を聞いて思わずそう呟いた。




───だが、何故かハッピーエンドで終わりそうな現状なのにも関わらず、ガーネットの浮かべる表情は苦悩と呆れに塗れていた。



どうした? という僕の視線を感じたガーネットは、懐からオレンジ色のスマホを取り出して何か操作した後に僕へと渡してきた。


然して、そのスマホに映っていたのはとても見覚えのある黒髪の男子生徒で、






『僕以外のッ、必死に今を生きている奴に向かって、何も知らねぇ野郎が勝手な口を聞くんじ...




───瞬間、そのスマホの電源を切った。



「ああぁー、ちょっと電源切らないでくださいよっ! せっかく先輩が自分で言ったクサいセリフを聞き直して悶絶するところなんですからー」


「いやちょっと待てガーネット。なんだ今の動画、明らかに今僕が映ってたよな?」



僕の手からスマホを取り返したガーネットは、僕の質問を聞いて少し嫌な顔をした後、本当に嫌々そうに話し始めた。



「実は、あの日に集まってくださった生徒会や風紀委員会の人たちの中にこの動画を撮影した人がいまして......。その動画がこの学園の生徒達が集まるスレに載った途端にこの動画が一躍有名に。それで今現在進行中で先輩のファンが急増中、って訳なんですよーっ」



瞬間、僕の頭脳は久方ぶりに急行運転をしはじめ、ガーネットが告げたその衝撃的事実とそれに伴って起こるであろう未来を想像する。



───然して、数秒かけて僕が考え、至った結論としては。





「はぁ......、面倒くさいことになりそうだ......」




色々なことを総合して、その一言に尽くせるのだった。




☆☆☆




僕がため息をついて項垂れていると、僕の前方からなにやら視線を感じて顔を上げた。


するとそこには、彼女がベットの上で四つんばいになって僕の方を見つめており、その澄み切った青い瞳には少し戸惑った様子の僕の姿が映っていた。



「うーん......、こんなもんでしたかねぇ?」


「ねぇ、って聞かれても知らないんだけど。それとこんなもんってどういう意味だ、このビッチ」


「ちょっと先輩っ! 先輩、つい先日『ガーネットだって努力してるんだ』とか言ってたじゃないですかーっ、なのになんでそういう酷いこと言っちゃうんですかっ!」


「......はっきり言ってほしいか?」


「いいですよ、もう......」



ガーネットはそう言うとツーンとそっぽを向いて頬を膨らませた───可愛いけどきっと計算してやってるんだろうなぁ。



僕はそんなことを思いながら、今度はこちらからガーネットの方を見つめ返す。




リリー・ガーネット。



どこぞの貴族の令嬢で、普段はビッチを連想させるような口調や態度で周囲に接し、その度に賢い者や同性たちからは嫌われてきた女の子。


けれど、その根底にあるものは『人に好かれたい』という純粋な気持ちなのだろう。


人に好かれたいからこそ、そういう性格を装って、装い慣れてしまったが故誰に対してもそう接してしまう。



───否、僕の前ではそこまで装ってはいないようだが、それは単純に僕がアウトオブ眼中なだけだろう。実に嘆かわしいことだ。



まぁ、きっと今のこいつは特定のとある男子から好かれたい、という一心で行動しているのだろうが......、そこら辺は頑張れとしか言いようがないだろう。アイツの攻略は難しそうだからな。



僕はため息をひとつ吐くと、シッシッ、と猫でも追い払うかのように手を払って出ていけとジェスチャーをする。



「僕のところに遊びに来るほど暇ならディーンの攻略でも進めとけ。難易度高そうだけどな」



僕がそう言うと、一瞬ガーネットは怒ったような顔をしたが、すぐに何やら閃いたような笑みを浮かべ、ちょんちょんちょん、と数回ジャンプして僕のすぐ隣までやってきた。


僕がベットから見上げたそこには、少し恥ずかしそうな表情を浮かべた彼女の姿があり、僕は初めて見るであろう彼女の素の部分に思わずドキッとしてしまう。




「そ、それじゃあ、これからもディーン先輩を落とすのに、相談に乗ってもらえますよね?」




その言葉にはいつものようなあざとさは存在せず、そこに居るのは少し頬を赤く染め、不安そうな表情を浮かべた一人の女の子。



その姿を見て、僕は思わず生唾を飲み込み、頷いてしまう。







───が、それがいけなかった。





「それじゃー毎日遊びに行きますからねーっ。もちろんお茶とお菓子はよろしくおねがいしまーすっ!」




瞬間、先程までの雰囲気はどこへ行ったのか、にぃっと殴りたくなるような笑みを浮かべたガーネットは、最後に僕に言いたい事だけ言い捨ててから逃げ出した。



そして、数秒経ってからまんまと騙されたことに気がついた僕は、





「あ、あの野郎ッッ!!」






───ガーネット、アイツはいつか、刺されそう。




そんなテキトーな川柳っぽいことを考えて、大きく深い、ため息を吐いた。


という訳で、リリーの依頼も終了です。

次回、すこーし変な閑話を挟んで次はまた違う行事ですね。お楽しみに。

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