第204話
あぁ、スランプ気味です。執筆時間より裏でなにかしてる時間の方が多くなってきました。まぁ、ここまで来たのですし最後まで頑張りますが。
※本日二話目です。
───翌日。
「せーんぱいっ、お昼一緒にどう...です......あっ」
いきなり昼休みに僕のクラスへと突撃してきたガーネットは、僕から見て右側の方を見て固まっていた。
その視線を追ってみるとそこには困ったような笑みを浮かべたディーンの姿があり、ガーネットへと視線を戻すと、先程まで僕の方へと向いていた彼女は恋する乙女の顔をしていた。
───あぁなるほど。ガーネットはディーンのことが好きなのか。
僕は一瞬でそこまで思考が回ると、なるべくガーネットの邪魔をしないように気配を少しずつ薄めていった。
噂で聞いた話だと、ディーンもガーネットも生徒会の役員だそうで、今見た感じだとガーネットは結構真面目にディーンに惚れ込んでいるように見える。ビッチも一皮剥けばタダの乙女ってことか。
と、そんなことを考えると同時に、僕はガーネットへと告げた作戦の内容を思い出した。
名前をつけるとしたら『嫉妬おびき出し大作戦』と命名するが、おそらくはもう二度と呼ぶことはないであろうこの作戦の内容はとても簡単。
単純にガーネットが誰か特定の男子とイチャつきまくり、それを周囲へと見せつけさえすればストーカーはいとも簡単に釣れるのではないかという作戦だ。
まぁ、元々は僕相手に「仕方ないですねぇ、先輩とイチャついてあげますっ」とか言っていたが、ガーネットが僕の目の届く範囲内に居てさえくれれば誰とイチャつこうと問題は無い。
───問題はその背後にいる女子グループについてだが、これに関しては僕が自力で何とかするしかあるまい。もしも面倒くさくなったら恭香にでも教えてもらおう。ズルしてる感満載だけど。
さてさて、それじゃあストーカーはどれだけこの光景を見続けることが出来るかな?
僕は満面の笑みを浮かべているガーネットと、少し困ったような笑みを浮かべたディーンを見て、まだ見ぬストーカーへとほくそ笑んだ。
☆☆☆
時は流れて放課後。場所は校舎のすぐ側にある庭園である。
「粘るねぇ......」
僕は嫌味かと思う程に雲一つない青空を見上げて、そう呟いた。
視線を下げると、その先には二人一組のペアとなって学園内の見回りをしているディーンとガーネット。
流石はガーネットと言うべきか、見回りとは口だけで実際のところはこうして庭園でデートしている。
そうして僕は、なるべく目立たないようにひとりでガーネットを護衛しているというわけだ。
───と言っても一つほど僕へと熱い視線が送られてきているため、やはりストーカーさんは振り切れなかったようだが。
閑話休題。
まぁ、ここまで公にディーンへと手を出せば目立つし、もちろんガーネットに執着しまくっているストーカーが見逃すはずもない。
───が、どういう事だろうか? 憎悪の視線はガーネットへと向かってはいるが、残念ながらその視線の中に男性らしきものは無い。
つまりは、ストーカーはディーンとイチャついているガーネットに対して憎悪を抱いていないのだ。
......いや、もしかしたら今日は学校を休んでいるのかもしれないし、はたまた気がついていないのかもしれない。
「うーん......、もう少し待ってみるか」
僕はそう呟くと、校内へと引き返してゆく二人の後ろを追跡する。
ディーンとガーネットの美男美女カップルは高等部の廊下を歩いて周り、少しはしゃぎすぎているものを見つければ注意し、そして再び見回りを再開させる。
廊下、訓練場、図書館、そして『本当の』部室が並ぶ部室棟の方まで見回りをし、その度に注目を集めまくっていた───もちろん僕達の部活は人数の少ない『クラブ』なので、普通の校舎に入っている。
とまぁ、そんなこんなで完全帰宅時間を迎え、結局二人は生徒会室の中まで入っていったのだった。
───っておい。何にもなかったんですけど。
僕はあまりにもあっさりし過ぎた初日に、思いっきり肩を落として歩き出した。
気づいたことといえばやはり二人は目立っているということと、僕へとスメラギさんらしき熱い視線がずっと注がれている事だ。
それに、やはりガーネットはあの雰囲気とやらかしていることから、さして内面を知られることなく嫌われまくっているということだ。主に女子達と中途半端に賢い男子から。
「はぁ......、もう少し皆が皆平和に暮らしてもらえないものかね」
僕は歩きながら、そうため息混じりに呟くと、それとほぼ同時にカツカツと足音が聞こえ始めた。
その明らかにこちらへと向かっているであろう足音に気が付き振り向くと、そこには何故か出てきたスメラギさんが立っていた。
明らかにストーキングしていたのであろうスメラギさんを見て、僕は『仕事しろよ風紀委員長』的な、冗談交じりの嫌味でも言ってみようと思った
───のだが、
「おお、奇遇ではないですかギン様。丁度風紀委員が使っている教室の鍵を返しに来たところですが、ギン様も部活の帰りですかな?」
「.........はっ?」
嫌味をいう前に先制されたその言葉に、僕は思わず間抜けな声を出してしまった。
───ギン様も部活の帰りですかな?
それに加えて、鍵を返しに来たというその言葉。
月光眼で見る彼女からは悪意は何も感じられず、悪意がないということは、よほどのことがない限り嘘をついている訳では無いということ。
つまりは彼女は今委員会の帰りであって、今日一日はストーカーなどせずに風紀委員長として執務に励んでいたわけだ───何せ、この人は公私をきっちりと分けることが出来る人だからな。
───となると、だ。
ガーネットたちを追跡していた時に僕のことをジィっと見つめていたあの視線───否、今になって思えば睨んでいたのかもしれない。
自分以外の、ガーネットをストーカーしている同類に対しての恨みと嫉妬、そして怒り。
いや、きっと本人は自分のことが正しいと思いこんでいる。
だからこそ自分がストーカーなどと思ったことすらないだろうし、恐らくそいつが思っていることは、
『愛しのリリーを陰湿にストーキングしているあの男を、自分の唯一の立場を奪いかねないあの男を、自分が排除せずに一体誰が排除するんだ』
きっとそれだけで済むだろうし、だからこそ奴は僕がリリーから離れて無防備になる時を窺った。
───が、なかなか僕は一人にならず、終いにはガーネット以外の女子と楽しそうに会話をしている(客観的&美化済)。
ならば、きっとそのストーカーは────、
「うおぉぉぉぉっ!! ぶ、ぶっ殺してやるッッ!!」
その声に振り向けば、廊下の角から現れた男子生徒が、こちらへとナイフを構えて突撃してくる様子が窺えた。
はぁ......、ナイフ一本で不死の吸血鬼を殺せるとでも思ってるのか、この馬鹿は。
「よし、ポケ○ンゲットだぜ」
僕は形状変化で右の袖口から常闇のローブを大きな拳の形へと変形した上で出し、その男へとカウンターパンチを食らわせた。
───にしても何がポケ○ンだよ、ただのストーカーじゃねぇか。
自分の言った言葉にそんなことを思いはしたが、その大きな黒い拳の向こう側には、いい具合に気絶した男が倒れていたので良しとしよう。
「な、なな、何ですか今のは!? 私にはナイフを持っていたように見えましたし、何よりも今のは確実に殺す気の攻撃でしたぞ!? そもそもこの黒い手は何なのですか!」
「あー、今回はお前あんまり関係なさそうだから、今日は帰ってもらっていいぞ。オウカ」
「はっ! 全力を持って帰らせていただくであります!」
僕の声を聞くと同時にシュタッと帰宅路についたスメラギさん。いやはや扱いやすくて結構なことで。
僕は一応グレイプニルを召喚してその男子生徒を簡潔に、けれどしっかりと解けないように縛り上げると、そのまま引きずって生徒会室へと連れていくことにした。
───さて、ストーカーは捕まえたし、残ってる問題は主犯の女子生徒たちだけだろう。
☆☆☆
僕は生徒会室からあまり長い距離歩いてはいなかったため、さして時間がかかること無く目的地の生徒会室へと戻ってくることが出来た。
別に学園長室や職員室へと連れていってもよかったのだが、近い上に一番の関係者のいる生徒会室へと連行するのが一番だと思ったため、僕は迷わずここを目指した。
───のだが、何やら生徒会室は遠目にも忙しそうにしているのが見えた。
僕が少し訝しげに近寄ってゆくと、ちょうど生徒会室から腕に『生徒会』と書かれた青い腕章を付けた生徒達が出てくるところだった。
おそらくはあのメンバーが生徒会のメンバーなのだろう───にしても腕章カッコイイなおい。風紀委員も緑色の腕章してるし。
と、そんなことを考えていると、その生徒会のメンバーがこちらへと歩いてくることに気がついた。
───が、何故かその先頭を歩いている奴は僕の知っている奴だった。
「やぁ、ギン。なかなか私のクラスに遊びに来てくれないから少し寂しかったよ」
そんなアンナさんが鼻血を出しそうなことを口に出した優男は、この国の第一王子ギルバートであった。
だが、僕はギルバートの言葉よりも奴がしている少しゴージャスな腕章が気になってしまった。
その腕章に書いてあるのは『生徒会』ではなく『生徒会長』。
───生徒会長?
「え、何お前生徒会長だったの?」
「......これでも一応、最初の全校集会でステージに上がったはずなんだけどな」
「ち、ちなみに私もいるのよー!」
僕はいきなり混ざってきたルネアを無視して記憶を呼び起こすと、何とか辛うじて、ギルバートがステージに上がっている映像を思い出すことが出来た。
たしか『何でこいつステージに上がってるんだ? 王族だからかな?』とか思った記憶があるが......うん、どうでも良すぎて描写すら省いてしまったらしい。
僕はそこまで考え至ると、そう言えばこの生徒会メンバーの中にお目当てのガーネットの姿がないことに気がついた。
───それと同時に、少し嫌な予感を感じ取った。
僕は引き摺って連行してきたストーカーを彼らの前へと放り投げると、その嫌な予感の正体を探るように彼らへと問いただした。
「この男はガーネットのストーカーだ。ガーネットに直接引き渡したいからとっとと奴を出せ」
問いただしたと言うよりは半ば命令のような口調ではあったが、僕の失礼な言葉など気にした様子もなく生徒会役員共は悔しそうに顔を歪める。
───あぁ、嫌だ嫌だ。こういう様子を見てすぐに正解まで至ってしまう僕の頭脳がたまに嫌いになる。
大は小を兼ねるとは言うけれど、大きければ───優れていればそれだけいいというわけでもない。たまには僕も何も知ることなく楽をしていたいものだ。
僕は一つため息を吐くと、僕の頭がはじき出した一つの予想を口に出した。
「まさか......、攫われたとか言うんじゃないよな?」
───果たして、彼らから帰ってきたのは首肯だった。
リリーちゃん誘拐!
銀も久しぶりに油断しましたね。
視線を感じた際にその主を確認しておけば、また現状も変わってきたのかもしれませんし、何よりもリリーから目を離すべきではありませんでしたね。
次回! 攫われたリリーの行方はいかに!?




