第200話
何だか一日の閲覧数が普段の1.5~2倍くらいに増えてて正直焦ってます。
一応前まで付けていた旧題を消したのですが......、それだけでこんなに伸びるものなのでしょうか?
「『退魔の銀槍』!!」
僕はそう言うと同時に上へとあげていたヌァザの神腕をオークキングへと振り下ろす。
それと同時に空中に浮遊していた炎と氷の槍が、オークキングの大きな身体めがけて、ギュンッと一直線に発射される。
───が、霊具レベルリセッターは神器の能力さえも低下させるのだ。
『フンッ! ソンナチンケナ魔法ナド効クモノカ!』
オークキングはそう言うとすぅ、と息を吸い込む。
───おいおい、まさかだろ......?
僕は咄嗟に横っ飛びし、両腕で耳を塞いで口を開く。
まさかとは言ったが、ここであのオークが使えそうな手段とあの予備動作を考えれば......、まぁ、自ずと答えは見えてくるわけで。
『ブオァァァァァァァァァッッッッ!!!!』
瞬間、オークキングが大気を震わせる咆哮を上げ、大地はカタカタと揺れ、周囲の木々はへし折れる。
その影響を受ける対象は僕が放った『退魔の銀槍』も例外ではなく、その咆哮とは名ばかりの衝撃波に片っ端から霧散してゆく。
───その様はまさに化物。
こんなバケモノ相手に勝てるのかという気持ちと、その化物すら圧倒できるフルパワーの僕の力を再び実感した───本当はしたくなかったけれど、してしまった。
「クソッ......、封印されてたからかは知らないけど、よっぽどあの時の輝夜よりも強いじゃないか!」
きっとナイトメア・ロードは、オークキングよりも下位に位置するSSSランクの魔物なのだろう。
その上で長年の封印+死神ちゃんのダンジョンに居たという事で、おそらくあの時の輝夜はかなり弱体化していたのではないかと思う。
───が、そうなるとこのオークキングはあれの比にならないほど強いということになる......か?
.........いや、違うな。きっとあの時の輝夜はかなりフルパワーに近かったのだろう。
それでも尚僕が『オークキングの方が圧倒的に強い』と感じているのは、輝夜には『世界構築』があったからだ。
おそらく世界を探しても僕と輝夜しか持っていないであろう、最高にオリジナルで最強に凶悪なユニークスキル。
世界構築のスキルを考えれば、まぁ輝夜のステータスがその分低いことも頷ける。
───ちなみに今では世界構築に冥府の門、更にはソロモンの指輪まで揃っている癖に、何故かステータスは白夜達と同位なのだ。今の輝夜は本当にチートだと思います。
閑話休題。
兎にも角にも、他のナイトメア・ロードはまだしも、あの時の輝夜とこのオークキングが戦えば間違いなく輝夜に軍杯が上がる。
───だがしかし、だからといって僕らが勝てるかと聞かれれば首を横に振るしかあるまい。
あの時の輝夜と同レベルのステータスなら全員で攻めればなんとかなるのではないかと思ってたが......、どうやらそうは問屋が卸さないらしい───あぁ、ご都合主義万歳。
まぁ、そんなこんなで僕が鑑定したオークキングのステータスが、これだ。
種族 オークキング(8432)
Lv. 962
HP 102600
MP 1200
STR 99880
VIT 100000
DEX 31160
INT 15600
MND 12890
AGI 60400
LUK 31
ユニーク
王の咆哮Lv.3
限界突破Lv.1
アクティブ
身体強化Lv.3
パッシブ
大剣術Lv.3
体術Lv.3
並列思考Lv.2
痛覚耐性Lv.2
毒耐性Lv.3
称号
豚の王 竜殺し
これぞSSSランク、そう言わざるを得ないステータスである。
何せあの時の輝夜の二倍のステータスを誇っているのだ。正直言ってこのステータスを見た上で勝てるようなビジョンが浮かばない───最終的にはあの手を使うしかなくなるかもしれない。
「けどまぁ、今はやるべき事をやるしかないよな」
僕はそう言ってニヤリと笑みを浮かべると、少し大きな声でみんなへと告げた。
「おいお前ら! 今日の夜ご飯は超高級食材を使った豚丼だぞ! だからとっととこの豚を始末しちまえ!」
しかして僕の言葉に悪い笑みを浮かべる仲間達と、それに少し怯えた様子を見せるオークキングを見て、僕は意気揚々と駆け出した。
───もちろん、その肉をどこで調達するかは言うまでもないことであろう。目の前にいるのだし。
☆☆☆
僕はオリビアと一緒にオークキングの周囲を周りながらも、隙を見ては攻撃、そして逃げるを繰り返していた。
オークキングも僕達の攻撃にはイライラしているのだろうが、残念ながらオークキングの前には四人の強者たちが居る。
「ハァァッッ!! うらァァァっ!!」
黒と赤の軌跡を描くダーインスレイブを振りながら、少しずつ少しずつオークキングの身体に癒え難い傷を描き、体力と魔力を同時に奪ってゆくマックス。
「ハッ! たァァっ!!」
縁が金色の白銀の大盾───聖盾イージスを手に持ち、もう片方の手でロンギヌスの槍をオークキングの体に突き刺すアイギス。
───ちなみにロンギヌスの槍の能力は『闇キラー』『雷支配』『超回復』『破壊不能』の四つである。闇キラーって何だ、闇キラーって。
「クッ......、フランと請け負う立ち位置間違えたかもしれないわねッ!」
同じく大盾を手にオークキングの持つ大剣を次々といなし、躱し、受けとめて相手をひきつけているサインさん。
アイギスのように強力な武器やスキルを持っているわけでもないのにとんでもない強さだ。
「おーっほっほっほ! さぁさぁ皆さん頑張りましょう! 私たちには食後の豚丼が待っておりますことよ!」
オークとセットにすればとても良く似合う女騎士───鳳凰院も大盾を持ってオークの攻撃を受け止めている。
何事か言っているが、きっとあの言葉が鳳凰院の『鼓舞支援』と言うスキル発動へと繋がっているのだろう。先程から確かに力が溢れてくるようだ。
───とまぁ、強力すぎるタンク三名に、一度でも切られれば魔力と体力をごっそり持っていかれ、更には傷も治りにくくなるという馬鹿げた効果の魔剣持ち、それらの計四名を一度に相手せねばならないオークキングは、僕ら二人の遊撃にまで意識を割くことは出来ないようだ。
「まぁ、そっちの方が僕らとしてもやりやすいんだけど......なっ!」
「ハイなのですっ!!」
僕はタタンっと空を蹴り上がり、両手に持った氷魔剣を、直感が赴くままにオークキングの肩口へと深々と突き刺した。
気配を今出来る範囲で限界まで薄くした僕の攻撃は何かをブツンッと切り裂き、それと同時にオークキングが悲鳴をあげる
───かのように思えたが、残念ながらそれどころではなくなってしまったようだ。
ドガァァァァンッッ!!
と高速道路で軽トラにでも轢かれたのかと錯覚するような衝撃が走り、背中に洒落にならないほどの痛みが走る───オークキングがね。
『グガァァァァァッ!? ナ、何者ダァァッ!』
オークキングがあまりの痛みに後ろを振り返ると、そこには身体からオーラを吹き出しているオリビアが、オークキングの足へともう一度右ストレートを入れようとしているところであった。
流石にオークキングもこんな小さな少女が出した威力ではないと思ってしまい硬直したが───残念ながら野生の勘だけは誤魔化せなかったようである。
オークキングはオリビアの拳が足へと届く前にその場を飛び退き、ゴロゴロと地面を転がって少し離れたところで立ち上がる。
───けれど、どうやらそこも安全地帯とは言えないようだぞ?
「技名なんざねぇが、これでも食らって出荷されちまえ豚畜生」
オークキングの背後に迫ったクラウドが、腰に差した霊刀ムラマサへと手を伸ばす。
しかし、また野生の勘でも働いたのか、そのクラウドが刀を放つであろう場所を腕でガードするオークキング。
流石に霊器とはいえ、格上の───それも攻撃と防御に特化したこの化物の腕を貫通するなど不可能だ。
そう思っていた僕だったが、クラウドが放ったその刀はオークキングの腕を透過し、そのままやつの胸へと真一文字を刻み込んだ。
───だが、
「チッ、浅かったか!」
驚いたのもつかの間、どうやらオークキングは咄嗟に上体を後ろへと逸らす事で、斬撃の威力を軽減させたようだ。僕の月光眼はその傷が浅いことももちろん見透かせる───にしても、奴の野生の勘は本当にシャレにならないらしいな。
───あぁ、そう言えば。それらに加えて、僕らの攻撃がさしてこのオークには効いていないということも僕は知っている。
あのオークキングは賢い。
ステータスの値を度外視しても十分に人と同格かそれ以上に賢い頭を持っているのだろう。
だからこそやられているフリをしている。痛いフリをしている。劣勢なフリをしている───そしてそれが誰にもバレていないと思い込んでいる。
『ウガァァァァァッッ!!』
まるで焦って放ったように見えるように大剣をなぎ払い、それをクラウドがなんとか避けたところで、少し大げさに肩で息を整えている。
勿論その際は大剣を地面に刺しているし、オークキング自身もその場からは動いていない。
───けれど、もしもそれが全て予想の範囲内、否、全て誘導されたものだったとすれば?
あの賢いオークが予想していなかった───予想出来なかったことは主に二つ。
「ここには神器とユニークスキル、騙し合いに関してなら世界トップクラスを自称するこの僕と......」
「頭脳も身体能力も、ユニークスキルも世界最高峰のこの私がいる事を想定するべきだったな!」
瞬間、そのオークが大地へと刺した大剣を中心として巨大な魔法陣が完成する。
それは間違いなく浦町の『孔明の陣』による魔法陣ではあったが、その魔法陣全体が放つ魔力は今の僕の全魔力にも比肩する。
───察しのいい人ならばもう分かっているかもしれないが、浦町は今現在、僕の本体と後衛で手を繋いで魔力を共有していた。
『開闢』
ほとんど使う機会のなかったこのスキルだが、どうやらこのスキルは仲間と共に戦う上では非常に有用なようだな。
視線を魔法陣の中のオークキングへと向けると、どうやら浦町がコソコソと組んだ術式の通り動きが制限されているらしく、動けてはいてもそれは素の僕よりも遅いような動きだった。
「わ、悪いな銀よ......、どうやら魔力が尽きてしまったようだ」
そんな申し訳なさそうな声と共に僕の手を握るその手から力が抜け、倒れ込む前に僕がそっと抱き寄せた。
「こっちこそ悪いな。本当ならまた魔力を分けてやりたいところだけど、先にあのオークを片して来る」
僕は浦町の身体をそっと横たえると、後はすぐ側で顔を真っ赤にしていた桃野へと任せることとしよう。
「『ここは理想の根源、紅月照らす幻想の終着点』」
僕は今まで仲間と戦うことを拒んできた。
「『我は夜を統べる孤高の王』」
それは僕がアイツらを傷つけたくなかったからで、なによりも、そんな危険な目に遭うのは僕一人で十分だと思ってきたからだ。
「『我が正義に従い夜の世界へと導びかん』」
けれど、力を失って、自分の無力さを実感して、その仲間に守る対象として見られるようになって、そうしてやっと気づくことが出来た。
───守られる側はとても悲しくて悔しく感じる。
───頼られるのはとても嬉しくて、とても辛いことだ。
───仲間が傷つくのはとても悲しいことで、なによりも自分の心が痛くなる。
きっとこれらをすべて解決せしめる最適解など存在しないのだろう。
僕がそれらの立場を知って出した答えは結局はそんな程度だし、たったこの数週間で何か考えが変わる訳では無いとは思う。
───けれど、それらが僕に対して何の影響も及ぼさないというわけでは無いのだ。
僕はパンっと合掌し、自らの世界をこの世界へと顕現させる。
「『幻想の紅月』」
瞬間、僕等がいた世界が一瞬にして僕の世界へと書き変わり、景色が一変する。
そこはかつて僕が父さん───神王ウラノスによって連れてこられた心象世界。
紅月の浮かぶ雲一つない空に、地の彼方まで薄く水の張った大地。
───唯一あの時と違うのは、その世界が朝ではなく夜だということ。
「悪いなお前ら。このオークはここで仕留めておきたくなったから力を貸せ」
僕は位置変換で皆の前へと躍り出ると、まるで僕がそうするのが最初からわかっていたかのように我が眷属たちが進み出てきた。
「全くもう、こんな切り札があるなら最初から言っておいて欲しかったのです!」
「まぁ落ち着けよ、コイツの性格なんざわかった上で俺達はここにいるんだろ?」
「まぁ、分かっているからこそ、こんなにも嬉しく感じるんですがね」
オリビアの身体から溢れ出るオーラがさらに勢いを増し、
マックスの左手には真っ赤に燃え盛るひと振りの魔剣が召喚され、
アイギスの体からバチバチと雷が放電する。
「足でまといになるなよ? 我が従僕共」
「「「守ってやるから安心しろ、我が主人」」」
ずっと前からこういう場面の為に練習していたのではないか。
そんなことを思ってしまうような三人の声を聞いて、僕は思わず笑みをこぼした。
───何が『守ってやる』だ。口調もおかしいし、なによりも主人に対して言葉がなってない。
「けどまぁ、それはひとまず後回しだな」
僕は視線をまっすぐ前へと向けると、今の僕の全魔力を浦町に分けて作った魔法陣をオークキングが破壊したところだった。
もはやその顔に知性は見当たらず、先程までまんまと罠に嵌められていたことに対する怒りと、僕らに対する明確な殺意のみが見て取れた。
───怒りも憎しみも殺意も。全てを受け止め、そして赤い影に沈めてやる。
僕はアイテムボックスからブラッディウェポンを取り出すと、その切っ先を標的へと向けてこう告げた。
「これより、執行を開始する」
やっと仲間を頼るようになりましたギン君です。
一応霊器によるパワーダウンはこういうのも見越してのことでしたが、それでも本来の目的はギン自身のパワーアップです。ここら辺から加速度的に強くなっていきますのでお楽しみに。




