第21話
今回の主人公は多少俺様です、ご注意を。
『吸血の禁断症状』
そこ言葉を聞いて、僕は思わず腕の中にいる白夜を見てしまう。白夜も今の話をずっと聞いていたのか、こちらの事をじっと見つめていた。
「な、なぁ恭香? それってやっぱりマズイのか...?」
『...うん。マスターは今の今まで1度も血を吸ってこなかったから、ブラッドナイフで何とか騙せていたとしても、このままだったら1日と経たずに死んじゃうんじゃないかな...』
この中での時間の感覚はとても曖昧だけれども、それでも僕が身体に血を取り込んでだ際の気絶から起きてから、1日経ってるかどうかなのだろう。竜種に会って殺されかけ、大蠍と邪竜に連戦して吸血の禁断症状に悩まされている今。
どれだけ濃厚な時間過ごしてるんだよ、って感じだよな。
実感としてはもう3日間目くらいの気分だしね。
「なぁ、何とかならないのか?」
「ダンジョン内のゴブリンや、ボスクラスの相手の血を吸うか、それとも......」
いや、分かっているさ。
僕に残された生きるための道は3つ
ゴブリンの血を吸うか、
また新しいボスを倒してその血を吸うか、
白夜の血を吸うか。
☆☆☆
「あ、主殿っ! わ、妾の血を吸って欲しいのじゃ!」
やっぱりというか、なんというか。
僕は、先程までの会話を聞いていた白夜はきっとこう提案してくるだろうと確信していた。
白夜は先程まで僕たちから捨てられると思って泣いていたのだ。自分の唯一の取り柄である強さが僕に劣ってしまったら、それだけで自分の存在価値など無くなってしまうだろう、と。
そんな時、僕の吸血の不足、という重要な問題が出てきた。確かにそこら辺のゴブリンたちを取り押さえて血を吸えばさらに生き延びられることだろうし、次のボスの相手が第1型だったならば、その相手の残った死体から得た血をアイテムボックスに入れて保存しておけば、何の問題もないだろう。
だが、白夜はここに目をつけたのだろう。
確かに僕だって魔物何かの血──それもゴブリンのような汚い奴の──なんて飲みたいとも思わないし、出来るならば人間の血が飲みたい。白夜は僕のこの感情を利用しようというのだろう。
血を飲んでいいから、どうか自分を捨てないでくれ。
どうかここを自分の居場所でいさせてくれ、と。
皆もそろそろ僕の性格分かってきただろう?
こんなに思われて、血を吸ってくれと懇願してくる幼女を目の前にして、人畜無害な超優しい人間である所の僕が言う言葉なんて決まっているじゃないかっ!
「はっ! 絶対嫌だねっ!」
そう、拒絶である。
僕は目の前の白夜の両頬を片手で押しつぶしながらとっても嫌みったらしく言ってやった。
それにしても予報以上に蛸みたいな顔になったな...。
「ふなぁっ!? ひゃ、ひゃんでじゃぁ!!」
今にも泣きそうな顔をしながらそう問い詰めて来る白夜。
先程までの優しそうな表情とは打って変わって、意地悪そうな表情を浮かべた僕に思わず不安になってしまったのだろう。
「は? 何を言ってるのか聞こえんなぁ? おい、もっときちんと喋れよ、雌豚が」
「ふにゅぅぅぁぁ!! 主殿は酷いのじゃぁ!」
流石にこの状態では興奮もなにも無いのか真っ赤になってこちらの手を振り払ってくる。
「何故じゃっ! 妾の血では不満だと申すのか!? な、ならばどうすればいい!? 妾がお主の力になるには一体何をすればよいのじゃっ!?」
僕の事を初めて「お主」と呼び、主としてではなく、1人の吸血鬼として相手をしている、そんな白夜を見て少し笑ってしまう。
「くっ! なんじゃ!何なのじゃっ!? 何故妾だけがお主の役に立てんのじゃ! 妾だって! 妾だって...お主の力になりたいのじゃぁ! 」
白夜の、ずっと押し込めてきた不満が爆発する。
「お主がずっと一緒に居てくれると言った時、妾はとても嬉しかったのじゃっ! だがっ、何故妾はそんなお主になにも恩を返すことが出来んのじゃ! 死にかけの所を助けてもらったばかりか、仲間として受け入れてくれたっ! 妾はっ、妾はそんなお主に恩返しがしたいのじゃっ!」
確かに白夜からしてみればそうだろう。
生まれてきてからずっと独りぼっちで、群れを出てからも500年間ずっと独りで生き続けた。
そんな彼女が初めて出会った仲間。
その仲間は自分のことを頼りにしてくれて、性癖をさらけ出しても一緒になって笑ってくれる。まさに生まれて初めての楽しい時間だったのだろう。
けれどもその仲間は目を見張るほど成長を見せ、自分の唯一の取り柄である強さだったが、それも危うくなってくる。
そして遂にその仲間が言ってしまったのだ。
──自分を超えてしまうだろう、と。
その時彼女は、自分の中の何かが崩れる音がした。
気づけば彼女はその仲間の腕の中で泣いていた。
その仲間は自分を撫でながらも、一緒にいてくれると約束してくれたが、逆に彼女の中には罪悪感が芽生えていた。
ここまでしてくれる仲間に、何故自分はなにも返せないのだろうか、と。
そして今さっきの吸血についての話だ。
「まぁ、そりゃ爆発もするよな...」
人の心に芽生えた罪悪感。
僕は日本に住んでいた頃から、罪悪感に呑まれて心を壊してしまったという人を何人も見てきた。
人はその罪悪感から逃げる為に、仲間を作り、傷を舐め合い、お互いに大丈夫だ、何とかなると言い聞かせる。
だが今回、白夜にはその相手がいなかった。
その上、彼女の精神年齢は10歳だ。
罪悪感が募り、それが爆発するのは時間の問題だったろう。
僕はこういう相手を何人も見てきた。
何かを為してそれを解消しようとする人。
罪悪感から逃げられなくなって心を壊してしまう人。
全てがどうでも良くなって自ら命を絶ってゆく人。
「なぁ、白夜」
「...なんじゃ」
罪悪感に呑まれて相手をどうにかしたいとしよう。
実は、それは意外と簡単なことなのだ。
「お前に免罪符をやろう」
「めん、ざいふ、 じゃと?」
「あぁ、免罪符だ。」
罪悪感の一番の解消法。
特に今回に限って、相手はマゾだ。
これ程簡単なものは無いだろう。
それは、
「白夜、お前、俺のものになれ」
「うむ、分かったのじゃ......って、は?」
☆☆☆
白夜はポカンとして、少し経った後にやっと意味を理解出来たのか、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「にゃ、にゃにを言っておるのじゃっ! じ、冗談でもそんにゃことは言うものではにゃいわぁっ!」
「ん?何故顔を赤くして......って、おいおい、まさか変な妄想したんじゃないだろうな? お前ってこんな時まで変態なのか?」
(いや、今のはマスターが悪いよ)
そんな事を思う恭香であった。
「ちっ、違うわいっ! い、今のはっ、ま、まるで......ぷ、プロポーズみたいじゃったから...」
「は? 誰がお前みたいな子供に結婚を申し込むんだ?」
「『!?』」
ギンの非ロリコン発言に、驚愕する恭香と、心が傷ついた白夜だった。
「ん? どうした?......まぁいいか」
僕はカツカツと足音を鳴らして白夜の眼前まで歩を進める。
白夜がビクッとしてこっちを見上げるのを確認すると、
「お前は今から僕の所有物だ!」
僕は大声を張り上げた。
「全てを僕に捧げ、僕に付き従え!」
白夜は先程までと打って変わって、目を大きく見開いてこちらを見つめていた。
「期限はお前が僕への恩を返済しきるまでとするッ!」
側で聞いているはずの恭香もなにも口を挟まない
「そこまで僕に恩を感じっ、それを返せない罪悪感が溜まっているのならばッ!」
僕は大きく息を吸い、彼女の目を見てしっかりと告げた。
「その人生をもって僕に償えッ!」
白夜はその言葉を聞いて、思わず涙した。
その顔に浮かぶ表情は何だったろうか、
免罪符への感謝か、それともこの無理な言い分に対しての苦笑だったろうか。
だが、彼女は何よりも、こう思ってしまった。
──この人と一緒に居たい──と。
「うむっ! よ、よろしくするのじゃ! 我が主よ」
白夜はその人生をかけてこの人を支えようと誓うのだった。
ぴろりん!
白夜は従魔から奴隷へクラスチェンジした!
呼び方が主殿→主様に変わったぞ!?
かなり無茶な理論でしたが、ギンの気持ちは白夜へと伝わってくれたでしょうか?
これでやっと白夜が大人しくなってくれれば話が進むんですけどねぇ...




