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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第191話

つまりはどういう事か。


僕がグレイスから色々と聞き、そしてその中からいくつか重要なことをかいつまんで話すとすれば、こうだ。


この学園にはエルメス王国の王族を含め、大陸中から様々な人達が集まってきている。ミラージュ聖国を除けば、全ての国の住民が在籍していると言っても過言ではないらしい。


だが、多種多様な人々が来ているからこそ、起こる問題もあるのだという。



───それは、国が違えば知識も常識も違う、ということだ。



ある人が『良いね』と言ってもある人は『ダメだ』という。


ある人の『常識』も、ある人の『非常識』になる。



そんな生徒達の見識の違いから起こる諍いは風紀委員会でさえも手に負えず、結局は一年間に十数回、そういう諍いが起こってしまう。

その上、障害となる教諭たちすらも集団で倒した上で諍いを始める者、中には自らの権力を利用して無理強いさせる貴族もいるらしい───先日の自然さ溢れる(ネイチャー)子爵の息子もその一例だ。



という訳でグレイスからの頼みは、この学園に部活動として執行機関を立ち上げ、生徒達の悩みの解消及びそれらの諍いの解決に勤しんでくれ、との内容である───まぁ、簡単に言えば出張のようなものだ。


しかもグレイスと来たら、



「ワシが直々に教えているなぞ、他の生徒が知れば暴動が起こるぞよ? それならば生徒達のご機嫌取りでもしておいた方がいいのではないかのぅ? それとこの学園じゃ部活動か委員会参加は必須ぞよ」



とか言い始めたのだ───ほんと信じらんない。端からやらせる気満々じゃねぇか。



というわけで今現在、僕は昼休憩のうちに食堂へと集まった仲間達にそのことについて相談したのだが、



「悪ぃ、同じクラスに黒髪の時代の奴がいて、そいつに剣術部に行こうって誘われちまってよ......」


「わ、私は......、あの、クラスの女の子に友達ができまして......、ぶ、文芸部に......。ご、ごめんなさい、ギンさん!」


『あたしはネイルの護衛してるのだー』


「私は鳳凰院ちゃんに拳術部に勧められたのですぅ」



そのうち四名───上から順にマックス、ネイル、藍月、オリビアは残念ながら先約されていた。まぁ、無理矢理強いるべきではないだろう。


僕はそんなことを思いながら残りの二人へと視線を向ける。



「ふっふっふっ、委員会もしくは部活動への参加は必須と聞かされた時にもうこの展開は読めてたさ。そう! 君と二人っきりのイチャイチャ...」


「了、私がいるのでそれは不可能ですよ」



───そう、残りは浦町とアイギスの二名だけだ。



「お前ら、友達から部活動とか誘われなかっ......」


「「(ぼっち)が一日で友達を作れるとでも?」」


「......すいませんでした」




そんなこんなで、僕ら三人の部活が結成されることのなった。




───まぁ、結成されるのは僕の停学が明けてからなのだが、それでも今のうちに名前と部長だけでも決めておこう。




☆☆☆




「まぁ、僕としてはそれまで生き延びていられるか、の方がよっぽど重要なんだろうけど」



あれから数十分後、僕は小さい方の訓練場へと来ていた。


どうやら大きい方の訓練場は今現在、どこかの組が合同訓練を受けているらしく使えないため、次の訓練───つまりは戦闘訓練はここで行うという次第である。


僕の前方にはタンッタンッとボクサーさながらの足さばきで「ふっ、ふっ!」とか言ってシャドーボクシングしてるグレイス───何あれ、腕が早すぎて見えないんですけど。



「基本お前はどんな手を使ってかかってきても良いぞ? もちろん影神になるのも良いし、月光眼とやらで幻術を見せても良い───効くかどうかは別としてな? ただ、その霊具レベルリセッターを解除することだけは許さん」



そりゃ言わんでもわかってるよ。僕もあの時影神モードになって分かったが、あのモードはステータス上昇の倍率以上に危険なのだ。


何が危険って......、何か、力に取り込まれる感覚があった。


あの感覚ははっきり言って普通じゃないし、そもそも人である僕が神になること自体有り得ないことなのだ。ならば力の出ない今の内に慣らしておくのがいいだろう。



僕は一度身体から力を抜き、ふぅと息を吐き出してから一気に影神の力を引き起こす。



神王化の時とは違って違和感はなく、体の内から力がとめどなく溢れてくる。




───のはいいのだが、




「やはりダメダメだのぅ」



いつの間にか僕の目の前まで来ていたグレイスがそう呟く───彼女が今思っていることは、きっと僕が今考えていることと全く同じことだろうし、彼女が何をダメダメだと言ったのかもなんとなく理解できる。



僕は再び脱力し、自らの身体へと意識を向ける。



───思い出すのは、ゼウスやロキ、それに死神ちゃん。


彼女たちは常に今の僕と同じ状態でありながら、まるでそれが当然とばかりに、人間に紛れても気づかないような状態で生活している。間違っても今の僕のように威圧感や魔力を溢れ出したりなんかしていない。



───イメージは......そうだな、僕がいつも隠蔽や気配遮断をしている時と同じでいいだろう。


身体中───頭のてっぺんから足の指先まで、全ての部分を循環する回路を取り付けたとイメージする。

そしてその回路の中に流れるものを、気配なら気配、魔力なら魔力と定め、常にその回路の中を循環しているように意識する。

だから、その回路から溢れ出ない限りは魔力も気配も出てこないし、少しでもその循環が乱れれば一気に気配も魔力も溢れ出してしまう。



───きっとこの身体中から溢れだしている無駄なエネルギーは、その循環を意識することによって解消できるのではないかと思う。



僕は自らの身体の中に架空の回路を生成し、身体中から溢れ出ている全ての魔力と気配───エネルギーをその回路の中に流し込む。



すると僕の予想通り、少しずつ、少しずつ僕の身体を纏う威圧感が消えてゆき、数分もしないうちに僕の身体は普段となんの代わりもない状態へと変移した。



「ふぅ......、慣れててよかったぁ......」



そう息を吐いて瞼を開けると、僕の目の前には目を見開いたグレイスがポカンと口を開けており、僕はついついそのほっぺたを両手で引っ張ってみる───なにこれ柔らかい。


むにむにしているとグレイスも気がついたのか、顔を真っ赤にして飛び退る。



「な、なな、何をしておるかっ!? わ、ワシは学園長だぞよ!? た、たた、退学にされたいかぁっ!?」


「退学にされたらエルザのところに行って弟子にしてもらうからいいよ。もちろんエルザには事情を全部報告するけど」


「え、えええ、エルザだと!? くっ、レックスの奴、こやつがエルザと知り合いなど聞いておらんぞ!」



退学にされかけたが、レックスの助言を思い出してエルザの名前を出すと、一瞬で顔を真っ青にしたグレイスがぷるぷると震えだした───いや、分かるよ、エルザめちゃくちゃ怖いもんな。




───とまぁ、余談はこれくらいにしておこうか。




僕はかなり使い慣れてきたヌァザの神腕を発動し、左手にブラッディナイフを、右手には銀滅氷魔で作り出した氷の短剣───氷魔剣(アイシスソード)を握り込む。


僕の変化を察したのか、グレイスも両腕を体の前で構え、思いっきりボクシングスタイルだ。





「それじゃあ、本気で勝ちに行かせてもらうぞ、グレイス」


「勝てるものならやってみるがよかろう。出来るものなら、だがのぅ」




───こうして僕の、午後の訓練が始まった。




☆☆☆




顔面に思いっきり拳をくらい、吹き飛ばされた先で顔を抑えながら、ありったけの魔力を使用する。



「くっ、『影分身』!!」



───もう何度敗北しただろう?



一度目は瞬殺され、次々と戦っていくうちに少しずつ慣れては来たが、その度に脳内で思いつける選択肢が削られて行った。


一度通用した選択肢は二度目以降は完全に潰され、その逆をして不意をつこうにもその逆すらも対策済だった。


体も心も、限界などとうに超えている。


筋肉がブチブチと壊れる音がして、頭の奥がズキズキと悲鳴を上げる。



───けど、ここで引いちゃいけない。少しでも弱気になればその時点で決定的な何かに敗北する予感がする。



僕の周りには十数名の影分身たち。限界を超えた脳で扱えるのはせいぜいがこの程度だ。



「行くぞグレイスッッ!!」


「何度やろうとも結果は変わらんぞ!!」



僕ら影分身は一斉にグレイスへと駆け出すと同時に、ぐちゃぐちゃに重なり合って本体の位置を特定させないようにする。


───だが、これはもう既に使用した手だ。グレイスは恐らく僕の本体の位置は分かっている。



グレイスはまるですべて見えているかのように全ての影分身のナイフを躱し、逸らし、弾く。けれどもその瞳は影分身の中の僕の位置を確実に見据えており、流石はグレイスだなと感心する。



けれど、質で勝てないならば量で勝負すればいい。



少し訓練が長引いているのか、もう太陽は完全に地平線の彼方へと沈み、僕らの戦う訓練場には夜の帳が下りている───つまりは、僕が持つ最大の"数量"が使えるわけだ。


僕は影分身へと混じりながらもグレイスへと近づき、それでも僕を見失わないグレイスが僕へと再び視線を移した、その時だ。




「『百鬼夜行』ッッ!!」



瞬間、僕の影から大量の烏が飛び出し、グレイスの視界を塞ぎつつ攻撃を加える。



「くっ、こ、これはっ!?」



グレイスはいきなり召喚された僕の影の眷属たちを見て目を見開き、両腕に冷気をまとって範囲攻撃の拳を繰り出す。




───恐らく、僕が彼女に一矢報いれるのだとすれば今だろう。




次の瞬間、グレイスの影が浮かび上がり、グレイス自身の体を縛り上げる。


影は耐久性こそ低いが、グレイスの心の中には一瞬の迷いと意識の分散が現れる。





「その時を、待っていたッッ!!」




瞬間、グレイスの影に掴ませておいた石ころと僕の位置を入れ替え、しっかりとグレイスの肩にヌァザの神腕(アーガトラム)を触れさせる。


それと並行して僕はグレイスへとブラッディナイフを向けるが、こういう状況になればグレイスは氷系統の魔法によって僕を倒そうとするだろう。





───だが、今回に限って言えばそれは出来ない。




「なぁっ!?」



グレイスは驚きに目を見開いた後、すぐにその原因へと視線を向ける。一瞬で自分のスキル系統がすべて封印されているのに気づき、その原因が一発でヌァザの神腕だと分かったのだろう。流石は時の歯車の副リーダーだな。



そう、ヌァザの神腕の能力の一つ。


それこそが、触れている相手の全ての能力とスキルを封じるという『能力封印(・・・・)』だ。まだまだ荒削りな上に完全に使いこなせている訳では無いが、グレイスの能力をこの一瞬の間だけ封印しておくことくらいはできる。



僕はブラッディナイフを握る腕になお一層力を入れ、半ば勝利を確信した






───次の瞬間、僕の見ている映像がぐらりと歪み、次第に僕の視界はブラックアウトして行った。





気絶する直前の僕の瞳には、真っ黒に染まったもう一人のグレイスの姿が映った。





☆☆☆




目が覚めると、そこは寮での自室だった。


あたりは真っ暗で時刻もわからず、けれども僕が気絶した理由と最後に見た映像だけはしっかりと記憶していた。



「黒く染まった、もう一人のグレイス? 分身系のスキルか、それとも分裂系か......。どちらにせよ、僕が右手で触れる前に発動されてたってわけか......」



ヌァザの神腕の能力封印を掻い潜る方法は多くない。



一つが封印に対する絶対的な抵抗を持っていること。


もう一つが、封印される前にスキルを発動すること。



例えるなら、ボロッボロの吊り橋の上で二人が相対していて、一人は相手の動きを封じることが出来るが、その相手がその直前で吊り橋を支えている縄を叩き斬った。

そう考えると、その縄を切断された後に相手の動きを封じても全くの無意味だし、その吊り橋の崩壊が止まるわけでもない。


つまりはそういう事だ。


常時発動型か、僕の封印を先読みしたのかは分からないが、どっちにしろ僕は敗北したのだ。



「はぁ......、やっぱりこの身体じゃ辛いよなぁ......」



いくら追い詰めてもその直前で無理やり躱されてしまう。

僕が霊器無しでやっていたことは今の僕とグレイスとの関係と瓜二つなのだろうし、今の僕の状態がわかればこそ、強くなる上での土台の重要性も理解ができる。


僕は懐から黒いスマホを取り出して電源をつけると、どうやら今は午後七時半のようだ───つまりは、食堂が閉じる三十分前である。



「うわっ!? 時間やばくないかこれ!?」



僕はばっと起き上がると、咄嗟に別途の足元にあったロキの靴を履いて部屋を飛び出す。





───何故か、その時の僕の身体は、今日の朝よりも幾分軽いようにも思えた。




修行回でした!

ダラダラ一週間分も同じような修行回をお送りするのもあれなので、次回は停学明けまで飛んで話を進めます。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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