第190話
すんごい新しい小説書きたくなってきました。
設定も登場人物もこの作品の執筆合間にちょくちょく考えてますが、多分この作品が終わるまでだせないでしょうね......。少しだけネタバレすると次の作品は近未来ファンタジー(?)にする予定です。
「決闘、開始ッ!!」
グレイスのその言葉とほぼ同時に魔法の詠唱がいくつも重なり合い、数秒後には彼らの頭上にありとあらゆる魔法が構築される。
───まぁ、あんなので死にはしないだろうが、それでもこの身体は弱いのだ。事前に防ぐに越したことはない。
僕はアイテムボックスからブラッディウェポンを取り出すと、少し形の歪な居合の構えをとる。
「僕の血を吸え、ブラッディウェポン」
その言葉と同時に僕の体の中の血液が吸収され、それと並行して魔力も送り込む。
一気にその硝子のような刀身を顕にしてゆくブラッディウェポン。
僕はその刀身が、大太刀と同じほどの大きさになったのを見計らって、一気に振り抜く。
すると今尚伸び続ける刀身は十数メートルを超え、彼らの頭上に出現していたほとんどの魔法を切り裂いた。
「「「「「は、はぁぁぁぁぁっ!?!?」」」」」
今の奇行と、それに伴う爆発を見ていた生徒達から絶叫に近いような叫び声が上がり、グレイスでさえその目を見開いて固まっている。
僕が今行ったのは魔法の相殺ではなく、魔法の切断。
それは物理的には有り得ないことであり、やろうとするならば『絶対切断』的なスキルがないと不可能だ。
───一般的には、だが。
これは、僕がスキルを実験していた一日の間に発見したことなのだが、月光眼と超直感のスキルの相性はこの上ない程に最高らしい。
超直感を月光眼に反映させれば擬似的で簡単な未来予測も出来るだろうし、どこをどうすればどうなるか、というのも分かってしまう。
だからこそ、僕は超直感を月光眼に反映させ、魔法発動の軸となる、魔法の核をすべて切断した。
───もし今のと同じことが出来る奴がいるとすれば、とてつもなく勘のいい奴か、何でも知ってる奴、もしくは何でもできる奴か、すべて力技でねじ伏せる化物だけだろう。
とまぁ、そんな自慢をしたところで僕もこの能力は完全には使いこなせてはいない。十数個あった魔法のうち、同一直線上になかったいくつかの魔法はそのまま詠唱が完了し、爆炎の中から僕へと飛んでくる───残っているのは......三つか。
「それじゃあ頼む、クロエ」
瞬間、左手のタテゥーが消えて、ヌァザの神腕が完成する。
───そして、
「召喚! アダマスの大鎌っ!」
ブラッディウェポンをアイテムボックスへと放り込むと同時に、僕の手の中に巨大な大鎌が召喚される。やはり影神となった今でも使用可能なようだ。
僕はアダマスの大鎌を両腕でしっかりと握ると、前へと視線をしっかりと固定した。
目の前に迫るはファイアランス、ウォーターランス、ライトニングボルトの三種類の魔法。
僕が鎌を使う上で見本とするべきは、輝夜がレオン戦の時に見せた遠距離攻撃の防ぎ方。
「ハァァッ!!」
ダンッ、と踏み込み最初の魔法を切断し、
スッ、と進んで次の魔法を躱し、
クルッと回って最後の魔法を両断する。
僕が最後の魔法を切り裂くとほぼ同時に爆炎が僕を飲み込み、僕は常闇のローブで身を守りながら、空へと飛び上がる。
───もちろんその際は気配遮断や魔力遮断を使ったため、きっとグレイスやニアーズクラスくらいにしか気付かれてはいないだろう。
まぁそれもこれも、あの生徒達がわざわざ炎や雷の、爆発が起きる系統の魔法を使ったためだ。いくら僕とはいえ能力値が下がった今現在の状況では、煙幕なしで姿を見失わせることは不可能だったろう。
「敗因は、調査不足......って感じかな?」
眼下には爆煙が消え去ったその場所に僕がいないことでざわめき出した生徒陣と、ちらりと頭上を見上げてくる数名の生徒たち。
───なるほど、次回からは少し厄介そうだ。
僕は大鎌を薙ぎ払うかのように構えると、生徒陣のほぼ中心の空白地帯に生えている草と、自らの位置を入れ替える。
「「「「───ッッ!?」」」」
僕の存在に一拍遅れて気がついた生徒陣ではあったが、残念ながらもう遅い。
「次回以降に期待するよ」
───その日、学園の保健室は多くの怪我人で溢れかえったそうだが、僕にとっては知ったこっちゃないことだ。
☆☆☆
あの後、『弱体化してる割にはあまりにも強すぎる』という噂が流れ始め、グレイスの言っていた僕の霊具レベルリセッターの効力がきちんと働いているのか、という声が上がり始めた。
もちろんグレイスは即答し、実際に僕の動きがここにいる生徒の誰よりも遅かったことはみんなが見ていた上に、そのイチャモンをつけた馬鹿にレベルリセッターを付けてやったら、「た、立ち上がれねぇ......、ど、どうなってやがるんだ」と呻き始めた為、皆信じざるを得なくなった───その馬鹿には『ざまぁみろ』と言葉を送ってやろう。
そうしてそのまま僕は寮へ、他の皆は学校へと向かったという次第である───ちなみにネイルには小型化藍月を付けている為、まぁ件の二の舞になることは無いだろう。
そんなことを考えながら、僕は自室のベッドで本を読んでいた。
僕の目の前には椅子にちょこんと座ってこっちを見つめているグレイスが居り、傍から見れば学園長の目の前で堂々と学校をサボっているバカにしか見えないだろう。
───だが、これでも一応訓練をしているのだ。それもかなーりキツい訓練を。
僕は少し視線を横へずらすと、普段は無い右腕の部分には銀色金属製のヌァザの神腕が出現しており、僕はその状態を維持したまま本を読み続けていた。
確かに戦闘時ではないため精神力が削られていく速度は実にゆっくりだが、それでも僕はこの腕を三十分と持たせることが出来ないだろう。
チリチリと、頭の奥の方にある何かが物理的に削られていくような気がして、時間が経てば経つほどにその痛みが強くなるのだ。はっきり言って正気の沙汰じゃない。
さらに言えば、もうこの腕を使い始めてから二十五分が経過しているのだ。正直言って、もう頭の中はパンク寸前だ。
「な、なぁ、グレイス。まだ続けるのか?」
「そうさのぅ......、最終目的は常日頃からその銀腕を出しておけるようにする事だが、今回はあと十分と言ったところかのぅ?」
「じ、十分もあるのか......」
グレイスの慈悲のない宣告を聞いた僕は、さして読んでもいない文庫本をパタリと閉じて、項垂れた。
☆☆☆
ほんの少しの休憩を挟みながらそんなことを数回繰り返し、今現在の時刻は11:15と言ったところだ。
先程の訓練の影響で頭の奥に鈍痛が走り始めてきた僕としては、やっぱり少しでもいいから休憩させてもらいたいのだが......、残念ながらグレイスの午前の訓練はあと一時間と少しの間続くのだ───ほんと地獄だな。
そんなことを考えていると、グレイスは何やら水の入った桶を持って歩いてきた。見た目だけなら大きな桶を持って歩いている危なっかしい幼女なんだけどなぁ......。
僕のそんな内心などつゆ知らず、グレイスは机の上にその桶をドスンと置くと、僕に向かって話し出した。
「魔力とは本来、それぞれ色を持つ物なのだ。普通のものには見ることは出来んし、出来る者が居るとすれば高位の魔眼持ちか特異体質の者だけであろうのぅ」
───すっごいドヤ顔で話してるから、月光眼って最高位の魔眼なんですよ、とか、僕って特異体質なんですよ、とかは言わないでおいてやろう。
「それで、だ。今からワシがお前に課す課題は、この桶一杯に入った水に自らの魔力を限界まで溶かすことぞよ」
「......溶かす? 魔力って溶けるのか?」
「砂糖や塩だってある程度は溶けるであろう? それと同じように魔力も溶かそうと思えばある程度までは溶けるのだ」
うーん......、この水を魔力の飽和状態にすればいいのか?
僕はよく分からなかったが、手をその水の中に入れて魔力を流してみることにした───が、全くと言っていいほど流れない。
例えるなら、ゴムに無理に電気を流し込んでいる、という感じだろうか? まるでそこから先が塞き止められているかのように魔力が停滞してしまっている。
「......これ、無理じゃね?」
僕は思わずそう呟くと、それを聞いてにやりと笑ったグレイスがこちらへと寄ってきて、桶の上にその手をかざして魔力を注ぎ込んだ。
───次の瞬間、その水が澄んだ青色に変色した。
「.........はっ?」
僕があまりにも衝撃すぎる映像にフリーズしていると、グレイスはにやりと笑って僕へとこう告げる。
「不純物の混入しておらぬ純水は魔力がこの上なく通りにくいのでな。魔力操作のスキルがLv.5であっても満たすのに三ヶ月はかかる。それと、魔力が限界まで溶け出せばその水に何らかの変化が訪れるはずぞ?」
───その話を聞いて、何故か僕は猛烈に学校へ行きたくなってしまった。
もちろんその後は、魔力をひたすらその水へと流し続ける作業を行いました。
☆☆☆
「痛ッっ!?」
ズキンッ! と僕の左腕に痛みが走り、僕は思わずその手から箸を落としてしまう。
現在地は再び食堂。
生徒達の昼休みは12:50~13:35まであるらしく、僕とグレイスが食堂へと着いた頃にはまだ生徒達の姿はなかった。
そして今現在、生徒達もまばらに見え始めた頃、僕はグレイスと向かい合ってカツ丼を食べていたのだが、その途中でいきなり左腕に痛みが走ったのだ───それを例えるなら、血管がぶち切れたかのような痛みだった。
僕が震える左腕を驚いてみていると、僕の向かいから当たり前だと言わんばかりの声が聞こえてきた。
「普通ならば数千年かけてゆっくり成長させるものを、ワシらはたった一年で完成させようとしておるのだ。常人なら死に至るレベルで体に負担がかかるのは当たり前であろうに」
ガツガツとカツ丼をかき込みながら、グレイスはリスのように膨れたほっぺたを動かしてそんなことをほざきやがる。たしかにとんでもないことをやろうとしているのは分かってはいるが、せめてそういうことは早めに教えて欲しかったな。
───まぁ、もうほとんど治りかけてるっぽいからいいんだけどさ。
僕は震えの治まったその左手で間一髪で空中に固定しておいた箸を掴むと、そのままカツ丼へと箸をつけようとしたのだが、なんとそこで再びグレイスから声がかかった。
「ふぉ! ふぉうふぁ、ふぉまへ、へへひふほはひふ...」
「汚いから口の中のもの飲み込んでから喋れ、ロリババア」
僕の言葉にムッとした顔をしたグレイスだったが、汚いものは汚いのだ。それをしている対象がたとえ美幼女だったとしても汚いし、そもそも何を言ってるのか分からない。
グレイスはしばらくの間モグモグと口を動かし、なんと口の中に入っていたものを一回ですべて飲み干した───コイツ、もしかして白夜何じゃないか? アイツが髪をかるーく青色に染めてカラコンして、黒い角のコスプレして若返ったらこんなふうになると思うぞ?
そんなことを考えていると、グレイスはダンッ、と机を叩いて僕を睨みつけてきた。
「ロリババアとはなんと酷いことを言うのだ!? どこからどう見てもピッチピチの幼女であろうが!」
「いや、死神ちゃんと同期なんでしょ? なら間違いなく数千年......いや、もしかしたら億もいってるんじゃないか?」
「お、おお、億だと!? そ、そんなに歳を食っているように見...」
「見えるね」
グレイスはぐふっ、と吐血もしていないのに口を抑えると、そのままごちんと机に突っ伏した───ちなみに危ない場所にあったカツ丼は僕がサッと横の方に動かしておいた。
「それで? 結局何の話だったんだ? ババア」
「と、とうとうロリも無くなってしもうたか......」
グッタリとしながらその身体を起こしたグレイスは、「謝れ」と言わんばかりに視線を送ってくるが僕はもちろんそれを無視する。
それを見てはぁ、とため息をついたグレイスは、先ほどの続きを話し出した。
「そう言えばお前、執行機関とかいう何でも屋を開いておったかのぅ?」
その『何でも屋』という解釈に思わずハートがブレイクンしそうになった僕ではあったが、まぁ、なんでも引き受けるって言うのを目的にしてるんだから間違っちゃいないだろう。
僕はグレイスに対して頷いてやると、先程の『何でも屋』を仕返しとして考えていたのであろうグレイスは悔しそうに顔を歪め、僕へと本題を切り出した。
「部活動ということで、我が学園にも執行機関を置こうと思ってのぅ。だから、お前はそこの部長やるのだ」
「............はっ?」
───なにやら、また面倒くさそうなことが始まりそうだ。
執行機関を学園で!?
次回! 修行の続きです!




