第183話
カポーン、と音が鳴り、僕の前の幼女二人がお茶を啜る。
片や、甚平姿の白髪幼女。
片や、ゴスロリ姿の金髪幼女。
まぁ、件の音と今の描写だけでなんとなくわかるかとは思うが、現在地はゼウス家。目の前に座って仲良くお茶を啜っているのはグレイスとゼウスであった。もちろん温泉ではない───僕としては望むところだが。
実はあの後、僕は入試が終わると同時にグレイスによって回収され、そのまま馬鹿みたいな速度でグランズ帝国まで引き摺られ、帝城の庭に残っていた魔法陣でここ、神界まで連れてこられたという次第である。
なんだか物凄く簡単に言ってはいるが、実際には時速千キロ近いトンデモ速度で引き摺られたため、正直生きているのが不思議である。
というわけで、状況の整理もできたところで僕は二人に改めて聞こうと思う。
「一体どゆこと?」と。
☆☆☆
グレイスは僕の質問に対し、開口一番にこう言った。
「ギン......とか言ったな。お前は今、人間をやめつつあるぞよ?」
「.........はい?」
グレイスが言ったそのぶっ飛んだ内容に、僕は思わず疑問で返してしまった。
───が、その『人間をやめつつある』というのと関係あるのかはわからないが、今、僕の体に異変が起きていることには変わりがない。
僕のその考えを読んだのか、ゼウスがコクリと頷いてその先を続けた。
「そう、『人間モドキ』なんていう史上初の称号と......、私があげた正義執行の使用不可。明らかに、今のギンくんは異常」
その言葉に、僕は「やっぱり」という感覚を覚えていた。
ステータスが二倍前後になる前と後で、フルブースト状態の僕の強さが変わらない。それは僕の体に異常が出始めているという証拠でもあり、僕が考えつく中では、ブーストが丁度二倍の正義執行がうまく作動していないという予想しかできなかった。
───その上、正義執行だけ発動しようにも、あれから今まで正義を執行するための戦いが一度もなかった上に、アダマスの大鎌とグレイプニルは不自由なく召喚できるのだ。
だからこそ僕の中にはずっと解消することの出来ない違和感が燻っていたのだろうし、さらに言えば、その原因はと聞かれれば僕はそれに心当たりがあった。
「『神王化』......じゃないのか?」
もうそれは疑問ではなく確認だった。
だからこそ、二人がそれに返事をすることはなく、その確認に返ってきたのは二つのため息だった。
「ワシもレックスの奴から神王化のスキルを聞いた時は『なんだその変なスキルは』という感じだったのだが......、少し気になって全能神経由で獄神へと確認を取ってもらってな」
───そうして分かったのが、とグレイスは口にしたが、その後は聞いた本人であるゼウスが引き継いだ。
然して、ゼウスの口から告げられた真実は予想以上に面倒くさそうで、僕はまた今度父さんにあったらぶん殴ってやろうと心に決めた。
「神王化......、それには自身の強化の他にもう一つ、能力があってね? それは....、本当に身体を細胞から作り替えて、技術も、スキルも、ステータスも......、全てを最適化する。そんな、一歩間違えれば死に至るような能力......、らしいよ?」
☆☆☆
まぁ簡単に言えば、神王化というのは自身を神化以上に強化する代わりに、神王化を含めた全てのスキルと、場合によってはステータスすらも最適化し、自身の身体を戦闘に適した最適なものへと作り替える能力なのだとか。
───つまり、初めて神王化した時に僕が感じた違和感と嫌な予感は、超直感が僕へとその事実を告げようとしていたということになる。
そして、この神王化の弊害は、運が悪ければステータス激減の上にスキルも一切使えなくなってしまうらしいし、最悪の場合は、生命維持に使われている力をすべて戦闘に回してしまい、本当に死に至ってしまうらしい。
はぁ、父さんもそこら辺きちんと教えてくれればよかったのに......。
とまぁ、ここまで話が進めば、グレイスが大急ぎで僕をこの空間───時がほとんど止まっているこの世界へと連れてきた意味も理解できるし、その解決策もなんとなく理解出来た。
「つまりは、神王化の副次効果が完全に作用して僕が死ぬ前に、僕の歪なスキルやその他の能力を統合してしまおう、ってことで合ってるよな?」
「もちのろん。ほれ、まずはスキルを統合するぞよ、とっととステータスを出さんか」
僕がそう言うとゼウスとグレイスは机を回り込んでこちら側へとやってきて、僕を挟むように両隣へとおっちゃんこした。
なんだか天国のような状態だが、今の状態も一時間後にはあいつに知られてしまうと思えば楽しもうとも思えない。
「『ステータス』」
僕は大人しく前見た時と何も変わっていないステータスを開くと、ゼウスはまだしも初めて僕のステータス───主にスキルの欄を見たグレイスが驚きの声をあげた。
「なぁっ!? ど、どんな量のユニークスキルを持っとるんだ!? 魔導やエナジードレイン等は分かるが......、神影に空間支配? アイテムボックスに......なんだこの風神雷神というのは? 初めて見るスキルばかりで意味がわからんぞ......」
次第にぶつぶつと独り言じみたことを言い出したグレイスだったが、ふと逆隣を見るとまるで玩具で弄ぶ子供のように、ゼウスが黙々と僕のスキルを統合しまくっていた。
「ってはぁ!? なに、それとそれ同時に混ぜちゃうのか!?」
「い、いや、流石にそれとそれは......うぐっ!? な、なんだか痛みが......っ!」
「ちょっとゼウス!? それはまずっ......ぐばっ...あばばばばばっっ!?」
「ほ、ほんとやめっ......あぴょぉぉんっ!?」
......そうして数分後、僕の地獄は終わった。
なに、今の今までスキル統合して身体に痛みなんて走ったことないんですけど。果たしてさっきの痛みは神王化の副作用によるものか......、それともあまりにもおかしな混ぜ方によるものか......。
───まぁ、どっちにしろ、今の僕のスキル欄がとんでもない事になったことには変わりがない。
って言うか、まぁ。ぶっちゃけるとまた種族が変わりました。
まぁ、説明するより見た方が早いだろう。
これが新しくなった僕のステータスだ。
名前 ギン=クラッシュベル (20)
種族 吸血鬼族(始祖純血種)
Lv. 916 ↑+13
HP 19,980,000
MP 54,100,000
STR 16,020,000
VIT 14,210,000
DEX 20,000,000
INT 47,000,000
MND 38,000,000
AGI 22,930,000
LUK 916
ユニーク
影神Lv.1 (new)
開闢Lv.1
月光眼Lv.1 (new)
原始魔法Lv.1 (new)
スキル統合
純血始祖 (new)
近接戦闘の極意Lv.1 (new)
アクティブ
ブレスLv.2 (共有)
テイムLv.8
念話Lv.4
パッシブ
料理Lv.6 ↑+2
並列思考Lv.8 ↑+1
魔力操作Lv.5
超直感Lv.6
存在耐性Lv.4
称号
迷い人 理外の異端児 (new) SSランク冒険者『執行者』『冥王』神王の加護 全能神の寵愛 狡知神の加護 創造神の加護 死神の加護 魔導神の加護 世界竜の友 名も無き才能 トリックスター 救世主 ロリコン 竜殺し 原初の理 (new) 月の眼(new)
従魔
白金神竜プラチナムドラゴン
ゴッドオブ・ナイトメア
ブラッドギア・ライオネル
フェンリル
バハムート
ペガサス
眷属
オリビア・フォン・エルメス
マックス
アイギス
───そして、これが新しいスキルと称号。
影神Lv.1 (神王化、正義執行、神影、雷神風神、逃走)
影を司る神となった証。
世界中の影を操り、支配することが出来る。
Lv.1= 全ステータス10倍、状態異常無効、超集中
月光眼Lv.1 (空間支配、アイテムボックス、妖魔眼、鑑定)
全てを見通し、惑わし、操る最高クラスの魔眼。
発動時は左目が銀色へと変化し、紋様が浮かび上がる。
原始魔法Lv.1 (魔導、万物創造)
最古の神しか持たぬと言われる、全てを可能にする魔法。
全属性の魔法はもちろん、無から有を創造することも可。
純血始祖 (特異始祖、エナジードレイン)
神々が創造した最古の吸血鬼の証。
吸血鬼以外の血が流れておらず、夜になると力が増す。
以下の効果を併せ持つ
超絶回復、変身Lv.5、不老不死、吸血、眷属化、経験値10倍、エナジードレイン
近接戦闘の極意Lv.1 (オールウェポン、総合格闘術、身体強化)
近接戦闘の全てを極めたという証。
理外の異端児
人の身でありながら神になった異端児の称号。
人と神、両方の存在になる事が出来る。
これに加えて原初の理と、月の眼があるのだが......、それは「スキルを入手した証」と言うだけだった。
────のだが、
「あれっ? なんか僕、神様になってない?」
そう、僕はいつの間にか、影を司る神様になっていたのだった。
☆☆☆
僕の出来上がったスキルを見て、しばらく二人は放心し、再び現実へと戻ってきたのはその数分後であった。
だが、二人共戻ってた途端に顔を見合わせてこそこそと内緒話をし始め、そうしてまた数分後、お互いにコクリコクリと頷くと、やっと僕の方へと顔を向けた───今の幼女二人が内緒話をしてる感じ、何だかとっても良かったです。
僕のそんな心情など聞こえてもいないグレイスは、「ふむ」と言ったあとに僕へと話しかけてきた。
「まぁお前も薄々感づいているとは思うが、人でありながら神でもある、そんなのは完全なるイレギュラーでのぅ......。今、ワシと全能神が話し合った結果では『世界神と同じく放置』という結果になったし、他の最高神も含めた会議をやったとしても、恐らくは同じ結果になるであろう」
「......つまりはこのまま神様になって変な法律に縛られたりしなくてもいいってことか?」
「簡単に言えばそういうことだのぅ」
なんだかいきなりのこと過ぎて半ばパニックに陥ってはいるが、まぁ今は神界の法律に縛られないだけ良かったと思おう。
───だが、そうなると問題も出てくるだろう。
僕が一番対処に思いついた問題は、僕の今の状態についてだ。
神々が法律で縛ってまで下界に介入禁止にしているのは、星そのものを壊してしまう恐れがあるため。
もしも僕───影神がそれだけの力を持っているのだとすれば......、先ず間違いなく扱いきれないし、ましてやそれをそのまま使った日なんかには、運が悪ければ大陸が吹っ飛ぶだろう。
そして二つ。従魔や眷属達と共有しているスキルのこと。
例えば輝夜なら神影と空間支配を時と場合によって使い分けているが、それを現状に置き換えれば影神と月光眼になってしまう。恐らくはこの二つに原始魔法、開闢なんかは共有できないスキルであろう。きっとその枠から外れている。
つまりは僕が強くなったはいいが、そのせいであいつらの力が弱まってしまうということだ。今はあいつらにクランを任せているんだ、その足を引っ張る様なことはしたくない。
すると、僕のその考えを読んだのであろうゼウスが、なんとも言えないような顔でその解決案を話し出した。
「一つ目は......、ギンくん次第? グレイスの所で、しばらく修行回を挟む。あの神器もどき使えば、何とかなる......でしょ? 二つ目は私の権限で、保有能力の共有、できるようにしとく」
「おいちょっと待つぞよ? 今いとも簡単にあのスキル群を使いこなさせろとか言わなかったかのぅ?」
「言った。グレイスなら、できる.........はず」
あまりにも無責任すぎるゼウスの言動にため息をついたグレイスは、よっこらせっと立ち上がる。
「まぁ、良いわ。ちょうどワシがしようとしていた訓練方法と同じ方法でなんとか出来るからのぅ」
───そうしてグレイスは仁王立ちで僕を見下ろしながら、僕を強くするための訓練方法を簡潔に告げた。
「ギン、お前には一般人程度に弱くなってもらう」
☆☆☆
ステータスの値が大きいということは、それだけどんな相手に対しても力押しができるということ。
ならば逆にステータスの値を一般人......とは行かずとも、あの学園の生徒と同格にまで下げれば、もう今まで通りの力押しなんてのは通じず、否が応でも技術を身につけなければならなくなる。
だからこそ魔力操作も神器の使い方も、そして新しいスキルの使い方も、弱くなってそれこそSランクやSSランク相手に本気で試せばいい、ということであった。
それに並行して学園での勉強に、学園長グレイスからも直々に色々と習い、身につけて、そして出来ることならば来年の四月を目処に、僕自身を完成近くまで持っていくつもりらしい。
僕はその説明を聞いて、なるほど、と半分納得したのだった。
その教育方針がもう既にかなりの力技なのではないかと思われるが、確かにそれはいい方法であろう。あそこの学生達が神様になったところで国なんて......それこそ街すら滅ぼすのも難しいだろう。更には自分に足りない部分を知り、埋めるにはいい訓練法だとも思う。
───だが、肝心の僕の強さを引き下げる方法が無い。
そう思っていたのだが、その答えは案外身近なところにあった。
と言ってもその答えを出すには少し時間を遡って、件の適性試験とやらの内容を思い出す必要があるのだった。
適性試験。
そう、僕らが受けた最後の試験である。
それは学園長グレイスが直々に編み出した、『神器』の模倣品───人(霊長類)が作る神器、略して『霊器』がどれだけ体に適応できるか、という適性試験なのであった。
そう考えると、なるほど神器そのものに適応している僕が、その模造品である霊器の適性試験で満点が取れないわけがない。
───と言っても、神器は『どんな物になるか分からないが強い』、それに比べて霊器は『自由に選べるが、多少劣る』という性質を持つ。だからこそどちらが優れていてどちらが劣っているというわけではないのだが。
閑話休題。
そうして結果は見事、史上初の『100%』で、戦闘能力の試験や魔法試験何かよりもよっぽど目立ってしまう結果になった───ちなみにその値が低ければ低いほど霊器の練度が低くなり、身体に近くなければ発動できなくなってしまうらしい。
そうしてさきほどゼウスが言っていた『神器もどき』というのはその霊器の事であり、100%、つまりは僕はどんな霊器でも扱うことが可能なのだ。
───それこそ、神の力を人まで堕とせる霊器でも。
僕とグレイスはゼウスに魔法学園都市の近くの森へと転移させてもらい、グレイスはそのまま学園へ、僕はそのまま馬車へと戻ることとなった。
グレイス曰く、霊器というのは超希少金属───いや、超絶と言ってもいいほどの希少金属、オルムマナタイトを内蔵した武具のことらしく、全校生徒にはオルムマナタイトの欠片が埋蔵された劣化霊器が配られるらしい。
だが、全校生徒のうちほんの一握り、二ヶ月に一度行われる序列戦にて好成績を収めた上位十名───《ニアーズ》というエリートたちにのみ、オルムマナタイトの原石が埋蔵された本物の霊器が贈られるらしい。まぁ、上位十名から外れればその時点で返却しなければいけないのだが。
そうして今回、僕が何を言いたいかと聞かれれば、察しのいい奴ならばもう気がついたかもしれない。
───そう、僕の力を封じ込めるその霊器は、オルムマナタイトの原石を使用した本物の霊器でしか再現不可能なのだ。
それは同時に僕に『日本にいた頃と同じ身体能力でニアーズであり続けろ』と言っているようなものだ。
流石に最初期のみは無条件でその霊器を貸し出してくれるらしいが、二ヶ月後───つまりは第一序列戦が終わった時点で僕がニアーズにいなければ、霊器は問答無用で返却しなければならない。
つまりは完全にゲームオーバーで、僕はこの学園にいる意味をほぼ失うに等しい。
せっかく勉強して受験したんだ、それだけは避けたい。
「んだけど......、無理難題過ぎるんだよなぁ......」
僕はそう呟いて、空を見上げる。
───澄み切った異世界の夜空は、迷わず進めと、そう背中を押してくれているようにも思えた。
特に詳しく語ろうとは思いませんが、ギン、神様になっちゃいましたね。
新しいステータスについてですが、スキル関連についてはこれ以上とんでもなくなることはないと思います。
次回! 新スキルについて試します!




