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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第179話

さてさてやって参りました学園編。

果たしてどのような出会いがあるのでしょうか?

───四月。



それは桜の花びらが舞う、出会いの季節。


雪は溶け、街を行き交う人々は、まるで雪解けに伴って彩り始めた草木のように華々しい格好に身を包み、気分も高揚しているようにも見える。


中には新しい生活に心配や不安を覚え、少し顔に影を落としている者もいるし、さらに言うならばここにもいる。



「あれだな、学校って言うのは行かなくても良くなったら『あの頃は青春してたな』とか思えるけど、いざ自分が行くとなったらものすごく嫌な気分になるな。もう僕、行かなくてもいい?」


「はぁ......、ギン、お前が行かなければ私が父上と獣王様に怒られるのだぞ?」


「いや、ギルバートがどうなった所で知ったこっちゃないんだけど」


「......君は、あれだな。私が王族だってこと忘れてるんじゃないのか?」




僕は御者席に座って月光丸を引く藍月を操りながら、後ろからぴょこりと顔を出して何事か言ってくるギルバートの言葉をほぼほぼ聞き流していた。


いやぁ、シルとして編入してもいいのだが......さすがに今回ばかりは誤魔化し効かないでしょ。僕の変身スキルは一応高レベルなのである程度の体積を無視した変身───それこそシル=ブラッドになりきるくらいなら簡単なのだが、流石は世界のルールに介入して改竄する混沌様だ。奴に喰われた右腕は変身スキルではどうにもならないのである。


───いや、どうにもならない訳では無いな。


実は一度試したことがあったのだが、この右腕を再び変身スキルによって作り出すにはかなりのエネルギーが必要らしく、僕の身体中の体積のうち殆どを右腕に注ぎ込んでやっと右腕がある状態へと持っていけたのだが......、残念ながらその時、僕は体積が減りすぎて小学生低学年と同じような体型になってしまったのだ───ついでに言えば、ショタっ子の僕は大人気でしたよ? それに、元に戻った時のあのみんなの顔と来たら最高だったのを覚えている。



というわけで、僕は姿形をいくら誤魔化そうと右腕だけは絶対に誤魔化せないのだ。



それと、どこから流れたのかは知らないが、僕のファンクラブとやらが僕の能力やスキルについて広めまくっているらしい。


ちなみに今現在広まっているのは、



『影魔法』


『妖魔眼』


『変身』


『魔導』


『アイテムボックス』


『正体不明の銀色の炎と氷の魔法』



と、上記の六つである。

正確にはそのうち三つのスキルは持っているとはいえないのだが、残念ながら変身のスキルがバレてしまっている。


更にはどこからか『執行者が王族たちを護衛して魔法学園都市へと向かった』とかいう根も葉もない噂が流れ始めているのだ。根や葉どころか幹も枝も実もあるのだが......一体どこから漏れたのだろうか? あの時会議室にいた貴族のうち誰かか?




以上のことから、



『執行者はどんな奴にでも変身できる』


『右腕が無いという共通事項』


『魔法学園都市へと王族を護衛している』



そんな事が相まって、僕が変身しても無駄だという結論に至る。つまりは今回の編入は僕自身───執行者、ギン=クラッシュベルとして受けなければいけないのだ。



───はぁ、面倒くさくなってきた。



と、そんなことを思いながら馬車を走らせていると、やはり同じく魔法学園都市へと向かっている馬車が多数見られるようになってきた。


するとどうなるかは自明の理。ペガサスの引いている黒くて大きな馬車───それも馬車の真横に最近有名になった僕達のクラン『執行機関(ネメシス)』のシンボルマークが彫られている馬車など、目立たないわけがない。



僕はもちろん視線が集まっていることには気づいているし、その中には視線に気づいて欲しい、という意味合いの視線も混ざっていることに気づいている。恐らくは英雄様とお知り合いにでもなって友達に自慢でもしたいのだろう。



───が、向こうで妙に顔の広かった僕は、一度でもこういう視線に自分から反応してしまうとどうなるか、既に十分すぎるほどに知っていた。



大体は「あ、ども」とか言って済ませようとするのだが、一度それをやってしまえばそれを見た他の人たちもどんどん話しかけてくるのだ。そしてそこから逃げようとすると「え、挨拶してくれないの?」みたいな視線を送られる。つまりはこのような視線に晒された場合は無視するに限る。もしも向こうから話しかけてきたら対応する程度でいいのだ。



「まぁ、これやったら十中八九好感度が下がるけど、でもまぁ、別に好かれたいわけじゃないしな」



僕は近しいものに嫌われてさえいなければ、あとは別にどうだっていい。

確かに陰口を言われると腹が立つし、虐められればもちろん数百倍返しにして社会的に抹殺するし、僕をパシろうものなら逆に僕の舎弟に堕としてやる。


───まぁ、それは昔の若かりし頃の僕であって、今の僕なら十中八九無視して授業中に『愚者の傀儡(マリオネット)』で操って社会的に殺すか、もしくは決闘でもして公衆の面前で生き恥を晒させるか。そのどっちかだな。



「ふっ、僕も成長した、ってことだな」


『んー? どうしたのだあるじー?』


「おう、なんでもないから気にすんなー」



僕は少し気にした風の藍月へとそう答えると、再び前へと視線を向けて馬車を進める。





───のだが、





「......いわゆる新章前の準備運動、って感じかな?」



僕の常時の十キロに設定してある空間把握に、いつか見たような盗賊たちの影が映った。


他の馬車にも護衛は付いているし、さらに言えば大陸中から集まった優秀な人材たちも学園に入学しようと馬車内にいるのだが......、まぁ、やっぱり気づく気配はない。



「ん? どうしたんだギン。......敵か?」



僕の雰囲気が少し変わったことに気がついたのだろう。察しが良すぎるギルバートは一瞬で今の状況を把握した。

流石はあの賢王の実の息子、賢さなら十分すぎる程に持て余してるみたいだな。



「ギルバート、お前も学園通ってるくらいだからある程度は戦えるとは思うが、今回は僕達に任せておけ」



僕はそう言うと、馬車の中で賑やかに話している我が眷属たちへと声をかける。



「オリビアとマックス、アイギス、浦町は王族の警護、ネイルは遊んでていいぞー」


「な、なんか私だけ雑じゃないですか!?」



───気のせいだよ気のせい。



僕はそう言うと、藍月に「頼むぞ」と告げて一人、馬車を降りる。




藍月の足が止まると同時に月光丸も動きを止め、それに少し驚いたほかの馬車も次々と止まってゆく───別に止まらなくてもいいんだけどね。




僕は左方向の森へと視線を向けると、それとほぼ同時にガサガサッという草木の不自然な音と、人の笑い声が聞こえ始める。


少し遅れて他の馬車の護衛たちも気づいたのか、次々と武器を構えてゆく。




「ギャハハッ! 今回は学園に通う予定のガキ共に、さらには王族までついてやがるぜ!?」


「おいみろよあれ! なんか知らねえが黒くて高そうな馬車じゃねぇか!? あれに王族が乗ってんのかァ?」


「そうに違いねぇ! テメエらッ、あの馬車と王族をかっさらってあとは皆殺しだァァァっ!!」




そのリーダーらしき男の声に、盗賊団全員が声を張り上げて賛同する。


なるほど、中途半端に強い盗賊団だからこそ自分たちの強さに慢心し、敗北知らず、という玉座の上で胡座をかいているわけか。





「なるほど、討伐したら金になりそうだ」



僕はそう言ってニヤリと笑うと、素手のまま奴らの前へと歩いていった。



───彼らの目には今、一体何が映っているのだろうか?



弱々しそうな吸血鬼だろうか?


ネギを背負ってきた間抜けな鴨だろうか?


執行機関(ネメシス)のクランリーダーだろうか?



少しそんなことが気になった僕だったが、あまりここで時間を取ってしまいたくはない。これから魔法学園都市へと向かって、編入試験の範囲の再確認と、勉強のラストスパートをしなければいけないのだ。




「クロエ、面倒だし一撃で片付けるぞ」



僕がそう言うと同時に、僕の身体から冷気が立ち上り始めた。


どこからか『こんな雑魚どもに能力使うなよな』とかいう呆れた声が聞こえてくるが、僕はこれでもなるべく人は殺さない主義でね。こいつらがどんな悪事を働いたかは知らないけど、僕にとってこいつらは単なる金づるだ。




「まぁ、殺さず逃がさず、報酬は最大限に。これほどいいことは無いだろう?」




僕はそう言って左手を前へと掲げると、ただ一言、こう呟いた。







「その時を奪え、銀滅氷魔」






───その日、魔法学園都市の近辺に大きな大きな氷の柱ができましたとさ。





☆☆☆





「うわー、凄いなここ......」



目の前に広がるのは魔法学園都市の街並みであった。

あの後この街まで辿り着いた僕達は、姿を見られて驚かれ、自分の身分証明書を出してまた驚かれ、盗賊団を氷付けにしてきたと言ったらさらに驚かれた。あの門番の人大丈夫かな?



閑話休題。



目の前に広がるのは、一昔前のロンドンと言った感じの、いかにも学者や魔導師がいそうな街であった。

人通りは王都や帝都に比べれば少し少ない気もするが、ここにいる人のうちほとんどが、何かを学ぶためにここに来たのだと思えば驚きもする。



僕がそんな感じで目の前の街を見つめている間も藍月はギルバートの言った通りに歩を進めていた。


今回の旅には恭香及び従魔たち───つまりはクランの主力たちがほとんど付いてきていない。そのため普段ならば「恭香、いい宿とか貸家おしえてー」とか言うところが出来ないのだ。

───まぁ、今回は学園長が「お前らどうせ受かるんだからもう部屋決めといた。そこ使え」と言った感じで学園の寮の部屋を用意してくれたらしい。グレイス学園長の顔は思い浮かばないが......一体どんな人なんだろうか?


何故か月光丸を先頭とした学園行きの馬車の列は、人々往来する大きな道路の真ん中の方を進む。

道が大きいため、馬車が通っても往来する人々が苦労することはなく、逆に左右へと分かれて道を譲ってくれるまであった。



───が、やはりここでも目立つ目立つ。先程から僕の体へといろんな視線が突き刺さってきます。



僕はそれらを無視して、見た目だけは凛々しく、中身はぼーっと、という感じで前を向いていると、一時間ほど経ってようやく学園らしきものが見えてきた。


まだ少し遠くその全貌を伺うことは出来ないが、それでもここからでも分かるほどおおきな時計台───いや、時計塔か。それに加えてその敷地境界線に沿って高い壁が設置されているように思える。確かに貴族達も通うんだし、安全管理はしっかりしておかないといけないよな。




───と、そんなことを思っていた時だった。





一瞬だけ僕の視界の隅に、見覚えのある茶髪が映りこんだのだ。




僕はビックリしてそちらの方へと視線を向けるが、先程僕が見た茶髪はもう見当たらず、空間把握を使用しようかとも思ったが、そこまでして嗅ぎ回るのは少し躊躇われる。





「........まさか、な?」





先ほど茶髪の見えた方へと視線を向けながら、僕はそう呟いた。




という訳で、学園編第1話でした。

茶髪の正体とは一体......?

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