第15話
ギンたちの会話
ギン「なぁ、恭香? 僕って吸血鬼になったけど、翼と尻尾、それに八重歯かな? それ以外に変わったことってあるのか?」
恭香『あぁ、鏡が無いと分かりませんよね。マスターはその他にも、身体の内部がかなり強化されてますし、外見で言えば瞳が赤くなったりしていますよ?』
ギン「へぇー、そうなのか。ん? そういえば吸血鬼って影ないんじゃなかったっけ? 僕の場合は影があるんだけど」
恭香『実はそれ、ずっと考えているんですけどね、マスターみたいな前例がないから分からないんですよ』
白夜「主殿は影魔法というユニークスキルを持っておるのじゃろ? 十中八九それのせいじゃろ」
2人「『......』」
白夜「な、なんじゃその意外そうな顔は!?」
2人 ((なんでこういう時だけ頭いいんだろう?))
キラースコルピオン
冒険者の間でのランク付けではランクAAとなっている。
その身体は鋼より硬い甲殻で覆われており、魔法への対抗力も大きく、レベル3以下の魔法では討ち取るのは難しいとされている。また、とてつもなく強靭な肉体を持ち、その尻尾には遅効性の致死毒があるため、迂闊に近づくことさえ難しいといわれている。
基本的には巣から出てこないことから危険性は低いと見なされており、ランクはAAに収まっているが、実力だけならAAAは確実で、場合によってはSランクの個体まで出現するらしい。
各国は、このキラースコルピオンをA級危険指定しており、もしも発見した場合は速やかに打ち取る事を求められている。もしもLv.4の魔法使いや、S級冒険者がいない場合は、巣の付近を立ち入り禁止区域とし、速やかに他国へと要請すべし、との事だ。
このことからもキラースコルピオンは別名、こう呼ばれている。
『破国の死神』
☆☆☆
以上が恭香から聞いた話なんだけど...。
「何でこんなところに、その『破国の死神』とやらが居るんだ? ここ、コイツの巣なのかな?」
そう、あの後この大部屋に入った僕たちはこのキラースコルピオンと出会ってしまったのだ。
まぁ、とりあえずは鑑定だな、白夜の時のような失敗はしたくないからな。
「『鑑定』!」
種族 キラースコルピオン(762)
Lv. 223
HP 2400
MP 320
STR 1300
VIT 1800
DEX 620
INT 265
MND 2500
AGI 845
LUK 57
ユニーク
致死毒保有
アクティブ
土魔法Lv.2
威圧Lv.1
パッシブ
堅殼Lv.3
全属性耐性Lv.3
毒耐性Lv.5
気配察知Lv.3
気配遮断Lv.3
痛覚耐性Lv.1
称号
破国の死神
「......」
とんだ化け物じゃねぇか!!
というか、コイツを魔法で倒せる人間なんているんだろうか...
まぁ居るんだろうなぁ...。
まぁ、そいつらと比べたら僕なんて弱っちいもんだ。
最低でもLv.500位にはなりたいよな......。
って、まぁそれはいいとして。
『何故ここにいるのかはよく分かりませんが、これはまた相性が最悪の敵ですね』
「だな、ちょっとばかし面倒臭くなりそう」
いや、別にAAランク位までならまだ僕も充分勝ち目はあるのだ。
だがしかし、この魔物は話が違う。
僕の武器は最高Lv.2までの魔法と、この短い短剣だけだ。
こいつの甲殻は最低でもLv.3じゃないと全くダメージを与えられないし、短剣で切りつけても恐らくその肉体まで届かないだろう。
まさに相性最悪。この時点では会いたくなかった相手である。
「ん? なんじゃ? コイツに勝てんのなら妾が変わってやろうか? 主殿よ」
白夜が心配してそう聞いてくるが、
「はっ、コイツとは確かに相性最悪だけど、こいつ如きに勝てなくて誰がお前の主を名乗れるってんだよ」
そうだ、相性が悪くても勝てないとは言っていない。
それに、
「せっかく、僕から見ても強敵と思えるやつが出てきたんだ、そう簡単に誰かに譲ったりするわけないだろうがっ!」
僕はそう言って爛々とその赤い目を光らせていた。
☆☆☆
僕は相手が動き出す前にとある魔法を発動した。
「『影分身』!」
すると僕の周りに大量の靄──変身の時のおよそ数倍だろうか──が立ちこめる。
そしてまた変身の時の様にその靄が消え失せると、そこには10人の僕が立っていた。
影分身。
自らの影を使って自分と瓜二つの分身を作り上げる魔法だ。
分身は致命傷を食らうと影に戻ってしまうが、それまでの間は好きに動かすことが出来る。
と言うような魔法で、これは影魔法Lv.2で覚えたものだ。
他にもまだ使っていない影魔法や、一度も使ったことのないそれ以外の魔法もあるが、それは後々使うとしよう。
影分身たちはお互いに頷き合ってから相手の方を確認する。
相手は流石に驚いたのか、動きはまだ見せない。
そうして集まった10人の僕達は、作戦どおり四方に散って相手の隙を窺うのだった。
☆☆☆
私はキラースコルピオン。名前はまだ無い。
私はついこの前までお気に入りの巣穴に篭って余生を謳歌していたのだが、ある日、ふと目が覚めるとこのような見たことも無い大部屋に連れてこられていた。
誰がこんな事をしたのか、いや、そもそも私相手に誰がそんなことを出来るのか、と疑問に思ったが、こんなところに長居するつもりも無く、2つあるから出口から外に出ようと思った、
のだが、この出口には見えない壁でも張ってあるのか、私はここから出ることが出来なかった。
軽く絶望した私だったがどうやらここでは食事する必要は無いらしく、従来、面倒臭がり屋の私は、
『別にここでもいっか』
と、そんな事を思ってここに住むことにした。
そんな事からひと月と少し。
私の新しい寝床に初めての侵入者が現れた。
1人は黒髪の吸血鬼だった。コイツは目が赤く光っており、ギラギラしていて、なんだか怖かった。
『うん、戦闘狂になるな、コイツ』
とそんな事を思った。
もう1人は銀髪の女の子。
見た目だけならば、隣に並ぶ吸血鬼の方が圧倒的に恐ろしく見えるだろうし、並の奴ならば真っ先に吸血鬼の方を警戒するだろう。
だが、その少女を見た瞬間、私は恐怖してしまった。
それは私が並ではなかった証明になるのだが、何故だろう、全然嬉しくない。
その圧倒的な強者の風格。この私を前にしても全く動じず、自らの勝利を疑わない圧倒的な自信。そしてその威圧感はまさに圧巻としか言いようがなかった。
そして私は思った。
『あぁ、きっと、私の人生はここで終わるのだろう』
どちらを相手にするにしても、最終的に待っているのは死だけだ。
どうやら私の相手を務めるのは吸血鬼の少年のようだ。
私も伊達に長く生きてはいない、せめて死ぬ前に一矢報いてやると、珍しく本気になる私だった。
この少年も私よりは格上だろう、だが、それは覆せないほどの差ではない!
そう考え、相手の出方を伺っていると、彼は何やら魔法を使ったらしい。
私の体には攻撃魔法は使えないと踏んだのか、どうやらサポート系の魔法のようだ。
彼の周りに靄が現れ、気づいた時には彼が10人になっていた。
流石の私もこれには驚いた。
『な、なんだこの魔法は!? 闇魔法...?いや、こんな魔法は無かったぞ!? という事は闇魔法に見せかけた光の屈折系の魔法か?』
結局、私は光の魔法だとあたりを付けた。
その間にも彼らは私を囲む様に四方へと散っていた。
まずいっ、そう思った時には彼らのうちの一人がもうこちらへと突っ込んで来た。
他の9人も時間差をつけて私に向かって攻撃して来ている。
1人はそのままこちらに向けて突撃し
1人はその場から水や風の魔法を使って攻撃。
また1人は円を描くように動きながら徐々にこちらへと近づいて来ていて、
さらに違うひとりは私の注目を集めるようにこちらに攻撃しては離れて、を繰り返している。
『くそっ! 厄介なッ! だが勝てない程ではないっ!』
私は彼らが私の近くに来た時を見計らって体を回転させ、尻尾で周囲を薙ぎ払って、一気に6人程を蹴散らした、のはいいのだが。
『なにっ!? 一人ひとりに感触があるだと!?』
そう、彼らは光の魔法ではなかったのだ。
蹴散らした分身動く事はなく、は黒い靄となって消滅していった。
それを見て私は、
『ま、まさか!? 魔法ではなくユニークスキルの類か!?』
と、その事について思い当たった。
『なるほど、謎さえ解ければ大したことはないっ!』
残るは4人。
1人はその場から魔法を放っている。
1人は今の攻撃に驚いて二の足を踏んでいた。
まずはこの2人から潰す事にした。
まずは二の足を踏んでいるほうに向かって尻尾から毒の液を放出した。
まさか飛び道具があるとは思わなかったのか、驚いた顔をしてそのまま攻撃をくらい、消滅していった。
もう片方も魔法を使おうと集中しはじめた瞬間を見計らって毒の液で消滅させた。
残りは2人。
2人は何やら前方数10メートルの所で並んでおり、何やら2人同時に魔法を発動しはじめた。
すると2人の影が地面から浮かび上がり、それぞれが空中で繋がった。
『...一体何をする気だ?』
私は不審に思い、その場から毒の液での攻撃を始めた。
分身2人は見事な体捌きを披露し私の毒液をかわしながらも、その影を片方の分身は右手に、もう片方は左手に移動させてこちらへと向かってくる。
2人は私の目前で左右に別れ、円を描くかのように私の後ろへと向かい始めた。
目の前には2人の繋げた影の線が迫っていた。
──ツッ! まずいっ!
そう感じた私は咄嗟に身を低くしてそれをかわしたのだが...
『ぐわぁぁぁぁぁッッ!!!』
尻尾だけはそれをかわせなかったらしく、私の尻尾は影の線によって半ばから両断されてしまった。
『くっ! 先ほどの分身といい、まさか! 影を操るユニークスキルか!?』
私はやっと正解にたどり着いた。
まぁ、尻尾1本でそこまでたどり着けたのだ、充分だろう。
そう無理やり結論づけると私は魔法の反動で動けなくなっている2人に向って走り始めた。
あれだけの魔法だ、さぞかし反動も凄いのだろう。
そう思い、2人の前まで来たが、想像どうり、こちらを見上げて引き攣った笑いを浮かべている。恐らく動けないのだろう。
『ふっ、なかなか強かったが、それでも私を舐めすぎだ』
さっさと殺してしまおう。
そう思い、私は両手を同時に振り上げたのだが...
突如、私を中心とした地面に大きな影が写る。
『ま、まさかっ!?』
身の危険を感じ、それが何かも確認しないままその場を逃げ出すのだが...。
「ははっ、逃がすわけないじゃないか」
「一緒に死んでもらうぜ」
と、先ほどまでの表情とは打って変わった2人が私の脚を2本取り押さえた。
『くっ! ま、まさか! お前達、本物じゃない......』
そして私と2人の分身は頭上から迫っていた大きな何かに押し潰されたのだった。
次回、バトルの解説です。