第14話
僕たちが先程の大部屋を出てから1時間後。
僕たちは未だに目的地へたどり着けないでいた。
身体能力は上がっているのだが、同じような道を魔物や罠に警戒し続けながら移動するっていうのも精神的にくるものがある。
という訳で、僕たちは目的地までの道半ばで休憩をしているのだった。
それにしても、
「はぁ...。完全に騙されたなぁ」
『これは...ちょっと酷いですね』
「もう嫌なのじゃーーっ!!」
...お前は子供か?
実際には1000歳超えてるババアの癖に......。
「おっと、主殿。何だか主殿は変なことを考えおったりせぬかな? 妾の女の勘がそう告げておるのだが?」
「は、ははは、そ、そんなことないじゃないですか!」
くっ、何でこいつらはこんなにも年齢の話に鋭いんだ!?
片や親が神様でガチ8歳児のおませさん(本)。
片や1000歳overのドラゴンロリババア(変態)。
何だか並べて見るとすごい組み合わせだな。
これに+αで、男装、僕っ子、姫騎士に魔王あたりまで加わったら壮観だろうなぁ。......ってフラグじゃないからね?
それはともかく。
何故1時間も歩き続けて未だに目的地へたどり着けないでいるのかについてだ。
それについては一言に尽きるだろう。
「まさか直線距離は短いのに道のりがとんでもなく長いなんて思いもしなかったしなぁ......」
と、そういう事だ。
『まさか階段や下り坂まで使って距離を稼いでくるとは思いませんでしたねぇ...。 そもそも何なんですか? このダンジョン。私が知らないとなるとかなり訳ありってことだと思いますが......』
「何だか面倒臭くなってきたのじゃ。」
おいおいドラゴンさんよ。やる気なさすぎじゃないか?
確かにね、このダンジョンはちょっと面倒だよ?
マップに反応は無かったのに、いきなりそこら辺から魔物が生み出されるから常に警戒しておかないといけないし、その上、魔物を倒してもドロップアイテムも未だ無く。そしてイライラし始めた時に限って発動する罠の数々。さらに未だに宝箱の類はひとつも無く......
ってあれ? 僕達ってなんでこんなクソみたいなダンジョン真面目に攻略しているんだ?
確か、ドロップアイテムを入手するついでに、道中で魔物との戦闘に慣れておこう! みたいな感じだった気が......
ねぇ、ここさっきからゴブリンしか出てきてないんだけど。
ゴブリン(最大Lv.10)と、僕(真祖Lv.200超え)が戦ったらどうなるか分かるよね?
近づく→ナイフを首に振り落とす→血で汚れる前に離れる
それの繰り返しなんだよ...
戦闘に慣れるも糞もないじゃねぇか!
ちなみに僕はステータスからも分かるようにかなり運がいいのだ。唯一白夜より優れているステータスでもある。
その僕が1人でゴブリンを虐殺しまくっているのに未だにドロップアイテムが無いのだ。
そりゃ嫌でも分かるだろう、コイツらにはドロップアイテムというものが無いんだ、と。
「...面倒臭くなってきちゃった」
『ま、マスター!?』
☆☆☆
多数決により、僕たちは目的地まで強行突破することにした。
「と言う事で、『変身』!」
すると僕の周りに黒い靄が漂い始め、すっかり中の様子が見えなくなってしまう。
しばらくして黒い靄が霧散すると、そこには......、
「おお! かっこいいのじゃっ!」
『白夜ちゃんは光り輝いての変身でしたけどマスターの場合はこんな変身の仕方なんですねー。それにしても初めての変身ですけど、中二病真っ盛りな見た目ですね? ふふっ』
彼女たちの視線の先には一匹の黒狼がいた。
まぁ、僕なんだけど。
今の僕は体長は2メートル程で、筋骨隆々のその身体に黒い影のようなものを纏っており、その瞳だけ赤く輝いていた。恐らく中二病患者が見ると、テンション上がりまくりだろう。
恭香よ、異世界に来て中二病を再発させない男は、男なんかじゃないからな?
『それじゃあ白夜、恭香の鎖を僕の体に巻き付けてから、僕の上に乗ってくれ』
ん?変身して、声質が少し変わったか? まぁいいけど。
「わかったのじゃ!」
白夜はそう言って、恭香から伸びている鎖を僕の胴体に結びつけると、僕の上に飛び乗った。
『よし、それじゃあ軽く走ってみるからよくつかまっておけよ?』
『こちらは大丈夫ですよー?』
「わかったのじゃっ!」
という事で僕は軽く走り始めた、
のはいいのだが。
『おぉーー!すごい! 軽く走ってるのにもう100キロは出てるんじゃないか!? これ!』
珍しくテンションが上がる僕。
「ふおぉぉぉぉ!! 速いっ! 速いのじゃぁぁぁあ!」
僕よりテンションが上がって、僕の上で暴れまわっている白夜。
『ちょっと! 白夜ちゃん! そんなに暴れまわっているとマスターの上から落ちてしまいます......ってあれ!? 白夜ちゃん!?』
白夜を注意するが、途中で何故か困惑と驚愕の声を上げる恭香。
僕たちのパーティはこんなんで大丈夫なんだろうか? と心配になった僕と恭香だった。
☆☆☆
途中、白夜が行方不明になるという事件以外は順調に進んでいき、僕たちは10分程で、目的地に到着したのだった。
「ふぅ、道中の魔物は全部無視したとはいえ、こんなにも早く着くとは思わなかったな...」
『確かに楽だったんでしょうけど、私はこっちの方が疲れましたよ...』
「あ、あぁ、流石にあれは焦ったな...」
僕たちがお互いにため息をついていると、その元凶が、
「はははは! すっごい楽しかったのじゃ! 主殿! もう1回!もう1回お願いするのじゃぁ!!」
と、上目遣いで言ってきたので、不覚にも可愛らしく思えてしまい、ついつい頭を撫でてしまったが、
「白夜、危ないから今回みたいな事はもうしないでくれよ? 僕たちも仲間がいきなりいなくなると心配なんだ...」
そう、言い聞かせるように言うと、
「う、うむぅ、すまなかったのじゃ...。次回からは暴れたりしないのじゃ」
と、落ち込んだ様子で言ってきたので、もう大丈夫だと思うのだが...
(じ、次回からはって...、まさかまたやるのか!?)
と、少し心配になる僕だった。
☆☆☆
「色々あったけど、やっと最初の目的地到着だな」
『はい、色々ありましたけど』
「色々あったのじゃ」
ほぼお前の事だけどね。
とまぁ、それよりも。
「この先に次の大部屋があるはずなんだけど...」
マップで確認しても、この先に大部屋がある事は確かだし、その中心に赤い点があることからも中ボスクラスの魔物がいる事は確かなんだが...。
「僕、苦戦出来るかなぁ?」
『「無理だと思う」』
「......」
僕はため息をつきながら、少しの期待に胸を膨らませて大部屋へと向かっていった。
この時、僕はまだ知らなかった。
このダンジョンの真の恐ろしさを。
次回、中ボス戦!