第128話
勇者サイドも入場です。
今回はまだ試合には入れそうにないです。
『さぁ、最初に登場するのは......おおっと! クゼ選手だぁぁっ!!』
歓声にも目もくれず、もう完全に集中し切っている久瀬。
その姿に、思わず息を呑む観客たち。
『クゼ選手は現Bランク冒険者でもあり、『黒炎』の二つ名を持つ黒髪の時代の代表格です! 未だにギルド登録から一ヶ月、旅ばかりであったためランクはBですが、その実力はそれ以上と噂されます!』
『ふむ......これはかなりの器の持ち主だな? もしかしなくとも将来は執行者や我にも届きうるモノを持っておるぞ?』
『なんとぉっ!? どうやら獣王様のお墨付きだァァァっ!!』
どうやら獣王も久瀬のやばさに気付いたようだ。
彼には馬鹿げた伸び代と───僕の思い過ごしかもしれないが、スキルやそういうもので言い表せない何かがある気がする。
魔剣や聖剣とも違い.........強いていうならば、
───まるで、バハムートを前にしているような気分になる。
まぁ、それはともかくとして。漆黒色に染まった革鎧に一振りの刀を腰に差している姿は、いかにも主人公らしく、クールでカッコイイものだった。
続いて、ステージへと二人並んで歩いてゆく鮫島さんと堂島さん。
『おおっと! 続いて現れましたのはミツキ選手、サユリ選手だぁぁっ!! ミツキ選手はCランク冒険者ですが『女王』の二つ名を、サユリ選手は同じくCランク冒険者で『聖王』の二つ名を冠しております! 果たしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!?』
......確かに鮫島さんは女王って感じだけど、堂島さんが聖王......ねぇ?
確かに聖女や聖母は存在するからそれしかないのだろうけれど、それでも少しイメージのはズレているな。
───でもまぁ、その内『聖王』の名に相応しい貫禄も付いてくるだろう。
次にステージへと飛び出していったのは穂花だ。
『続いて登場したのは......ホノカ選手だぁっ!! 何やら目が真っ赤に腫れているようですがどうしたのでしょう!?』
『執行者にでも泣かされたんじゃないか?』
『?? 執行者様が泣かせたのですか?』
『......お前はまだ知らなくていい事だよ』
『おおっと!? ここで執行者の女ったらし疑惑が浮かび上がったぞ!? これはスキャンダルだぁぁっ!!』
うおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!
───何故か大歓声があがる。
歓声と言うよりブーイングだったかもしれないが。
浦町が隣で腹を抱えて笑っているが、僕としてはこの大衆の眼前で僕の不名誉な印象を植え付けられて怒り狂いそうなのだが。
「くくっ、だが、本当のことだろう?」
「はぁ......、まぁそうなんだけどさ」
───ま、泣かせたって言っても"嬉し泣き"なんだがな。
「それじゃ、レディファーストということで」
「くくっ、確かに最後は、君が相応しい」
浦町はそう言ってコツコツとステージへと向かって歩き出した。
『さぁ、新しく登場したのはウラマチ選手だぁぁぁっ!! 第四回戦で会場中を恐怖に湧かせた天才マッドサイエンティスト! どうやらチーム内では『完全無欠』という二つ名が付けられているそうです! もしかして彼女も執行者の毒牙に.........おおっと!? サムズアップをしているぞぉっ!? これはまさかの展開かっ!?』
『ぐはははははっ! あ奴もなかなかやるではないかッ!』
『?? 重婚、ってやつなのですか?』
『......お前はまだ知らなくていいことだよ』
誰の耳にも明らかなブーイングが鳴り響く。
何やら分身の近くから女性達のブーイングが鳴り止まないのは気のせいだろうか?
───ぜひ気のせいであってほしいものだ。
「はぁ......、何でこの空気の中、わざわざ出て行かなきゃいけないんだよ......」
もうこれは、高校の時に通ってた塾とかそういうレベルじゃなくて、
"てるてる坊主を逆さにして寝たのにも関わらず、翌朝は超天気良くて、その上その日は千五百メートル走がある日で、更にはそれが微妙な三時間目とかで、更には部活もあって、更にそれを終えてからの数時間の塾。そして終わって帰ってきたはいいが妹が録画していたアニメを削除している"
っていう正夢っぽいのを見た日の朝くらい行きたくねぇ。
───え? なに? ちょっとリアル過ぎないか、って?
はっはっはー、気のせいだよ気のせい。実際にあった話なんかじゃないさ。
......うん、気のせいだよ。
そんな現実逃避をした先で心を蝕まれていると、とうとう僕の出番がやってきてしまったようだ。
───これでモノとか投げられたりしたら引きこもるからな?
僕はそんな決意と共に、ステージへと足を踏み入れるのだった。
☆☆☆
視点は変わりまして我輩、シル=ブラッドである。
とは言ったものの、お久しぶりです。
え? 誰だよお前って? 嫌だなぁ、魔物の大進行が起こった時に白夜達に危機を伝えた影分身ですよ。
ええ、あのなんの役にも立たなかった影分身です。
───なんだか泣けてきた。
それでなのだが、どうやら本体の心が荒んできたらしいのでここからは僕からの視点でお送りしようと思った次第である。
───と思ったのだが、
「何が荒んでるって? 女の子に抱きつかれて喜んでるだけなんじゃないの? しかも膝枕って.........きぃぃぃっっ!! まだ私もしたことないのにぃっ!!」
「な、なんじゃとぉ!? 妾というものがありながらなんという仕打ちじゃっ!? 興奮してしまうではないかっ!」
「.........はぁ」
「元気だしてください、輝夜さん。次の章ではきっと貴方が主役ですよ」
「......そう......かな?」
どうやら荒んでるのはこちらも同じらしい。
勇者達も肝心要な奴らが消え去って今やリーダーはあの鳳凰院だ。すげぇ頼りにならない『戦姫』である。
「はぁ、ギン殿もとんでもない仕事を押し付けてくれましたね。まさか恭香殿たちのお守りとは......」
「......ねぇシル=ブラッド? それより浦町さんが私たちのパーティに入りそうな件について話そうか?」
───恭香はどうやらご立腹であるらしい。
だけど言い訳くらいはさせてもらうぞ?
「ですがそれも仕方ないでしょう。確かに彼が一番愛しているのは貴女なのかも知れませんが、親族以外で一番付き合いが長いのは彼女なのです。長年時を共に過ごした美少女、それもかなり話も合う相手、それも好意を寄せてきてくれる相手に好感を持たない童貞など居りますまい」
「くぅっ......、そ、そうだね。ギンは童貞だもんね。はぁ......、童貞に免じて許してあげるよ」
───なんだか思いっきり心が抉られた気がした。
と、そんなことを話しているとどうやら本体が出てきたようだ。
ザッザッ、と何やら覚悟が決まったかのような落ち着き払った様子で、その両の瞳が鈍い光を放っていた。
───が、何よりも.....、
瞬間、ゾワゾワッと全身に鳥肌が立つ。
どうやらそれは、恭香や白夜たちも同じだったようだ。まだ余裕そうなのは......恐らくはレックスだけだろう。
「は、ははっ......ギンってば本気だね......?」
僕らが何を見てそう感じたか、と言えばそれは皆が揃って同じものを指さすだろう。
「......アダマスの大鎌、まさか執行者モードじゃなくても召喚できるようになってたとはね」
そう、本体は赤色の魔力をバチバチと放出しながら、一回り大きく成長───いや、解放されたアダマスの大鎌を肩に背負って登場したのだった。
───まるで『ブーイング出来るならしてみろよ?』とでも言わんばかりの本気度である。
あぁ、ちなみに、正義執行がLv.2になった影響か、アダマスの大鎌は左手からも召喚できるようになったし、逆にグレイプニルを右手から召喚することも出来るようになった。
大して変わらないとは思うが、それでもわざわざ執行者モードにならずともアダマスの大鎌を召喚できるようになったのは大きいと思う。
『な、なんだあの大鎌はァァっ!? あまりの姿に先程まで鳴り止まなかったブーイングが形を潜めているぞっ!?』
『あまりの姿......ってもな。あれは確かに聖剣エクスカリバーと並ぶ武器みたいだが、アイツはまだ自分に対する強化はなんにもしてないぞ? こんなので驚いてたら身体が持たんだろう』
『な、なんとぉっ!? 私、余りにも天上の会話のため話についていけないようです! どうしましょう!?』
『だ、大丈夫です! わ、私もついていけないので』
『おおっと! どうやら司会席にも味方はいたようです!』
どうやら司会たちも復活したようだ。
───さて、僕の本体はどんな面白いものを見せてくれるのかな?
そんなことに思いを馳せる影分身であった。
☆☆☆
「「「.........なにそれ?」」」
「武器だが?」
そんな会話を交わして、僕はステージ中央の列に加わる。
相手が横一列に並んでいるのに対して、こちらも横一列に彼らの前へと並ぶ図となっており、こうなると僕の前には見上げねばならない十六歳が来るわけだ。
───はぁ、遺伝って羨ましい。
そんなことを知ってか知らずか、目の前の第一王子が話しかけてきた。
「ふぅーん、あんたが執行者か。なんだか見掛け倒し、って感じだな?」
レックスの息子だからさぞかし頭もキレるのだろうと思いきや、ただの傲慢どら息子らしい。
───一瞬で敬意が失せた。
その上、今の声は司会者側も拾っていたらしく、
『おおっと!? ウイラム様、いきなり執行者に喧嘩を売ったぞ!? だ、大丈夫なのかっ!?』
『ぐはははははっ! 大丈夫の訳なかろう! 我はあのどら息子の性根を叩き直すためにこのエキシビションマッチを開いたのだからな!』
『なんと!? これも全て想定内だったと!?』
『今、執行者が「え、ぶん殴っていいの?」って顔でこっちを見てることまで完全に想定済だ!』
『衝撃の真実です! ウイラム様は一体どうなってしまうのでしょうか!?』
『あ、あの、執行者......さん? あんまり虐めないであげてくださいね?』
......ぶん殴って性根を叩き直せばいいのか手加減すればいいのかどっちなんだろうか?
───まぁ、一撃で沈めればいっか。
そんなことを考えていると、先程の放送を聞いたウイラムが、
「へっ! こんなヒョロヒョロした吸血鬼、変異種である俺様の敵じゃねぇってんだよ! 親父もとうとう頭がイカレやがったか? ハッハッハ!!」
放送席からブチッと音がした。それも二つ。
『おいギン=クラッシュベル、本気で沈めて構わん。何なら後遺症が残っても構わんぞ?』
『お兄様でもお父様をバカにするのは許しませんっ! もう怒ったのですっ!』
どうやらこんな公共の場で家庭内崩壊が起こってしまったらしい。
ちらりと賓客室を見やると、ガラス張りのその中から背筋が凍るほど恐ろしく美しい笑みを浮かべた王妃様の姿が。
───どうやらウイラム君の未来は決まってしまったようだ。ご愁傷さまです。
『さ、さて! ちょーっと怪しい雰囲気になってきたのでとっとと試合を始めちゃいましょう!』
賢明な判断である。
『今回のエキシビションマッチは5対5のハンデ無しの勝負です! 自らのパーティから大将を一人決め、先にその大将を落とした方が勝利となります! 敗北条件としては、大将の気絶、もしくは降参......、もちろん殺しは無しですよ?』
今、司会さんと目が合ったのは気のせいだろうか?
『......コホン、まぁそういうことになっております。最後に、大将には五人全員を仕留めるまで手出しできず、大将も味方が全滅するまで待機、というルールとなっております! 簡単に言えば「敵を五人倒してから大将を倒した方が勝ち」ということですね!』
......となると、だ。
僕ら六人の中から一人、大将を選び、その大将は他の五人がやられるまでは無敵状態で待機、ってことか。
向こうはおそらく、大将はどら息子.........いや、団長のアックスかな? よくよく見れば、僕を油断に満ち溢れた目で見てるのはウイラムだけだしな。
───きっとその優秀さと立場から、滅茶苦茶甘やかされてきたんだろうな。
そろそろその『俺は偉い、強い』って勘違いを正してやらねばなるまい。
『それでは大将と作戦を決める時間として十分間取りますので、大将の方は控え室に居ります大会職員の方までお申し付けください!』
こうして僕らのエキシビションマッチは開幕した。
───さて、こいつらの実力を測るにも、どういう戦法を取るべきかな?
☆☆☆
「さて久瀬よ、どういう戦法を取る?」
「......やっぱり俺に振るよな」
もちろん、リーダーはお前だからな。
それがどんな愚行であれど、今はお前に従うつもりだ。
───ま、久瀬に限ってそんなことは無いだろうがな。
「うーん......銀、お前は後衛って出来るか?」
「支援魔法や回復魔法に関しては堂島さんに負けるが、攻撃魔法に関しては任せとけ。僕は元々魔法特化型だからな」
「なら安心か......、浦町、お前は回復魔法も使えたよな?」
「ふむ、回復弾を使えるぞ」
「なるほど.......」
さて、どう結論を出すか。
しばし考え込むこと数秒、
────そうして彼が出した結論とは、
「うん、大将は堂島だ」
「え、えええええっっっっ!?!? わ、私ぃっ!?」
───なんと、僕と同じ結論であった。
ウイラム君も根はいい子......であってほしいのですが、まだ何ともわかりません。
次回! ウイラム君の行く先は!?




