第127話
久瀬や桜町たちとの感動の再会です。
ガチャリと扉を開けたその先で待っていたのは、目を見開いてこちらを見つめる久瀬、穂花、鮫島さん、堂島さんの姿だった。
───さぁ、感動の再会です!
そんな感動の再会を果たした僕がするべきこととは一体なんであろうか?
①『うわぁっ! 久しぶりだなお前らっ! 元気してたか!?』
僕はそんなことを言うタイプではないだろう、却下だ。
②『おっひさー! 元気してたー?』
却下だ、口調しか変わって無い。
③『よお、久しぶりだな。僕のことを見つけられずに悩み悩んでも未だ見つけられないポンコツ共』
これはどちらかと言うと僕のパーティに向かっていうべき言葉だ。それこそ堂島さん辺りが泣きかねない。
④ガン無視する。
たしかにこの中では一番いいのかもしれないが、好感度がガタ落ちだろう。それは避けたい。
⑤気配を遮断する。
もう見られているのだから手遅れだろう。今から遮断したところで探されると面倒だ。
───以上の結果から、僕はどうするべきかと考える。
そして、僕が至った結論とは.........、
「さて、寝るか。浦町、膝枕よろしく」
「くくっ、なんだか私は嬉しいぞ?」
───寝ることだった。
相手を無視するという愚行にもは走らず、それでいてある程度距離を置ける。
会話は無く(こちらからは)、それでいて確実に対面出来る方法。
それはつまり、睡眠する、ということに他ならない。
───それでは、おやすみなさ......
僕はこの時、ひとつだけ誤算をしていた。
それはきっと、浦町にとっても同じだったのかもしれない。
その誤算とは.........、
「ぎーーーーーーんっっっ!!!!」
「ぐばぁぁっ!?」
「ぐふっ......」
───この場に、僕の死を浦町と同じレベルで重く捉えていた馬鹿が居ることだった。
僕は前から飛んできた茶色の僕っ子を避けることが出来ず、浦町諸共吹き飛ばされたのだった。
ちなみに僕は鳩尾に、浦町は腹部に被害を被った。
「ちょ......けホッ、いきなり何すんのさ......」
「し、死ぬかと思ったぞ......」
そんな僕らの抗議は、彼らの声で遮られてしまった。
「おお! マジで銀じゃねぇか! 久しぶりだな!」
「二回目だけれど久しぶりね、銀さん?」
「ぎ、銀くん! 久しぶりっ!」
そして僕の腹部に顔を押さえ付けて泣きわめく穂花。
「ううっ! ぎん、銀! ぼ、僕...銀が死んじゃったって......それも二回も.........うええぇぇぇぇぇんっっ!!!」
一体こいつは何を言っているのでしょう?
そんなことを思うと同時に、とてつもなく懐かしい気分に襲われた。
───あぁ、帰ってきたんだな、と。
「はぁ......、久しぶりだな、お前ら」
結局は、僕はこうして友人たちと再会を果たしたのだった。
☆☆☆
『さぁ! やってまいりましたエキシビションマッチ! どうやら黒髪の時代パーティは全員が出場を快く引き受けてくれたようですので、今回は、黒髪の時代ドリームパーティVS獣王様がお選びになった精鋭パーティの勝負になります!』
うぉぉぉぉぉっ!!! と、喉がイカれるんじゃねぇかってくらいの悲鳴にも似た雄叫びが上がる。
───どんだけテンション上がってるんだよ、と陰ながら思う。
『今回は戦闘のレベル───特にギン選手のレベルがとんでもない事になっているらしいので、司会も一新! 司会は引き続きまして私と......』
『ぐはははははっ! 獣王レックスがお送りするぞっ!』
『わ、私もいますよっ!』
『はい! ということで司会は私と獣王レックス様、第一王女シャルロット様でお送りします!』
うぉぉぉぉぉっ!!! と再び雄叫びが上がる。
たしかにシャルロットってのはあの時貴賓室にいた赤の混じった銀髪の女の子だったかな?
と、そんなことを思っていると、僕の前に居た久瀬たちが話しかけてきた。
「......お前どんだけ強くなってんだ? 司会にわざわざ獣王が出てくるとか尋常じゃないぞ?」
「それ僕も思ったよ......、もしかして獣王様より強いんじゃない?」
「ふ、ふふっ、流石に銀さんもあの恐竜には勝てない......わよね?」
あぁ、僕の大体の強さくらい報告しとかなきゃこれからの試合に支障が出るかもしれないか。
「今の僕か......本気で殺りあって獣王の両腕くらいは道連れに出来るくらいは強いと思うぞ?」
───まぁ、最初の一回限りだとは思うけどね。と補足するが、
瞬間、時が止まった。
「ん? 何か変な事言ったか?」
特にドン引きされるようなロリコン発言とかはしてないと思うが.........何故だろう?
そんなことを考えていると、浦町が補足してくれた。
「ここにいる五人はあの中でも賢くて実力もある。獣王との実力差くらい分かるし、それを相手に両腕を奪えると豪語してる君の実力も十分に分かっているからな」
あぁ、なるほど。コイツらはそこまで来ている、ってことか。
「ん? でもそれだったら僕の実力も測れたんじゃないか? 測れてたならそこまで驚くことじゃないだろ」
「獣王みたいな奴ならまだしも、君やシル=ブラッドのような実力を完全に隠してる人の強さまでは測れないさ、そもそも君たちに関しては魔力すら感じられないし」
なるほど、隠蔽されたら分からない、ってことか。
そんなことを話していると、どうやら相手側のパーティが入場し始めたらしい。
『さぁ! 最初に入場してきたのは護衛団団長のアックスさんだぁぁぁっ!! 元SSSランク冒険者の虎の獣人にして、今回の大会に出場しているホリック選手の父親でもあります!』
最初に登場したのはルーシィとタメを張れるかのような筋骨隆々な体躯をした、白髪の男───アックスだった。
『ちなみにアックスはエルグリッド王と同じくらい強いからな』
『そ、それはアックスさんの強さを褒めればいいのか、直属護衛団の団長と同じだけの強さを誇るエルグリッド様を褒めればいいのか.........どっちなんでしょう?』
明らかに後者だと思うけどな。
エルグリッドってあれでまだ三百歳なんだぜ?
十九歳の僕が言えたことじゃないが、レイシアが七千歳、アルフレッドでも九百歳を超えてるってんだからとんでもない強さなのだろう。
───それこそ、将来は間違いなく神格を得るくらいには。
と、僕は分身の視界を共有しながらそんなことを思う。今の控え室からは見えづらいからな。
『さぁ続きましては副団長! 我らがアイドル、イグムスさんです! 豹の獣人にして鞭使い! その実力は団長アックスさんにも届くと言われております!』
続いて登場したのはスレンダーな身体をした金髪の女性だった。威圧感こそ無いが、その身長はアックスとも大差ないように見える。二メートルちょい手前くらいか?
『続いて登場したのは団員、ベルさんです! 狼の獣人にして、なんと弟はギルドマスター! その軽やかな身のこなしで相手を翻弄します!』
そう紹介されたのは茶髪ショートカットの狼耳を生やした女性だった。
なんだかとてつもなく僕の知人に似ている気がする───というかギルドマスターって言ってる時点でほぼ確定だろう。
───きっとこの人、ベラミの姉さんだ。
『おおっと! どんどん登場だぁぁっ!! 続きましては鷲の獣人であるエクスさん! 熊の獣人であるオルベルさんだぁぁぁっ!!!』
続いて出てきたのは.........、
───おいおい、今までの獣人とのギャップが激しいな。
片や肩甲骨から鷲の翼が生えた、灰髪の男。
どうやら耳の代わりに身体の色々な場所が羽毛で覆われているようだ。
それで、問題が次のオルベル、という人物。
「.........あんなナリで戦えるのか?」
───そこに居たのは、顔以外を青い熊の着ぐるみに身を包んだ、女の子だった。
だがしかし、
『まさか"そんなナリで戦えるのか"とお思いな人はいないと思いますが、オルベルさんは次期副団長と呼ばれるほどの強者です! 一体どんなに戦い方を見せてくれるのでしょうか!?』
前方から五つのジト目が僕に振り返る。
「いや、逆に聞くが、お前らの中であの着ぐるみが強いと思った奴、何人いるんだ?」
一瞬でそのジト目は消え去った。
───全く、お前らも人のこと言えねぇじゃねぇか。
と、そんなことを思っていた時の事だった。
『さぁ! いよいよ登場、最後のひとりはもちろんこの人!』
プシュー、と相手サイドの出入口より煙が上がる。
───やっぱりこの国の魔導具を作ったやつは日本人に違いない。
そんなことを思うと同時にその煙が止み、そこには......、
「......はぁ、まだ他にも子供がいたのかよ」
赤の混じった銀髪を短く切りそろえ、その金色の瞳はギラギラと輝いていた。
その腕は硬質な皮膚で覆われ、そこからは鋭い爪。
そんな、僕より少し大きい位の、十六歳前後の少年。
『グランズ帝国第一王子! ウイラム様だぁぁぁっ!!』
───まんま獣王の力を引き継いでいるようで何よりです。
☆☆☆
『さぁ続きましては黒髪の時代パーティ! 果たしてどんな試合を見せてくれるのでしょうか!?』
『ぐはははははっ! 我も彼らが本気を出した所は見たことがないので楽しみだ!! .........まぁ、うち一名ほど本気だされたら我が出ていかねばならぬ奴がいるのだがな』
『おおっと!? 一体それは誰のことなのかぁっ!?』
とまぁ、そんなこんなで僕らの出番となった。
───のだが、
「んじゃ、久瀬リーダー。試合前の意気込みを一言」
「無茶振りすぎんだろ!? っていうか今の放送ってお前のことだろ!? 普通お前が仕切るんじゃねぇのか!?」
「いや、コレばかりは運だから仕方なくないか?」
「久瀬よ、お前も男なら覚悟を決めるべきではないのか?」
「......全然関係ないんだけどさ、銀って第一回戦の時。勝ち残ったらヒントくれるとか言ってなかった?」
「「「「あ」」」」
───やる気の全く見えない僕らだった。
「ヒントかぁ........、どうするかな?」
「ふむ、『シル=ブラッドを信用するな』とかでいいのでは?」
「おお、ナイスアイデア浦町!」
「ふふっ、どういたしましてだ」
「な、なんか今日の浦町ちゃんは機嫌がいいね......?」
「いやな? 先ほどタイタニック状態になってしまってな? くくっ、私も乙女と言うことか」
「......タイタニック状態? それって何かしら」
「愛情たっぷりの告白を受けたということだ」
「「「「告白っ!?」」」」
───がしかし、非常に面倒な事になりそうである。
「こ、ここ、告白って誰からっ!?」
「......さてな?」
「ま、まま、まさか銀さん!?」
「ぶ、ブラッドさんかもしれないよっ!?」
「おい銀、お前は一体何人に手を出すつもりだ.....?」
───まだ誰にも手は出していないのだが。
というかあれは告白でもなんでもなく、ただの就職だったのだが。
「おや、どうやら君は『永久就職』のつもりだったようだな。もちろん就職先は君の肉奴れ......」
「うわぁぁぁぁっ!! ぎ、銀!! 君は一体どれだけハーレムを拡大する気なんだい!?」
「ちょ、ちょっと落ち着けお前ら! 僕はまだ一言も発してないぞ! 全部浦町のでっち上げだとは思わないのか!?」
「あれが嘘だったら泣いてしまうかもしれないな」
「.........」
「やっぱり本当なんじゃないか!!」
僕の襟首を掴んで思いっきり脳を揺らしに来る穂花。
ニヤニヤと笑いながら思いっきり契約を破ってる浦町。
オロオロする堂島さんに、虚ろな目をしてる鮫島さん───とてつもなく怖い。
そして『俺はソロプレイ系か純愛系の主人公にジョブチェンジするべきかな』とでも考えていそうな久瀬。
───大丈夫さ、久瀬。君にはハーレムを築く能力がある。
特に古里さんや小鳥遊、猫又さん辺りが怪しい。
きっと数ヶ月後には僕と同クラスのハーレムを結成していることであろう。
きっとメンバーとしては、幼馴染、エルフ、ダークエルフ、王侯貴族、魔族辺りが加わっていることだろう。
───幼馴染なんて居るかどうかは知らないけど。
そんなことを考えていると、とうとうその時が来たようだ。
『それでは選手たちの入場です!』
それを聞いて一変して真面目な表情を浮かべる一同。
───一名ほど目に涙を浮かべているが。
「それじゃ、お前ら。俺たちが勝てるとは思えねぇが、一丁胸貸してもらうとするか!」
「そうね、最悪銀さんが最後に決めてくれるでしょう」
「う、うんっ! みんなで頑張ろうねっ!」
「くくっ、面白くなってきたな」
「......銀。これが終わったら話があるから」
「え? 嫌なんだけど」
「むきーーーーっ!!! もう怒ったからねっ!」
「はいはい、その台詞何回目だよ」
「君と初めて会ってから五十三回目だよっ!」
「......数えてたのね」
そんな、僕のパーティとは一風変わった心地よさを感じながらも、僕は彼らの後について行くのだった。
───なにせ、今回のリーダーは久瀬だからね、とそんな事を考えながら。
ギンはやっぱりどこに行ってもこんな感じです。
次回! エキシビションマッチ開幕!お楽しみにっ!




