第126話
少し恋愛要素強いかもです。
「さて、どうする」
「さて、どうする、じゃないよ。自分で決めたことでしょ?」
珍しくイケボを出してやったというのにバッサリと切り捨てる恭香。......少しくらい協力してくれたっていいじゃないですか。
今現在、僕らパーティは月光丸の中で昼食を取っていた。
───毎日毎日外食は流石に金がもたないからな。
それで、そこでの会話の内容が『エキシビションマッチ、あいつらと顔合わせることになるんだけど。どうする?』ってことになったのだ。
まぁ、そういう話を切り出した途端に切り捨てられたのだが。
「っていうか、誰がエキシビションマッチのパーティがあんなゲテモノ揃いになるなんて想像できたよ!? 正統派主人公、僕っ子真の勇者、ギラっギラの氷の女王に、少女漫画の主人公、更には頭が沸いてるマッドサイエンティストのコイツだぜ!? バカにしてるとしか思えんなっ!」
僕はそう言って、いつの間にか月光丸一号に居座っている浦町を指さす。
───ふと気付いたら月光丸の空き部屋に『銀と了の愛の巣』ってプレートがあってびっくりしたものだ。まぁ、即刻剥がしたのだが。
「これ、人に指を指すものではないぞ」
「うるせ、他人の家に不法侵入しているやつが何を言うか」
「ほう、ここは馬車だと思ったがな?」
.........めんどくせぇ奴だな、コイツも。
────そんなことを思っていた時だった。
「ふ、ふふふっ、全く、騒がしいの......ですわね」
「「「「「「.........はっ?」」」」」」
突如、僕らの食卓に凛とした声が響いた。
────というか、白夜だった。
「お、おい白夜っ!? な、なんか変なもの食ったんじゃないかっ!? 輝夜、暁穂! 医者を探してきてくれ!!」
「「了解」しましたっ!!」
「白夜は.........死ぬのであるか?」
「え、縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ!?」
「か、かか、白夜ちゃん! だ、大丈夫なのですっ!?」
「オリビアさん! 白夜さんは一応ドラゴンですよ! きっと大丈夫に違いありません!」
「わ、わわっ!? い、医療ギルドに依頼してきましょうか!?」
「頼むネイル! 頑張れよ白夜! あと少しの我慢だからな!」
僕は白夜をぎゅっと抱き寄せて頭を撫でる。
輝夜と暁穂、ネイルがお金を持って馬車を飛び出そうとした
───その時だった。
「おい鴨共、そいつは病気ではないぞ」
そんな、落ち着いた浦町の声が響いた。
「「「「「.........えっ?」」」」」
全員の動きがピタリと止まる。
動いているのは僕の腕の中で恥ずかしそうに身じろぎする白夜と、やれやれと言った表情の恭香と浦町。
「そうだね、多分......というかギンのせいだからね?」
「ふむ、誠に遺憾だが、同感だな」
───どういう事だ?
そう言おうとしたその時だった。
うぃーんガシャン、と音がして恭香の右掌から小さなマイクが現れる。
───そして、
『ギン殿は物分りのいいお淑やかな女性がタイプらしいですよ?』
どこかで聞いたような───というか言ったようなセリフがそのマイクから聴こえてくる。
「「「「「あっ......」」」」」
皆がそう言って、ジト目で僕の方を見てくる。
僕の中で様々なピースが組み合わさる。
───先程の白夜のお上品な言葉遣い。
───僕と白夜の関係性。
───僕の周囲の男女比。
───そして、今流れた僕の失言。
それらのピースは一つの回答を導き出していて、
「す、すいませんでした......」
僕は大人しく土下座するのだった。
───なぜだか、少し嬉しく思っている自分がいたのは、気のせいだったろうか?
☆☆☆
それからおよそ、三十分後。
「というか何? さっきのマイク」
「え? あぁ、記録能力の一つで音声再生だよ」
「......本当にハイスペックだな」
僕たちはそんなことを話しながら、闘技場へと向かっていた。
───ちなみに僕たち、というのは、
僕、恭香、白夜、輝夜、暁穂、オリビア、アイギス、マックス、伽月、藍月、ネイル、浦町に.........、
「クフフッ、そう言えばなのですが、黒髪の時代パーティが夢のコラボ、と言えばこちらも夢のコラボとなりますね、ギン殿」
僕の半身こと、シル=ブラッドである。
確かに僕とシルのツーショットなんて本来は有り得ないからな。かなり珍しい組み合わせだろう。
というか隣に二メートル超の怪しげな道化が歩いているとなんだか落ち着かない。
「酷いではありませんか! そもそも我輩をデザインしたのは貴方本人でしょう!?」
......そう言えば影分身も僕の思考読めるんだっけか?
「もちろんですよ、我輩、基本的に何でも知って.........って、うわぁ!? ちょっ!? 何いきなりナイフで刺そうとしてるんですか!?」
「うるせっ! 中二病みたいなこと言うなよっ!」
「そ、そんな理不尽なっ!?」
そんな一人二役をしながら歩いていると、どうやら闘技場前までついてしまったらしい。
───何だかんだで意識を逸らそうと頑張ってきたが、もうその時がやってきてしまったらしい。
眉間に寄った皺を解す。
なにが良くて僕はこんな地獄みたいな行事に参加しちゃったんだ。あの時に戻って自分を殴ってやりたい。
「それじゃ、ちょっくら友人達と感動の再会を果たしてくるよ」
目一杯爽やかな笑みを顔に貼り付けてそう言ってみるが、
「ふふっ、感動のあまり泣かないように気をつけてね?」
「ふむ、嬉しかったら言ってもいいんだぞ。私の胸を貸してやろう」
───心を読む二人には騙しが効くわけもなく。
「はぁ、高校の時通ってた塾に行く時みたいだよ......」
そんな憂鬱な気分を味わいながらも、僕は選手用の入口へと歩き出すのだった。
───はぁ、どうなる事やら。
☆☆☆
カツカツと、二つの足音が廊下に響く。
「おい浦町」
彼女はため息を漏らすと、
「対価は?」
まるでその要件がわかっているかのようにそう問いかける。
「一日デートしてやる」
「ふん、足りんな。キスも付けろ」
「き、キス......」
知らずして歩く速度が上がる。
それを元から分かっていたかのように付いてくる彼女。
「ふっ、冗談だ。手を繋ぐくらいで許してやるさ」
───その代わり、と。
「今度は、私を置いていくなよ......?」
彼女らしくない、弱々しい声でそう言うのだった。
はぁ、いつものマッドサイエンティストはどこへ行ったのやら。
「これは契約だ」
目の前には恐らく控え室であろう部屋への扉があった。
「アイツらを説得するのに尽力してもらう代わりに、僕はお前と一日手を繋いでのデートをしてやる」
その言葉に、少し顔を伏せる浦町。
「あぁ、それと、」
僕は最後に、こう付け加えた。
「お前を一生、僕の助手として傍においてやる」
───だから、もうそんな泣きそうな顔するなよ。
僕はもう一度歩く速度を上げ、ガチャリと扉を開ける。
「くくっ、このツンデレめ」
そんな嬉しそうな鼻声が、後ろから聞こえた気がした。
───やっぱり僕は、コイツの事が結構好きらしい。
ギンさん、告白しないんじゃなかったんですか?
※彼の中では告白ではないようです。
次回! 勇者たちとの再会です!
それと、そろそろ誰かの閑話入れたいところですが......どうしましょう? 今のところアイギスや久瀬、桜町あたりを検討中です。




