第122話
大会二日目突入!
新たな猛者たちが勢揃いです!
「く、クフフ.........おはようございます」
時刻は午前八時。
僕は煤だらけの体を引きずって闘技場まで来ていた。
───ちなみに背後には頬を膨らませた白夜と嬉しそうな恭香。ニヤニヤしている男子組に、悔しそうな輝夜とオリビア、オロオロしてるネイルとアイギスに、それを微笑ましそうに見つめる暁穂がついてきている。
ついでに子供組は暁穂の肩の上に乗っていた。
「おう.........なんだ手品師、妙に煤だらけだな?」
「大丈夫? 紗由里ちゃんに回復魔法かけてもらう?」
「あ、あのっ! わ、私、神聖魔法使えるので......」
「く、クフフッ......お気遣いなく.........」
なぜこんな状況になっているか、と聞かれれば、あのあと乱入してきた白夜が『妾というものがありながらっ!!』とか言って部分竜化して襲いかかってきたのだ。
あれは僕が悪いのだろう、ということで抵抗なく攻撃をくらい続けたはいいが、結果このザマである。
────やっぱり僕は、お淑やかな人の方が好きかもしれない。
そんなことを思っていると、どうやらそろそろ第五回戦のメンバーが発表されるらしく、放送直前に起こるノイズが聞こえてきた。
『みっなさーーん! おはようございますっ!』
『今日は予選の第五回戦、第六回戦を行い、時間が余ればちょっとしたエキシビションマッチを行う予定です』
『ちなみにエルグリッド様は予選出場のため司会をお休みしています! 今日はその代わりに司会は私とこの方、エルメス王国国王直属護衛団団長、アルフレッド氏でお送りします!』
『はい、宜しくお願いします』
うおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!
昨日と同じように街の至るところから雄叫びがあがる。
何だかんだでこれはテンションを上げる、って意味ではかなり有効的だし、皆で楽しむにはかなりいい方法だろう。
────まぁ、僕は雄叫びなんて挙げないけれど。
「っていうかアルフレッドって......俺たちが予選で当たったあの人だよな? なんで司会なんてやってんだ?」
「僕もわかんないよ......」
僕は単純に、"アルフレッドもなんだかんだ言っても戦闘狂で、目立ちたがり屋だから"だと思うけどな。
────っていうかエキシビションマッチって何?
そんなことを考えていると、さらなる放送がかかる。
『それでは早速ですか、第五回戦の出場選手の発表です』
『さぁ! 今回はどんなメンバーになるのでしょうか!?』
『私個人としてはそろそろエルグリッド様にも出場願いたいところなのですが.........』
『果たして第五回戦にエルグリッド様は出場するのか!? 第五回戦の出場選手はこちらですッッ!!』
その掛け声と同時に、昨日と同じ場所に名簿のスクリーンが映し出される。
───果たして、そこには記されていた名前とは......、
「ようやく我らの出番だな?」
「は、はいっ、そうですねっ!」
滅亡の使徒、輝夜
聖盾の担い手、アイギス。
鮫島さんの親友、堂島紗由里。
お下げの図書委員長、古里愛紗。
長身のグラマラスお姉さん、町田京子。
二メートル超の身長を誇るノッポ、花田京介。
───そして、
エルメス王国現国王、エルグリッド・フォン・エルメス。
これまた面白そうな面子に、少しだけ心を踊らせる僕だった。
『試合開始は昨日と同じく一時間後です! それまで訓練するもよし、集中を高めるもよし! トイレに行くのを忘れるなぁっ!』
『ちなみに私個人としては瞑想するのをお勧めします』
そんなこんなで、第五回戦の出場枠は決定した。
───それと同時に、恭香とオリビアの第六回戦出場も決まったのであった。
そう言えば勇者たちはもう全員出揃ったのか、とそんなことを思った。
───その時だった。
「失礼致します、貴方がシル=ブラッド様で宜しいですか?」
............へっ?
☆☆☆
「クフフ、申し訳ありません。少々遅れました」
発表からおよそ一時間後、僕は少し遅れて観戦席へと戻ってきた。
「シル、どこへ行っていたんだ?」
予想通りと言うかなんというか、浦町の言葉通り、皆がとても聞きたそうな顔をしている。
───そりゃあ、獣王の部下に連れて行かれたんだから気になりもするだろう。
「クフフッ、少々獣王殿とお話をしただけですよ」
そう、僕はあの後貴賓室まで連行され、獣王と対談したのだ。
───もちろん、ギン=クラッシュベルとして。
その対談最中に一つ頼み事を受け、『面白そう』という理由で即断した僕は獣王に気に入られ、意気投合した、というわけである。
───まぁ、その頼み事の内容としてはお楽しみ、ということで。
「クフフ、そんなことよりそろそろ試合が始まりそうですな?」
僕は話を無理矢理逸らすと、そのまま席に座ってステージを見下ろす。
まるでそれを見計らったかのように放送が流れ始める。
『さぁやってまいりました第五回戦! 司会のアルフレッドさん、今回の試合についてどうお考えですか?』
『はい、ギン様の従魔である輝夜様、我が国の騎士であり彼の眷属であるアイギス様、それにエルグリッド様はおそらく勝ち抜くでしょうね。特にエルグリッド様の能力は集団戦にも向いているのでかなり期待ができるでしょうし、黒髪の時代の面々も揃ってますからね』
『おおっと! どうやら今回も期待が持てそうですねっ!』
『ええ、ですが私が一番注目したいのは彼───アルバ様ですね。魔王様の息子様であり、魔王軍幹部No.2です』
『なんと!? どうやら今回も強者ぞろいのようだっ!!』
.........なに? 魔王の息子とか出場してんの?
少し驚いて空間支配を広げてみると、若干二名ほど、かなりの強者が混じっているようだった。
───ただ、一つ疑問があった。
(.........なぁ、あの人って女性じゃないのか?)
僕の視線の先には肩まで伸びる金髪を風に揺らすイケメン魔族───いや、正確には美人さん、なのだろう。アルバの姿があった。
外見は全くわからないように隠しているようだが、明らかに胸が出ているし、男ならあるべきものが感じられない。
(は、ははは......、空間把握ってそういう事まで分かっちゃうもんね)
何故か機嫌のいい恭香も否定はしなかった。
───男装女子か......、しかも魔族ときた。是非とも本戦へと勝ち進んでもらいたいものだ。
まぁ、あれほどの実力なら間違いなく本戦へと出場するんだろうがな。正直、ブースト無し、神器無しの僕と互角くらいじゃないか?
まぁ、何よりも男装してるくらいなんだから戦闘中にセクハラし放だ.........コホン。恭香が物凄いジト目を送ってきているのは気のせいだろうか?
「気のせいだと思う?」
気のせいであって欲しかったです。
そんな馬鹿なことをやっていると、どうやらもうすぐ試合が始まるようだった。
『さぁ! それでは準備はよろしいですか!?』
答えるかのように武器を構える参加者たち。
───そして、
『試合開始ですッッ!!!』
こうして第五回戦は開始された。
さて、誰が勝ち残ってくるかね?
───そんな、半分分かりきったことを考える僕だった。
☆☆☆
開始早々───ある意味───ぶっぱなしたのは、輝夜だった。
「なんだか面倒になってきたな。アイギスよ、一緒に来い」
「へっ?」
アイギスのそんな間抜けな声が聞こえたと同時に、アイギスと輝夜を球体型の黒い膜が包む。
そのあまりの光景に唖然とする一同。
───それもそうだろう、なんせ輝夜は、不戦勝狙いなのだから。
まぁ、あいつの事だから時々魔法をぶっぱなして試合が終わるのを早めるのだろうが、実に汚い手である。
もちろんそんなことをすれば参加者たちからの怒りを買う。
「ざけんなこの野郎ッッ!!」
「もう女だからって容赦しねぇっ!! ぶっ殺してやるっ!!」
「みんなで一斉攻撃だっ!! 引きずりだせっ!!」
のだが、それに引っかかった者の末路は決まっていた。
「誰かは知らないが、陽動に関しては礼を言おう」
突然横から現れた金髪のイケメンが輝夜たちに集っていた選手たちを、その手に持つ蒼い長剣で一掃する。
───そう、アルバである。
どうやら彼───彼女は冷静沈着な人物のようだ。
.........と、思ったのだが。
「――さて、誰から血祭りにあげようか」
ただの戦闘狂であった。
......男装とか魔王の娘とかセクハラとか、僕が本戦で当たりそうなフラグ建てるんじゃなかったぜ。
そんな後悔をした。
そんなことを考えている間も試合は進む。
ふと視線をずらせば、パーティを組んで戦っている勇者たちの姿が。
長身の聖騎士である花田が大盾を持って前衛を。
その背後には堂島さん、古里さんのヒーラーペアに、後衛の町田さんが居た。
前衛一人に、後衛三人というバランスの悪いパーティだが、それでも十分に成り立っているのは、それぞれがかなりのスペックの持ち主だからだろう。
花田は細っちぃ見かけにも関わらず、大盾での守りに関しては天賦の才とも呼べるような才能を発揮していた。
いつ如何なる時も腰をしっかりと落として重心を低くしている彼を攻めきるのは至難の技だろう。
堂島さんは神聖魔法という回復やサポートに特化した能力で花田の回復や強化をメインにして動き、町田さんが花田が止められそうにない相手へと牽制を打ち込み、戦況を把握する。
そして、その二人が補えきれない部分の回復と攻撃を受け持つのが古里さんだ。
一見バランスが取れていないようでかなりバランスの良い四人パーティ。
───もしかして案外いいところまで行くんじゃないだろうか?
そんなことを思ったが、僕は次の瞬間にはその考えを改めなければいけなくなる。
「ハッハッハーー!! 血沸き肉踊るっ! これぞ俺の求めていた戦いだぜっっ!!!」
馬鹿が一匹、その戦場に紛れ込んできたのだ。
たったそれだけで、戦況はひっくり返る。
「あ? おお、お前ら全員迷い人.........いや、この場合は巻き込まれた異世界人、とでも言うのか? まぁ、どっちでもいいがな」
ギリギリ水の収まっていたコップに、一粒の石を入れたらどうなるか。
────答えは明白である。
「もちろんあの時のギンよりかは楽しませてくれんだろうな?」
それが余裕のある戦況だったとしても、強者一人の乱入で容易くひっくり返ってしまう。
弱い者が千人集まったところで圧倒的な一には叶わない。
────まぁ、簡単に言えばゴブリンが千体居たとしても僕には傷一つつけられない、ってことだ。
エルグリッドVS勇者パーティ
さて、勝負の行方はどうなる事やら?
☆☆☆
それとほぼ同時刻。
僕が注目していたのは一人の獣人族の女性だった。
───そう、最初に空間把握を使った際に言った"強者"のうち一人である。
ボサボサの茶髪に.........犬の耳かな? おそらくは犬の獣人であろう、十六歳程の女の子。
ボロボロの革鎧を装備し、煤だらけの身体を見て、僕は彼女が何なのか、だいたい想像がついてしまった。
「......奴隷、ですか」
奴隷でなくとも、かなり貧困層の住民だろう。
前者ならばまだしも、後者ならばこの大会に出た理由も、その若さに釣り合わない強さも納得できるというものだ。
───何よりも、その瞳が語っていた。
『私は勝たなければならない。例えどんな手を使ったとしても』
明らかに心の壊れかけている、その少女。
僕は彼女の事が、少し気になった。
───それは純粋な好奇心から来るものか、それとも彼女の境遇に同情したからか、それとも.........
「ふふっ、絶対最後のでしょ?」
心を読んだ恭香がそんな言葉を被せてくる。
同じく心を読んだ浦町が、頷いてこちらを見ていた。
───はぁ......、最後のって言ったってまだなんにも考えて無かったんだがな?
でもまぁ、彼女たちの言う通りなのだろう。
「クフフッ、少しだけ手助けして差し上げましょうかね?」
心の壊れかけている人を目の前にして、僕ら医者が動き出さなくてどうするってんだ、ってことだろう?
僕の視界には満足そうに頷く恭香と浦町が映った。
───なんだよ、息ピッタリじゃねぇか。
その後、恭香と浦町のジト目が僕に襲いかかったのはご愛嬌。
ちょっとした伏線......でもないですね。
次回! エルグリッドVS勇者パーティ!
果たしてどうなるんでしょうか?