閑話 執行者の意志を継ぐ者
閑話です!
エルザの正体が明らかになるのでご注目を!
あれから、どれだけ経ったのだろうか?
私は、焼き払われた村を、1人で見つめていた。
あの時の記憶が、頭に蘇る。
『ゼロ! お前はこの中に避難してろっ!』
『嫌だよ父さん! 私も......私も戦うんだっ!』
『ゼロ.........はっ!? 奴らが来たわっ! ゼロ! あなただけでも早く隠れなさいっ!』
『か、母さん!?』
『くっ、ゆ、許せよゼロ!』
そうして、私の記憶は途絶えた。
恐らくはあの時、父さんは私を殴って気絶させたのだろう。そして、床下の倉庫へと隠した。
───そして、私が目を覚ますと、みんな死んでいた。
父も、母も、弟も。
友人も、幼なじみも、近所のおじさんも。
みんな、みんな、
───死んでいた。
私の中で、いろんな感情が入り混じる。
私達の村を壊滅させた、盗賊への怒り───復讐心。
独りぼっちの、孤独感。
親しい者の死への、悲しみ───後悔や、絶望感。
そして何より、自分だけ生き延びたことへの、苛立ち。
「くっ......な、なんで私だけッ......!!」
無駄だとわかっていても、その怒り、苛立ちは収まらなかった。
力一杯握った拳で、地面を思い切り叩く。
何度も、何度も、何度も、何度も。
そして、私の感情は爆発した。
「なんでっ.........なんでっ、なんでッ!? 私たちが一体何をしたって言うのよッッ!!!」
私の慟哭が、誰もいない村に響く。
「私たち.......森の中で暮らしていただけじゃないっ......!」
そんな言葉が誰かに届くことはなく、
私の中には絶望が広がって行った。
バキリッ、と、
───何かがひび割れる音がした。
☆☆☆
私はあれから、村の中を歩いて回った。
そこらには知り合いの死体が転がっており、男は無残に殺され、女は衣服を剥ぎ取られ、辱められた後に自害していた。
バキリッ
ふと、自分の家が目に入る。
そして、その家の前に転がる、二つの死体。
───父と母だ。
弟は、その時、丁度友達の家に遊びに行っていたから生死は分からないが......恐らくは死んでいるのだろう。
その友人宅を訪ねても、死体が幾つも並んでいるだけだったし。
バキリッ
「生きる気力は無いのに......お腹は減るんだね」
誰に伝えるでもなく、私はそう言って街中から食料や使えそうな物を調達した。
そうして集まったのは、黒パンが十二個に干し肉が五個。二振りの短剣に、一振りの長剣、それに一つの盾と黒い外套だった。お酒は飲めないから、瓶の中身を全て捨てて、井戸から水を汲んだ。
───今は何をどうするかは決めていないけど、それでもこれは、今を生きる上で必要な事だろう。
何もせずに死ぬという選択肢は、私には無かった。
「生きる気力は無い.........」
けれど、
「私たちをこんなにしたアイツらを.........許してなんかおけない」
バキリッ
私の中から、とめどない復讐心が湧いてくる。
───たぶん、これが無ければ私はもう、自殺でも図っていたのだろう。
「今日から私が生きるのは、奴らに復讐する為だ」
バキィッ!
何かが、壊れるような、そんな音がした。
☆☆☆
それから私は、ここ一帯の地図を村長の家から探し出した。
アイツらに復讐するためにも、私は強くならなきゃいけない。
強くなるためにはこの村を出て、冒険者になるんだ。
お金を稼いで、学校に行って魔法を学んで、防具や武器を整えて、レベルを上げて.........仲間は......もう、失いたくないから、要らないかな。
───そして、いつかはアイツらを皆殺しに......
───そんなことを思った時だった。
「うぅっぅー.........あぁぁぁっ......」
「───ッッ!? だ、誰か生きてるのっ!?」
どこかで聞いたことのあるような声が、私の耳に届いた。
───あぁ、今のは友達のハルちゃんの声だ。
私はそう結論に至ると、私は走って、ハルちゃんを探し始めた。
「ハルちゃん! どこにいるのっ!? ハルちゃん!」
「うぅぅー、あぁぁぁ......」
その声は、小さくて、か細かったが、それでも私はここだよ、と私に告げているかのようにも聞こえた。
───そして、
「......ハル......ちゃん?」
目の前には、かつて親友だった、ゾンビが居た。
───あぁ、そう言えば、死体って放置すればゾンビになるんだっけ......?
そんな常識を今になって思い出す自分に呆れ果てる。
気付けば、周囲はぐるっと、かつて村人だったゾンビに囲まれていた。その中には、父や母、ハルちゃんの姿も見える。
「は、ははっ、ゾンビは......Eランクだよね?」
私も近所のおじさんに習って狩りをした事があったし、おじさんは「お前は天才だ」と言ってくれたが......それでも私はLv.5だ。
───この数のゾンビに、勝てるはずもない。
「ごめんね......敵討ち、できそうにないや」
私は、今も私を食べようと迫ってくる父と母に向かって、そう口にする。
「ふふっ、お母さん達に食べられるくらいなら......いっそ自分で......」
最期に、皆の動いている姿が見れて、良かったかも。
そんな、少し外れた事を考えながら、私は.........、
「おい坊主、手伝ってやろうか?」
───黒ずくめのお兄さんと出会った。
☆☆☆
「いやぁ、たまたまトイレを探してたらこんな場面に出くわすなんてなぁ.........運が良かったな、坊主」
あの後、お兄さんは、一瞬でゾンビのみを焼き払った。
───私も触ったけど怪我や火傷はなかった。......一体何だったのだろうか? あの銀色の炎は。
「お兄さん.........誰?」
私はまず、お兄さんの素性を聞いてみることにした。
命の恩人───目の前で父や母を焼却されたのは恨んでいない。むしろ感謝している───であるこの人にそんなことを聞くのも躊躇われたが、私はこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。だって今の私のすべき事は、
「盗賊に復讐すること......か?」
「────ッッ!?」
こ、心を......読まれた!?
しかも何故この村が盗賊に襲われたことを知っている......?
「ま、まさかっ!? 盗賊の一員......!?」
「......僕が盗賊に見えるんだったら病院紹介しようか?」
もう一度お兄さんの体を見渡す。
黒い髪───迷い人、というやつだろうか?
口から覗く八重歯に、黒い上着。
黒いズボンに同じく黒いブーツ。
そして、首元のマフラーとその瞳だけが赤かった。
第一印象としては、細い、弱そう。
そして、きちんと見てみると、明らかに敵に回してはいけない、と本能の奥の方が告げている。
───それこそ、盗賊なんかとは、まるで格が違う。
結果としては、
あぁ、きっとお兄さんは、噂のEXランク冒険者なのだろう。
と、そういう結論に至った。
数百年前に活躍したEXランク冒険者のパーティ『時の歯車』
構成員は七名だったと言われている。
世界を放浪中のリーシャさん。
王都の魔法学園で学園長をしているグレイスさん。
行方不明のエルザさん。
現神様の迷い人カネクラさん。
現魔王のルナさん。
現獣王のレックスさん。
ドワーフの里の長、ドナルドさん。
あまりの驚異的な強さ───それこそ、一人で世界を滅ぼしかねない程の天才の集まり。それこそが異例のEXランクを授かった、時の歯車。
そう、村長から聞いたことがある。
このお兄さんは迷い人.........なんだと思うから、きっと『カネクラ』って人なのだろう。たぶん。
「お兄さんは......カネクラって名前だったりする?」
私は半ば確信を持ってそう聞いてみる。
この人がそうでなかったとしたら、それこそ本物はとんでもない人なのではなかろうか?
だが、私の考えは外れていたようだ。
「カネクラ.......鐘倉? もしかして僕の前の名前か? なんかそんな気がするな。恭香もそこから僕の名前を付けたのかもしれないし.........。まぁ、だけど多分、僕とその『カネクラ』って人は違う人だと思うよ。もしかしたらその人の子孫なのかもしれないけどさ」
どうやら本人ではなく、その子孫の人だったらしい。
少し驚いた私だったが、それでも安堵の方が勝ってしまった。
───何だか、すごい人に助けられちゃったな......これなら案外、簡単に街にたどり着けるかも.........
そう、安堵で口の端がにへらと上がってしまった。
───だけど、
「.........もしかして今、僕に助けてもらえる、って思ってないか?」
...............えっ?
その笑顔が一瞬にして凍りつく。
「も、もしかして.........助けてくれないんですか?」
再び、私の中を絶望が支配し始める。
この惨状を見て、助けないなんて......この人は鬼なんだろうか? 少なくとも同情くらいは.........
お兄さんはそんな感情を見透かしたように、私の思考に言葉を被せた。
「なんだ? 可哀想なんだから助けてよ、ってアピールか? まぁ、確かに家族と仲間を全員皆殺しにされたらキツイだろうし、同情もするさ」
「な、ならっ!」
「だけどな、僕なんて叔父さんに家族を皆殺しにされたんだぜ? その上、僕まで殺されかけた。その上で助けてくれる奴なんて、一人も居なかったぞ?」
その言葉に、思わずゾッとする。
もし、父さんが、母さんと弟を殺し、私まで殺そうとしたら?
そう考えただけで身が凍るような気分になった。
「『お前より不幸な人はいるんだから我慢しろ』なんてことは言わないさ、僕だってそんな無責任な事を言う奴がいたらぶん殴ってる」
だからさ、と。
「だから、僕はお前にこう言おう」
そうして、お兄さんは言った。
「僕はお前を、これ以上助けない。なんの見返りも無しに人に助けなんて求めるな。見返りも無しに人を助ける奴なんざ、頭のトチ狂った正義の味方か、それとも下心しかない奴、そうでなければただの気まぐれだ」
あっ!
私の頭の中にさっき助けてもらった映像が流れる。
───何を言ってるんだ、私は.........さっき助けてもらったばかりじゃないかっ!
同時に、こうも思った。
先程の行為は間違いなく、ただの気まぐれだったのだろう、と。
「それでも僕に協力して欲しかったら対価を払え。今回は機嫌がいいからな、期限無し、利子無しの、ある時払いで百万G。それで手を打ってやる」
「ひゃ、百万っ!?」
わ、私の今の全財産でも......五百Gだ。到底払いきれる額ではない。
だから、私は断ろうと.........
「その代わり、たった百万で僕が持つ神の防具を一つ、最高神の神器のレプリカを一振り。それに加えて最寄りの街までの案内とそこまでの食料付きだ。ついでに盗賊から逃げおおせた、生存者の所まで連れて行ってやる」
............えっ?
結局私は、お兄さんに協力をお願いした。
「坊主.........子供の頃から借金とは、あまり褒められたことじゃないぞ?」
「その張本人が何言ってるんですか? それに私は女の子ですし、ちゃんとゼロっていう名前があります」
「.........えっ、お前、女の子だったの?」
☆☆☆
私は今日の事を、忘れはしないだろう。
弟と友人一人を除いて、村が破滅した日。
死の恐怖を味わった日。
復讐を誓った日。
────そして、名も知らぬ人の背中に、憧れた日。
「さぁ、行こうか、アイク、マイちゃん」
「「うんっ!」」
こうして、私は大きなコートを着て、一振りの大鎌を背負って、最寄りの街ビントスへと歩き出した。
すぐ後ろには弟と、その友人の姿。
頭の中には、目的地へと続く矢印が描かれていた。
───私がベラミさんと出会って、盗賊団の壊滅、そしてお兄さんの名前を知るのは、もう少し後のこと。
☆☆☆
彼女達を見送った僕は、一人、考え込む。
「今回は......僕もうかうかしてられないんじゃないか?」
僕は、あの白髪の少女のステータスを思い出す。
───あの、心が壊れかけていた、少女の種族と称号を。
「天魔族の、神童.........ねぇ? くっくっくっ、面白くなりそうだ」
───僕は、新たな化け物を目覚めさせたのかもしれない。
と、そんなことを思った。
お忘れの方も居りましょうが、前に恭香が言っていた"その上"とはEXランクの事です。
そのうちゼロの閑話も挟むつもりですが、まだ彼女の将来は未定、ということになってます。
※天魔族
圧倒的な身体能力と魔力を備え持つ、全種族の中で神族に次ぐ最強種族。
吸血鬼族のような回復能力は無いが、その代わり弱点と呼べるようなものはなく、深夜でさえ吸血鬼族と互角という、俗に言うチート種族。
※少々初期と比べて改訂致しました。申し訳ないです。




