第107話
今回はノンシリアスです!
......まぁ、彼らにはシリアスは似合いませんよ、きっと。
「それにしても長いトイレだっねぇ?」
「あぁ、とんでもない大蛇を捻り出してたからな」
「へぇ? そんなに凄いのしてたんだ?」
「おうよ、バジリスク並の化物を召喚してきた。新人の冒険者が見たら本物と勘違いしちゃうんじゃないかな? 少し心配だぜ」
「.........おい主殿、下ネタは感心せぬぞ?」
時は進みあれからおよそ三時間後。
僕は行き帰りで一時間、その大蛇を召喚するのに一時間をかけて、およそ一時間程前に馬車へと帰還したのだ。
───ふっ、あれは我が最高傑作だったな。
「成長が楽しみ?」
ニヤニヤとした恭香がそう聞いてくる。
あれから一時間以上経っている、という事は、恭香にもバレてしまったのだろう。
「馬鹿かお前は。排出物が成長するわけないだろうが。今度こそボケちゃったのかな?」
「その排出物とやらに死神のコートにアダマスの大鎌のレプリカ、それに最寄りの街までの食料まで貸し出したお人好しはどこの誰なのかな?」
.........完全にバレてやがる。
まぁ、そうでなければ今更こんな話をぶり返してくるわけがないか。
「はっはっはー、なんの事だかさっぱりだな」
「ふふっ、まぁ、そういうことにしておくよ」
僕たちは、傍から見れば下ネタを言い合っているようにしか見えないような会話をしながら、馬車───竜車を進めて行った。
───ふと顔を上げると、目の前に黄昏が広がっていた。
☆☆☆
「おーい、今日はここで野営をするぞっ!」
そう言ってエルグリッドが馬車を止めさせたのは、少し広くなった、見通しの良い広場のような場所だった。
───まぁ、僕もそろそろ限界だったし......丁度よかったよ。
(三百も広げたせいだよ? 私に聞けばすぐに村の場所なんて分かったのにさ)
はっはっ、僕は奴をしやすそうな所に行っただけだぜ?
もしかしたらたまたまそこに潰れた村があった気もしないでもないが、まぁ、気のせいだろ。
「ツンデレ......」
恭香が何か言った気がしたが、残念ながらそれは、白夜の声で遮られてしまった。
───なにより、その白夜の叫んだ内容が問題すぎて、それどころではなくなってしまった。
「ぬぉぉぉぉぉっっ!! 野営なのじゃっ! また主殿と一緒に寝れるのじゃぁっっ!!」
「「「「「「「.........えっ?」」」」」」」
時が、止まった。
「ぬっ? どうしたのじゃ? 野営とは床を共にすることではないのかのぅ?」
自分が言った内容についてあまりよく知らない白夜。
───この娘にはもう少し、そっち系の事を教えないと不味いかもしれない。
「び、白夜......? もうちょっと言い方あるんじゃない......?」
事情を知っている恭香も思わずどもってしまう。
───まぁ、事情と言っても文字通り一緒に寝た、と言うか気づいたら白夜が僕の上で寝てた、ってだけなのだが。
だが、まぁ、言い方が悪い。
そりゃ、勘違いもするだろう。
「あ、ああ、あ、主殿っ!? ま、まさか既にそういう関係であったのかっ!?」
「くっ......、私としたことが......そんなことにも気付けないだなんて、もう、従魔失格ですね.........」
「うむ、めでたいのである」
「び、びび、白夜ちゃん!? そ、そうだったのです!?」
「お、お、オリビアさん!! き、きっと、なにかの勘違いですってば!」
「ハッハッハ!! アイツやっぱりロリコンじゃねぇかっ!」
「.........本当にこんな奴に娘をやってもいいんだろうか?」
「国王様、人には人の性癖があるものです。例えば国王様なら、め...」
「黙れぇぇぇぇっっっっ!!!」
まさに阿鼻叫喚。
「はぁ......、なんでこんな奴ら、テイムしちゃったんだろうか?」
伽月と藍月がノーマルであることを祈るばかりである。
結局、勘違いが解けたのは一時間後の事だった。
───今夜は本当に、ぐっすりと寝れそうである。
☆☆☆
その後、何事もなく平穏な日々が続いた。
───滅茶苦茶内容の薄い日常系コメディかと思うような日々だった。
嘘とかそういうのではなく、本気で語ることが何も無い。
だが、流石に『あれから、早くも十日が経った』から始めるのもどうかと思うので、ここ十日間のハイライトを紹介させてもらおう。
二日目。
魔物が襲いかかってきた(但し、ゴブリン三体)。
輝夜と暁穂が夜這いに来たため、グレイプニルで吊るした。
三日目。
旅の経路を再確認。
僕たちはパシリアの北面を経由して"東山"などの東に位置する山脈をぐるりと回ってグランズ帝国へと入国するらしい。
エルメス王国の南にはミラージュ聖国、東にはグランズ帝国、その国二の国境線の辺りには、正真正銘の国境線と、小さな『オーシー港国』という海に面した国があるらしい。
───いつか米を入手したら、寿司でも食いに行こう。
四日目。
「そう言えば、エルメス王国とグランズ帝国の間にドワーフたちの里があるの知ってた?」
「え、初耳なんだけど」
あと、風呂に白夜と暁穂が乱入してきた。
五日目。
どうやら勇者達が港国オーシーの横にある国境線からグランズ帝国へと入国し、僕の噂を聞きつけてしまったようだ。
武闘会、このまま出たらばれちゃうよなぁ......。
アイツらマジで頭沸いてるから会いたくないんだよ。
特に七三眼鏡と、爆乳くっ殺女騎士、僕に敵意丸出しの女騎士のオトモア○ルー(♂)、文字通り脳みそが沸いている不思議ちゃん。
六日後。
大分景色が変わってきた。
さっきまでは木々が生い茂っていたのだが、今はどちらかと言うと砂漠や岩場、と言った方が正しいかもしれない。
今回はドワーフの里には寄らないらしいが、いずれは行ってみたいものだ。
七日目。
暇すぎて僕の目が死んできた。
八日目。
あぁ、僕はこのまま暇すぎて死ぬのだろうか?
九日目。
ようやく僕の目に光が宿り始めた。
なにせ、恭香が「明日には国境線には着きそうだね」と言ったのだ。
───パシリアがエルメス王国の南東部に位置していて、本当に良かったです。
まぁ、こんな感じで今日──十日目に至るわけだ。
ビックニュースって言ったら輝夜と暁穂の夜這いと、白夜と暁穂の風呂乱入くらいなものだろう。
───も、もちろん二人ともタオル巻いてたし、すぐに恭香の手によって排除されたからね?
僕はまだ、純粋なままである。
もしもこのまま三十歳を迎えたら、新たな魔法を覚える、ってんなら守ってもいいかもしれないな、これ。
もしかしてそれこそが最強へと至る道なのかもしれな...
「いや、覚えないよ?」
───とっととこんなもの捨ててしまおう!
チラッ
横を見ると、八歳児。
チラッ
少し後ろを見ると、十三歳児と、見た目と精神が十四歳児。
「はぁ.........」
それはまだ先のことになりそうだ。
ジト目の恭香に睨まれながらも竜車に揺られていると、何だか人通りが多くなってきた。
パシリアで見たような防具に身を纏った冒険者たち───おお、あれは初心者講習ってやつじゃないか?
大剣を背負ったり、太刀を腰に差したり、弓やナイフを装備したり、と。色々な格好をした冒険者。
───やっぱり僕みたいなふざけた服装の奴は居ないな。
あたりを見渡しても赤いマフラーなんてしてるのは僕一人だった。
チラチラとあたりを見渡していると、今度は商人の物らしき馬車が目立ち始め、冒険者の数もどっと増え始めた。
すると当然のように注目されるのは、エルメス王国の国旗が入った白い馬車。
────ではなく、
思いっきり目立っていたのは月光丸一号だった。
黒塗りの巨大な馬車を引く、十メートル近いバハムート。
それを護衛するかのように並走するペガサス。
更に馬車の中には軍服姿が数人に、ギルド職員の姿。
───そして、銀色に光り輝く、馬車に画かれた紋様。
よし、僕が目立ってないっ!
全て作戦通りであった。
今の今まで、パシリアという街ではかなり目立ってきた僕。
───良くも悪くも、だが。
正直、今のパシリアの住民ならば、街中で魔法をぶっぱなしても素通りできるほどの胆力がついてきたようにも思える。
常日頃から上空を旋回するEXランクの竜種。
クハハハハハハッ!と夜中に響き渡る悪魔の笑い声。
串肉の屋台を一瞬で(買い)潰す少年。
街中で唐突にパンツを脱ぎ始めるメイドさん。
これらに動じずに、一体何に動じると言うのであろうか?
暁穂たちが攻めてくる前はまだある程度怯えは見せていたものの、何だかんだで死者が出なかったという奇跡が起こってからというものの、アイツらはもう手遅れになってしまった。
多分、ミラージュ聖国辺りが戦争を仕掛けてきても動じないだろう。
───あぁ、嘆かわしいものだ。
閑話休題。
それで、だ。
僕は思ったわけだ。
「あれ? 異世界ってこんなんだっけ?」とな?
いや、違うよね?
異世界って、自分の強さを見せびらかして
「俺っち強いだろぉ?」
とか言って自己満足に浸れる場所じゃなかったっけ?
それが現状、どうだろう?
「なぁ、次は神様でも仲間にするのか?」
「なぁ、執行者さん。アンタ、グランズ帝国の武闘会に優勝しに行くんだろ?」
「えっ? まだSランクなの?」
「早くミラージュ聖国滅ぼしてくんねぇか?」
少なくとも、市民や国王にこんなことを言われる場所ではなかったはずだ。
───どこで道を間違えたんだ?
そう聞かれれば、間違いなくアーマー君の事件からなのだが。
それで、だ。
まず、僕はパシリアで異世界を満喫するのは諦めた。
───僕TUEEEEをするには、パシリアではダメなのだ。
だから、今回の計画の舞台はグランズ帝国。
そして、僕はどうすれば本当の意味で異世界を満喫できるのか、と考えに考えた。特に七日目と八日目。
そして、僕はその方法を見つけたのだ!
「黒髪さえ目立たなければ、僕だとはバレないだろう、とな?」
僕は今、変身スキルで身長を伸ばし、髪色を白くさせていた。
───見た目だけなら、軍服を着替えて少し髪を切った執行者モード、みたいな感じだろうか?
だが、『そんなので騙せるのか』と、疑問に思う方も居るだろう。
だが安心するのだ。
「ギンって、髪の色と身長変わるだけで別人みたいだもんね」
「うむ、初めて見た時は驚いたのじゃっ!」
との事である。
身長が二十センチも違って髪の色まで違う人物をそう簡単に見分けることが出来るだろうか?
その上、僕の顔はthe平凡である。
つまり、僕を見分ける方法など、死神のコートに黒髪以外、無いというわけだ。
───特に死神のコートの無かった日本では、それはそれは気配遮断スキルが育って仕方なかったよ。授業に参加してるのに「◯◯? あぁ、休みか」とか言われるんだぜ? その時は本気で集団いじめかと疑ったよ。
それで、だ。
僕がグランズ帝国で最も注意すべきは二つ。
何故か王都の方向へと向かった勇者達と、同じく王都の方向から気配のするアーマー君だ。
アーマー君は......まぁ、武闘会に参加して経験を積むと同時に強い仲間を集めたい、って所だろう。
───僕は"アーマー&勇者(偽)ペア"がミラージュ聖国で誕生するなんて超絶面白そうなことになるのかと思ってたが.........これ予想外だった。
そもそもアーマー君のアレは間違いなくミラージュ聖国での洗脳によるものであろう。それも『ペンドラゴン』なんて名字がある事からも、かなり有力な家系であると推測できる───それこそ大司祭とかな?
彼は、僕にとっての人殺しの洗脳と同じように、正義感という洗脳を受け続けてきたのだから、まぁ、あれも仕方のないことなのだが。
───まぁ、だからといって僕がアイツを潰さないわけじゃないがな。
もしも僕があいつを見逃すとしたら、状況にもよるが、謝ってきた時だ。
もしも誠心誠意謝ってきたのなら、その時は素直に許してやろう。
だけどまぁ、今回の本題に関していうならば、アーマー君が僕の正体を見破るなんて、それこそ、僕の肉弾戦を目撃した時くらいのものだから気にしなくてもいいだろう。
───それで、問題は勇者たちだ。
アーマー君とは違い、奴らは僕の同級生だ。それだけ感づかれる可能性が上がる。
特に、久瀬と、穂花、あとは......鮫島さんとかも気づきそうだな。あの人めっちゃ鋭いし。あと定番の七三眼鏡こと御厨だ。
だが、何よりも注意すべきは、あの不思議ちゃんこと、浦町了だ。アイツを相手に油断なんてしたらそれこそ、一瞬で正体がバレてしまう。
まぁ、せいぜいがその五人だろう。
───でもまぁ、それでもすれ違ったくらいでは気付かない程の完成度だから大丈夫だとは思うがな。
それで、ひとまずは見た目の問題については解決だ。
───しかし、何よりも忘れてはいけないのが入国審査。
ギルドに登録している者なら、ギルドカードを。
それ以外の者ならば身分証明書を提出しなければならない。
───その上、審査は計十名の獣人族の騎士たちが行う。
つまり、そいつらにギルドカードを渡した瞬間に、全ての計画はおじゃん、というわけだ。
『ほう、ギン=クラッシュベル.........ってまじかっ!?』
『なんだとっ!? 執行者がいるのかッ!?』
『どこだどこだっ!? サインもらえねぇかなっ!?』
『キャー! 執行者様ーーーーっっ!!!』
って展開になるだろうという、恭香の予測である。
───そういうのは久瀬にやって下さいね。
僕ならば不法入国も容易いが、それでは武闘会に参加する際に面倒なことになってしまう。
ならば、どうするか。
「はい、次の方。エルメス国王様の護衛の方ですか?」
「はい、こちらがギルドカードになります」
(『妖魔眼』発動ッ!!)
「えー、キンさんですね? どうぞお通り下さい」
「あぁ、ありがとうございます」
今回も妖魔眼では二つの『暗示』を使わせてもらった。
僕の名前を「キン」と言い間違えるが、気付かない。
ギン=クラッシュベルなど、聞いたこともない。
この二つだ。
くっくっくっ、この暗示は三時間後くらいには解けるようにしているからな。
───せいぜい後から
「そう言えばあの白い髪のやつ、誰だったんだろうな? 確か、ギン=クラッシュベルとか言っ......て......、あれ? ギン=クラッシュベルって.........ま、まさかっ!?」
とでもなってくれればいい。
クハハハハハハッ! これは不法入国では無いのだから罪に問われる必要も無いなっ!
「それにしてもみんな獣耳生えてるんだな......って事は顔の横には耳ないのかな?」
───そんな事を言いながらも、僕は簡単に身分を隠した上での入国に成功したのだった。
「あ、うん。人間の耳のあるところの髪をかき上げたら凄いことになってるよ。正に未知の領域だね」
王都に着いたら獣耳女の子の奴隷でも買っちゃおうかと迷い始めた僕であった。
次回! ギンのトイレについての閑話です!
彼は何故死神のコートとアダマスの大鎌のレプリカを失った───手放したのか?
話が繋がってくればいいのですが......。




