3.亜里砂vs宇宙G
ここが宇宙だろうが何だろうが、Gは敵だ。
「どうやったら退治できる?」
『ちょっと待って。艤装モードになるから』
「艤装モード?」
戦闘機が、ぱんっ、とバラバラになった。
そして、亜里砂の体に飛び込んでくる。
「わっ、わっ、わわっ」
亜里砂が驚いて手をわたわたさせていると、その手に銀色の籠手がついた。籠手には、ちっちゃなノズルがついている。
背中には、ランドセルのようなものが。
頭には、羽根の生えたヘルメットが。
足には、翼付きのブーツが。
「ナニこのコスプレ」
『艤装モードよ、亜里砂ママ。これであのGと戦って!』
「私がやるの?!」
声が上擦る。
本当は、姿だって見たくないのだ。
『大丈夫! ママがやりたいことを考えてくれたら、アタシが実行するから!』
「そう? んじゃ、できるだけ近づかずに退治したい」
『わかった!』
籠手が変形し、亜里砂の掌はグローブで包まれた。
グローブの中に、パチパチと光るボールが生まれる。
「おー。綺麗じゃん」
『小型プラズマボムよ、亜里砂ママ。敵に投げてぶつけるのよ』
「手で投げるの?」
『うん。手で投げれば、実際にはアタシがランチャーで打ち出すから』
「よっしゃー。いっけー!」
ぽーい。
無重力の宇宙空間だが、どういうわけか、足場はしっかりしている。
部活動で鍛えたスローイングの要領で、亜里砂は小型プラズマボムのボールを投げた。
へろへろとボールが飛んでいく。
かさかさとGが避ける。
ボールが消えた。
「ダメじゃーん!」
『今調べたんだけど、小型プラズマボムって至近距離の敵にぶつけるものみたい、亜里砂ママ』
「もっと遠くまで飛ばせないの?」
『宇宙だと、敵も味方もすごいスピードで動いてるけど、小型プラズマボムは投げたら投げっぱなしなんで、避けられちゃうみたい。あと、通常型のプラズマボムと違って、威力は弱いけど連発がきくの』
「使えねー。こー、ミサイルとかビームとか、そういう遠くまで届くのは?」
『アタシには搭載されてないわね』
「うげー」
亜里砂が小型プラズマボムを投げたことで、Gの方も攻撃モードに入ったようだ。
進路を亜里砂に向けて、かさかさと走ってくる。
実際には、走ってるのではなく、何か特殊なフィールドを宇宙空間に出して、それで移動しているようだが、そうした物理的に難しいことは、セラフの側で処理しているようで、亜里砂の意識に届くのは、でかいGが二匹、自分めがけて突っ込んでくるという悪夢のような情報だけだ。
「そういえばセラフ、あいつらどのくらいの大きさがあるの?」
『聞かない方がいいと思うけど』
「そう言われると余計に気になるじゃない」
『じゃあ言うけど、五十メートル』
「は?」
『五十メートル』
「ありえない! 五センチでも死ぬのに!」
逃げよう。
亜里砂は即断した。
五十メートルのGに、ボールをぶつけて戦うなんて、冗談じゃない。
亜里砂の意識に反応してか、ブーツの翼が光って、大きく広がった。
両手を広げたくらいの翼が、ばさり、と羽ばたく。
「お? お?」
『高機動モードよ、亜里砂ママ。通常よりも速く移動できるわ』
「よし、逃げるわよ」
ブーツの翼から光の粒子を放ち、亜里砂はぐん、と加速した。
Gが追いかけてくる。
「ぎゃあ、追ってきた」
『速度差があるから、引き離せるわ……あれ?』
しばらく追いかけっこをしていたら、Gが触覚をひくひくさせて減速。
続いて、かさかさと進路を変えて離れていく。
「おー、逃げた」
『あいつら、あの小惑星に向かってるみたいね』
「小惑星?」
『ほら、アレ』
亜里砂の視界で、チカチカと小さな四角い枠が明滅した。
亜里砂が目をこらすと、四角い枠がぐぅっと大きく拡大し、石ころが見えた。
「小惑星って、アレかー。やっぱここ、宇宙なんだ」
『宇宙よ』
「それで、地球はどこ?」
『わかんない』
「そっかー……ん? ちょっと、あの石、もっと大きくできる?」
『できるわ』
ぐぐーっと、四角い枠がさらに拡大し、石ころも拡大し、枠からはみ出す。
亜里砂の目に、小惑星に鎖で縛られた少女の姿が見えた。
「人がいる!」
『あ、本当だ』
「ここ宇宙だよね! 死んじゃうよ!」
『大丈夫。小惑星の回りにフィールドが張ってあるから。空気も温度も保たれてる』
「そっか、ならよか……よくないよ! Gが近づいてるじゃない! あの子、どうなっちゃうの?」
『んー……食べられちゃう、かな?』
「助けなきゃ!」
Gへの恐怖も、それが五十メートルもあることも、亜里砂の頭から吹き飛んだ。
ブーツの翼から、光の粒子を出して、亜里砂が加速する。
だが、小惑星との距離は、Gの方が近い。
果たして間に合うのか。