No.89 反応
西はフーリア連邦。北はシュネーリア帝国。
そして南と東はマーリア王国。
その境界線に存在しているのがここ、アラモだ。
砦を一歩出れば、そこは無法。目前に広がる森林と平原は誰のものでもない緩衝地帯だ。ここがあるから、三国家は争い無しに国境を守ることが出来る。
アルバートは事前に地図で確認したが、やはりそれだけでは情報不足だ。何よりこの世界の地図は「正確」とは言えない。
「シュナル平原に行くなら馬を使った方がいい。案内役も寄越しましょう」
兵舎の廊下を歩きながらヘンダーソン指揮官が言った。
「それはありがたい」
アラモ砦はお世辞にも広いとは言えないが、必要なものは揃えられていた。馬も、それなりの数が飼われている。
アルバートは、裏手の方から聞こえる訓練の音を懐かしく感じながら、馬小屋に入った。
「レイトン! フーブラ!」ヘンダーソンが部下を呼ぶ。
すると奥から一人、作業着姿の男が走ってくる。
「指揮官! どうしました?」彼は敬礼しながら訊ねた。
だがヘンダーソンはそれに答えることなく、奥の方をうかがい、訝しむ。
「おいフーブラ、レイトンはどうした?」
彼の質問に、フーブラは自身が今来た方を指して回答する。
「そこで作業しております!」
またか、と。ヘンダーソンは頭を抱えてため息を吐いた。
その様子を見ればアルバートにも、そのレイトンとやらが扱いの難しい人間であるのが分かる。
「おいレイトン!!」指揮官が叫ぶ。怒りの感情も混じっていた。
すると、今度は返事が返ってきた。
「何です!? 今は餌やりの時間ですよ!」
はぁ、と。ヘンダーソンはまた、頭を抱えてため息を吐いた。
奥から、土色に肌を汚した男が顔を出す。この男がレイトンだ。
「お二方をシュナル平原までご案内しろ。周辺の地形を把握したいそうだ」
ヘンダーソンは気を取り直して言う。だがレイトンは反抗的だった。頑固とも言えるかもしれない。
「どこのどいつです」
彼は、二人をじろりと睨む。対面したアルバートは彼を観察した。彼はどのような男か、
その仕草などの機微から判断する。
同時に、レイトンも二人を観察していた。彼にはアルバートもイレーナも同様にまだ年端もいかない子供に見える。
そんな彼の不遜な態度を見てヘンダーソン指揮官の苛立ちが加速する。
「口を慎めよレイトン、お二人はかの有名な王族近衛騎士だ。今日から二ヶ月ほど我々の上官を務める」
それを聞いたレイトンは、口に出さないにしても「こいつらが?」と言いたげに眉をひそめた。
「便所係が、嫌なら、大人しく、言われた通りにしろ!」ヘンダーソンがとうとう怒鳴る。
「……サー、イエッ、サー」レイトンも渋々返答した。
どうやら、みながみな歓迎してくれる訳ではなさそうだ。と、アルバートは察した。イレーナも同様だ。
だが彼らとはこれから二か月間の生活を共にしていくのだから、なるべく仲良くしておきたい。
なにか良い策はないだろうか、とアルバートは早速思案し始めた。
「部下が失礼を。悪い奴じゃないんです。多少、言葉遣いはなってませんが──いや、かなり」
レイトンらが馬の準備をしている間、ヘンダーソン指揮官が二人に謝罪してきた。
「気にしていませんよ」「私もです」
正直なところ、アルバートやイレーナにとっては慣れたことだった。
そう。前世から慣れている。
「面目ない」
ヘンダーソンがまた謝った。
アルバートは、彼のその反応に、貴族のご機嫌取りとはまた違った「誠意」を感じた。
この御仁の過去には何かある、と本能で感じた。だがそれは今問題にするところではない。
彼は手を叩いて言った。
「では、散歩といきましょうか」
今日は昼の間だけですがファンタジー日間ランキング83位になっていたようです……
皆様ご愛読ありがとうございます……




