No.88 到着
新章突入です
両親らの歓迎を一身に受けて、アルバートとイレーナはひと時の休息を楽しんだ。
晩餐の席には酒を煽り、料理を貪り、この一年の事を語らってはまた、酒を煽った。
特に盛り上がった場面はイレーナとオンスの呑み比べだった。
どちらも酒豪として周囲からは一目置かれている存在だ。
どっちがより強いのか、皆が騒ぎ立てて予測した。
結果としてはオンスの勝ちだったが、思いのほか僅差の勝負だったため「来年はどうか分からないな」とオンスは楽し気にしていた。
一晩とは短いものだ。気が付けばもう夜の帳が空を覆っている。
「父さん、これ。ピトムニクさんからだよ」
アルバートは、水を飲んで休憩している父親に騎士団長から預かっていた手紙を渡した。
「おお、あいつからか」
彼は受け取った手紙の封を切り、中身を読んだ。
「うん。そうか。お前達はよくやっていると褒めているよ。あいつに褒められるなんて立派じゃないか」
父の、正面からの称賛にアルバートはくすぐったくなった。オンスもまた、読みながら嬉しそうに笑ったが、手紙を読み進めるうちに表情を固めた。
「書いてあるのは良い事ばかりじゃないな」
気が付けば、そこには領主としてのオンス・シュティーアの顔があった。
「極秘の情報らしいが、フーリア連邦内にある一国が、少々慌ただしくなっているようだ。『帝国派』の連中だと」
「帝国派ですか。厄介な」
帝国派。その名の通りシュネーリア帝国の事だ。このシーラ大陸の大半を占めるのは三大国家と呼ばれるマーリア王国・フーリア連邦・シュネーリア帝国のいずれかの領地で、その中でもフーリア連邦は比較的歴史が浅い。
国家形態も特殊だ。
連邦制度──つまりは複数の小国が合わさって一つの国家として体を成している。当然、それぞれの国の「意思」も複雑だった。
フーリア連邦に属する国の中に、もともとはシュネーリアの一部だったところがある。
ギルスク小王国がそれだ。ピトムニクからの手紙曰く、ギルスクは現在親フーリア派と親シュネーリア派で政権争いをしているらしい。
下手をすればシュネーリア帝国の介入、そこから連邦との戦争にまで発展する可能性がある。
これを知ったからといって、アルバートやオンス個人にどうこう出来るわけではない。だが、知らないよりも知っている方が良いのは確かだ。「今国際緊張度が高まっている」それが分かるだけでも気持ちのありかたは変わってくる。
「心に留めておきます」
二人は手紙を閉じてまた楽しい食事の場に戻っていった。
◇◆◇◆◇
一晩たって早朝、両親との別れを惜しみながら二人はモアルドの町を出発した。
目的地は北西。ここから馬車で更に三日弱かかる。その場所こそが国の境目。国家防衛の第一線。アラモの砦だ。
「行ってきます」と「頑張れよ」の簡単な別れ言葉には、安心感があった。過度な送別は逆に寂しさが増す。
エルフという長命の一族であるなら、一年や二年の別れであっても短いものだ。
また必ず会える。そう信じているからこそ安心できるのだった。
もう、王都を離れて二十日以上経っている。
今、同僚達はどうしているだろうかと思いを巡らせた。
きっと過酷な訓練に汗水を垂らしながら、いやもしかしすると血も垂らしながら臨んでいるに違いない。打てば響くような威勢のいい返事を腹の底から出しているに違いない。
また、幹部であり事務仕事の多いイリヤ・マリアなどは今も鍛錬の時間が少ないと不満を漏らしていることだろう。
アルバートもイレーナも、暇があればできる限りの鍛錬を続けた。時には魔法についてまた新たな発見などはないかと議論もした。
だが、この移動中のつまらないのは、誰とも合わないことが起因している。
これまでは少なくとも一日に一度は誰かと会った。だがモアルドを出てから三日間、人っ子一人と見ていない。
交通量が少ないということは、それだけ辺境の地であるということだ。出来ればなるべく早くアラモ砦に着いてこの退屈から解放されたかった。
「どうです。まだ先ですか?」
アルバートは御者に訊ねる。予定ではモアルドから三日でアラモに着くと聞いていたからもうすぐだろうと考えていた。
「もうすぐそこの筈ですよ」
御者も同じ考えでいた。それを裏付けるように、一つの小さな看板が道沿いに刺さっている。
『この先 アラモ砦』
看板を見つけた彼は、それを指さしてアルバートに言った。
「ほら、到着です」
看板の先、小さな森の道を抜けてすぐ目の前に石造りの壁が見えてくる。
門は固く閉ざされ、塔には見張り。
招かれざる客は通さないように目を光らせていた。
なんだかんだで当作品も20万字を突破しました。
一人だけではここまで長続きしなかったでしょう。
これもひとえに読者の皆様のおかげであります。
これからもエルフ無双をよろしくお願いします!




