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転生したらエルフだったので無双する  作者: 随喜夕日
第04章 王族近衛騎士
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No.87 故郷の息吹

 川を渡り、北マーリアの大森林を通る一本道をひたすらに進んでゆくと「極西のモアルド」と呼ばれる小さな町が見えてくる。


 此処(ここ)こそがアルバートが産まれ、イレーナと共に育った故郷だ。

 街を囲むように出来た畑も一年ほど前に時と同じように野菜などを育てているらしかった。


 町に入ると、やはりと言うべきか二人が乗った馬車の紋章が周囲の目を引く。

 そのまま奥まで進むと、周囲よりも立派に立てられた屋敷が二軒連なって見えてきた。


「では私は宿を取ってそこで一泊します。明日の朝、迎えに参りますので今日はお休み下さい」


 御者の男は、二人を降ろすとそう言って去っていった。


 アルバートは家の門を開け、玄関のノックを叩く。少し待って、中から返事が聞こえ、扉が開いた。


「まぁ!アルバート様、それにイレーナ様まで!」

「リセアさん、お久しぶりです」


 出迎えてくれたのはメイドのリセアだった。

 彼女はたいそう驚いた様子で、「急いで奥様を呼んで参りますわ」と奥に駆けていった。

 そして数秒と経たずにけたたましく足音を鳴らしながらシャルルがやって来る。彼女は息子の顔を見ると、一切の躊躇なくその胸に飛び込んだ。


「アルっ!」

「ただいま、母さん」

「おかえり~っ!それにイレーナちゃんもおかえりなさい!」

「お久しぶりです。お義母様」


 彼女は二人の帰郷を聞いて慌てて出てきたようで、その手には編み物と道具を持ったままだった。


「ああそうだわ、二人のことハンク達にも知らせないと。ワルド~!」


 彼女はいつものマイペースぶりを発揮させて、また屋敷の奥に姿を消していった。

 二人は、メイドのリセアに少しの手荷物を預けてソファに腰かける。

 いくら馬車が質の良いものだったとはいえ、何日もずっと揺られていれば疲れるものだ。「揺れの無い椅子」の心地よさはたまらなかった。


 しばらくすると、シャルルが執事のワルドを連れてやってきた。


「お二人とも、お帰りなさいませ」

「じゃ、ワルド。オンス達にお願いね」

「はい、奥様」


 彼は優雅な挨拶をして微笑し、そのまま外へ出て行った。オンスとハンクを呼びに行くのだという。


 誰も彼も、姿や名前さえ、二人にとっては久方ぶりに見聞きするものだ。懐かしさを感じるのは仕方なかった。

 シャルルもすぐに「料理の準備をしてくるわ」と、また奥に消えていった。玄関ホールに残された二人は手持ち無沙汰になる。


「アル、私はお母様の顔を見てきます」


 一息ついた後、イレーナはそう言って席を立った。彼女の母、アイナもきっと隣の家に居るだろう。娘が久々に帰って母に会うのは当然だ。

 イレーナの母。彼女の母。そう聞くと何だか感慨深いものがあった。


「──どうしました?アル」


 彼女はアルバートの機微に敏感に反応した。アルバートの少しの思案に気が付いて、すかさず訊ねた。

 ──言い方を変えれば、それだけアルバートの事を見ているという事でもある。


「いや、な。君の『お母さん』か」

「?」


 アルバートの含みのある言い方にイレーナは疑問を覚える。彼の言葉の意図するところが分からなかった。だが、アルバートはふっと笑って彼女を安心させるように吐露した。


「君が幸せそうで、僕は本当に嬉しいよ」



 イレーナは、前世では孤児だった。

 それも捨てられたのではなく、哀しい事件の結末としての孤児。

 テロリズムという名の凶弾に撃ち砕かれた儚き平穏。


 だが失われたはずの幸せは今ここにある。それだけでアルバートは満たされる気持ちになった。


 彼女もアルバートの言う意味が分かったようだ。目を細め、同じように微笑した。


「私も、貴方が幸せそうで嬉しいですよ」


 アルバートが手を伸ばし、髪を撫で、頭を抱き寄せる。そして唇を重ね合わせた。

 アルバートは座り、イレーナは立っている状態なので彼女の横髪が垂れてカーテンを作る。

 視界いっぱいがイレーナという存在に埋め尽くされる。


 本当のことを言えば、いつだってずっとこうしていたいとアルバートは思っていた。二人でずっと抱き合っていたいとイレーナは思っていた。そうしているだけで心は満たされるからだ。


「私も昔はハンクとずっとそうしていたものだわ」


 透き通るような一声に二人は驚いてばっと顔を上げる。

 声の主は玄関に立っていた。


 陽光に照らされて爛々と煌めく白銀の長髪。同じ色をした長く繊細なまつ毛。海のような深さを持った青い瞳。人間のそれより少し長く尖った耳。細い身体。そして声音──全てがイレーナと類似している。


「お、お母様……」


 イレーナは珍しく頬を真っ赤に染めた。長耳族(エルフ)特有である肌の色素の薄いのもあいまって、まるで頭から湯気でも出そうな様子だ。


「アイナさん、お久しぶりです」

「アルバート君、久しぶりね。イレーナも、おかえりなさい」

「た、ただいま……」


 流石に、恋人との熱い情愛の瞬間を母に見られたのは恥ずかしかったか、イレーナはぎこちなく返事をした。


「ハンク達は森で狩りをしているから、ワルドから報告を聞き次第飛んで帰ってくるわ。もうちょっと『そうして』いても良いのよ?」

「り、料理を──。手伝ってきます…」


 彼女の「すました姿」以外の面を見られるのも、家族の特権だ。

 アルバートは、厨房に駆けていくイレーナを見送ってからまた笑った。アイナも同じく笑みを漏らす。


「まだまだ私には敵わないみたいね。あの子も」

「ええ。母に勝る子はいないんです」


 新たな任務の寸前。しばしの休暇をアルバートは楽しんだ。


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