No.85 派遣準備
ガルムがエッジ王子の護衛に選ばれたされたことは、彼本人が話し(吐い)た為に直ぐに知れ渡った。
新人仲間らは「大抜擢だ」とガルムを褒めたが、ガルム自身は微妙な笑みで答えていた。
当然、本人も抜擢の理由の一つが「兄との交流」である事を知っていたからだ。
だが、彼にその事を伝えたイリヤは、念を押してこうも言った。
「アンタを『連れて行って良い』と認めたのはアタシだ!アンタは護るべきものを護れる一人の騎士だとアタシが認めたから許可を出したんだよ!いいね?断じて親の名を借りただけの七光りなんかだと思うんじゃないよ。自分の仕事はしっかりこなしな!」
彼女の言い方はいつもキツいが、芯がある。優しさがある。
ガルムもそれに助けられた。責任感の強い彼は、実力以外の要素で得た役職など、と自己嫌悪に苛まれていたかもしれない。イリヤの言葉がなければ自分の「騎士としての価値」を見失ったかもしれない。
だが、イリヤも、彼のその実直な性格を理解していた。だからこそ激励したのだ。
ガルムは息を飲み、そして一言。「頑張ります」と返事した。
五人の快挙に同期の連中も興奮した。「俺達もあいつらのように」と、憧れや嫉妬などを向上心に変えて訓練により一層励んでいた。
いくら平和な世界とはいえ、王家の盾たる近衛騎士団で向上心の無いものは淘汰される。
最初期の訓練の段階でさえ、数名は脱落していた。その意味でも、この世代は「残れる者」が多く「豊作」と呼ばれるだけはある。以前から騎士団に勤めている者は彼らに感心していた。
さて、五人は別々の場所へ派遣されるが、出発の時期はほぼ同じだった。
アンリ・エリオットは南部の港町へ。
リーフェ・フリードマンは東部の城塞都市へ。
ガルムはエッジ王子の護衛へ。
そしてアルバートとイレーナは北西のアラモ砦へ向かう事になった。
全員の任期は移動時間をのぞいて約二か月。その間、ガルム以外の四人は派遣された場所で住み込みながら技術共有していく。
ガルムが一足先に王都を出発。エッジ王子と共に隣国フーリアの首都へと向かった。それに先立ってアルバートは彼に「お兄さんと仲良くな」と伝えたが、「君も奥さんと仲良くね」と笑い返されてしまった。
彼の反応には、アルバートも成長を感じざるを得なかった。あの気弱な学生のガルムはもう居ない。今存在するのは強くなった騎士のガルムだ、と。
二番目に早かったのはリーフェだった。彼女はまるで観光にでも行くかのように楽しげに「じゃ!行ってくるね!」と笑っていた。これにはペアを任されたらしい先輩の二上士も笑みを漏らしていた。実に彼女らしい天真爛漫ぶりは相変わらずだった。
次がアンリだ。彼女は南部の港町にある地方騎士団へと赴く。町の名はシアルド。かつてガルムが育った美しい街だ。アンリは「ガルムの言う美しい夕日がどれ程のものか、この目で確かめてきますわ」と冗談交じりに言っていた。
結局アルバートとイレーナの出発は最後だった。ガルムにリーフェ、アンリ。一人減っていくごとに寂しさが増していた。だがとうとう彼にも順番が回ってきた。出発の時だ。
「夫婦水入らずの新婚旅行に節介焼きは邪魔かと思ってね、アンタらには上官は付けないでおいたよ」
見送りに来たイリヤはアルバートとイレーナが乗る馬車の荷台にもたれ掛かっている。アルバートは荷物を詰め込みながらも彼女の言葉に笑った。
「お気遣い感謝します」
荷物もすべて載せたことを確認した。アラモまでの道のりは、二人にとって久々の長旅となる。気合を入れて乗り込む。
「ああ、そうだ。アラモまでは随分かかるだろうからね、途中にある、モアルドとかいう町で一泊休むのも良いかもしれんね」
モアルドはアルバートの生まれ故郷だ。
彼女はまわりくどく言っているが、つまりは「親の顔を見てこい」という意味だろう。そんなことはアルバートにも察しがついた。
「それと、これ。団長閣下がお前に『預ける』と。誰宛てかはアタシにゃさっぱりだが、これも『任務』さ。頼んだよ」
彼女は腰のポーチから手紙を一つ取り出した。イレーナがそれを受け取って見てみると、宛名には「オンス・シュティーア」とあった。
「──本当に、お気遣い感謝します」
アルバートは、彼女の不器用な親切に胸が暖かくなった。いい上官を持ったものだと嬉しくなった。自分もこの上官に相応しい部下であろうと決心した。
「…準備が出来たらとっとと行きな。」
「はっ」
アルバートとイレーナの二人は出発する。
向かう先はアラモの砦。
二人はまだ見ぬ新天地に胸を躍らせた。
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