No.83 予告
それから数日。しばらくは「英雄」「英雄夫婦」「金庫守」とからかい混じりにもてはやされたが、漸く落ち着きを取り戻してきた。いつも通り訓練をし、勉強をし、友人らと休日を合わせて遊んだりもした。
だが、一か月と経たないうちにまた状況が変わった。それは一日の訓練が終わった時の事だ。
「今日はこれぐらいにしておくかィ、解散!」
その日の最後の訓練はイリヤ・マリアの担当で、「普段通り」死にかけるまで体を酷使させられた。
悲鳴を上げる肉体に回復魔法をかけて癒し(と言っても疲労感は残る)、風呂や食事に更なる癒しを求める。
ガルムが「もうお腹に穴が開きそうだよ」と笑い、あんりが「私はきっと既に空いていますわ」と同調した。アルバートもそれに続いて行こうとした。
「あっ、そうだったそうだった!お前ら、ちょっと待ちな」
だが、それを止める声が背後からかかる。イリヤだ。彼女はひとつ手を叩いてから早口でまくし立てるように言った。
「お前ら訓練でも任務でも優秀だ。だから、ちょいと早いが派遣任務を与えることにした。それぞれ別々なんで詳細については明日それぞれ個別に伝えるから城内の事務所に来ること。宜しいか?」
「は、はっ」
「ヨシ。じゃ、今度こそ解散!」
彼女は、それを伝えるとそそくさと帰っていった。残された五人は急に入ってきた情報の理解を一息置いてから理解したが、困惑を隠しきれなかった。
派遣任務は数ある騎士団の中でも近衛騎士団のみが仕事とする特徴的な任務だ。
選ばれた二人ほどの近衛騎士が国内各所にある騎士団や砦などに赴いて、王都の中枢で培われた最新で最高の技術を普及させることを目的としている。これによって国内の軍力を定期的に更新し、強化することが出来る。そのためには当然教える側の技術と知識も熟達されていなくてはならない。いくら五人が近衛騎士団の一員であるとしても、まだ一年と少ししか経っていない新人だ。彼らに派遣任務を命じるのは異例の事であった。
アンリが呟いた。
「派遣任務って、確か二年目以降の団員が任されるものでしたわよね……」
彼女は少々不安な様子であったが、反してリーフェは興奮を隠しきれないでいた。
「でもでも!それって私達が実力を認められたってことでしょ!?やった、やった!」
ガルムは、アンリと同じく不安そうにして胸に手を当てている。彼が自信を無くした時などによくする仕草だ。
「ぼ、僕はまだ勉強中だし、ちょっと怖い、かな」
「大丈夫だって!ガルムもアンリも強いから!」
リーフェは笑って二人を励まし、自身は先ほどまでの訓練の疲れはどこに行ったのかぴょんぴょんと飛び跳ねている。イレーナも彼女とあわせて二人を安心させようとした。
「一上士は『それぞれ別になる』と言っていましたし、きっとベテランの騎士がついてくれるのでしょう。多少私たちに不備があっても問題はありませんよ。誰だって最初は新人なんですから」
この言葉には二人も納得せざるをえなかった。そして心のどこかにあった「失敗を恐れる気持ち」に気付かされた。失敗を恐れることは、一歩前に進んで成長するのを妨げることだ。これがいけない事だというのはガルムにも覚えがあった。だから二人は気を張り直して笑う。
「それもそうですわね!こんな大役を任されるという事はそれだけ期待されているということ!多少の失敗も経験のうちですわ」
アンリ・エリオットの良い所は切り替えの早さだ。彼女は何事にも対応できる柔軟さを持っている。きっとどんな場所でも活躍できるだろうとアルバートは思っていた。
「──それにしても、派遣任務か。だいたいが二か月ほどはかかると聞くが、とするとしばらく会えなくなるな」
「ですね。ではまた記念の食事会でもしましょう」
「それいいね!やろやろ!」
五人の話題はもう食事のことに変わっていて、それぞれが思い思いにお気に入りの店の名前を挙げ、どこにするかを討論していた。そんなことをしていれば当然腹の虫が喚き立てる。はやく飯をよこせとうるさい胃に餌をやるべく、彼らは急いで風呂に入って食堂に向かう準備をした。
ある春の日の事であった。
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