No.81 記憶
以前の時と同様、勲章授与の後は食事会があった。これはユーク王やその家族たっての要望であり、是非とも話がしたいと言う事だった。
以前は少人数での会食であったが、今回は十数名の大臣や王家四名とアルバートら二名、護衛の騎士らも含めればかなりの人数となる。
椅子に座っての食事はあまり出来ず、立ったままで食べられる軽食が多く並べられた。
この食事会にはアルバートとイレーナの二人を、騎士連中のみでなく国家幹部らとも関係を築いておかせようというユークの企みもあっての事だった。
ユークにとって、この二人は「国家の宝」であると確信していた。
敏く、賢く、強く、柔軟。
この二人だけで一個騎士団と同等かそれ以上の価値を持つと認識していた。
そして、そんな二人の価値を更に高めるための一策がこれだ。関係の多さは行動範囲の広さに繋がる。ただでさえ相手は王国の頭脳の一部だ。彼らと懇意にできれば多くの事柄で融通してもらえるだろう。
アルバートも、この機会は有効に活用させて貰うつもりだった。いくら王城に立ち入りできる近衛騎士と言えども大臣らと自由に話が出来る訳では無い。
騎士とは盾であり、剣だ。盾や剣は自らその所有者に語りかけることは無い。そういった意味でも今日は貴重な機会を得たと言ってもよかった。
二人は一緒に行動して、そこへ順番に大臣や国家の重鎮らがやってくる。地方を統治する貴族もいた。彼らはそれぞれ仕事の話や、世間話などを自分の自己紹介とし、二人からの評価を高いものにしようとする。
彼らがわざわざ下の身分のアルバートらと懇意になろうとするのにも理由がある。大臣と呼ばれるほど位の高い役職についている彼らは、個人としても非常に権力がある。
それ程の者になれば当然、私兵を雇い護衛につけることもよくある。そうなればより強いものを護衛にしたいのは当然の事で、勲章を賜るほどの功績を残した二人は彼らから「強い騎士」であると認識され、あわよくば私兵に、そうでなくとも依頼すれば護衛して貰える程度に関係を持っておきたいと考えるのだ。
今回の会食は、大まかにこの三つの利害が一致して相互に利益のあるものとなっていた。
また一人、アルバートとイレーナの二人に歩み寄ってくる人物がいた。
「アルバート殿。この度は勲章授与、おめでとう」
「ありがとうございます」
男は全体的に細く、髪は白髪混じりのブロンド。よく居る中年男性といった印象だった。だが、彼は強くない見た目とは裏腹に強い意志を眼に宿していた。
「早速だが、私は二人に謝らなくてはならない」
開口一番で出し抜けな発言を男はした。
「それは、どういう意味ですか?」
イレーナの問いも当然と言える。
「そうだな、突然言われても困るか。失礼な事をした。──私はベイブ・オークスという。二人はオークスの家名に聞き覚えはないかな?」
オークス。そう名乗る彼とは初対面だが、アルバートにも聞き覚えのある名だった。どこで聞いたものだったか。アルバートは記憶をひっくり返すが、まだ思い当たらないうちにイレーナは思い出した。
「もしかして、サドン・オークスのご家族ですか」
「その通り。あれは私のせがれだ」
サドン・オークス。その名にはアルバートも強く思い当たる節があった。数年前、まだアルバートが王立魔法科学校に入って半年と経っていない時。友人のガルムに暴力を振るった少年の名がそれだ。言われてみれば、サドンとベイブはどことなく似ている。
「その節は、せがれが君達の友人に酷いことをした。君達の手も煩わせたと聞いている。本当に申し訳ない」
「私が言うのもなんですが、もう済んだ話です」
アルバートは、あのサドン・オークスに特段「負の印象」を持ち合わせてはいなかった。
まだ幼い少年の起こした小さな悲劇だ。しかも、ある意味ではガルムを成長させる踏み台になった一件でもある。既に問題が解決して数年経った今、怒る理由も特にない。
だが、ベイブは頑なだった。
「いや、そもそもは私の教育が不行き届きだったのが原因だろう。私は政治と仕事にかかりきりで、せがれのことはよく見てやれなかった。あの一件はそれを痛感させてくれたものだ。親である私に変わって『躾』てくれた事に感謝するよ」
彼は「その後」の出来事を語ってくれた。
サドンは名目上、「魔術士決闘大会」での重大な反則行為の一件で一週間の停学処置を受けた。その間で酷く親に叱られたのはアルバートも知っていたが。まさか今になってその詳細を聞かされるとは思わなかった。
どうやらベイブは根からの政治屋であり、同時に熱心な平等主義者であるようだった。
「──いつか、全ての市民が政治をできるようになるべきだと私は思うのだ」
彼の思想は、言い換えれば民主主義的であった。この時代に、彼と同じ思想を抱いている貴族はそういないだろう。アルバートにとってベイブ・オークスの存在は非常に強く印象に残ったのだった。




