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転生したらエルフだったので無双する  作者: 随喜夕日
第04章 王族近衛騎士
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No.73 騒然(2)

 アルバートはその後、昼休憩をとっていたため難を逃れた銀行職員の一人に協力してもらい簡易的な銀行内の地図を作った。これで大まかにだが間取りが分かった。それを頭に叩き込んでおく。人質がいて、なおかつ詳細な所在も分からない以上部屋を(しらみ)潰しに探して回るしかない。

 地図作成に協力してくれた銀行員によると、連絡の取れない職員が八名いるらしい。現時刻は通常なら既に営業再開時間であるので、人質の数は八名と考えていいだろうとアルバートは判断した。


 さて、アルバートとイレーナの二人は近衛騎士とはいえ、まだまだ経歴一年の新人だ。普段も任務より訓練と座学の時間の方が多い。

 王都巡回は訓練の延長線上で上官に随伴した事もあったが、大それた事件などそう起こらないもの。治安のいいマーリア王国の、それも国王の御膝元ともなれば尚更だった。

 実際、その巡回任務で遭遇した問題も、昼間から酒に呑まれた酔っ払い同士の喧嘩を仲裁した程度だ。

 人の、それも複数名の命が関わる事件は今世で初めてだった。当然二人は意気込んだ。


「さて、初仕事といこう」


 ◇◆◇◆◇


 帽子屋との交渉にはイレーナが買って出てくれた。前世でも彼女は任務中の交渉を積極的に引き受けてくれていた。

 ──とは言っても。携帯型騎士章を見せ、事情を説明すれば店主は快く受け入れてくれたので面倒事はなかった。二階の小部屋に案内され、更に激励の言葉まで送ってくれた。

「レーナ、すまないが戦闘服に着替えてくれないか。その美しいワンピースで潜入は厳しいだろう。──第一、僕が見惚れて仕事が出来なくなってしまう」

 アルバートは自身の賦力(ふりょく)である「亜空間倉庫」から衣服と靴、短刀、拳銃、それとホルスターを取り出して言った。


「ええ。分かっています、アル。これは貴方に喜んで頂くために買った服。血でも付けて駄目にしたくはありません」

 イレーナはその青く宝石のような目を細めて微笑した。そしておもむろにワンピースを脱ぐ。アルバートは夫であるから当然見慣れてはいるのだが、慎ましいとはいえ確かに存在する双丘とそれを彩る薄紅色に染めたブラ、同じ色で腰元も彩るショーツ、普段の弛まぬ訓練がもたらすくびれの曲線美と引き締まった太もも、腕、腹筋、また背筋までもが程よい(見栄えのためではない実践のための)筋肉によってより魅惑的になっている。

 この世においてイレーナ・シュティーアのみが持つ、この魅力溢れる肢体は、アルバートをして見惚れさせた。


「……アル、そんなに見られると、恥ずかしいです」

 イレーナは頬を少し赤らめ、ぼうっと彼女に魅入っていたアルバートから恥部を隠すように服を持った手で覆った。アルバートは慌てて視線を逸らす。

「──すまない。あんまりにも綺麗なんで見惚れてしまった」

 それを聞いてイレーナは余計に赤みを増してしまった。


 準備も整い、小部屋の窓を開けて向かいの銀行の窓を見る。窓のカーテンは閉められており内部は確認できない。銀行職員によれば、この窓があるのは普段更衣室に使っている場所で、換気時以外は基本窓もカーテンも閉めているらしい。

 それはむしろ好都合だった。

 アルバートは窓から身を乗り出す。銀行の窓までは二メルカ弱。そのままでは作業が難しいため土魔法によって石の板を作り橋にした。アルバートが橋を渡って銀行の窓を確認する。銀行の窓にはネジ式の鍵がかかっていた為、それの除去を試みることにした。


 丁度その時だった。

 イレーナが待機する部屋のドアをノックする者がいた。

 彼女が「どうぞ」と促すと、入ってきたのは見知った顔だった。

 ヒト族のそれとは違う、凛々しく上に立った獣耳。言うなれば虎のような美しい荒々しさ。

 琥珀のような深みある黄金色の髪をして、前髪は獣耳の間に通して後ろで括っている。その口には獰猛な笑みを溢れさせ、キュッと寄った眉と眼がまるで獲物を前にした虎のようだ。


「楽しそうな事をしてる、ってンで執務室飛び出して来てみたがね、シュティーア夫妻。上官たるアタシに招待状も無しとは、ちぃと寂しいね」

 相変わらずの雄々しさある口調でからかって来るのは、しかし騎士制服がはち切れんばかりの豊満な胸をした女性。この一年間直属の部下であるアルバートら五人組を絞ってきた上官のイリヤ・マリア一上士(いちじょうし)だった。

 意外な来客であったが、つまりは先の兵士が呼んできた応援部隊が到着したという事だろう。


「すみません、一上士。夫とデートの最中でしたので」

 当然イリヤが二人の休暇を知らぬ訳もない。休暇申請の用紙に判子を押したのは他でもない彼女だからだ。

「おうおう、そいつは独り身のアタシに対するイヤミかい?」

 イリヤは部屋にあった古くさい椅子に腰を下ろしながら、わざとらしく言った。彼女は咎めるような物言いであったが、その表情は別段気にした様子もない。

 しかし、どっと椅子へ完全に背を預ければ、顔つきを王族近衛騎士でも指折りの実力者たるに相応しいものに変えて鋭い視線を送った。途端に、五畳あるかないかの狭い部屋の空気が引き締まる。


「──で、どうするつもりだい」

「僕とイレーナが中から制圧します」

「二人でか?人質は七人、敵戦力数は不明、しくじりゃ人の命がとぶ。そうなりゃ、アンタらの責任だ」

「分かっています」


 イリヤは念を押すように冷たく言う。外の喧騒が聞こえなくなって──あるいは聞こえる余裕すらも無くなるほどの威圧感をもって二人を脅した。まるで、三人のいる部屋の中だけが、他から切り離されたようだった。

 イリヤ・マリアという女は、こと命に関わる事柄に関しては非常に真摯だった。

 騎士たる彼女にとっての「命に関わる事柄」とはつまり魔獣討伐や殺傷事件などであるから真剣になるのは当然といえば当然だが、彼女の場合はその真剣さが人一倍だった。普段の、階級や年齢に関係なく誰に対しても気さくな──悪く言えば馴れ馴れしい性格が演技だったのかと思えるほど「怖く」なる。


 イリヤはまた口を開き、先程よりももっと強く毒を吐いた。

「お前らは休暇とってンだ。まだ一年目のヒヨッコは大人しく服屋巡りでもしてればいい」

 冷たく、鋭く、まるで氷柱(つらら)のような声。刺すような言葉にしかしイレーナは毅然と答えた。

「それでも私達は騎士です、誇りある王族近衛騎士団の一員です。目の前で悪事が起きているというならば見過ごすことは出来ません」


 少しの静寂があった。イリヤが不意に笑う。

「──くくっ、それでこそアタシの教え子だ」

 彼女は二人の行動の一切について、彼女自身が全責任を持つと約束した。


 すでに事件発生から二十五分経過している。

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