No.06 Do You Believe in Magic?
「父さん、僕魔法が使いたい!」
「よし、じゃあ勉強から始めようか!」
あっさりだった。
その次の日から、魔法を使うための勉強が始まった。最初の頃は毎日1時間程度の文字や算数の勉強、教師はセシリアさんか母さん、生徒は僕とイレーナだ。
だが、僕らは前世では特殊部隊員だった二人だ。特殊部隊とはそうそう簡単には入ることは出来ない。
特殊部隊に必要なものは多岐にわたる。
体力、筋力、瞬発力は当然として学力、行動力、精神力...etc、など全てにおいて最高位の者がやっと入隊できるのだ。
僕らの所属していた零部隊はその更に上に位置する。故に隊員は40人にも満たなかった。
つまり、そんな僕ら二人は算数程度なら恐らく母さんよりも賢い。文字も、二人とも覚えている。
正直、勉強の必要性などないのだ。
だから、僕らは二人であることを決めた。
【数学、国語、地歴、魔法等の勉学については自重しない。】
しないのかよ。と言われれば、
ああ、しないともさ。と言おう。
しかし、これにも考えはある。
これ迄は周囲の眼があるために色々と行動に制限があった。魔法を使ってみたくとも試さなかったのは最たる例だ。
しかし、僕らはもう4歳になった。勉強したっておかしくないし、賢くても精々天才で済まされる。
それなら特殊でも、おかしくはない。
お前は化け物だ 。と言われて家から追い出されたりするのは真っ平御免蒙るが、天才だ特別だと囃し立てられる程度なら、好きではないが我慢できる。
そういう訳で、僕ら二人は勉学においては自重しないのであった。
5歳、僕とイレーナは教えられた事は全てそつなくこなしてきた。
地歴の進みは他に比べればゆっくりだが、算数は小学校高学年程度は進んだ。
あっと言う間だった。両親方も嘸かし驚いていたが、知った事ではない。こっちは知らぬ存ぜぬで今も破竹の勢いで勉強を進めている。
国語では主に言葉遣いや作法なんかを学んだ。中学、高校でするような品詞などの勉強は無い。そんなものは日常において必要ないのだから。精々、言葉の並べ方位だ。
肝心の魔法だが、まだ魔法のまの字すらない。やはり、それなりに難しいモノなのだろう。僕らは納得しているので文句は一度も言っていない。
6歳。
数学は最早、中学卒業レベルまでに達している。セシリアさんからはもう教えることは無いと、免許皆伝まで貰っている。まぁ、高校以上の数学など日常生活で使うものではないから仕方がない。
国語における言葉遣いは完璧。作法も、後は極めるだけであった。
地歴は、まだまだと言った感じだ。
そして、魔法の授業である。
それはまさに、今日、この時から始まるのである。
教師はレーナの母親であるアイナさん。
「さて、今日から数学に変わって魔法の授業が始まる訳だけど。覚悟は良いかしら」
「「はい!」」
「よい返事ね。良いわ」
何時も凛々しいアイナさんだが、今日は何時にも増して厳格な雰囲気であった。
「じゃあ、授業を始める前に一つ言うことがあるわ。よく聞きなさい。
魔法と言うのは、人を殺す力がある。覚悟も無しに使うのは止めること。
良いわね?」
言葉にはしっかりとした重みが有った。思わず生唾を飲む。
僕は前世で多くの人を殺した。その数は200を優に越える。それも、同じ武器を持つだけで素人もある程度の戦力になってしまうような世界でだ。
だが、其れと此れとは別の話だ。
前世なら、それは悪の粛清の為だと言えた。世の平穏の為だと言えた。
だが今は......
違う世界、違う環境、違う身体。
条件は前世と違う。
覚悟は決めなければならない。
後込みしたって仕方がない。
だから、戸惑い無く言った。
「「はい!!」」
レーナも同じ気持ちだったのだろう。
二人の決意は、教師に届いた。
「二人とも良いわ。完璧よ!」
魔法の授業の始まりだ。
「じゃあ、先ずは軽く座学から始めましょうか」
手を軽く二回叩いて張り詰めた場の空気を普通のモノに戻した。
「まず、世界には【魔素】と言って魔法の元となるモノがあるわ。それは世界のどこにでもあるし、何にでも宿っている。
貴方達にも、私にもね。それを前提として捉えて頂戴。
特に、生物に宿った魔素は魔力と呼ばれるわね。
それで、魔素が宿る量は人によって違う。多い人は多いし、少ない人は少ない。それはまぁ、才能によるわね。
次に、魔法。
魔法には属性が有るのだけれど、大まかに分けると二種類になるわ。
それが、属性魔法と無属性魔法よ。
先ず属性魔法について説明するわ。
属性魔法は更に6つに分けられる。
それが火、風、土、水、そして光と闇よ。
これは曜日にも使われているから二人も知っているわね?
で、この属性魔法にはジャンケンみたいに有利不利があって、火は風に、風は土に、土は水に、水は火にという感じにね。光と闇は少し特殊だから少し置いておくわ。
それで、図にするとこんな感じね」
そう言ってアイナさんは僕らにてにしていた本のページを開いて一ヵ所を指差す。
火
↗ ↘
水 + 風
↖ ↙
土
こんな感じだ。次に真ん中の十字を指差した。
「そして、この対になっている風と水、火と土は互いの魔法が効きづらいのよ。
これを4属性の定理と言うわ。
ここまでは理解できる?」
「「はい」」
結構面白いなと思いながら、僕は返事をした。
「じゃあ次は、光と闇ね。
これはちょっと特殊で、光と闇は他の4属性のように苦手な属性というのは無いのだけど、光と闇同士は互いに効きやすいのよ。
理解は......出来ていそうね。
これを光闇の定理というわ。
詳しくはまたこれからやっていくけど、簡単にはこんな感じね」
アイナさんはこちらの様子を見ながら授業を進めていく。
「最後に無属性魔法よ。
これは読んで字の如く属性を持たない魔法よ。種類は属性魔法の比じゃなく多いわ。
例えば、回復魔法、付与魔法、召喚魔法、契約魔法なんかがそうね。
これらは、属性魔法と違って根本としての有利不利の概念がないわ。
つまり特徴がないのが特徴みたいなものね。
尤も、無属性魔法の一つ一つはとても個性的なのだけどね。
ここまでの話は分かったかしら」
「「はい」」
「じゃあ、座学はもうお仕舞い。早速実践に移りましょうか」
漸く、魔法を使うときが来た。
題名の元ネタは「Cymbals」というバンドの
Do You Believe in Magic?
という曲です。これは僕が大好きな曲でもありますので是非聞いてみて下さい!