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転生したらエルフだったので無双する  作者: 随喜夕日
第04章 王族近衛騎士
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No.66 地獄

地獄とは様々な世界、宗教、文化の中で『死者が罪を償う場所』とされてきた。このザカートでも地獄という概念がある。

 それは、死した罪人(つみびと)の魂が還る場所とされ長い時をかけて苦しみが続く。そしてその長い苦しみを経て魂は浄化されて新たな生命の元に宿るのだという。天国の考えも同様にあり、善人はその行いへの感謝、労いとして幸せな一時を過ごし、また新たな生命の元に宿る。

 輪廻転生、魂の循環という概念だ。

 この世界ではそれが一般的な考え方である。


 何が言いたいのかと言うと、昨夜にイリヤの言った「地獄を見る」という表現が早速現実となってアンリに降り注いでいるのである。


「アンリ三上士ィ!足を止めるな!!」

「ハッ...ハァッ....ハァッ...!」


 イリヤは、アンリ以外のアルバート達4人には昨日と同じ訓練(木刀による打ち合いや拳術による組手、魔法を交えた模擬戦闘など実戦的なものが多い)をさせ、自分はアンリに付きっきりでいる。

 但し、アンリは朝一番から腕立てをし、それから走り続けている。彼女は遠目からちらりと見たアルバートにさえ限界がきているのが分かるほど疲弊していた。

 そしてついに走っている途中で前のめりに倒れた。躓いてこけたのではない、彼女の中でとうとう限界を超えて意識がプツリと切れたのだ。そのまま動かなくなる。


 イリヤが駆け寄り、そして叫んだ。

「イレーナ三上士、来い!!」

「ハイッ!」

 リーフェと組手をしていたイレーナはすぐさま返事をし、倒れているアンリの元に駆け寄った。

「様態を見てくれ。治癒士なのだろう」

「はい......極度の疲労と酸欠による気絶ですね、幸い呼吸は安定しているので命に別状はありません」

「詳しくはないからサンケツというのがどういったモノかは知らんが、要は疲れただけだろう」

「ええ、簡単に言えば」

 イレーナはアンリを仰向けに動かして首元に上着を畳んで挟み枕代わりにする。

「目を覚まさないようであれば私が医務室に──」

「──いや、コイツに回復魔法をかけてくれ」

 イレーナの発言を遮ってイリヤは言った。

「しかし、彼女は疲労で倒れただけで負傷ではありません、回復魔法には意味が無いのでは?」

 イレーナは回復魔法の常識である「治癒の対象は外部からの負傷だけであり、病気などは対象外である」という法則にしたがって質問した。

「ああ、普通はそうだがな...お前の魔力の質なら、7...いや5回でいい。5回、コイツに回復魔法をかけてやれ」

 イリヤの意図は分からなかったが、上官の命令である。イレーナは素直に従った。


 するとどうだろう、5回回復魔法をかけた後にアンリの状態を確認すると、荒かった呼吸や発汗は収まり、血色、体温共に平常時と同じ程度まで回復していた。

「これは...どういう事です?」

「まぁ種明かしは今夜だ。お前は訓練に戻れ」

「了解しました」

「オウ、どうせ『また』すぐ呼ぶ」


 イリヤにはなぜアンリが回復したのかが理解出来なかったが今夜、おそらく夕食の際に種明かしをすると言われたので考えるのも程々に訓練に集中した。スッパリと割り切って思考を切り替えられるのが彼女の強いところである。



 ガンッ、と腰のあたりに強い衝撃と痛みを感じてアンリは目を覚ました。

「アンリ三上士、いつまで寝ている気だ!起きろ!」

 イリヤの怒声でようやく思考が回復したアンリは「は、ハイッ!」と飛び起きる。そして続けざまに『そうか、気絶していたのか』と理解する。

「体調はどうだ、アンリ三上士」

「はいっ、もう大丈夫ですわ」

 アンリの返事に嘘や見栄は無く、実際に張り裂けんばかりに疲労を訴えていた足も嘘のように軽く、むしろ清々しい位の体調の良さだった。

「ン、そりゃよかった......幸い貴様が倒れてから2分と経っていない。もうひとっ走りと行こうじゃないか」

 イリヤはそう言いながらアンリに水筒を渡し水を飲ませるが、アンリは彼女の発言に疑問を覚えた。

 2分と経っていないのならばこの全く疲労のない身体はおかしいと。

「あの...それはどういう──」

「説明は今夜だ、さぁ走れ!!」

「は、ハイッ!」

 質問したいことは色々あったが、イリヤに急かされてまた走り出すアンリ。昨日今日と走って倒れ、走った距離は計15キロメルカ超。それだけ走り、尚且つイリヤからの動きが大きいだのリズムが悪いだのペースが速い・遅いだの、指摘され続ければ流石に走り方もわかってくる。

 今回は気分上々、体調も快調、最高のコンディションだ。昨日とは別人のように走った。


 しかし、また疲労してくると話は変わる。人間、酸素が足りなくなり疲労もピークを迎えると思考が鈍る。外からの声は遠くなり脳内で自分の思考が言葉となって()()()する。

(つらい......今どれくらい走ったかしら...足が...)

 そうして余計なことを考えるとそれまで何とかこらえていた疲れがドッと溢れ、身体は誤作動を起こす。

「ハッ...ハッ...ハァッ....あっ...ッ!!」

 アンリは足をもつれさせ盛大に転げた。最早立ち上がる気力はなく、そのまま横へ転がって仰向けになる。

「アンリ三上士!意識はあるか?」

 イリヤが駆け寄って確認する。

「...ハァ....はい...だ、大丈夫で、ウッ...」

「イレーナ三上士ィ!来い!」

 急に運動を止めた為に身体が『ビックリ』して嘔吐してしまった。イリヤは冷静にそれが終わるのを待ってから腰に携えていた水筒をアンリに渡す。

「それで口を(すす)げ」

 そうこうしているうちにイレーナが駆けてきた。

 まだ息の荒いアンリの様態を簡単な質問や触診で確認する。

「先ほどと一緒で、疲労が原因です」

「そうか、また回復してやれ。今回も5回でいい」

 イレーナが言われた通りに回復魔法を重ねがけする。

 一度目での変化はなかったが、2度目以降でアンリは自分の変化に気が付いた。徐々に棒になった足から感覚が戻り、荒かった呼吸が少しづつ戻る。5回かけたころには全快以上の好調となっている。

「これは、一体どういうことですの...?」

「さっきも言ったろう、説明は今夜!それまではただ走ればいいのさ、ほら!」

 また新しく水を渡されそれを飲んでアンリ走り出した。

 それ以降は3回倒れたが一度も気絶はなく、嘔吐は一回。気が付けば夕暮れ時になっていた。

「よォし、今日はここまで!汗流してきな」

「ハイッ!」

 疑問は色々あったが、やりきったという達成感のほうが強くアンリは元気に返事して訓練を終わる。

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