No.62 王族近衛騎士
「ん、ああ。もう着いたのかい、思ったより早いね」
イリヤ一上士の第一声はそれだった。
彼女は獣人で、見たところアルバートよりも背が高く、ブロンドというよりは少し茶色がかった琥珀色の髪をしていた。
それに背が高いだけでなく身体付きもがっちりとしていて、誰が見ても猛者であると判断できる程だ。
「本日からお世話になります、アルバート・シュティーアです」
「同じく、イレーナ・シュティーアです」
「ああ宜しく。ほら」
二人が自己紹介をすると、彼女は手を差し出してきた。握手をしろという事であると直ぐに理解して二人は順番に手を握る。
「ほう...ふーん」
握手をした瞬間、何かに納得したように感嘆の声を漏らしニヤリと笑うイリヤ。二人は頭に疑問符を浮かべた。
「あの、どうかいたしましたか?」
「ん、いや...まあそれは後で話すかね、今はそれより案内だ」
彼女はイレーナ問いに答えるでなく、何か自己完結して背を向けクイッと手で合図して歩き出す。
二人がそれについて行くと、数分歩いてある部屋の前で立ち止まる。
過去に二度王城内を訪れた事のあるアルバートだが、なにせ国内で最も広い建物の中であるから知らない場所の方が多かった。
「ここはアタシら近衛の仕事場の一つだ」
短くそう言って扉をノックし、開けて入る。
「イリヤ一上士です。新人が二人到着しました」
彼女が報告した相手は2人も知る男であった。
「新人...おおアルバート君、イレーナ君。到着が早いな」
「お久しぶりですピトムニク様──いや、これからは騎士団長とお呼びした方が宜しいでしょうか?」
そう、ユーク王が側近であり王族近衛騎士団の団長。人狼族のピトムニクだ。
「ああ、確かにそうだが人の少ない時は以前からの方で構わんよ──ああそうだ書類を渡してくれないか」
ピトムニクはイリヤから二人の羊皮紙を受け取ると、内容を確認して机に置く。
「うん、問題なしだ。
──改めて、ようこそ王族近衛騎士団へ。今日から二人は我らが同胞の一つとなる。
これで書類関係は終わりだが、時間も微妙だし鍛錬場で軽く運動して来るといい。長旅で身体も鈍っているだろうしな...それにあの三人もいる」
「三人......!分かりました。有難う御座います」
部屋から出ると、イリヤ・ピトムニクとは別れて来た道を戻る。
あの三人、と言えばアルバートは一つしか思い浮かばなかった。イレーナも同様で、3ヶ月ぶりに見る事になるであろうその者達を思い浮かべる。
鍛錬場に戻ると、更衣室で制服から運動着(支給された黒のシャツに麻のカーゴパンツだ)に着替えて中に入る。
先程行った倉庫とは逆の方に彼らは居た。
「一ッ!二ッ!三ッ!四ッ!────」
周囲に比べ特段に若い彼らは、三人で集まって一心不乱に木刀を振っている。
「十三ッ!十四ッ!...!!」
アルバートとイレーナが近付くと、それに気が付いて号令をかけていた少年がそれを止める。
彼の異変に、他二人も何があるのかと振り返った。
「久しぶり、三人とも」
「お久しぶりです」
「アルバート君!イレーナさん!!」
真っ先に声を上げたのは最初に気が付いた少年、ガルムであった。
続いて、ブロンドの長髪を後ろで括ったアンリと茶髪から飛び出るピンと立った獣耳をピクピクさせるリーフェが二人の名前を呼ぶ。
「久しぶりですわね」
「元気にしてたっ!?」
「ああ、二人共元気だったよ」
「イレーナちゃんも久しぶりっ!」
「ええ、お久しぶりです」
リーフェは何時もの快活な様子で、イレーナの手を取ってぶんぶんと振るが、少しして何かに気が付いたように「ん?」っと手元を見る。そこにはイレーナの付ける指輪があった。
「これって...もしかして!」
彼女は目をキラキラさせながらアルバートとイレーナの両方を交互に見る。
「まあ、そのまさかだ」
「結婚したんだぁー!!おめでとう!」
彼女の声に、アンリやガルムも同調して祝福の言葉を告げた。
「ガルム達はいつからここに入ったんだ?」
一度軽く訓練をしてから休憩に入った5人は木陰に入って談笑していた。
「えっと。僕が一番早くて一週間前で、アンリさんとリーフェさんが3日前だね」
良かった、まだまだ皆入りたてだ。とアルバートは安心する。
「僕達新人騎士はまだ全員揃ってないらしくて、合同での訓練はまだ先だから。それまでは自分達で自主的に訓練をしておくつもりだったんだ──勿論、アルバート君がいない間もずっと走り込んだり筋肉を鍛えたりしてたよ!」
そう言って彼は半袖のシャツを更に捲り、肩まで腕を晒して曲げる。3年前とはまるで比べ物にならないほどの別次元の筋肉と化したガルムは、兵学校出身と言っても違和感がなく、とても魔道士学校出身とは思えない身体付きである。
もっとも、それはアルバートにも言えることであるが。
アルバート達特待生5人組は、学園卒業までの3年間で周囲からは異質と取れる訓練をしてきた。早朝の走り込みからの筋トレは勿論、その後に魔法訓練、そして近接戦闘術を主体とした武術、ひと風呂浴びてから授業。といった到底魔道士とは思えないものである。
これは、将来に王族近衛騎士になるという目標のもとで行われてきたものであり、一般生徒の「魔道士になる」とは少々ズレた感覚である。
勿論近衛騎士団にも魔道士は存在するが、アルバート達のように『法武両道』と言える者は少なかった。
5人はその日、再会を祝って食事処に行き、とうとう飲めるようになった酒を少し煽った。
因みに、アルバートとイレーナに関しては今世で初めて飲む酒であった。




