No.61 王都帰還
さて、時は進んで1ヶ月と少し。
気温も暖かくなって来た頃、アルバートとイレーナの二人は再び王都に帰ってきていた。
二人は今日この日から王族近衛騎士となるのだ。二人の誕生日は王都に来る旅の途中で迎えてしまった。しかし旅立つ前にあれだけの祝い事があった為にそれ程寂しいなどの感情もわかず、朝起きて「誕生日おめでとう」と祝いの言葉をかけた程度である。
二人は馬車で謁見通りを真っ直ぐ進み、王城...の一つ手前、騎士宿舎と鍛錬場で降りた。そして宿舎の中に入り入口正面の受付に話しかける。
「新人騎士のアルバート・シュティーアです。帰郷してまいりましたので手続きをお願いします」
「同じくイレーナ・シュティーアです」
二人が受付の女性に高価そうな羊皮紙を渡すと受付の彼女はそれに目を通し判子を押した。
「──はい、確認しました。イレーナ様の方は姓が変わっておられますね?」
「ええ、彼と結婚しましたので」
「そうですか、では修正しておきます」
「有難う御座います」
イレーナは、彼女らが言う通り姓がルセイドからシュティーアに変わっていた。このマーリアの国では基本的に『嫁ぐ』という概念の元結婚を行うので嫁側が性を変えることになる。よって現在、彼女はアルバートと同じくイレーナ・シュティーアであった。
「では、こちらが部屋番号です。アルバート様が078、イレーナ様が079です。1階向かって右手側の奥にあります」
受付の彼女はそこまで非常に事務的な態度で応対していたが、部屋の場所の説明を終えると人格が変わったように言った。
「──ところで貴方達、近衛の試験に合格したんでしょう?噂は聞いてますよ。ああ、羨ましいなぁ。私もこれで騎士なんですよ?もっと出世して近衛になりたいものです。頑張ってください!」
「あ、ああ。有難う御座います...」
少々勢いがあり過ぎて戸惑ってしまうアルバートだったが、気を取り直して荷物を取りに馬車に戻る。
4,5往復ほどして荷物全て降ろし終えると馬車とは別れて荷物の整理をする。
イレーナとは別の部屋となってしまうが隣同士の部屋なので困ることはないだろう。
部屋の大きさはエルゲイ荘の個室を一回り小さくした程度だが、それでもまだまだ一人用にしては余裕がある程だ。
荷物整理が終わると、一度宿舎を出て鍛錬場に行く。鍛錬場入口にも受付があり、そこで二人は先程宿舎で渡したものと同じ紙を渡す。
「──では、案内致しますのでご同行お願いします」
今度の受付は二十かそこらの若手騎士で、鎧はつけていないが騎士団の制服を着ていた。
因みに騎士の所属は制服、階級は胸章で判別でき、彼は三等中級騎士であり所属は王都守備騎士団であるのが分かる。さらにいえば先程の宿舎受付の女性は同じく王都守備騎士団の二等中級騎士であり彼より一つ上の階級、上司であることも分かる。
所属や階級が一目で分かるようになっているのは、このように明確な区別を持って上下関係などを確認出来るようにするためであった。
因みのちなみであるが、アルバート・イレーナは二人とも王族近衛騎士団所属の三等上級騎士となり、新人であるのに目の前の彼より階級が上である事になる。
これは王族近衛騎士団が高位の騎士によって編制されたものであり、平均的な能力が高い為だ。
受付の男に連れてこられたのは鍛錬場の傍に建てられた倉庫だ。二人はそこで受付の男から様々な官給品を受け取った。
制服2着、胸章2枚、鎧1組、長剣1本、あとはそれら整備用小物が諸々である。
両手で抱えるにはかなり多いので台車に乗せて運ぶ。
「ここが武具室です。それぞれの棚に番号がふってあるので自分の部屋番号と同じ所に武器と鎧を掛けておいてください。他の物は自分の部屋で保管してください。僕からは以上です」
「分かりました」
「あとは王城に行って挨拶ですね。近衛は王城に入れて羨ましいです。僕なんて仕事でも滅多に入れないんですよ」
二人はまたしても先程の羊皮紙を渡された。見れば判子の印が2ツに増えている。
王城の橋を渡りきると検問窓口があり、屈強そうな騎士が立っている。そこへ二人は近衛騎士団の制服に着替え、階級胸章と土竜討伐時の名誉勲章をつけて行った。
検問窓口に立つ騎士は二人と同じく近衛騎士団の人間であった。彼に羊皮紙を渡すと、確認作業をしてから判子を押す。
「...確かに。ようこそ王族近衛騎士団へ、これから宜しく頼むよ」
「はい、有難う御座います」
彼が案内してくれたのは城内にある近衛騎士用の屯所だ。
「イリヤ一上士、新人です」
一上士、とは略称で正しくは一等上級騎士であり、アルバートであれば三上士と呼ばれる事になる。
名前を呼ばれたイリヤという騎士は、ガタイの良い(と言えば失礼になってしまうが)、実に騎士らしい女性であった。歳は二十五~三十程で、まだまだ若々しさに満ち溢れていた。




