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No.60 サプライズ

「さあ皆、ここに二人の婚約が成立した!盛大な拍手を!」

 オンスの声が、見つめ合い二人の世界に陥りかけていたアルバートとイレーナを現実に引き戻した。

 周囲はそれまで以上に強い拍手を送ってくれる。


 二人はな照れくさい気分になったが、オンスはそこで口を閉じず続けて言った。

「──さあさあ、婚約したという事は二人は結婚するという事。つまり次にしなくてはいけない事はなんだ!?」

「「結婚式!」」

「その通り!!」

 オンスの声に合わせて周囲は合いの手を入れる。それはまるで示し合わせたかのように揃っており、ノリと勢いがあった。否、示し合わせたのだ。二人の知らないところで、二人を驚かせる特大のサプライズをするために。

 主役であるはずのアルバートとイレーナは置いてけぼりにされており、周りの勢いに困惑している。


「さあ、そういう事で今日はある方にお越し頂いた」

 オンスの言葉に周囲は「おおー」っと拍手。そして彼はアルバートの後ろ、先程彼が入ってきた玄関扉を指さす。

「モアルドのザカート教会神父、ゲルニカ神父だ!」

 アルバートとイレーナが振り返ると扉が開いて、かつてのバドミール・カヒトとは違う黒い祭服を纏った神父が入ってくる。

「お邪魔致します領主様方」

「さあ、婚約した男女と神父が揃った。あとは指輪と意志があれば結婚が出来る。

 そしてその指輪も──」

 オンスが今度はシャルルの方を指さした。

 シャルルは「はーい!」と軽快に返事をして後ろに回していた手を上に掲げる。その手にはアルバートイレーナに渡したものより小さく、しかし高さのある箱であった。

「まさか...」

 アルバートは冷や汗を垂らしながらシャルルの方を見る。

「そう、その『まさか』よ」

 アイナがフッと笑う。

「これは僕達両親からのサプライズだ。そして、二人の絆を証明するものでもある」

 シャルルが新婦の前に出てきてその箱を渡し、神父も「確かに」と言ってそれを受け取る。

 神父は優しく静かに喋り始める。

「さて、お二人にとっては突然ではありますがここで結婚の儀を始めたいと思います。構いませんね?」

 彼の問いかけに少し言葉が詰まるアルバート。「しかし僕達はまだ未成年です」と言おうとしたが、それをイレーナが遮る。

「ええ、構いません」

 アルバートは勇敢で勇ましい男であるが、事日常の一コマになると至って普通の、真面目な青年である。そして前世でそうだった日本人としての少し固い思考もある。

 確かにこの国での結婚は成人してからが普通であるが、神父が認め両親も認めれば風習的に問題ないのだ。ただ、結婚するとは子をつくる事であり、そうであれば成人してある程度身体が丈夫になってからという意味での『結婚は成人後』なのである。

 それはエルフでまだ排卵も起きていないようなイレーナや精通していないアルバートには関係の無い話だった。


 そしてイレーナもアルバートとは違い、良く言えばおおらかな、悪く言えば大雑把なロシア生まれの少女だった。そのあたりの感覚で成人前の結婚になんら違和感は持ち合わせていない。精々「少し早いな」程度である。


 少し遅れてアルバートも気が付いた。

 要するに気持ちの問題なのだ。結婚したいと思えば結婚すればいい、したいかどうかが大切なのだと。

「...はい、構いません」


 二人の返事を聞いて神父はニッコリと微笑んだ。

「よろしい。それでは結婚の儀を始めましょう」


「──右に新郎アルバート・シュティーア。左に新婦イレーナ・ルセイド。

 二人はこの度15歳の成人に際して結婚する事になります。今日これから二人が結ぶ絆は例え争いや災いが起きようとも断ち切れるものでは無く、死が二人をこの世から解き放ったとしても繋がっておりましょう。

 さて、その証明としてこの指輪をそれぞれの左の中指にはめなさい。この指輪が二人繋ぐ絆をさらに強め、そして護るのです」

 神父はシャルルから渡された箱をゆっくりと開ける。

 アルバートとイレーナは思わず生唾を飲んでそれを見つめた。

 中には二つの指輪が丁寧に置かれており、両方とも型は同じであるが片方は埋め込まれた宝石が赤、もう片方は緑である。

「紅に輝く炎石は熱く燃ゆる強い正義を、緑に輝く森石は女神のような深く慈愛に満ちた母性を意味します。

 二人が結婚を望むのであれば新郎は緑の指輪を新婦に、新婦は赤の指輪を新郎につけなさい」

 二人共、結婚の儀の手順や作法は知らなかったが、言われた通りにやればいいと思って指輪をとる。

 アルバートがイレーナに指輪をはめようと彼女の左手をとると、神父がボソリと彼に囁いた。

「跪いてするのですよ」

 そうなのかと慌てて跪いて彼女の手袋を取り、そっと丁寧に指輪を中指にはめてゆく。

 はめ終えて周囲から拍手が起こり、続けてイレーナが彼の左手をとる。

「新郎はそのまま跪いて、新婦は左手ではめるのです」

 神父が再び囁くので、イレーナもうんと頷いてその通りにする。

 指輪は少しつっかえたがしっかりとアルバートの左中指に付けられた。


「さあ、指輪は絆を強めました。

 さあ二人共。口付けをもってそれを確かめ合うのです」

「く、口付け...!?」


 アルバートはまたも焦った。口付けをしたことが無い訳ではない。しかし両親や知人たちが見ている前でするのは気恥ずかしかった。

 しかしそれも、すぐに気を取り直して決心する。


 そっとイレーナの繊細な頬に手を当てて引き寄せる。彼女もそれに応じて彼の頬に手を当てた。

 少しずつ近づいて、そしてついに唇と唇が触れ合う。周囲がさらに湧いた。口笛を鳴らし、拍手をし、祝福の声をあげる。その祝福が続いた数秒間キスを続け、ゆっくりと離す。

 舌を絡ませない軽いキスだが胸の高鳴りは過去最大のものであった。アルバート、イレーナの両方にとって。


 結婚式はそれで終わりであったが、その後は神父や例の冒険者三人組、オンスの部下で街の運営を手伝っている者、ハンクの部下の騎士(ハンクはモアルドの街の兵士を纏め上げる立場にある)など十数人程度で会食を行った。

 その時にイレーナからアルバートに短刀が渡され、一生大事にすると宣言したのだが「でも使って下さいね」と釘を刺されて今日最大の笑いが起きたのだった。

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