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No.59 成人式

 アルバートは先程から落ち着けずにいた。

 これは彼にしては珍しい事で、ユーク王との謁見でも一切焦りの見えなかったというのに今はそわそわとして、あちらを見たりこちらを見たり、忙しなく首を振っている。

 しかしそれもそのはず、何せ彼は今からプロポーズをするのだから。

 プロポーズとは言っても返事が「はい」か「Да(ダー)(はい)」である事はわかっている。頭で分かっていても一世一代の告白というのは誰しも緊張するものだ。

 彼は「俺が呼ぶまでここに居ろ」とオンスに言われてルセイド家の玄関先に立っている。

 何かおかしいとは思ったが、感付いてはいけない気がして考えるのをやめた。

 それよりも、今はプロポーズの台詞を噛まないように言えるかの方が重大であった。

「アル、準備が出来たから来ていいぞ」

 何の準備なのかは聞かない事にして「はい」と答える。


 玄関扉の前まで来て、扉に手をかけた。

「じゃあ、開けるぞ」

 そう言われ、「少し待ってください」と返して一度深呼吸をする。そして胸に手を当てて心臓の鼓動が落ち着くのを少し待つ。ドクン、ドクン。といつもより確実に鼓動が強く鳴っているのが分かるが、それでも先程よりはマシだった。

「──はい、大丈夫です」

 アルバートが応えるとオンスは首を縦にふって了解の意を言葉に出さずに伝え、扉をゆっくりと開けた。


 玄関扉の向こうはエルゲイ荘と同じく吹き抜けのエントランス。なのだが、そこには先程までになかった張り紙が壁に貼られていた。

『アルバート、イレーナ成人おめでとう』

 達筆な字で大々的に書かれたそれを囲うように花が飾られ、部屋の至るところに何時もとは違う装飾がなされており華々しさに満ちていた。

 そして、成人おめでとうの張り紙の前には両親達や使用人達、更にはラルズ・ギル・マルクまで居た。彼らはそれぞれ祝いの言葉を投げかけながらアルバートに拍手を贈ってくる。

 ただ、ハンクとイレーナの顔が見えなかった。

 アルバートは「有難う御座います」と祝福に応えながらも疑問を抱く。

 そこへ、オンスが言った。

「さあ、続いてはイレーナちゃんの登場だ。皆、上に注目!」

 彼は声量を上げながら2階を指さし、アルバートを含めた他の者もそちらを見る。


 すると彼らの居るエントランスからも柵越しに見える位置の部屋の扉が開いた。

 まず中からハンクが出てきて、そして遅れてイレーナが出てくる。


 アルバートはそのイレーナに釘付けにされた。

 彼女は、普段は真っ直ぐ下に垂らしている前髪を七三程度で左右に分けて黄色のシンプルな髪飾りで留め、口には明るい薄ピンク色のリップ、手には二の腕まで届くほどの手袋をしており────そして何より、純白のドレスに身を包んでいた。

 そのドレスは胸元から伸びる2本の紐が肩を通って背中で交差するようになっており、そのせいで胸元が少し見え、袖が無いため肩も露出しているがそれ以外の露出はない。胸から腰にかけてすらっとしており、そこから下は少し広がるようなったフリルが足元まで伸びている。そしてその全てがシルクのような純白となっていてイレーナに女神の様な神々しさをもたらしていた。


 彼女はハンクの手を取って一段一段ゆっくりと階段を降りてくる。アルバート以外の者は拍手でそれを迎えたが、アルバートは見惚れてそれどころではなかった。

 イレーナは階段を降りきると、ハンクの手を離してアルバートの前に来る。(ほう)けていた彼は、はっと我に返って開いていた口を閉じる。

「アル」

 イレーナがアルバートの愛称を呼ぶ。

「あ、ああ。レーナ、成人おめでとう」

 アルバートは他の者が言っていたように祝福の言葉を述べた。

「アルも、成人おめでとうございます」

 二人共、何処かぎこちなかった。周囲はその雰囲気を察して声を潜める。シャルルやハンクは口元がにやけていた。

「...アル」

「な、なんだ...?」

 イレーナがまたアルバートの愛称を呼ぶので、彼は思わず聞き返す。

「その、これ。似合っているでしょうか...?」

 彼女は少し頬を赤らめながらドレスのフリルを少しつまみ上げて言った。

「あ、ああ!似合ってるっ、素敵すぎて惚れ直したくらいに!」

「そっ、そうですか...それなら、嬉しいです...」

 イレーナはさらに顔を赤らめ、アルバートもそれにつられて顔が熱くなった。

 アルバートは、予定とは違うが言うなら今しかないと思って決心した。

「れ、レーナっ!その、君に渡したい物があるんだ」

「...はい、何でしょう...」

アルバートは服の内ポケットから箱を取り出して開けながらイレーナに差し出す。

「僕と、結婚してくれないかっ!」

 縦長の長方形の箱の中にはアルバートが宝石店で買った首飾りがあった。

「これは......」

 アルバートは気恥ずかしくて彼女の目も見れずに俯いて目を瞑る。カチャリと音が鳴って、少しすると彼女が両手でアルバートの頬を優しく持ち上げた。

「嬉しいです、アル。似合いますか?」

 彼が目を開けると、イレーナの首元にはしっかりと首飾りがつけられていた。それはマーク教のシンボルをかたどったもので、繊細な作りであり、シンボルの中央には緑に輝く宝石が埋め込まれている。

 首飾りは丁度、胸元のはだけた部分に収まり純白で統一されたドレスの程よいワンポイントとなっていた。

「ああ...とても、綺麗だ......」

 彼はまたも見惚れてしまった。

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